島村卯月(27歳)による藤田ことねトップアイドル化計画   作:天宮雛葵

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38 - いざ、次なる目標へ

 三日後、学園の小教室。

 

「では、藤田さん。早速ですが、中間試験の結果をお伝えします」

「よ、よぉーっし……覚悟はできてます! どんとこいですよっ!」

 

 口ではそう言いつつ、不安が隠しきれていない様子のことね。そんな彼女に対して、卯月は笑顔で書類を渡す。

 

「お見事、合格です」

「ぃやったぁ〜〜〜! これって夢じゃないですよね、プロデューサー!?」

「現実ですよ。ですがまだ喜ぶのは早いです」

 

 飛び跳ねながら喜びを表明することねに対して、卯月は更なる朗報で畳み掛ける。

 

「今回の中間試験、全受験者中の成績一位は藤田さんでした」

「……ほんとに夢じゃないんですよね、プロデューサー?」

「これが現実です。今は貴女こそが首席ですよ」

「あたしが、首席……」

 

 自分にとって、あまりにも馴染みのない肩書。中等部のころからずっと燻り続けて、高等部に入ってもそれが変わることはなく、夢の一攫千金は遠のくばかり。

 

 そんな自分がやっと掴み取った、輝かしい夢へ向かうための切符。

 

「無論、ここで終わりではありません。むしろここからの積み重ねこそが重要ですが……よく頑張りましたね、藤田さん。これは貴女の才能と努力によるものです。誇ってください」

「……はいっ! これからも頑張るので、ちゃんと見ててくださいね!」

 

 ことねの言葉に深く頷いてから、卯月は改めて口を開く。

 

「余談ですが、次席と三席も私の予想通りでした。花海さん……花海咲季さんと、葛城さんですね。新入生首席の花海さんはまだしも、特段注目されていなかった葛城さんの躍進には学園側も驚く方が多かったようです。緒方さんのバースデーライブは、あのふたりにも良い影響を与えたようですね」

「うわっ、ぴったり予想当ててるぅ……今更文句とか言いませんケド、敵に塩を送っちゃった感じもありますよね?」

「藤田さんを全力でプロデュースすることへの虚偽は誓ってありません。才能の原石を通りすがりに磨いていくことも、いずれ藤田さんにとって役立つ行動だと信じながらやっていますから」

「……まあ、卯月さんはそういう人ですよねぇ」

 

 たったの一ヶ月と少々ではあるが、それでも一ヶ月と少々である。当初のことねが卯月に抱いていた、キラキラしているトップアイドルという印象は損なわれていない。しかしそれ以上に、プロデューサーとして変人かつアイドルとして狂人という確固たるイメージが、パブリックな島村卯月のアイドル像を突き破りつつあった。

 

「そして、藤田さんを346プロにスカウトするという件ですが。まずはスカウトに応じると決めていただいたこと、この場で改めて感謝します。ありがとうございます、藤田さん」

「そんなにかたくならないでくださいよぉ、あたしにもメリット山盛りなんですし。条件を整理したら、受ける以外はありえないくらいでした」

 

 休暇として設定されていたこの三日の間に、ことねはスカウトを受ける旨のメッセージを卯月へと早々に送っていた。ことねとしてはさっさと伝えた方が良いだろうという程度の気持ちだったのだが、卯月たち346プロの人間にとってはすこぶる大きな意思表示だった。

 

「藤田さんの返答を受けて、今日までにアイドル部門の方で何度か会議を持ちました。貴女の中間試験におけるステージパフォーマンスを武器として武内統括が大立ち回りをしてくれたので、おおむね上手く行ったと言えるでしょう。346プロダクションとして、貴女をスカウトしても良いだろうという結論で固まっています」

「お、大立ち回りって……」

「安心してください、実際に殴り合ってはいませんから。……ただし、一点だけ注意すべきことがあります」

 

 人差し指を立てて卯月が続ける。

 

「現在、346プロダクション代表取締役CEOの地位にある美城社長なのですが……」

「社長? なんで社長の話が出てくるんです?」

「実はですね……彼女は元々、346プロにおけるアイドル事業を統括する重役として、肝入りで346プロダクションへとやってきた経緯がありまして」

「……猛烈に嫌な予感がしてきましたねぇ、なんだか。その先って聞かなきゃダメですかぁ?」

 

 ことねの質問に、卯月は努めてにこやかな表情を維持しながら答える。

 

「諦めてください。……それでですね、その美城社長なのですが……藤田さんに大変興味をお持ちのようなのです」

「どーせそんなことだろうと思いましたよ……」

 

 がっくりと肩を落とすことね。

 

「申し訳ありません、藤田さん。私と武内統括と美城社長は、因縁と言いますか、妙な信頼と言いますか……なんとも言い表しがたい関係性がずっと続いていまして。貴女を巻き込むつもりはなかったのですが」

「因縁……って、どんなことがあったんですか?」

「今の藤田さんに教えられる範囲で言うと……そうですね。かなり前の話なのですが、武内統括と美城社長はアイドルをプロデュースするうえでの方針で真っ向から対立しました。結果的には武内統括が一定の成果を挙げて、美城社長が譲歩する形で決着しましたね。武内統括が社内で干されることなく、今もアイドル部門の実務トップであることからも、美城社長の公平性は伺えます」

「あれ、思ってたより話のわかる人ですね?」

「経営者として優秀ですから、美城社長は。ただ、美城社長がマクロ的なのに対して武内統括がミクロ的だというだけですね。……そして、私と武内統括は勿論アイドルとプロデューサーの関係です。最後に残った、私と美城社長については……」

 

 苦笑を浮かべながら卯月が言う。

 

「アイドルとしての私は、美城社長の理想とは違う……けれども私の実績は認めざるを得ない。だから美城社長は相応の扱いをしてくれて、私もそれに満足している。自分で言うのもなんですが、そんな感じでしょうか」

「……ビジネスライクってやつです?」

「当たらずとも遠からず、ですね。仲が良いかと言われれば首を傾げますが、食事の席で一緒になれば込み入った話やプライベートの愚痴もお互いに聞く……という、本当によくわからない関係ですよ」

 

 そこで言葉を切る卯月に対して、ことねがさらに問いかける。

 

「ちなみに、プロデューサーとしてはどういう風に見られてるんですか?」

「先日までは実績もなければ失敗もない、という意味での評価無しでした。藤田さんを社内に紹介した今では……」

「今では?」

「……いえ、まだ語るべき時ではありませんね」

「えぇ~、この流れで教えてくれないんですかぁ!? そこまで言うくらいなら最後まで教えてくれてもいいじゃないですか!」

 

 珍しく卯月への不満を前面に出して騒ぐことねに、卯月は普段通りの淡々とした対応で返す。

 

「この話はまたいずれ、です。その方が藤田さんのためになるでしょうからね。とにかくそういうわけなので、近いうちに美城社長から藤田さんへのご招待があるかもしれません。藤田さんとしても、いずれ所属することになるプロダクションの社長に顔を覚えられているというのは間違いなくプラスになるはずです。問題ないとは思いますが、一応フォーマルな服装を準備しておいてください。初星学園の制服で大丈夫ですよ」

「はーい。……ところで、昨日ちょっと気付いたことがあるんですよ」

「なんでしょうか?」

「いや、その……346プロからのスカウトを受けるのはいいとして、これって100プロの方は何か言ってこないんですか? 初星学園の生徒を横取りされた形になりません?」

 

 ことねの質問を聞いてにこりと笑う卯月。

 

「そこに自力で気付けるとは、流石藤田さんですね。実は、その件について……十王学園長からの言伝を預かっています」

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