島村卯月(27歳)による藤田ことねトップアイドル化計画   作:天宮雛葵

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 本作、なんと百人の方からご評価をいただきました! 総合評価でもアイマス原作の上位5%に滑り込む形となりまして、大変感謝しております。これからもよろしくお願いいたします!



30 - やっぱり貴方が一枚上手

「初星学園での生活は、順調ですか?」

 

 武内プロデューサーの質問に、卯月は嬉しさの感情を声に乗せつつ答える。

 

「はい、とっても。プロデューサーとしては学ぶことばかりで、失敗もありましたけど……それでも、アイドルとして輝ける子を見つけましたから」

「それが、藤田ことねさんであると。……頂いた資料には目を通しました」

「プロデューサーさんはどう思いますか? あの子のこと」

「……島村さんの見解を、先に聞かせていただいてもよろしいですか?」

 

 探るような彼の言葉に対して、卯月ははっきりと答える。

 

「近い将来、トップアイドルになる器です。本人次第ですが、もしかすれば……私よりも上に立つかもしれません」

 

 返事はない。卯月はさらに続ける。

 

「プロデューサーさんに送った動画、きっと酷かったですよね。どんな子にも良いところを見出す貴方でも、貴方だからこそ、あの動画だけでは首を横に振らなければならない。それが一ヶ月前のことねちゃんでした」

「藤田さんの、現在の様子を撮った映像はありませんか?」

「ああ、それなら今日中にはお送りできると思います。プロデューサーさんが社内を説得するのに必要でしょうから」

 

 あまりにも堂々とした言葉。彼が卯月とことねの味方をすることは、とっくの昔から既成事実なのだと言わんばかりに。

 

「……では、島村さん。貴女が藤田さんを選んだ理由について、お伺いしても?」

「笑顔です」

 

 電話口の向こう側が絶句したのを、卯月は直感的に理解した。

 

 ちらりと壁に掛かった時計を確認する。そろそろことねを追いかけて、試験会場に向かってもいい頃合いだ。机上の鞄を空いた片手で掴み、卯月は教室の外へと歩き出す。

 

「私は本気ですよ、プロデューサーさん。ことねちゃんの笑顔に、私はアイドル性を見出しました。近い将来、あの子は『誰もがアイドルだと認めざるを得ない存在』になります。私の十年間、アイドルとしての人生をオールインしたって構いません」

「それだけの商品価値が、藤田さんにはあると?」

「あります。これからそれを証明してみせます」

 

 アイドルの商品価値。何をどれほど間違ったとしても、彼の口からアイドルに対しては出てこない言葉だ。今話している相手がプロデューサーたる島村卯月だからこそ、こうして同じ場所に立ってくれている。しかし話している相手がかつてアイドルだった島村卯月だからこそ、こうして話に耳を傾けてくれている。

 

 その肩書に、意味があるうちに。

 

「では、()()()()。346プロアイドル部門・ジュニアプロデューサー、島村卯月からの提案をお伝えしたいのですが、よろしいですか?」

「……どうぞ、仰ってください」

「藤田ことねを青田買いしましょう。彼女の初星学園在学中は、100プロに出向している私を通す形で、346プロと彼女の契約を。彼女の卒業後は、アイドル部門に所属する他のアイドル同様に346プロとの直接契約を。如何でしょうか」

 

 再び無言の時間が訪れる。しかし明らかに絶句のそれではない。間違いなく、彼は考え込んでいる。卯月の提案、その価値を。

 

 返答を待つ間、卯月は淡々と歩を進めた。廊下を進み、階段を降り、試験会場への道を進む。まだ日も高いのに、学園内を行き交う人々は明らかに少なく、たまにいたと思えば足早に通り過ぎていく。アイドル科の生徒もプロデューサー科の学生も、中間試験のことで頭がいっぱいなのだろう。卯月のことを気にするような視線もない。

 

「島村さん。私の立場上、リスクの高い契約に対してゴーサインを出すことは不可能です」

「藤田ことねの力量に不安がありますか?」

「いいえ、それはこれから見極めなければいけません。……ですが346プロダクションとしては、100プロダクションとの関係悪化は避けなければなりません」

「時代ですね。かつて芸能の王者だった346プロが、今や新興事務所のご機嫌を伺わなければいけないとは」

 

 卯月の露悪的な物言いにも、彼は動じない。

 

「島村さんが本当はどのようにお考えなのか、私は知っています」

「……ずるいですよ、武内統括」

「サラリーマンとしては、島村さんより経験を積んでいますので」

「346に携わった時間だって、貴方の方が長いじゃないですか。……やっぱり、交渉事でプロデューサーさんに勝とうって方が間違ってました。ここからは素直に行きますね」

 

 溜息をひとつ吐き、卯月は続ける。

 

「実は先日、十王学園長のもとへ伺ったんです」

「……詳しく聞かせてください」

 

 初星学園の在学中にアイドルとしてデビューすると、その生徒は100プロとの専属契約を交わすことになる。そして、この契約にプロデューサー科の学生は不要だ。

 

 プロデューサー科の学生とペアを組んだアイドル科の生徒ばかりが大成するために勘違いされがちだが、初星学園におけるアイドルとプロデューサーの関係は、卒業後に至るまでずっと続くことが決まっているものではない。プロデューサー科の学生も100プロの社員となることはできるが、契約の形としてはあくまで100プロとアイドル個人。

 

 プロダクション側が特定の社員を割り当てる『配慮』を行うのはよくあることだ。しかしそれは義務ではない。会社の都合で異動することもあるだろうし、いつまでもプロデューサーとアイドルが一対一の関係でいられるわけはない。

 

 そしてプロデューサー科の学生が、100プロ以外の芸能事務所などから研修目的で入学している場合……話はますますややこしくなる。

 

「プロデューサーさんには釈迦に説法でしょうけど、在学中にデビューした初星学園生と100プロの契約期間は、生徒が卒業するまでと定められています。しかし現実には、そのまま契約を更新して引き続き100プロのアイドルとして活動することがほとんどです」

「存じています。ですが、契約を更新せずそのまま引退する例……もしくは、他事務所からのスカウトを受けて卒業時に移籍する例。そういったケースはあると認識しています」

「その通りです、事務所移籍を許容する前例は確かにあるんですよ。初星学園生を100プロで絶対に囲んでやる……というような独占意識を、少なくとも十王学園長は持っていないことをこの事実が示唆しています」

「ですが、在学時から別事務所でのデビューとなると……」

「残念ながら、前例はありませんでした。なので直談判しに行きました」

 

 今度の無言は絶句だろうな、と卯月はぼんやり思った。恐らく間違ってはいるまい。

 

「プロデューサーとしてろくな実績もない、アイドル歴に胡坐をかいているだけの私を招き入れて、一見すれば100プロにまともな利益が見当たらないような話を一通り聞いてくださって。学園長、なんて仰ったと思いますか?」

「……島村さんを諭すか、あるいはお怒りになられたのでは?」

 

 彼の順当な予想は、しかし見事に打ち破られる。

 

「────才あるものは斯くあるべし。その意気は見事じゃ、ならば実績で示してみせよ、と」

「……豪胆ですね。十王学園長も、島村さんも」

「学園長はともかく、私はただの蛮勇ですよ。ですが道は開けました。あとは私たちが実績を作って、プロデューサーさんが認めてくだされば、先に進めます。勿論、ことねちゃんの力量がちゃんとお眼鏡に適えばのお話ですけどね。そのために、学園の中間試験が今から……」

 

 流れる音楽、聞こえてくる歌声、増えてくる人だかり。試験会場はもう目の前だ。

 

 だが、卯月は会場へ辿り着く前にその歩を止めてしまった。卯月の瞳にひとりの姿が映る。黒いスーツを着こなす大男。こちらに背を向け、右手にはスマートフォン。

 

 彼が誰か、そんなことは考えずとも卯月には理解できる。だが、どうして。

 

「……なんで、ここに?」

 

 通話越しでなくとも、卯月の声は彼の耳まで届いたらしい。男がゆっくりと振り返り、そのまま卯月の疑問に言葉を返す。

 

「346プロにスカウトしたいと、島村さんがあれほどまでに推す方です。少しの時間だけでもお会いして……せめて、名刺だけでもお渡しできれば。そう考えまして」

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