光輝とハジメはついに100階層に到着した。途中、転移トラップに引っかかって65階層に転移するというハプニングはあったものの、そこに存在していた
明らかな初見殺しのギミックではあったものの、光輝には通用しなかった。
その後は大きなハプニングは一切無く、光輝の無双ゲームが続いた。その影響でか、ハジメはどんな魔物が出ても一切驚くことがなくなってしまった。慣れって怖い。
「ここが最終階層か。魔物もいない、魔法陣もない。トラップもなさそうだな。ハジメ、降ろせ。ここを調べてから休憩しよう」
「うん、了解」
ここまでの長い道のりからか、ハジメと光輝はかなり仲が良くなっており、現在光輝が疎遠になっている友達よりも仲良くなっている。勝手に連れてこられたのに。
光輝はハジメに魔石がパンパンに詰まっているハジメ謹製のショッピングカートを止めさせると周囲を調べ始めた。ハジメは万が一のためにショッピングカート周辺で待機している。
ハジメは魔石をもっと効率的に運ぶ為のアイテムを考えながら光輝のことを待っていた。そして数分も経つと光輝から呼び出しの声が掛かったので魔石のショッピングカートを置いて光輝の元へと向かう。
光輝の後ろには謎の石板と前に引っかかった転移トラップと同じような魔法陣があり、光輝は悩ましげにそれらを見ていた。
「どうしたの?」
「ん……お前、これをどう見る?」
「なになに……?」
ハジメは光輝が指さしてきた石板を読み始める。そして数分経って読み終わる頃には全てを理解したような顔をして光輝に話す。
「ゲームで言うところの隠しステージってヤツだね。こういうのはドロップアイテムとかが美味しかったりするんだよねー」
「敵の傾向は?」
「ここまでを通常ステージとして、ここからは数倍の実力が必要になってきそうだね。でも光輝なら勝てると思うけどね」
「……数倍か」
「どうかしたの?」
ハジメは先程までの光輝の余裕そうな姿を想像して隠しステージに挑むように言うが、当の本人の光輝は躊躇しているように見え、光輝はチラチラとハジメを見る。
「魔物の程がわからんからお前を連れてけるか分からないんだよなぁ……」
「あぁ確かに」
「ここまではまだ指標があるけどここからはそういうのもない、本当に何も分からないからな。お前を殺す訳にも行かないし……」
光輝の頭の中でハジメの安全と隠しステージへの期待が天秤となって揺れ動いていた。そして何度もぶらんぶらんと揺れ、最終的には……
「ハジメ、お前を置いていって俺だけ行く」
「まぁそうなるよね……」
「安心しろ、きちんとこの階層の魔物が壊せないような壁を仕上げておいてやるから」
「お願いするよ」
光輝は氷の壁を幾層にも作り上げ、更に1番前に光の結界を作ってハジメの安全をしっかりと確保する。そしてハジメに対して残りの食料を全て明け渡して隠しステージへと乗り込む用意を全て終えた。
「食料、持ってかなくていいの?」
「要らない。これだけあれば2週間は持つだろ?食料が無くなる前に帰ってくるから。水はお前の魔力でも生み出せるだろ」
「うん、僕が餓死する前にお願いするよ」
ハジメの安全を確保し、ハジメがきっちり生きれることを確認すると光輝は魔法陣へと乗り込んで行った。
★★★★★★★
「……大して変わらないな」
魔法陣を経由してやってきた隠しステージ、真の大迷宮。
そこは並の冒険者、神の使徒ではひとたまりもない伏魔殿であった。上の大迷宮でも不安定な地形というものはあったが、ここは様々な局地で戦うことを強いられる俗に言うクソゲー的な場所であった。
しかし、光輝にとってはどうってことない場所であった。
人一人分くらいのスペースしかない狭い空間に転移させられ、100階層の魔物の5倍の強さを誇る魔物が大量に襲いかかってきたが、そんなことしったこっちゃねぇとばかりに寄ってきた魔物から斬り裂いた。
光がない、真っ暗な空間で石化させてくるバジリスクが光輝を石にしようとしてきたが、それをやろうとした瞬間に光輝の警戒網の中に入り、即殺されてしまった。
地面が全てタールのような粘つく泥沼のようになってしまっていた階層では沼から気配を殺してやってくるタール鮫なる魔物が出てきたものの、そもそも古龍斬って頑強になっている光輝に噛みつきは通用せず、噛まれたままその鮫を刺身にしていた。
他にも毒の痰を吐いてくる虹色のキモガエルと麻痺の鱗粉を撒き散らす蛾が大量に湧いてくるモンスターハウスや体を分割して襲いかかってくる巨大ムカデとやたら美味しい木の実を落とすトレントが大量にひしめいている熱帯雨林のような階層があったが、光輝からすればどうでもいいものだった。
毒なんてそもそも古龍斬ってから効かないし、キモイだけで大して強くない魔物なんて光輝の興味から外れたものだからだ。結局光輝は大して苦戦することがないまま50階層へとたどり着いた。
目の前には光輝の倍はありそうな巨大で荘厳そうな扉があり、その両隣りには1つ目の巨人の彫刻が半分壁に埋め込まれている状態で鎮座されていた。
今までは苦戦という苦戦をしなかった光輝だったが巨人の彫刻を見た瞬間に前世の感覚が少し甦った。先程までの魔物とは毛色が違うと本能で理解した光輝は覚悟を決めて扉に触れた。
すると強烈な静電気が光輝に襲いかかり、光輝は少し仰け反った。そして光輝は扉の両隣りの巨人が動き出すのを感じた。
野太い雄叫びを上げながら光輝に向かってくる巨人達に対して光輝は巨人の股をかいくぐって巨人の後ろから斬撃を浴びせた。
最初から重そうな攻撃を食らう気などなく、切り開かれた巨人の背中に魔力操作で無詠唱にした炎の上級魔法をグミ打ちする。背後からの爆撃を身体の内部で受け、巨人は苦悶の叫び声すら上げることすらなくそのまま沈んで行った。
片割れが倒れたことに対してか、はたまた自分の攻撃が当たらなかったことに対してか、もう片方の巨人が先程の雄叫びよりも大きな声を上げながら光輝に向かって巨人が持つ巨大なバスターソードを振るう。
「雑魚か、威圧感だけはいっちょ前だなッ!!」
魔力操作で無詠唱になった
2体の巨人は大したダメージを光輝に与えることが出来ず、そのまま絶命した。光輝に与えられた損害はグミ打ちと袈裟斬りの際に用いた魔力ぐらいで、なぜ先程威圧感を感じたのか分からず、ゴミめと心の中で巨人達に吐き捨てながら扉へと向かう。
重そうで開けるのが面倒くさそうな扉を魔力操作で無言で放てる炎の上級魔法でぶち破ると光輝は目を見開いた。
「なるほど、あれか」
光輝は先程感じていた威圧感の正体に気づいた。先程の威圧感はあの弱っちい巨人ではなく、この扉の奥に封印されている
少女は召喚された際に聖教教会で見た荘厳な大聖堂のような場所にある巨大な立方体の中に封印されており、上半身と腕だけを残してそれ以外全てを封印されていた。
年齢は10歳前半くらいだろう。かなり若そうだが、随分やつれており、髪の毛もかなりボサボサになっている。
だがそれでも傾国の美女かと言うくらいの美しい容姿をしており、その姿はかつてレインと戦う際に見たサンクワールの姫君やシャンドリスの皇帝、シルヴィア・ローゼンバーグと同等かそれ以上に美しかった。
少女はゆっくりと顔を上げると眩しそうにしながら光輝を見て、こう呟いた。
「だれ?」
やつれた様子のその少女の魔力に、光輝は転生してから出てくることのなかった冷や汗をかいた。