反省はどこまでもしていない。
“──あれ、シャーレで休んでいて、それからどうしたっけ……”
確か、アヤネと一緒に仕事をしていて、休憩でオヤツを少し食べようかって話になって、チョコとかクッキーとか食べた事は覚えているんだけど……やっぱり、そこからの記憶が曖昧だ。
食事の際、ソファーに座ったままだったからそこから移動してない筈なんだけど……
あれ、最近なんかよくこんな事が起きてるような気が……うーん、でも思い出せない……
あー、でも、なんとなくいつもよりはしっかり出来てるような気がする。うん。
意識がちょっとはっきりしていて、少しは思考出来てるような感覚はある……
うん。だから、自分の膝の上に誰か座っている、ていうのも分かってる。
ボーッと座っている自身の上に、“ピンク色の髪をした誰か”が座っている事も認識出来ている。
しかし、誰が座っているかまでは、そこまでは思い出せなかった。
記憶までの道筋がぐちゃぐちゃになっているようで、誰かという情報まで行き着かないような感覚だった。
誰だろう……でも、凄く愛おしいのだけは確かだ。
“──んー……”
「──っ♡」
俺はなんとなく、その愛おしさにしたがって目の前の子を背中からギュッと抱きしめた。
暖かい……とても優しい感触だ。
それにちょっと小柄だ。自身の体で覆い隠せてしまえそう。
このまま誰にも取られないように、包み込んでしまおうか……そんなことを考えていると、ふとその子の“腕”が見えた。
“──あー……”
俺はふと思いつき、その子の“右手”を触ってみた。
その子の手の甲から、覆い隠すように上から被せて、優しくギュッと握る。
ちっちゃい、柔らかい……でも、暖かくて、好きな感触だ。
それをもっと感じ続けたくて、ニギニギと触りまくっていた。
「──♡♪」
暫くそうしていると、膝の上の少女が凄くリラックスしたように、こっちに重心を預けて来たのを感じた。
なんとなく、それがとても嬉しいことのように思えていた。
それに応えたくて、もっとこの温もりを感じたくて。
──その手を、サワサワと触った。表面の微かな骨、皮膚、産毛の形を感じるように。
──その手を、ギュッと握り締めた。少女の指と指の間に、絡めるように。
──その手を、スーッと伝っていった。指先から、掌、手首を感じるように。
「──っ♡♡♡!」
触るたびに、膝の上の少女が僅かに身じろいだのを感じる。
自分の行動が、少女に反応を促していることが何より嬉しく感じている。
だから、もっともっと。
──少女の腕全体を撫でるように。服の上からも、袖をめくって素肌を直接軽く触っていく。
──少女の脈動を感じるように。手首に親指を当てて、その脈拍を図っていく。
──少女の手に親愛を示すように。その手に口づけを落としていき、この感情を伝えていく。
「──っ♡! ──っ♡♡! ──っ♡♡♡!」
膝の上の少女が、どんどん身じろいで行くのを感じとる。
この行動から、まるで逃げ出そうとしているように。
逃げないで、去らないで、いなくならないで。
そう思って、少女のお腹に回した左腕でギュッと抱きしめて固定する。
どこにも逃げ出さないように。ここから、逃れられないように。この愛しい人が、離れないように。
そうして、止めとばかりに……少女の右手を、それ以上の大きな手でギュッと強く握り締めた。
「──っっっ♡♡♡♡♡!!」
ああ、やっぱり良いなあ。凄く大好き。
どうすれば、この親愛が伝わるんだろう。どうすれば、少女に余す事なく伝えられるんだろう。
──そういえば、左手の薬指に指輪を嵌めて上げるのが良いって聞いた事がある。
それが、何を意味するかまでは今は思い出せないが、やってみようと思った。
しかし、今この場には指輪なんてものは存在しない。
探しにいくとしても、その為には少女を膝の上から下さなくてはならず、本末転倒だ。
むう、仕方ない。代用として、こうしよう。
そう思って、俺は少女の左手を取り、その薬指の根元あたりに口づけを──
☆★☆
──時は少し遡り。
<D.U>
「──おじさんはもう、ダメかも知れない」
私は……いや、おじさんはそんな事を口からこぼしながら歩いていた。
だって、ここ最近のおじさんの醜態を見なよ。
お酒を飲んだ先生に、体のあちこちを好き勝手開発された挙句、その様子を後輩たちに見られまくっていることを。
「シロコちゃん、セリカちゃん、ノノミちゃん……はは、凄いや。アビドスのみんなに見られまくっちゃってるよ」
敢えて低めに設定していたはずの先輩の威厳が、想定の遥かに下を超えて、地の底まで貫通していった自覚があった。
先輩に依存しない程度に調整していたはずのそれが、いつの間にか完全にぶっちぎってしまって威厳ゼロどころかマイナスになってるだろうと……
「あと見られていないのは、初回を除いてアヤネちゃんだけか……もう最後の砦だね」
これでもう、おじさんの痴態を見ていないのはアヤネちゃんだけになっちゃった。
初回のキスはもう気にしない。と言うか、それ以降が酷すぎてキス程度見られても問題ないやって、今じゃもうそう思ってる。
「そして、目の前にはシャーレの入り口……うへへ……無意識に、ここまで歩いて来ちゃった」
今日は特にD.U.に買い物の予定もない筈なのに。
ただただ、気分転換にパトロールをしていただけの筈なのに。
……気がついたら、シャーレの目の前まで来てしまっていた。今日当番でもないのに。
おじさんはもう、本当にダメかもしれない。
「……よし、帰ろう。今なら間に合う、間に合うよ私」
おじさんはそう、自分に言い聞かせるように敢えて口に出す。
さあ、背中を向けるんだ。離れるんだ。一旦距離を取って、かつてのうへへー、のおじさんを取り戻すんだ。
そう誓って、重い体に鞭を打ちながら、なんとかシャーレに背を向けて──
──♩、──♫
「…………」
スマホのモモトークが鳴った。
おじさんは静かにそれを取り出して、通知を確認する。
アヤネちゃんからだった。
「……………………」
私は、無言でモモトークをゆっくり、本当にゆっくり開く。
ここ最近の、デジャビュな光景から目を逸らしながら。
『ホシノ先輩、今よろしいでしょうか?』
『いーよー、どうしたのアヤネちゃん?』
『すみません、今ホシノ先輩D.U.付近にいますでしょうか?』
『……いるね』
『そうですか! すみません、大変申し訳ないんですけど、もし余裕があったらシャーレまで来て欲しいのですが……』
『……了解。すぐ行くよー』
そうアヤネちゃんからのメッセージに、返信をしていく。
やっぱり、どう考えてもここ最近の既視感を感じながら。
「……………………」
……大丈夫。だってアヤネちゃんだよ?
あのしっかりもので、他の学校の代表者達とも比べられるほどのしっかり者のアヤネちゃんだよ?
そんな子が、先生にお酒を飲ませた、なんて事は無いって。絶対。
私はそう……いや、おじさんはそう思いながら、今回こそは大丈夫だと、そう言い聞かせながらシャーレの建物に入っていった──
☆★☆
<シャーレ>
「“…………あー……?”」
「──信じていたのに。アヤネちゃん……」
「ち、違います!! 違うんですホシノ先輩ぃーっ!!」
私は最後の砦が、ガラガラと音を立てて崩れていくのを感じていた。
だって目の前には、どう見てもお酒を飲んだ状態の出来上がった先生だった。
ここ最近見ているいつもの光景でしかなかった。見間違いなんて出来なかった。
「アヤネちゃんは……アヤネちゃんだけは、先生にお酒を飲ませない子だって信じていたのに……本当だよ? “私”、本当にそう思っていたんだよ……?」
「だ、だから違うんです!! 先生、お酒を飲んだわけじゃないんです!!」
「誤魔化さなくても良いんだよ、アヤネちゃん……もう慣れちゃったから。みんな飲ませてたから」
「だから本当に……え、みんなって? みんなって誰ですか!? まさかアビドスのみんなですか!?」
「うん。だから、アヤネちゃんが飲ませちゃったとしても、私責めないよ……? みんな、一緒」
「ち、違います!! これ、“これ”を食べて先生こうなっちゃったんです!!」
そう言って、アヤネちゃんが取り出したのは、チョコレートが入っているお菓子箱。
見ると、そこそこお高そうな差し入れだった。
これを食べて……? あー、まさか……
私はふとそれに気付いて、成分表示表を確認してみた。やっぱり……
「これ、アルコールが入ってるチョコだ。ウイスキーボンボンって奴だね」
「そ、そうだったんです!! シャーレにあったから、誰かの差し入れだろうとおやつの時間に先生に出しちゃって……」
「それを食べちゃったと。うんうん、セリカちゃんの時みたいに、想定外で食べさせちゃったんだね」
なるほどー、と私は呟く。
うんうん、納得の理由だね。
「わ、分かっていただけましたか……?」
「うんうん、よーく分かったよ」
「ホ、ホシノ先輩……! それじゃあ、私はこの部屋の在庫整理をするので、ホシノ先輩には……」
「どうせ、私がこのあと無茶苦茶にされるって事はよく分かってるし」
「ホシノ先輩?」
さーてと。
私はトテトテと、酔っている先生の膝の上にポスっと座る。
「──さ、先生やっちゃって」
「ホシノ先輩!?」
私は四肢を投げ出しながら、背中の先生に対してそう言った。
それに対して、目の前のアヤネちゃんは猛抗議をし始めた。
「ホ、ホシノ先輩何言ってるんですか!? い、今の先生に近づいちゃったら、き、キスされちゃいますよ!?」
「うんそうだね、分かってる、分かってるよアヤネちゃん」
「それじゃあ……!」
「どうせキス以上の何かをまた後輩に見られるって事は変わらないんだろうなって、そう思ってるよ」
「ホシノ先輩???」
え、え? と目の前のアヤネちゃんは混乱している。
うんうん、アヤネちゃんは素直な良いこだねえ。
そんな子にも、私の痴態を見せつけることになるなんて心苦しいよ。
……でも、もう分かってるから。流れ。
アヤネちゃんも先生にお酒食べさせた時点で、もうこの後私の威厳トドメ刺されちゃうんだろうなって、分かってるから。
「え、え? ホシノ先輩、さっきから何言って……? まさか、他のみんなの時も!?」
「いやー、やっぱ鋭いねアヤネちゃん。大正解だよ」
でももう遅いんだ。
アヤネちゃんも悪いんだよ? 先生にお酒含んだもの食べさせちゃったんだから。
その上で私を呼び出しちゃったんだから。
アヤネちゃんが私を呼び出した理由はよく分からないけど、どうせ先生の様子を見ていて欲しいとか、そんなだったんでしょ。良いよ、分かってるから。
「さ。アヤネちゃんは仕事戻っちゃって。私、ここで先生に無茶苦茶にされてるから」
「どんな宣言ですか?!」
「うへー、良いよもう慣れちゃったから。もうこの際楽しむから、私」
「ホシノ先輩さっきからヤケになってませんか!?」
ヤケにもなるよ、もう。
だって後輩4人中3人に痴態見られて、最後の4人目にも見られるお膳立てが出来ちゃってるんだから。
もうこの際、自分から受け入れた方が楽だから、もう身を投げ出しちゃうもんねー。
うへへ、楽しみだなー♡
「ホ、ホシノ先輩が壊れちゃいました……っ!!」
「さあ、先生ー。キスする? お腹撫でる? 背中トントンする? 服で顔を塞ぐ? それとも新しい事する? うへへー、どれでも良いよー♡」
「なんですかそのリスト!? もしかしてやったんですか!? すでにそれを経験済みなんですか?!」
アヤネちゃんが何か言ってるけど、気にしない気にしない。
私はもうワクワクした気持ちで、先生からの刺激を今か今かと待っている。
どうせ、先生も覚えていないんだから、気にする必要は──
「“──誰?”」
──その先生の言葉に、私は血の気がサッと下がる音がした。
「先、生……?」
「あ、先生? 起きてますか……?」
……いや、先生はボーッとしたままではある。けれど、問題はそこじゃなかった。
今まで先生は、酔っ払っている最中、私のことを人間とは思っていなかった筈だ。桃と言ったり、まるでぬいぐるみの扱いのようだったり、もしくはよくて猫だったり……
でも今、はっきりと“誰”、と……つまり、“人”として認識していた。
「う、うへー……」
私は冷や汗がダラダラし始めていた。
今までは私は私として認識されていなかったから、心の余裕がどこかあった。
どうせ忘れ去られるからだろうと。
……けれど、この様子だとチョコレートのお酒だとあんまり酔い切れていないのかもしれない。
そしたら記憶が残ったり、この場に座っているのが私だと先生に気づかれてしまうかもしれない。
いつもの事だと、深く考えずに座ったのが裏目に出てしまった。
「せ、先生? 大丈夫ですかー……?」
「え、えーと……」
私は、ドキドキしながら先生の行動を待つ。
久しぶりに、先生の次の行動に限りなく不安になった状態だった。
このまま私は身動きせずに、このまま嵐をやり過ごすかのようにじっと待っていた。
「“──んー……”」
「──あっ♡」
そうして待っていると……先生が、”私の体を優しく抱きしめていた”。
今までのヌイグルミを抱きしめるような強めのギュッとした感触でなく、優しく、柔らかく触れるような強さで、温もりを感じてくるような強さで。
今までと違う形の抱きしめ方に、私の口から甘い声が漏れる。
「“──あー……”」
「──ふ、ぁっ♡」
すると次に、先生が私の“右手”を触って来ていた。
さっきまでヒヤヒヤして握り締めていたそれを、先生の大きな手で覆い隠すように優しくギュッと握られた。
……あ、何これ、今までにない柔らかい感じは……♡
いつもと違うような感触の伝わり方に戸惑いを感じていると、そのままもっと感触を感じたいと言いたいように、ニギニギと先生が私の握り拳を握っていた。
「──ああ、あー……♡♪」
なんか、凄く心地いい……
今までの強めの刺激……言って仕舞えば、性的な感触に近い刺激と違って、マッサージ機を受けているようなリラックスを感じて、背中の先生に重心を寄りかかっていた。
「う、うわあー……ホシノ先輩、気持ち良さそう……」
「うん、良い……これ、すごく良いよアヤネちゃん……」
私は今までにないくらい、安心した心地よさでアヤネちゃんにそう言った。
緊張とか、興奮とか、それとはかけ離れた心境のリラックス状態になれている。
このまま先生に身を預けていたい……そんなことを考えて──
──私はもう、本当にダメだったんだなって、後からそう思う結果となった。
☆★☆
……手なんかで性的な興奮を味わう事なんてない。
私は数十分前までそんなことを考えていた。常識的に、それは正しいと思う。
「──あっ♡♡」
──問題は、“その常識が壊されかけている点”だけど。
……手を触ってくる。
これは普通に考えると、手を握って来たり他人の手の上に重ねたりする行為を連想するだろう。
その程度だと、自分も相手もそれを性的な接触、だなんて思う事は普通はいない。
いや、異性間だと特別な意識する事もあるかもしれないけど……けどそれは、手を繋ぐという行為自体が、神聖視されているからだと思う。
「──ふっ♡ うぅ……♡」
……けど、先生のは違う。
先生のは、ただギュッと握ってくるわけじゃなくて。
──私の手の上を、サワサワと触ってくる。骨の形や、表面の皮膚、多少の産毛を感じとるように。
先生の5本の指先で、一つ一つ感触を確かめてくるように。
これが、気持ちいいというより、多少くすぐったい。
触れるか触れないかの力加減で、手の表面を撫でられているのだから、くすぐりと同じだ。
……ただ、そのくすぐったさが、くすぐったい以上に何か“別のもの”を貯めて来ているようで。
「──ふっ♡ ふっうぅ……♡」
──今度は、私の手をギュッと握り締めた。半開き状態だった私の手を、上から指と指の隙間を縫って絡めるように。
いわゆる、恋人繋ぎの状態の、片手が裏表逆の状態だ。
……その状態で、先生は指と指の間の感触を確かめるようにスーっと撫でていく。
何度も、何度も、何度も。
時には、指を絡めた状態でギュッと握りしめて、私の掌に当たった指先で、サワサワと撫でてくる。
「──ふうっ♡ ああぅ……♡」
──そして次には、私の手のひらをスーッと伝っていった。
私の手をパーの状態に開かせて、その向かい側から右手同士を合わせるようにして、軽い手触りで撫でていく。
時折、コシコシ、コシコシと何かを確かめるように撫でながら、指、手のひら、手首が撫でられる。
特に手のひらと、手首まで伝って行った時のくすぐったさが言いように感じがたい感触だった。
くすぐったさに近いそんな感触で、変な声が出てしまっていた。
「ああ、あ……感じない、筈なのに……♡♡」
……手なんて、性的な絶頂に一切関係ない場所だ。
使うにしても、女の子のアソコや胸を触ったりなど、自分で慰める時に使う動かす部分でしかなかった。
だから、これはただただくすぐったいだけの、性的にはなんの関係も無い動作の筈だ。
……なのに、この言い知れぬ刺激だけで、“分からない何かが貯まっていってる”……
「先生の、指の動きがはっきり分かっちゃうよお……♡♡」
──そう、人間の手は、神経が集中している部分でもある。
細かい段差や刺、小さなパーツや針の形など、触れているだけではっきり判別出来るほど繊細な部分でもある。
それを逆利用された。
先生は、この神経が集まっている部分を利用して、私に新たな性感帯を作り上げようとしている。
……そうしようとしてるとしか考えられなかった。
「やだ、やだやだやだ……♡ だってこれ、匂いよりおかしい、おかしいよ感じるなんて♡♡♡」
私は恐怖した。先生は、本当にいつも思いもよらぬ方向から私を責めてくる。
おかげで私の体は、あちこち変な状態に改造され続けている。
このままじゃ、私は、私自身の体が本当に人間なのかどうかすら疑わなくてはならない状態だった。
だってそれじゃあ、この体は自分のためじゃなくて、先生の為にあるように……
「────っ♡♡♡」
その思考に至ってしまって、変なゾクゾクした感触が響き渡ってしまう。
その恐ろしいような事実自体に、凄く興奮してしまって。
そんな動揺をしているうちに、先生に私の着ているワイシャツの、腕の先のボタンを外されてしまっていた。
「──あ、あ? まさか……♡」
そのまま袖を、腕まくり。
私の腕が、二の腕の半分あたりまで素肌を晒してしまっていた。
広い範囲を、先生に隠さず曝け出してしまっている状態。
「ま、待って先生……や、やあぁ──♡♡♡」
──私の腕を撫でられていく。手の指先から肘の上まで。面、裏と言った場所を全て満遍なく。
その際、サワサワとした柔らかい力加減をメインにくすぐったさとスーっと辿っていくような感触で、腕そのものに先生の指先からの感触を何度も染み込ませられていって。
ホシノの腕はこんな形なんだね、と調べられていくように。
「は♡ ああ♡ …………? 脈拍、測ってる……♡?」
──今度は、私の手首に優しく親指を触れていた。
脈拍を測る時にするような形で、私の血管の動きを調べているようだ。
……いつもなら、ただ脈を測られてるんだなって思たんだろうと思う。
けど、ここまで変な形で“溜まって来ている”私にとっては、先生に私の脈を調べられているという行為自体が、変な興奮につながってしまっている♡ ああ、本当に私おかしいや……
それだけじゃない。
時折、親指を強くグッと押すようにして、わざと血流を悪くさせてくる。
そのせいで、指先がちょっと冷えていくような感覚がして。
……先生の気分で、体を簡単に弄られちゃってるんだなあって実感しちゃって♡
親指を離されて指先に血が戻った時、呼吸が出来たような安心感が戻っちゃって♡
でも、刺激自体は少なめになってたから、ちょっと安心しちゃってたら……
チュッ♡ チュッ♡
「──ふあああっ♡♡♡ ああああっぁああっ♡♡♡」
──私の私の右腕が持ち上げられ、“先生にキスをされていた”。
手の甲、指先、手首、手のひら、腕、肘、二の腕。
順番に、一つずつ念入りにチュッチュッとキスを落とされていく。
王子様にキスをされていくようなそれに、乙女心がキュンキュン反応しちゃって♡♡
チューッ♡ チューッ♡
「ああ♡♡ ああ♡♡ あああぁああああっ♡♡♡」
また同じ箇所にそれぞれキスを落とされていく、かと思えば、今度は強めに吸っていかれていく♡
離れたところが鬱血して、赤い跡が付いていく♡ まるで先生のものってマーキングされていくように♡♡
私の腕、隅々まで、全部、全部♡ 先生のものになっちゃった♡♡
「ああ♡ ああ♡ 来る、来ちゃいそうなのに♡♡ ダメ、まだ足りない♡♡」
右腕だけで、不自然な快楽が“溜まっている”。
けれど、絶頂には至らない、至れない。
私はもう、腕だけで達することにおかしいなんて思わなくて、達せない事にもどかしく思って。
「先生、先生っ♡♡ お腹、お腹撫でて♡♡♡ そうすれば、来るから、達せるから♡♡」
私は必死で先生にお腹を撫でてとアピールする。
お腹を……子宮を押してもらえさえすれば、この“貯まったもの”は爆発出来る。そう確信していたから。
だから、早く、早くお腹触って♡♡
そうアピールしても、先生はお腹を触ろうとしない。
むしろ、よく見えないがジッと私の“左手”の方を見ているような気がしていた。
なんでそっちを見てるの? 早く、早くこの“貯まったもの”が抜け落ちる前に♡♡
そう先生に焦れていると、先生は私の左手を取って持ち上げた。
そっちはダメだよ、そっちは今まで触られてなかったから、刺激が弱いよ。
今左腕を同じようにサワサワ触られても、それはそれで十分気持ちいいだろうが、快楽の爆発までは行かないとそう思っていた。
だから、先生が左手に口を近づけても……
──チュッ
「──あ」
気付いたら、先生はキスしていた。私の左手に。
今までと同じ、手に対するマーキング。
……けれど、違うのは。マーキングして来たのは1箇所のみ。
位置が位置だから、上手く鬱血までは出来なかったらしい。
でも、そこは特別な場所で……
──そこは、私の“左手の薬指の根元”だった。
「──────っっっッッ♡♡♡♡♡♡」
その事実に気づいた瞬間、キュンキュンキュンって体中が縮こまる♡♡♡
乙女心が爆発して、“溜まっていた”ものに誘爆する♡♡♡
心だけで来る♡♡♡ 愛おしさだけで来ちゃう♡♡♡
体じゃなくて、心で達しちゃう♡♡♡
来るっ♡ 来るっ♡ 来るっっっ♡♡♡
「イッ──、────────────ッッッ♡♡♡♡♡」
────っ♡♡♡
……心の満足感が、半端じゃなかった。
もう、腕だけで達しちゃったなんて事実は、私の中で気にならない程だった。
「は、あ────♡ ああ────♡♡」
私は、この達成感に凄く満ち足りたように感じていた。
本当に、先生の、先生だけのものになっちゃったように。
こんなことで達しちゃうなんて、先生に開発された私くらいしか出来ないだろうと実感して。
「う、へ────♡ うへへぇ────♡♡」
私は、そういつもの口癖を、しかしとても甘ったるい声で出しながら。
悦びを余すことなく感受していると、再度先生の手が私の手に触れて来て──
☆★☆
「あ、あわ、あわわわわわわわ……っ」
私は、目の前の光景に動揺を隠せないでいました。
だって、ホシノ先輩が諦めるように先生の膝の上に座ったと思ったら、先生に手を触られ始めていましたから。
最初は、き、キスではなく手を触られてるんだなって思ってたんです。
……でも、だんだん触り方が、なんかその、見てて、い、いやらしく感じるなあって思えて来て。
その度に、ホシノ先輩が段々顔が赤くなって、呼吸も荒くなって来ていて。
「──ふうっ♡ ああぅ……♡」
流石に何かおかしい、と気づいた頃には、もうホシノ先輩は正気の声を出してるようには思えなくて。
──そしてとうとう、ホシノ先輩の腕に先生の口づけが落とされて。
「──ふあああっ♡♡♡ ああああっぁああっ♡♡♡」
「ああ、ああ……っ!!」
あ、あんなのおかしい、おかしいです!!
だって、手と腕にキスされて……お、王子様からのキスのような感じで、あんな嬌声を上げるなんて!!
だってあの光景は、どちらかというとメルヘンチックなのに、何故かドロドロとした欲情のような光景にしか見えなくなって来ちゃって……!
私の中の少女の乙女心が、変な風にグチャグチャになっていくように感じてしまって……!!
「先生、先生っ♡♡ お腹、お腹撫でて♡♡♡ そうすれば、来るから、達せるから♡♡」
「っっっ?!!」
ホ、ホシノ先輩何を……何をおっしゃっているんですか!?
わ、わかりません、ホシノ先輩が何を言ってるのか、全然分からないです!!
私にとって、意味の分からない光景がずっと続いていて……
──チュッ
「──あ」
「──あっ」
すると、先生はホシノ先輩の左手にもキスを落としていました。
男の人からの、優しいキス。それが、ホシノ先輩の、左手の、薬指に……
女の子なら、誰でも連想してしまう左手の薬指。それはつまり──
「──────っっっッッ♡♡♡♡♡♡」
「──あ、あ。ホシノ先輩、ダメ。待ってくださ……」
「イッ──、────────────ッッッ♡♡♡♡♡」
「あ、あ、あああ────────っ」
……私の制止も虚しく。ホシノ先輩は、遠く、遠くへ行ってしまいました。
「は、あ────♡ ああ────♡♡」
……ホシノ先輩は、凄く満ち足りたような顔をしています。
……先生に、連れて行かれて。
「せん、せい。ホシノ、先輩。ダメです、あれは、ダメですよ────」
私は、さっきの光景が目に焼きついて離れないでいた。
うわ言のように、さっきの場面を否定する言葉を吐き続けてしまっていた。
だって、さっきのあれは女の子なら誰でも憧れで。
女の子の理想の夢だけで、男の先生にいっぱいいっぱい可愛がって貰えて。
乙女心をすっごく、すっごく叶えられた甘い海の中で、そのまま先生に遠くへ連れ出して貰えた形で。
どこまでも、女の子の夢を果てしない理想の形で連れ出して貰えた形だ。
「──そんなの、ずるい、ですよ──」
私は、そんな言葉が口から漏れてしまっていました。
だって、そんなの見せられたら私も黙っていられない。
私の中の、乙女心すら無茶苦茶にされて、自分たちだけ遠くへ行けてるなんて不公平すぎる。
女の子の心を、ミキサーより酷い形でグチャグチャにした責任、とってくれるんですか?
「──そうです。ホシノ先輩は、ずるいです。いつもそうです、会議の時も居眠りなんかしちゃって……」
私はそう、不満の声を口に出していた。
今回の事に関係ない、普段から思っていたことも理由づけがわりに呟いて。
私がこれから、ホシノ先輩を無茶苦茶にしてもいいという免罪符を持って。
「だ、だから──わ、私もホシノ先輩を無茶苦茶にしちゃいます!!」
私はそう、心に誓った。
こうなったら、とことんまでホシノ先輩をグチャグチャにお仕置きしてあげようと。
無理やり先生と離すのではなく、先輩としての威厳なんて粉々になるくらいお仕置きしてあげようと。
そう思って、ホシノ先輩達にそーっと近づいて行った。
ホシノ先輩は、あー……♡ とぼーっとした声を上げていて、私に気づいていないようだった。
「ごくっ……そ、それでは。失礼します!!」
私はそう気合いを入れて、ホシノ先輩の右手を私の左手でギュッと握りました。
「や、やっちゃいました……!」
これでもう、私も後戻り出来ません。
さあ、これでこのままホシノ先輩の手をギュッギュッと握って、さっきみたいにしてあげます!
ほら、ぎゅっぎゅーっと……
「んー……? あー……」
「……なんでですかあっ!?」
それなのに、ホシノ先輩ったら全然反応してくれません!!
ギュッと握っても、特に一声漏らすだけで、全然喘いでくれたりしません!
なんでですか!? 私、すっごい覚悟を持って触ったんですよ!?
「わ、私が同性だからですか!? 先生じゃないからですか!? それとも、へたっぴなんですかあ!?」
そんな嘆きの声が湧き上がって来ます。
……ていうか、やっておいてなんですが、実際無理です。
なんですか、手と腕だけで遠くに行っちゃうって!? 普通無理ですよ!?
私自身、こうやってホシノ先輩の手を握っても何も感じませんもん!!
なんでホシノ先輩それだけで遠くに行けるんですか!? どれだけ先生に開発されちゃってるんですか!?
先生、さっきどれだけテクニシャンだったんですかあ!?
私はホシノ先輩の体のチョロさと、酔った先生の謎の技術に心底恐れました。
ヤバイです、到底真似出来ません……
「うう……これじゃあお仕置きになりません。どうしたら……」
何か、先生とのテクニックの差を埋められるような道具があれば……
って、そんな都合のいいものあるわけないですよね……
……いや、待ってください。
「確か、シャーレの在庫管理の際に……確かあれが」
そう思って、私はその場からちょっと離れて部屋の隅の段ボールをゴソゴソと探ります。
元々今日、シャーレの部屋の備品整理に来ていたため、ある程度ここにある品が分かります。
確かここに……
「──ありました!! “お肌を透明にするBBクリーム!!”」
私は目的のものを無事に見つけました。
先生が時折、生徒のみんなにプレゼントするものの中にこんなものがあることは知っていたので、シャーレに沢山在庫があることは知っていました。
本当は勝手に取ってっちゃいけないんですけど……すみません、後で新品買って来るので今はこれを使わせてください!
私は内心先生にそう謝りながら、ホシノ先輩達のところに戻って行った。
「さあ、ホシノ先輩プレゼントです。塗っていきますね」
そう言いながら、私はクリームを自分の手に気持ち多めに出して……その状態でホシノ先輩の手を触ります。
指と指を絡めるように、ギュッと。
「──ふわっ♡ ああぁ──っ♡」
「うわ、わ! す、凄いです♡」
さっきとは、明らかに違うホシノ先輩の声に、私は作戦が上手くいったと確信します。
それに、私自身こうしてクリーム越しに触れると、自分の手に何か言い知れぬ感覚があることを実感して来ました。
「うわあ、これは凄いです……♡ 私も、これはいやらしいって感じて来ちゃいます……♡」
これは、ホシノ先輩がよがるのも気持ちが分かるかも知れません。
こんな感触を、先生に限界まで押し上げられたなら、確かにさっきの状態になってもおかしくないって思えて来ました。
クリーム越しの、ヌルヌルの感触が、とてもいやらしいものに思えて来ちゃいました……♡
「ほ、ほーら。ホシノ先輩、右手だけじゃなく、左手もグチュグチュになりましょうねー」
「ああっ♡ わあ──っ♡♡」
グチュグチュ、グチュグチュと。私は自分の右手にもクリームをたくさん塗って、ホシノ先輩の左手もしっかり触っていきました。
ホシノ先輩の手を余すことなく、ぬちゃぬちゃと。
ああ、これ触っている私自身も少しおかしくなって来そうです……♡
「あ、そうです! 先生、先生にもクリームお裾分けいたしますね。はい、どうぞ♡」
そう言いながら、私は先生の両手にもそれぞれ大量のクリームを付着させる。
そして先生は、理解したようにそのクリームをホシノ先輩の手と腕に塗りたくっていきました。
「やあぁっ♡♡ ふぐうぅっ♡♡♡ ううウゥゥっ♡♡♡♡」
「あ、あ♡ すごい、凄い♡ ホシノ先輩、すっごく乱れています♡」
明らかにさっき以上に、ホシノ先輩は身悶え始めていました。
クリームでヌチュヌチュになったことで、より感覚が鋭敏になってしまったようです♡
そうです、ホシノ先輩、もっとよがってください♡
私がホシノ先輩の手のひらをツツーッと触っていると、先生はホシノ先輩の腕の方をツツーッと触っていました♡
私がホシノ先輩の指と指の間をグチュグチュにこすっていると、先生はホシノ先輩の手首から肘までギューっと軽く絞るようにこすっていました♡♡
私がホシノ先輩の腕を軽く触れない程度に伝っていると、その裏側を先生はくすぐるような力加減でツツーッと伝っていきました♡♡♡
まるで先生と息ぴったりのように、ホシノ先輩の手をめちゃくちゃにしていきました♡
「ンンンンんっ♡♡♡ あああああぁあぁ♡♡ やあああああぁあああっ♡♡♡」
「ああ♡♡ ああ♡♡ ホシノ先輩、すごい、凄いです♡♡」
ホシノ先輩が、先生の膝の上で凄く身じろいでいました。
でもダメです♡ もっともっと、さっきのように遠くに行くまで、止まりません♡♡
ああ、ホシノ先輩♡ 感覚的にもうちょっとですよね♡
でもどうしましょう、あと一歩が足りない状態です。
さっきみたいに先生に左手にキスしてもらうのは、クリーム塗れなので難しそうですし。
──そんなことを考えていると、先生が、“私の手と恋人”繋ぎしてくれました♡♡
「ふえっ♡♡ 先生っ♡♡」
「────”」
私がびっくりしていると、先生は無言でその状態でホシノ先輩の腕をそれぞれ挟んで行きました。
私の手と、先生の手で合わせて、ホシノ先輩の腕を塗りたくっていくように♡
あ、あ♡ これ激しい♡♡ 激しいです♡♡ ホシノ先輩の二の腕から、指先まで先生と一緒に恋人つなぎでめちゃくちゃにしちゃってます♡♡♡
「──ふあああっ♡♡♡ ああああっぁああっ♡♡♡」
「ホシノ先輩、来ちゃいます? 来ちゃいますか♡♡♡」
いいです、遠くへ行っちゃっていいんです♡♡♡
そのまま、そのまま♡♡ 行ってっ♡ 行ってっ♡♡ 行ってっ♡♡♡
「イッ──、────────────ッッッ♡♡♡♡♡」
「ああ──っ♡♡ すごい、ホシノ先輩本当に手だけで遠くへ行っちゃうんですねー♡」
凄い、凄い、凄い♡ ホシノ先輩凄い♡ 先生凄いです♡♡
こんなこと……こんなこと出来るなんて、思ってもいませんでした♡♡
あのホシノ先輩が、文字通り私の手で悶えているなんて、充足感が半端じゃないです♡♡♡
はぁ────っ♡ 心が、満たされていきます──っ♡♡
「う、うへ──♡ うへ、え────♡」
あ──、ホシノ先輩のヘイローが消えちゃいそうです。
私はホシノ先輩が気絶しそうなことに気づきました。
そうですね、ここまでしたら私は満足──
「…………」
えいっ
ヌリュんっ!!
「ふわあぁッ♡♡♡!?」
「ごめんなさい、ホシノ先輩。……やっぱり、まだやり足りません♡」
だって、“私は結局達していないんです”。
私は、ホシノ先輩と同じところに行けていないんです。
私は、乙女心の局地で遠くへ行けていないんです。
それを味わえているのは、ホシノ先輩だけです。
だから、やっぱりそれはずるいなあっと思って。
……その分、ホシノ先輩に味わって欲しくて♡
ほら、先生もまた手を動かし始めてくれました。
先生もまだ足りないよーって、思ってくれています♡
「ほーら、ホシノ先輩♡ まだまだ、終わりませんからねー♡」
「あーっ♡♡ あああーっっっ♡♡♡」
そうして私は、また先生と手を握って動かし始めて──
☆★☆
「──私はもう、やっぱりダメかもしれない」
「“アヤネ、ホシノ一体どうしたの? いつの間にかシャーレにいたと思ったら、ソファーでうつ伏せになって落ち込んでるようなんだけど?”」
「あ、あはは。なんでしょうね……」
やり過ぎた──
私はそう、後悔していました。
だってホシノ先輩、めっちゃよがるんですもの。
いつもの鬱憤を晴らしてくださいとばかりに、私の手で思うように声を上げてくれるんですよ。
あの一人で強さを持つホシノ先輩を、私の手だけでめちゃくちゃに出来るって凄く魅力的だったんです!! だからこれは仕方ないんです!!
か、代わりにホシノ先輩がすごく落ち込んじゃったのは申し訳ないですけど……け、けどいつもお昼寝するホシノ先輩も悪いんです!
私はそう、普段の行いからホシノ先輩に責任転嫁していました。
「“そ、そっか……じゃあ、まあそっとしておこうか……”」
「は、はい。そのほうがいいと思います」
「“それじゃあ、話は変わるけど。アヤネ、部屋の備品の在庫リストって作ってくれた?”」
「あ、はい! ここにまとめた資料があります!」
「“そっか、ありがとう。……ふむふむ、今日中に買っておいた方がいいものがいくつかあるね”」
私の渡したリストを見て、先生がじっと見つめてそう呟いていました。
そうですね。いくつかすぐに用意したほうがいい備品がありました。
「“ん〜。それじゃあ時間もあるし、今から買ってこようかな”」
「あ、私も付いていきます、じゃあ」
「……うへえ〜。じゃあ私も付いていくよ〜」
あ、ホシノ先輩が復活しました。
多少顔は赤いようですが、なんとか堪えているようです。
先生も多少不思議そうな顔をしていましたが、結局深く触れずに一緒に行くことになりました。
──そしてD.U.を歩いてしばらく経った頃。
「うへ〜、道混んじゃってるねー」
「“そうだね。ちょっと逸れちゃいそう”」
「まさか、こんなに人がいるなんて……」
もうすぐ夕方で、仕事帰りの人がたくさんいるようです。
そのせいで、道が結構混んでいました。
「逸れたら大変そうだー」
「“そうだね。アヤネ、ホシノ”」
「はい?」
「“──逸れたら困るから、手を繋ごうか”」
「──っ! は、はい!」
そう言ってくれて、私は先生と……
──起きている先生と、手をギュッと握りました。
「──んっ♡」
「“……アヤネ?”」
「うへー? アヤネちゃん……?」
……私は、先生の手からジワーッとした温かい感触を噛み締めていました。
恋人握りでもなく、クリームで染まってるわけでもない。
普通に握手をしただけの手なのに……何故かそれが、暖かく染み渡るような実感が伴って……
「……す、すみません! 大丈夫です!」
「“そ、そう? ならいいけど”」
「う、うへ〜……」
そうして、私は先生とまた一緒に歩き出しました。
その手から伝わってくる熱を深く感じながら。
「──はい! ありがとうございます!」
私はそう、深く感謝の意味を込めながら、そう言えました。
次回、エピローグです。
アビドス全員ですね。