島村卯月(27歳)による藤田ことねトップアイドル化計画   作:天宮雛葵

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 日刊ランキング、上の方に載っている……! なんだかちょっと恐ろしくなってきました。ひたすらに学園アイドルマスターの勢いを感じる。感想・評価いただき大変ありがとうございます!



05 - 天才の目醒め

 初星学園に帰り、ことねを保健室まで運び、そしてやらかしの内容が内容であるからして、素直にプロデューサー科の担任に事の顛末を報告した卯月。そんな彼女は、今。

 

「もう……島村さん! いくらなんでも、やっていいこととよくないことがありますよ!」

「はい、本当にすみませんでした……」

 

 きっちりと叱られていた。残念でもなければ当然である。

 

「流石に業界慣れしている元アイドルなだけはあって、優等生な良い子だと思っていましたが……まさかこんなベクトルで問題が起きるなんて……」

 

 そうぼやいてから、頬を膨らませて『怒ってますよ』とアピールしているのは、プロデューサー科を担当する教師のひとりである根緒亜紗里。あさり先生と呼ばれ、プロデューサー科・アイドル科を問わず人気のある教師のひとりで、卯月にとっても担任教師という間柄だ。

 

「スカウトでアイドルの長所を本人にしっかり伝えることは、確かに大事です。スカウトの方法も、法や学園規則に触れず、本人が嫌がっていない限りはどんな形であろうと構いません。でも、まさかアイドルを褒め殺しして気絶させるなんて……前代未聞ですよ」

「ごめんなさい、私が深く考えなかったせいでこんなことに……」

「それは藤田さんに直接言ってあげてください」

 

 珍しく、見るからにしょんぼりしている卯月。そんな彼女の様子を見た亜紗里は……実のところ、少しだけ安心していた。

 

 プロデューサー科の学生は、とにかく年齢層が幅広い。高校を卒業したばかりの者、大学中退・卒業後に改めて入学した者、転職を志した別業種経験者、研修を兼ねてやってきた大手プロダクションの若手スタッフ、さらには学び直しを目的に入学した中堅・ベテランの現役芸能プロデューサーまで。

 

 しかしその中にあっても、元アイドル……それも泣く子も黙る人気アイドルなどという経歴は稀だ。少なくとも、亜紗里が受け持つ学生としては初めてだった。

 

 プロデューサー科の学生たちは誰もが弁えていたので、同級生になった卯月をアイドルとして見るような者はいなかった。しかし学生たちは誰もが弁えすぎていたので、元アイドルの卯月と積極的に仲良くなろうという者もいなかった。結果として、卯月の存在は明らかに学生の間で浮いていたのだ。

 

「誰にでも、失敗はあるものです。島村さんがいかにアイドルとして実績を積み重ねてきたとしても、プロデューサーとしては新米なんですから」

「……はい」

「だからこそ、周囲の人たちをもっと頼ったり、参考にしてみてください。……これは、言うべきかどうか悩んだのですが。島村さんは以前の経歴における成功と名声が大きすぎるあまり、初星学園では『プロデューサー』であることに神経を注ぎすぎていると思います。だからこそ、アイドルとしての自分を切り札のように使ってしまった。どうでしょう、合っていますか?」

 

 その指摘には卯月も自覚があったらしく、彼女は視線をますます落とす。

 

「学園における島村さんは、確かにプロデューサー科の学生です。でも、それは島村さんがアイドルであったことや、その経験を日常的に活用する行為まで否定するものではないと思います。……なんて、わたしが言うのはおこがましいかもしれませんが」

「いえ、先生のおっしゃるとおりです。思い違いを正していただいて、ありがとうございます」

「そんなに堅苦しくなることはないですよ。それに……問題が起きればすぐ報告するという、社会人にとって一番大事なことは守れているんですから」

 

 そう締めた亜紗里に対して、卯月は苦笑を浮かべるほかなかった。

 

 


 

 

 ことねが目を開けると、知らない天井がそこにはあった。

 

「あら、起きたの?」

 

 聞き覚えのある……というか、日々聞かされてそろそろ飽きてきた声。その方向に顔を向けようとして、それよりも先に相手が覗きこんできた。

 

「……咲季?」

「ええ、わたしよ」

 

 花海咲季。初星学園高等部アイドル科1年生にして、入学生首席。所属クラスは1年1組。つまるところ、ことねのクラスメートである。

 

「ここは……」

「学園の保健室よ。ことねが熱を出して倒れたって聞いたから、見舞いに来たのだけど……怪我はないようでなによりね」

「熱で倒れた? そんなこと……」

 

 あったっけ、とは続けられなかった。確かに学園の外で記憶が途切れている。その直前に、何をしていたかと問われれば────

 

『アイドルとしての私だよ?』

『いいよ、名前で呼んでくれても』

『貴女のことを信じてるよ』

 

 蘇ってくる声。表情。感情。

 

「ちょっと、どうしたのよことね!? 顔が真っ赤よ!?」

「な、なんでもないっ! ホントなんでもないからぁ!」

「なんでもないわけないでしょ! 熱がまだ下がってないのよ、ちゃんと休みなさい!」

「や、全然そういうのじゃなくてぇ……やっぱりそういうことかも」

 

 未だにエンジンの入らないことねの思考だが、ここで事実を咲季に伝えるよりは体調不良ということにしておいた方がまだマシだ、ということまでは判断することができた。

 

 素直に黙ってベッドに横たわったままでいると、咲季が布団を掛け直してくれた。こういうところは妙に気が利くな、などとことねがぼんやり考えていると、今度は咲季の溜息が聞こえてくる。

 

「まったくもう……ああ、そういえばことねへの預かりものがあったの。ここに置いて……いえ、あなたに渡しておいた方が良いわね」

 

 そう言って、咲季は何か小さな紙片をことねの顔の横に置く。首を動かすまでもなく、ことねの視界にそれが入ってきた。

 

「……名刺?」

「それも()()島村卯月の、ね。あなた、一体どこで彼女と知り合ったの?」

 

 半ば呆れたような声と共に咲季は続ける。

 

「ついさっき、彼女がここに顔を出したのよ。それでぐっすり寝てることねとわたしを見るなり、『まだしばらく保健室にいらっしゃるようでしたら、藤田さんにこちらを渡していただいても構いませんか?』って。わたしがそれを隠したり捨てたりすることなんて、考えてすらいない行動だったわ」

「そんなことしないでしょ、咲季は」

「当たり前じゃない。でもそうする人だっているかもしれない。まるで、わたしがそういう行動を取らないと確信していたような……」

 

 訝しげに語る咲季だったが、ことねにはなんとなく思い当たる節があった。

 

「知ってたんじゃね? プロデューサーは、さ」

「……ことね、あなたもしかして」

「だって、あたしのことをわざわざ隅々まで調べてきてたし? 座学ボロボロ、実技へっぽこ。持ってるのは少しの愛嬌だけ。そんなあたしのことまで知ってるんだったら、そりゃ咲季のことくらい調べてるでしょ」

「……そう、そういうわけね。彼女、わたしのところに来ないどころか、誰もスカウトしなかったって聞いていたけど……」

 

 咲季は神妙な瞳をことねに向ける。

 

「座学ボロボロで実技へっぽこのあなたをスカウトするとは、中々ね」

「おい」

 

 本当にこういうところなんだよなぁこいつは、という感想だけがことねの頭に浮かぶ。

 

「そういうことなら、きっちり精進しなさい。あなたをスカウトしたのなら、彼女は試験の成績では見えないところにあなたの魅力を見出したんでしょうから」

「……言われるまでもねーし。咲季こそ、プロデューサーにビシバシ鍛えられたあたしに追い抜かれないよう覚悟しときなよ~?」

 

 互いの笑みが深まる。クラスメートだった二人が、やっとライバルになる。やっと同じ舞台に立つ相手として見れるのだ、という喜びと共に。

 

「待ってるわよ、次の試験で。まあ、その前に教室で会うことになるけど」

「しかも毎日、ね。ホント勘弁してよ」

「あら、わたしは友達と過ごす慌ただしい日常も好きよ?」

「いやもう心底勘弁してほしいんですケドぉ……」

 

 ことねの呻き声を華麗に聞き流し、咲季は背を向け歩き出す。ご丁寧にカーテンも閉められて、ことねは即席の個室ベッドにひとり取り残された。やがて足音も遠くなり、彼女の耳に届くのは自らの息遣いのみ。

 

「プロデューサー、かぁ」

 

 静かすぎる空間に耐えられず、独り言が口を衝いて出てくる。

 

 どうやら、あの出来事は夢ではなかったらしい。目の前に置かれたままの名刺がそれを物語っている。であれば、目下の悩み事はひとつだけ。

 

「……あんなことされちゃって、次はどんな顔して会えばいいのかわかんないじゃんかぁ~ッ!」

 

 そんな彼女の叫びを聞き届けた者は、どこにもいなかった。

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