島村卯月(27歳)による藤田ことねトップアイドル化計画   作:天宮雛葵

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03 - 底知れないプロデューサー

「では、早速明日にもプロデュース契約を結ぶことを想定して動いていきますが……その前に」

「その前に?」

 

 ふたりが出会った場所──ことねのバイト先のひとつだ──からの帰路。『学園まで送っていきますよ』という卯月の言葉に頷き、彼女の隣を歩いていることねが聞き返す。

 

「契約を結ぶためにも、私たちのスタンスと目標を決めたいと思います」

「スタンスと目標、ですかぁ」

「はい。一言にアイドルといっても、その活動は様々です。トップアイドルを目指すための手段も、その先の未来も数多くあります。将来像が組み立てられていなかったり、プロデューサーとアイドルで食い違ったりするのは良くないことですから」

 

 卯月の言うことは至極道理である。間違いなくおろそかにはできまい。

 

「そーですねぇ……スタンスって言えるのかわからないですけど、お仕事はいっぱいやっていきたいですねぇ。あたしの可愛さをアピールできるような案件がたっくさん欲しいです!」

「良いですね、立派なスタンスですよ。ビジュアル方面でアイドルとしての魅力をアピールするなら、イベント出演やグラビア、モデルといった方向性の仕事が増えることになるはずです。そういったお仕事で何かNGはありますか? 今思いつくものだけでいいですよ」

「あー、強いて言えば露出が多い衣装とかはどうかな〜って思います。ほら、その、あんまりスタイル良くない自覚はありますし? 絶対イヤとは言いませんけど、需要とかなさそうですし」

「なるほど。そうなると、まずは学内や学園周辺での小さなお仕事を積み重ねて、実績を作っていくのが良いですね。そのぶん、アイドルとして一足跳びに知名度を上げるのは少しだけ難しいですが……」

 

 そう呟く卯月に疑問符を浮かべることね。

 

「じゃあプロデューサーは、あたしがアイドルとして一気に知名度を上げる方法を、他に考えついてるんですか?」

「ない、とは言いません。ですが得られる知名度の割にリスクが大きすぎたり、労力がかかりすぎたり、最悪の場合は……藤田さんがアイドルを続けられなくなる可能性もあります」

 

 不穏な言葉にことねが唾を呑み込んだ。

 

「……一応、聞いてもいいですか? どんな方法があるのか」

「では、藤田さんがすぐ思いつきそうな方法をふたつだけ。どちらにせよ、今の藤田さんをプロデュースするにあたっては絶対に使わない道だということは念押ししておきます。そういう前提で聞いてくださいね?」

 

 頷くことねを見て、卯月が人差し指を立ててから口を開く。

 

「まず、ひとつめの方法……手段としてはまともですが、歌を主軸にプロデュースすることです」

「……あー、はい」

 

 その先の言葉はことねにも割と予想が付いたが、相槌以上の反応は挟まない。

 

「高い歌唱力、くらいでは埋もれます。強烈な歌唱力を持つことが()()()()で、そこに優秀で知名度のある作曲家が必要です。ネットからの活動開始でも良いですが、折角なら『期待の超新星アイドル』のような宣伝を大々的に打って、アーティスト寄りのアピールをしていく方が効果的かもしれません。とはいえ、現状の藤田さんの歌唱力では、どちらにせよこの方法は絶対向きません」

「うぐぐ……まあ、認めなきゃダメですよね。というか、やっぱりプロデューサーから見てもあたしの歌ってダメですかぁ?」

「他の要素でカバーできる範囲ではありますが、今のままでは強みにすることはできません。これからのレッスンでどれだけ上手くなるか次第、ですね」

 

 そこで一度言葉を切り、立てる指を二本に。

 

「ふたつめ、これもシンプルですが……私が表に出て、積極的に動くことです」

「うわぁ、そんなのあたしでもわかる劇薬ってやつじゃないですかっ! プロデューサーが学園生とステージに立っちゃったりしたら、他のアイドルの存在感なんてぜーんぶ消し飛んじゃいますって!」

「いえ、この場合の表に出るというのは、プロデューサーやスタッフとして『島村卯月』の名前を出すことも含みます。勿論、ステージに立つなんて論外です。一瞬だけは『引退アイドルが育てる新進気鋭の学園アイドル』……なんて話題に上がるかもしれませんが、デメリットの方が大きすぎますから」

 

 プロデューサーとしての卯月を全力で頼る腹積もりで契約を結ぶと決めたことねだが、流石にアイドルとしての卯月と同じステージに立つようなことを目当てにしたわけではない。

 

(というかそんなことされたら、知名度が増えたってファンの気持ちもグッズの売上も全部プロデューサーに傾くのが見えてるし! あたしが稼ごうにも稼げなくなる……!)

 

「って、もしかしてプロデューサーとして、プロデューサーの……島村さんの名前を全部隠しちゃうってことです? いくらなんでも、そこまでしなくてもいいんじゃ……」

「うーん、あまり自分で言うようなことでもないですけど……学園生に私のことが知られている以上、いずれ私が藤田さんと契約を結んだことは学園生の知るところになります。そして、噂やゴシップというものは止めることができないものです」

 

 実感の籠った溜息を挟み、卯月は続ける。

 

「しばらくすれば、私たちの方から宣伝をするようなことがなかったとしても、藤田ことねのプロデューサーが島村卯月だという話は学園外にまで出回ることになると思います」

「まあ、そうなるでしょーねぇ……」

「どうせ出回る噂なら、先んじて広めることで余計なリスクを払拭しながら多少の知名度を……という考え方もありますけどね。でも、私はそう考えません。藤田さんが実力を証明する前に私の名前が出てしまうのは、世間から見た藤田さんの評価が、今後常に色眼鏡をかけたものになってしまうということを意味しますから」

「……んー? ちょっと待ってください」

 

 ことねが何か気付いたような顔を卯月に向ける。

 

「あたしたちが何もしなくても、プロデューサーの名前はいずれバレちゃうんですよね?」

「そうなる可能性が高いでしょうね」

「それで、プロデューサーの名前が先にバレちゃうと、あたしがどれだけ頑張ろうが『島村卯月の教え子』とだけ見られて、評価が下がっちゃうかもしれない、と」

「その通りです」

「なのに、小さいお仕事をこなして地道に知名度を上げていく方針なんですか〜? 悠長にしてたら、プロデューサーの名前がみんなにバレちゃうんじゃないです?」

 

 ことねの呈した疑問に、卯月は真面目な表情を少し崩してみせる。

 

「その心配はしていませんよ。ひとつひとつのお仕事を地道に積み上げていくだけでも、藤田さんなら間に合います」

 

(……この自信の根拠が、プロデューサーの言うあたしの笑顔じゃないことを祈るばかりだな〜)

 

 一抹の不安を覚えつつも、表にはそれを出さないように努めることね。

 

「とにかく、当分のお仕事に関しては小さいことからコツコツとやっていくことにしましょう。藤田さんにとっては歯痒い時期になると思いますが……」

「いえいえっ、そんなことあるわけないじゃないですか! あたしは中等部で三年間くすぶってた身ですよぉ?」

 

 全く威張るような発言ではないが、それでもことねは胸をドンと叩いてみせる。

 

「プロデューサーがあたしに付いてくれるだけでもすっごく嬉しいのに、アイドルのお仕事をちゃんと持ってきてくれるなんて、そんなのもうさいこーですよぉ〜♡」

「そう言ってくれると、私も嬉しいです。最初は大きな仕事を持ってこれない以上、藤田さんの目標からすると遠回りになってしまって、少し不安でしたから」

「……あれ? あたし、まだ目標の話はなんにもしてませんケド?」

「ああ、まだ直接聞いてはいませんでしたね。……大金持ちに成り上がること。そのために、稼げるトップアイドルになること」

 

 そう言われて、ことねの足が思わず止まる。

 

「……誰かから聞いたんですかぁ?」

「そうですね……今は企業秘密ということにしておいてください」

 

 そう言いながら振り返った卯月の表情は、驚くくらいに先程までと何も変わらない。その事実が、ことねの心をひたすらにざわつかせた。

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