「レイン怖いレイン怖いレイン怖いレイン怖いレイン怖いレイン怖いレイン怖いレイン怖いレイン怖いレイン怖いレイン怖いレイン怖い……!!」
フカフカそうで、悪夢なんか見なそうなベッドの中でとびっきりの悪夢を見てガタガタと震え怯えているのはこの物語の主人公であり、とある世界から転生してきた古龍殺しの剣士、天之河光輝。
彼はかつてドラゴンスレイヤーを成し遂げた後、調子に乗っていた時に出くわした知られざる天才剣士ことレインによってぶちのめされており、数年後に再戦したものの、またぶちのめされた過去を持っている。
その為、何度も何度も転生した後も時折レインは夢に出てきて光輝をぶっ飛ばしてくるのだ。
「レインだけじゃない……ローゼンバーグも怖い……2本の大剣と大魔法連続使用とかふざけんなよ……」
シルヴィア・ローゼンバーグ。レインの師匠であり、ヴァンパイアである彼女にも光輝はトラウマがある。可憐な美貌からは想像できないパワーと魔法にとある大会でフルボッコにされたのだ。
他にもトラウマになる程強いと思っている強者は何人もおり、光輝は彼らが夢に出てくる度に顔を青くしながらガクブルする毎日を送るのだった。
★★★★★★★
光輝の朝は早い。夢でガクブルしようが、毎日の日課は変わらない。朝5時に起き、両腕両足に常人では耐えきれないほどの重りを着けて朝飯の時間になるまで走り続けるのだ。
この訓練は翼を持つ魔族にスピードで追いつく為に前世で考案したものであり、空を飛べるようになってからは必要なくなったものの、いい訓練法だと思ってずっと続けているのだ。
この訓練を行う度に車より速く走っているのだが、何処の誰もこの問題に全く気にしない。幼少の頃からこの訓練を行っているため、最早誰も気にしないのだ。そもそもこの町もっとおかしいのが何人もいるのだ。
家に帰った後、家族4人が揃ったテーブルで共に朝食を共にする。長い間走っているのに、汗ひとつかいている様子が無い光輝には家族全員が気にしていない。
光輝の父はコンサルタントとして忙しい、そして光輝は剣道部の部員として朝練がある為、食事は黙々と進む。
「ご馳走様、行ってきます」
「行ってらっしゃい、お弁当はいいの?」
「いらない」
光輝はカバンを持って学校へと向かう。余計な重荷がない分、前よりも早い。普通なら電車も使って1時間ほどかかるところ、ダッシュで20分程度で行ける。定期券も要らないので、光輝の母はそのことに喜び、光輝のお小遣いは高校に入ってから10%上がった。
誰よりも早く剣道部の部室に着くと剣道着に着替えて竹刀を振るう。古龍を殺した頃もそうだが、光輝は基本努力は惜しみなくするタイプだ。
レインやシルヴィアに負けたのはその努力が足りなかったから。転生して彼らがいない世界に流れ着いても尚、彼らに勝つために剣技の向上を測り続けるのはもう光輝の癖なのだろう。
他の部員が来るまでの間、光輝は剣を振り続けた。
★★★★★★★
「光輝くん、光輝くん、お弁当作ってきたよ♡」
「ありがとう、恵里。ありがたくいただくよ」
光輝は剣道部の朝練を終えた後、4時間の授業を終えた。特筆すべきこともない。努力家な光輝は授業で苦労することはほとんどない。世界史と国語と英語がちょっと苦手なだけだ。
授業を終えた後、光輝はとある女の子に誘われてお弁当を一緒に食べていた。そのとある女の子の名前は中村恵里。光輝とは中学の頃から付き合いがある女の子だ。
「うん、相変わらず美味しいね」
「そう言ってくれて嬉しいなぁ♡」
「(髪の毛とか血とか入ってるけど……まぁ味付けは問題ないし)いつもありがとうね」
「また作ってくるね♡」
光輝は基本的に毒を盛られようが薬を盛られようがどうにもならない。古龍を殺した際に得た強靭な肉体にはどんな害も効かない。その為、恵里の自分の髪や血を仕込んだ弁当など効くわけがない。食うのに手間取るなぐらいにしか思えないのだ。
「そういえば雫ちゃん達のことはいいの?」
「どうでも。雫は最近俺の事見ないし、香織は南雲に恋心を向けてるし、龍太郎は龍太郎でその南雲に対して不満があるみたいだからね」
「そっか♡」
原典の光輝であればその3人と何時でも一緒にいただろうが、この光輝はそういうことは気にしない。
話しかけてもこちらを見向きもしない、答えもしない幼馴染。
絶賛恋愛中で恋愛相談ぐらいでしか話さなくなった幼馴染の友達。
くだらないことを気にして他人を見下すようになった友達。
光輝からしたらそんな3人と関わるよりは恵里と関わった方がいいとそう決断してしまったのだ。
そのせいで恵里に対して学校中の女子から妬みや僻みが集中しまくっているが。まぁ恵里はそんなこと気にしない。
「光輝くん、週末買い物行かない?」
「いいよ」
恵里からすれば光輝は白馬の王子様的な存在だ。やっと同じクラスになれて、ちょうどよく邪魔だと思っていた幼馴染連中が離れてくれた。この期を逃すのは恵里には無理な話で、恵里は学年が上がってから今までの短期間でデートまで漕ぎ着けていた。
ここまでの苦労に比べれば光輝と一緒にいることで受ける嫉妬など軽いものである。というかその程度で済むならそのままやってろと言いたいぐらいだ。
★★★★★★★
恵里と光輝が弁当を食べ終え、昼休みが終わりに差しかかろうとした頃、とある異変が起きた。教室が微かに揺れ始めたのだ。
誰もそんなこと気にしなかったが、光輝は確かに感じとった。ここ十数年、魔力なんてものはほとんど感じたことはなかったが、光輝はそれを確かに感じとったのだ。
「(かなりの魔力だな。ローゼンバーグ以上と見ても良いぐらいだ。少し乱しておこうかな)」
光輝は自分の魔力を流してその魔力を乱すが、魔力の流れを止めることは能わず、教室全体に魔法陣が現れ始めた。これでようやくクラス全体が騒ぎ始めたものの、光輝は冷静に分析を続ける。
「(召喚魔法に似てるな……このまま行くとアンチ・マジック・フィールドごと巻き込まれるな。今すぐ教室から出てもいいが、出るには生徒が多すぎて出ていけない)」
「ど、どうしよう光輝くん」
「……安心しろ、俺が守るから」
光輝はそう恵里に伝えると魔法陣が爆発し、白い光に包まれた。この話は魔剣を握り、古龍を殺害した龍滅の剣士が、ありふれた異世界で最強に成り上がり、かつてのトラウマを乗り越えるお話である。
……もしかしたらトラウマは乗り越えられないかもしれない。