赤に染まる町と、青い空の下で   作:アルミ缶

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空を覆う雲は、今日も柔らかい
始まりの日


 その少年には生まれた時から何もなかった。

 家も、言葉も、身分も、親も。

 誰もが持っているはずのものを、持っていなかった。

 

 故に、彼は一人で生きねばならなかった。

 

 汚水を啜り、地を這いずり回り、誰かに媚びて……人としての尊厳を失ってでも、彼は生き延びた。

 理由はわからないものの、生きねばならない、そう感じたから。

 

 そうして生き延びるうちに、彼の周りには仲間が集まっていた。

 同じような過去を持つ、親も何もない、生き残るために犯罪に手を染めるような。

 そんな仲間達が。

 

 だが彼には、そんな仲間達とは別に、もう一人……いや、()()

 仲間がいる。

 家族とも言えるような、誰にも見えない仲間。

 

 彼はそれを《立ち向かうもの(スタンド)》。

 そう呼んだ。

 

 

 


 

 

 

 2022年、アメリカ某州、某所、深夜。

 

 暗く街灯がぼんやりと照らす街の中。

 コソコソと動く影が四つほど存在していた。

 

 その影たちは明かりのつかない家の周りを少し彷徨いた後、裏へと回ってゆく。

 

 先頭を歩く影が小さな声で、後ろを歩く一つに聞いた。

 

「本当に今日は留守にしてるんだろうな。マイティ」

 

 黒い髪に黒い目、過酷な環境の中で作られた体とは対照的に、中性寄りのアジア人顔をした少年がそう聞いた。

 後ろを歩く緑に染めた髪を持つ男が小さな言葉と共に頷く。

 

「ああ、確かなツテからの情報だ。仕事でしばらく出ているらしい」

「家族は? こんなでかいとこ住んでるんだ。いるだろ、家族ぐらい」

「それが──」

 

 と、その言葉に口を挟んだのは、マイティと呼ばれた男の後ろを歩く金髪の男。

 

「逃げられたんだとさ。仕事ばかりで家族を疎かにしたせいでよう」

「そうかよ、ジャック。そりゃあ贅沢なこった。いるだけマシってもんなのによ」

「そう言うなジョジョ。持ってるやつにしかわからない悩みってやつがあるんだろうさ」

 

 黒髪の少年をジョジョと呼ぶ、後ろを歩く赤髪の少年、クリスがそう言い放つ。

 

 この四人は空き巣だった。

 しかし彼らは享楽や度胸試しで空き巣をやっているわけではない。

 生き残るため、生き延びるために空き巣をやっていた。

 

 まともな身分を持たない彼らは、こうでもしないと生きることができなかかったためである。

 

 今日はある情報をもとに、家主が留守にしている家にやってきていた。

 当然、空き巣をするために。

 

「それで。どっから入るんだ?」

 

 ジョジョの問いに答えたのはマイティだった。

 

「裏からに決まってるだろ。裏口だ」

「鍵がかかってる」

「そこはほら、お前の鍵開けだ」

「……ま、そうなるか」

 

 そして裏口に。

 ガチャガチャとドアを動かしてみるが、やはり動くことはない。

 ジャックはジョジョに、任せた、とドアの前を譲る。

 

「お前ら周り見てろ。一瞬で終わるが、誰か見られたら面倒だ」

「へいへい」

 

 他の三人が後ろに視線を向ける。

 

 ジョジョはドアの前に立つと、軽くノックしてみる。

 この行動に特に意味はない。

 が、他の三人から作業を()()()()()()()()見せるための行動で、必須というわけではないが、彼は毎回これをしていた。

 

 少しドアに触れた後、彼は少し深呼吸をして腕をドアに向け小さく呟いた。

 

「行くぞ。『アストラル・ウィークス』」

 

 その言葉と同時に、他の三人には知覚できない、人型のヴィジョンが彼の後ろから姿を表す。

 そのヴィジョンはジョジョの手に重ねるようにドアに触れると、その瞬間ガチャッという音ともに鍵が解除される。

 

「開いたぞ」

「流石だな。ジョジョ」

 

 クリスがジョジョの背中を叩いて先行し、それに続くように他の二人も入って行く。

 ジョジョも少し遅れて家の中に。

 

 中は誰もいないのあって、薄暗く少し見えにくい。

 だが、あっ、とジャックが声を上げた。

 その言葉に反応を返したのはマイティだった。

 

「どうした?」

「おい。こりゃ先客がいるぜ」

「なに?」

「ちとわかりづらいが荒らしたような跡がある。時間からして……まだいる可能性があるぞ」

 

 と、キッチンを少し触れながらジャックが答える。

 その言葉に他の三人には顔を見合わせ頷くと、それぞれ音を出さないように警戒を始めた。

 

 そんな中、ジョジョは仲間に向けて上を指差す。

 それは『上へ向かう』という簡易的な合図で、ジョジョの癖のようなものだった。

 

 彼は常に上を気にする。

 それは生まれついてのもので、どうにも上を気にせずにはいられなかったからだ。

 故に、空き巣をするときは必ず上の階から調べていた。

 

 他の三人はジョジョの合図に頷き、ジョジョは二階へと向かって行った。

 

 廊下を出て階段へ。

 まだ真新しい階段は音を立てず、静寂を保ったままだ。

 

 二階の廊下に辿り着くと、そこは暗く静かだった。

 気配はないが、埃の跡から廊下の置物が微妙に動いていることが判明。

 ジョジョはなんとなく、二階に誰がいるのだろう、そう思って背後に『それ』を出す。

 

『それ』は彼が生まれついての『友人』のようなもの。

 精神が形を持ったヴィジョン。

 彼は『それ』を『スタンド』と呼び、名前をつけていた。

 

『アストラル・ウィークス』と。

 

 さらに二階の奥へと進んで行くと、一つの部屋が微妙に開いていることに気づく。

 不審に思ったジョジョは音を立てないように、ゆっくりとドアに近づいて軽く覗き込む。

 

 見た限りでは誰もいない。

 タンスや棚がないところを見るに、隠れられそうな場所もない。

 

(……いないか)

 

 そうしてドアを開けて中に入った、その瞬間だった。

 足を前に進めた瞬間、ドアが勢いよく音を立てて閉まる。

 

 振り返った瞬間、眼前に迫っていたのは()だった。

 

「『アストラル──ぅぐぉあッ!!?」

 

 スタンドを出す間も無く、その拳が顔面に突き刺さる。

 振り抜かれた拳と共にジョジョの体は後ろへ大きく飛んで行く。

 壁際にあった机に突っ込み破壊したが、ダメージは顔面だけで体の方はほとんど無傷だった。

 

「だ、誰だ……!?」

 

 破壊された机の一部を掴みながら立ち上がる。

 

 暗い部屋の中、突然の襲撃に対応すべく構え、目の前にいるであろう敵を見る。

 

「あなた、何者?」

 

 そう言った声は少女のものだった。

 一瞬驚きつつも、ジョジョは同じような空き巣か、と考え答える。

 

「同業者だ。テメェと同じ空き巣だよ」

「家主じゃない? ……まだ帰ってきない、ってこと?」

「今日は帰ってこねぇよ。それよりもテメェ、どこにいた?」

 

 顔も見れない暗闇の中、薄らと見える少女は指を上に向け答えた。

 

「……天井。張り付いてた」

「なにィ? 蛙じゃあるまいし、そんなことできるわけねぇだろ」

「少なくとも()()()はできる」

「たち。だと? 仲間がいるのか」

「……いるけど、いない。普通の人には見えないから」

 

 普通の人には見えない、それに思い当たるものがあった。

 それは彼も持つものだった。

 

「まさかお前も──「そんなことより」」

 

 それを聞こうとした瞬間、少女は言葉を遮る。

 その時、ジョジョは気づいた。

 少女が少し焦っているような様子に。

 

「家主は来ないの?」

「だから帰ってこないって……」

()()。そっちじゃない」

「それってどういう……」

 

 会話の意図が掴めず、詳しい話を聞こうとした時だった。

 

 突然、下の方から何かを倒すよな物音がする。

 そこは仲間たちがいる場所だった。

 

「ん……? どうしたんだ……?」

「来てる……奴が、来てる……」

 

 少女の言葉に焦りが増す。

 ジョジョはそんな暗闇に見えない少女を無視して、仲間たちのことを確かめるべく下に向かうのだった。

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