島村卯月(27歳)による藤田ことねトップアイドル化計画   作:天宮雛葵

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34 - 勧誘と詐欺にご用心

「最初はシンプルに行きましょう」

 

 そう言って、卯月はことねを正面から見据える。

 

「100プロが346プロに対して明確に優っているところは何なのか、の話をします。藤田さんは何だと思いますか? 当てずっぽうで構いませんから、思いついたことを言ってみてください。ただし、今渡した資料はまだ見ないように」

 

 卯月に問われ、ことねは腕を組み考えこむ。

 

「えぇ〜……? そもそもあたし、芸能事務所の違いとか全然詳しくないですしぃ。とりあえず、346プロが一番大きくて一番古いってことはわかりますケド……ってことは、100プロの長所ってまだ若いからフットワークが軽い、とかですか?」

「悪くない着眼点です、そのままもっと深掘りしてみましょうか。100プロは若い芸能事務所ですが、十王家の一族経営なので歴史に対して規模はかなり大きく、資金力がありますね。若い芸能事務所に付き物なのは業界とのコネクション不足ですが、これも十王学園長のネームバリューである程度突破できます」

「じゃあ、これで正解ってことに……」

「とはいえ、ただ若く資金力やコネクションが他社に匹敵するだけでは、長所とは言えませんね」

 

 解答をバッサリと切られ、がっくりと肩を落とすことね。

 

「私がこれまで藤田さんに教えた情報から、100プロの明確な強みを見つけられますか?」

 

 そんなことを言われても、卯月との会話を思い返してみたところで、そもそも100プロについての話をした記憶はほとんどない。あっても世間話程度のものだ。それで100プロの強みを見つけろと言われても無理がある。

 

「ん〜〜〜……全然わっかりません! ヒントください!」

「そうですね、では……これまでにも、藤田さんの今後について話し合う機会がありましたね? そのときに何を話していたか、覚えていますか?」

 

 ヒントに従い、自分の将来について卯月と話し合ったときの記憶を探る。何か、今の話題に繋がるような話をしていなかっただろうか────

 

『たとえば、現役時代の私はネットをほとんど活用していません。……ですがこれは346プロダクションという巨大事務所の知名度や資金力、企画力あってこそできることです』

『まー、プロデューサーにネットでの活動ってイメージは全然ないですねぇ』

『インターネットとそこから生まれた文化にとって、オールドメディアで知名度を高めた私というアイドルは、率直に言えば相性が悪かったんです』

 

「あっ、もしかして……」

「思い出したことがありましたか?」

 

 卯月に促されて、ことねは間違いのないようにゆっくりと言葉を紡ぐ。

 

「……プロデューサーが今までネットを活用しなかったのは、346プロの力があったから。老舗のコネクションがあるから、ネットに頼らなくてもトップアイドルになれた。でもそれは、島村卯月というアイドルをネットの世界から遠ざける原因にもなってしまった」

「良いですね、よく覚えていてくれました。ですが、それはあくまで私個人の話。346プロにもネット方面に支持を伸ばすアイドルは増えつつあります。この話題から、どのように100プロの長所へ繋げましょうか?」

「えーと、それなら……あ、そっか! 『島村卯月はネットの世界から遠かった』が個人の話なら、『346プロにもネット系アイドルはいる』だって、結局は個人の話じゃないですか!?」

 

 ことねの気付きに卯月は硬い表情を崩し、武内プロデューサーもその身を乗り出した。

 

「その通りです。ではそれを踏まえたうえで、100プロが346プロに対して明確に優っている点とは何でしょう?」

「346プロのアイドルはネット戦略がバラバラ、というか人数多すぎ規模大きすぎでコントロールできてない! 100プロは事務所ぐるみで足並み揃えてネットやSNSを有効活用してる! だから……若者相手の宣伝力が強い、ですよねっ!?」

「お見事、正解です! ここまで曖昧なヒントでよく導き出せましたね」

 

 プロデューサーモード中にしては珍しく、若干テンション高めにことねを褒め称える卯月。

 

「どうですか、武内統括。この子はこういうところも強いんですよ。勉強が苦手とは言いますが、間違いなく地頭は良いんです」

「もっと褒めてくれてもいいんですよぉ~、プロデューサぁー♡」

 

 胸を張る卯月と何やら勝手にトリップし始めることね。

 

「……島村さんが藤田さんを強く推す理由が、より明瞭になってきました」

「こんなアイドルを逃す理由、ないですよね?」

 

 卯月の確認に彼は深く頷く。

 

「さて、一度話を戻しましょう。100プロのネット戦略重視という姿勢は、単純に広告方面だけではありません。動画・生放送配信プラットフォームの積極的な活用、ボーカロイドなどの音声合成ソフト、またそれに限らずネットミュージックの文化から育ってきた作曲家の囲い込みとメジャーシーンへの起用など……武内統括は、100プロと比較した346の現状をどう見ていますか?」

「島村さんと藤田さんのご指摘はもっともです。昨今の346プロダクションは、ネット戦略を立て直している……いえ、無秩序だったものを土台から組み直すような、時間のかかる作業に手を取られている状況です。残念ながら、ネット分野においては同業他社と比較して後手に回っていると表現せざるを得ません」

 

 346プロの偉い人が、自社の問題点を赤裸々に語る。こんな発言を聞ける機会は間違いなく稀だろうし、なんで自分がこれを聞けているのかわからない。それがことねの率直な感想であった。

 

「そして恐ろしいことに、個人・小規模プロダクションがネットへと完全に傾倒する流れがある一方で、100プロはオールドメディアの軽視はしない。インターネットとオールドメディアの良いところを両取りすることに力を注いでいる、と言ってもいいですね」

「……あの、一応これって346プロのスカウトなんですよねぇ? なんかぁ、今のところ100プロが無限に褒め称えられてる感じですケド」

「事実として、100プロの方針はとても賢いものですから」

 

 一応346プロで育ったはずの卯月だが、100プロへの賛辞はまだ終わらない。

 

「100プロが手掛けるアイドルプロデュースとは、すなわち『若い文化の中心を走りつつも、旧来のアイドル像を決して崩さない』ものです。完全にネット文化へ傾倒するならば、ネットアイドルではなく昨今隆盛するゲームストリーマーやVTuberの方がより適している……というより、ネットアイドルという存在がそれらに呑まれるところまで読み切っていたのかは、私の立場からは伺い知れませんが」

「あ~、最近人気ですもんねぇ。あたしもちょこちょこ見てますけど、あれはあれで夢がありますよねぇ。主に収入的な意味で」

「さながらゴールドラッシュではありますが、動画や配信一本でのマネタイズは厳しいとも聞きます。最上位層に上り詰めるか、素人の状態で大規模事務所の倍率数百倍近いオーディションを潜り抜けるかということをしなければ、藤田さんの望むような未来を掴むのは難しいでしょうね」

「うぐぐ……美味しい話は都合よく転がってないってことになっちゃうんですよねぇ」

 

 ことねが何気なくこぼしたその言葉に、卯月は素早く反応する。

 

「美味しい話、知りたいですか?」

「えっこわ、なんですか急に。幸運になる壺とか売りつけてくる人の台詞ですよ、それ」

「安心してください、藤田さん。幸運になる壺ほどの実績もない、貴女が文字通りの先駆者になれるような美味しい話ですよ」

「もっと怖くするのやめてくれません!? プロデューサー相手じゃなかったら尻尾巻いて逃げ出してる勧誘ですよ!?」

 

 ことねのツッコミを否定するでもなく、さりとて肯定するわけでもなく。卯月の笑みが深まる。

 

「346プロが抱え続けてきた、数多のアイドルとその持ち曲たち。それらすべてを藤田さんが好きに歌えて、何を歌ったとしてもマネタイズできると言ったら、信じますか?」

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