だぜ娘奮闘記!   作:元掃除道具

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その6 vsレミリア

紅霧は晴れず、時間は進む。

霧で満月が真っ赤に映えて一層夜の不気味な雰囲気を醸し出している。

 

「なにかしら、とても嫌な感じがする……」

 

博麗の巫女がテラスから外の月を見上げて感じたものは、この異変の事ではない。

 

「魔理沙……?」

 

遠くで悲鳴が聞こえた気がした。

実際には何も聞こえないのだが、霊夢には聞こえた。

それは親しい友人のもので、今一番頭を悩ませている事でもある。

この悪魔の館に乗り込んでいるのが霊夢一人なら、霊夢はこのように焦ることはなかった。

しかし陰陽玉による追跡と、直前のメイド長の証言。

魔理沙はまだ来ないだろうが、かなり近くまで来ている事は確かだろう。

 

「さっさと出てきなさいよ、異変の主」

 

「あら、せっかちな人間ね」

 

テラスから見える月にかかる、蝙蝠に似た翼をもつ異形。

間違いなくこれまでとは一線を画す存在感。

最強の吸血鬼、レミリア・スカーレットの姿がそこにあった。

 

「迷惑なのよ、あんたが」

 

「短絡ね。理由がわからないわ」

 

「あなたをぶちのめしてこの紅霧を止める。そしたらあいつも大人しく帰るからね」

 

「あら、博麗の巫女もあの霧雨魔理沙って魔法使いにご執心?」

 

「……なんで魔理沙の名前を知ってるのよ」

 

「さあ? なんでかしら」

 

クスクスと口元に手を当てて笑うその姿は、見た目の幼さと相まって愛らしい。

しかし霊夢がその姿から感じたのは、少しのおぞましさと多量の不快感だった。

 

「あんた、魔理沙のストーカー?」

 

「な、なんでそうなるのよ!」

 

ガクッとレミリアが脱力したようにテラスの上に落ち、霊夢はそれを冷たい目で眺めた。

 

「あの子、変に人気あるから」

 

「ちがうっ! 私の能力で知ったのよ! 私の『運命を操る程度の能力』で、咲夜越しに覗いた事があるだけよ!」

 

「へー、そう」

 

「し、信じてないわね! 殺すわよ!」

 

平易な声で、ちっとも信じていなさそうな様子の霊夢に、レミリアは両手を振り上げて吠えた。

その様にさっきまでの威厳はなく、見た目の幼い女の子が必死に強がっているようにしか見えない。

 

「できるのかしら? 蝙蝠の妖怪?」

 

しかし、博麗の巫女は容赦しない。

そのレミリアの様子を見ても臨戦態勢を解くことはなく、その手にお札を取り出して構えた。

 

「違う! 私は偉大な吸血鬼ヴラドの末裔、レミリア・スカーレット!」

 

対してレミリアも威厳を取り戻そうと躍起になり、その手に魔力を集めだす。

 

「そう。興味ないわ」

 

「っ! もう! 可愛げのない人間ね!」

 

紅霧異変の終わりを告げる、最後の戦いはこうして幕を開けた。

 

 

「マリサ?」

 

「うーん、微妙に発音が違うんだよな。魔理沙、だ」

 

「魔理沙!」

 

「そうそう!」

 

幻想郷の言語って不思議だ。

明らかに異国から来た紅魔勢が、普通に日本語喋ってるんだから。

多分、博麗大結界に言語の共通化魔法でもかけられているのか、共通の言語っていう概念が幻想入りしているのか。

はっきりした事は霊夢でもわからないと思うから、私にもわからない。

言語が共通でも、ある程度の差異が生まれる。

だからパチュリー達は、私の名前を呼ぶ時ちょっと変だ。

今はフランが私の呼び方をマスターするために、繰り返し練習している。

 

「魔理沙、魔理沙、魔理沙!」

 

「うん、もう完璧だなフランは」

 

「えへへ。魔理沙、魔理沙、魔理沙!」

 

「もういいって」

 

嬉しそうに私の名前を何度も呼び、くるくると私の周りを飛ぶフラン。

羽の石がきらきらしてて綺麗。

 

「魔理沙の髪ってふわふわ!」

 

「だああ! 髪をぐしゃぐしゃするな!」

 

「魔理沙、暖かい!」

 

「わ、箒に乗ってる時に抱きつくなって!」

 

「魔理沙、魔理沙、魔理沙!」

 

「もうっ! 落ち着けフラン!」

 

さっきからベタベタと私にくっ付き、終始笑顔のフラン。

今までの孤独の反動だろうか。

そう思うと、言葉では拒否しつつあまり強く拒めない。

だからもっとフランはギューっと抱きついてきて、ますます私は箒の上でアワアワする。

 

「そろそろ離してくれないか?」

 

「なんで!?」

 

「ちょっと行きたい所があるんだよ」

 

予想外のトラブルに見舞われたが、まだ異変の最中だ。

上からは未だに、霊夢が暴れている破壊音が響いている。

 

「私も! 私も外行きたい!」

 

「おい、人の話はちゃんと聞くもんだぜ」

 

「でもお姉さまが許してくれないだろうなぁ」

 

うーん、と額に手をあてて悩むフラン。

極度の興奮状態の為か、こちらの言っていることの半分しか聞いてくれない。

 

「あのな、私はこの館の主に用事があるんだよ」

 

「お姉さまに? どうして?」

 

「そのお姉さまが異変を起こしてるから、懲らしめてやるのさ」

 

「へー」

 

フランはなにやらコクコクと頷き、にっこり笑って言った。

 

「うん! お姉さまを倒しちゃえば、私も外にいけるもんね! さすが魔理沙!」

 

どうやら、やっぱり話を聞いていないみたいだ。

 

「そうと決まれば急いで行こう!」

 

「あのなあフラン、ちょっとまっ……!」

 

がしっと腕を掴まれ、急発進。思わず悲鳴を上げそうになる。

ちょっ! 速い!!

あっという間に階段を飛び上り、次の階段ホールへ。

天狗程ではないが、私なんかよりずっと速く飛べるフランに引っ張られ、軽く意識が遠のいた。

 

「ちょっ、まっ!」

 

「あ! 外から行った方が速いよね! 壁壊しちゃおっか! キュッとしてドカーン!」

 

「う、うわあああ!」

 

壁が崩壊し、外を見れば紅い霧に包まれた大きな満月を背に戦う影2つ。

おそらく霊夢とレミリアだろう。

 

「う、うわ!」

 

「え、なに?」

 

壁の崩壊で飛んできた破片が、箒にぶつかってバランスを崩す。

思わずフランにしがみついて、支えてもらいながら体勢を立て直そうとする。

でも箒に魔力を込めても浮かべなくて、ついに地面に降り立ってしまった。

箒を見てみると、飛んできた瓦礫によって先端が割れていたようだ。

中ほどに亀裂も入っていて、むしろ今までよく飛べていたなという様子。

 

「ほ、箒壊れた……」

 

「え! ご、ごめんね魔理沙……」

 

「い、いや! でも、どうしよう……」

 

長年使っていた相棒だったので、思い入れもあるのだが、フランの悲しそうな顔を見ると何も言えない。

原作魔理沙は箒がなくても飛べるようだったが、私は箒がないと飛べないし。

本当に、箒を使った飛び方しか知らないのだ。

だから、飛びながら戦う弾幕ごっこに参加する事はもうできない。

家に帰ればスペアの箒があるけど、今から取りに戻ったら終わってしまう。

どうしよう……。

 

「そ、そうか。魔理沙は箒ないと飛べないんだね」

 

「う、うん。どうしよう、霊夢のとこまでいけないよ」

 

思わず弱気になってしまい、視界がじわっと滲んだ。

せっかくここまで来れたのに。チルノやルーミアの協力も、このままでは無駄に終わってしまう。

 

「……!」

 

フランは私の顔を見た途端にのけ反って、壁の方を向いて深呼吸しはじめた。

突然泣きそうになってる私をみて、動揺したんだろうか。

 

「か、かわいい……! この感じは何……?」

 

壁を向いてぶつぶつと何か呟いているフラン。

妖怪でもない私には何も聞きとれないけど、小刻みに震えていた。

罪の意識を感じているのだろうか。

しかし、もうあの箒は寿命だったんだろう。今までよく堪えてくれた。

そっと、割れた箒の欠片を手に取り、ポケットに入れる。

きちんと弔ってやるからな。

 

「魔理沙! 良いこと考えた!」

 

「ん?」

 

振り向くと、フランドールが頬を染めて興奮した様子で詰め寄って来る。

 

「私が魔理沙を連れてくよ!」

 

 

「天罰『スターオブダビデ』!」

 

「よっ、と!」

 

当たらない! ええい、博麗の巫女は化け物か!

さっきからこちらの弾幕は巫女に掠るだけで、少しも被弾する気配を見せなかった。

テラスから始まった弾幕ごっこは、気づけば館の中庭に移っていた。

 

「よっ、はっ!」

 

「っく!」

 

それに対して巫女の撃つ弾幕は、しつこく私を追尾してきて何発も何発も喰らわせてくる。

一撃一撃の威力は大したことないがないけど、少しずつダメージが蓄積されてかなり痛い。

スペルカードを使ったのに、やっぱり巫女には当たらない。

 

「っく、なんて出鱈目な回避!」

 

「あんたも、結構出鱈目な弾幕じゃない」

 

「一発も当たってないのに、よく言う!」

 

博麗の巫女の能力は何なのか、予想もつかないが、私の『運命を操る程度の能力』に全く干渉されない。

運命を手繰り寄せようと集中する時間を与えられないし、最初の会話中に軽く探ったが、まるで雲をつかむようにふわふわとしており困難だった。

すべてから宙に浮いている、まるで無重力のような感じ。

 

「っぐ!」

 

巫女の針が私の翼を貫き、ふらついた所に無数の弾幕。

弾幕ごっこの経験が、全く違う。私よりもずっと経験を積んでいるのだろう、戦い方がとても上手い。

一旦蝙蝠になって避け、また違う場所に現れる。

 

「さすが異変の主ね。今までで一番強いじゃない」

 

「っち……!」

 

まるで赤子の手を捻るような、一方的な戦いじゃないか!

吸血鬼としてのプライドが、酷く傷つけられた。

これが博麗の巫女か。

 

「本当に人間? 化け物よりも化け物染みた強さね」

 

「化け物に褒められても嬉しくないわね」

 

会話をする気があまりないのか、早々に話を切り上げて再度弾幕を放ってくる巫女。

その姿からは、全く消耗している様子が見られない。

館に着く前だけでも随分と戦っているだろうに。

そして館に着いてからは、美鈴、咲夜、紅魔館中の妖精メイドと罠の全てを相手にしているのに。

 

「冥符『紅色の冥界』!」

 

正直、博麗の巫女をナメていた。

異変解決の請負人だとか、妖怪と人間の調停者だとか、そういった話が付きまとう『幻想郷最強の人間』という巫女。

ちょっと試すだけのつもりが、こんなに追いつめられるなんて。

 

「ほっ、よっと」

 

やはり避けられる。当たらない。

 

「これは、遊んでる場合じゃないわね……!」

 

「負けた時の言い訳? 残念ね、吸血鬼」

 

「ふんっ。良いだろう、ここからは本気だ」

 

「最初から本気でかかってきなさいよ、面倒くさいわね」

 

「……こんなに月も紅いから」

 

一度巫女から視線を外し、中天にかかる月を見上げる。

そして巫女を睨みつけ、体中の魔力を活性化させた。

 

「本気で殺すわよ」

 

「……こんなに月も紅いのに」

 

巫女も手に持つ札を握りしめ、霊力を高める。

 

「楽しい夜になりそうね」

 

私はニィっと、久々に心からの笑みを浮かべた。

 

「永い夜になりそうね」

 

巫女のその顔は無表情で、私からは何も伺い知れない。

 

「あ、お姉さまだ!」

 

突然館の方から聞こえてきた大きな声。

その邪気のない声により、私たちの戦意は霧散した。

 

「な、フラン!」

 

あ、あれ!? なんであの子外に出てるの!?

パチェは!? パチェの封印は!?

 

「あ、ま、魔理沙!?」

 

横から聞こえてきた声に巫女の方を窺い見れば、私の方からは見えないが、フランの後ろを見て酷くうろたえている。

こいつ、こんなに人間らしい表情できたのか。

そのフランの後ろに何があるのか、だんだん近づいてくるフランに注視してみると見えてきた。

 

「……あ!」

 

フランの背に背負われている、小柄な影。

フランと同じ、いや僅かにくすんだブロンドの髪。

白いドレスシャツに、黒いエプロンスカートを身に付けた、西洋の魔女のような姿。

血色があまり良くなくて白い清らかな肌に、閉じられた瞳の長い睫毛。

まだ幼い少女のような容姿をしていて、身長もフランとそう変わらないように見える。

今までに通ってきた激戦を物語るように、その姿は埃まみれだった。

……なぜだろう、心がドキッと高鳴った。

 

「……あれが霧雨魔理沙か」

 

努めて冷静に声を出す。

咲夜の運命を通して見た存在。

実際にこの目で見るのは初めてだが、普通の人間とはやはり違うみたいだ。

なぜだろう、ずっと見ていたいような、気恥かしいような。

500年生きてきて、私がこんな風に影響される人間は初めてだ。

ドキドキと胸がうるさい。

 

「って、それよりなんで外に出てるのよフラーン!!」

 

「そこの巫女が暴れてる時に、少し扉が歪んで開いたの」

 

暴れすぎ! 地下まで衝撃が抜けていたのか。

 

「あんた、魔理沙に何したのっ!」

 

その巫女はフランの後ろの霧雨魔理沙の様子を窺いながら、先ほどよりも一層力を高めている。

大気が揺れ、ごごごご、と音を立てている錯覚が見えた。

サ―っと背筋が冷える。正体不明の悪寒が駆け廻り、原因不明の汗が噴き出た。

あ、あれ? この感覚はなに? まさか、恐怖?

私が、吸血鬼のレミリア・スカーレットが、人間に!?

 

「お、おぉ……。その声は、霊夢か?」

 

と、その時目を瞑っていた霧雨魔理沙が目を開けた。

顔色が悪い。フランにギュッとしがみ付いてる様子から、高いところが怖いのかもしれない。

……かわいい。

あれ、いま私は何を思った!?

 

「魔理沙! 無事!?」

 

「……ああ、なんともないぜ」

 

巫女が焦りながら声をかけ、霧雨魔理沙が震えながら答える。

さっきから霧雨魔理沙の声を聞くだけで、私の心臓がドキドキとうるさい。

なんなんだ、これは。変な魔法でも掛けられたのだろうか。

 

「どうしてそうなってんの?」

 

「あ、あのな……。箒が壊れてな……」

 

「私が魔理沙の箒代わりに飛んでるの!」

 

「ああ。……箒以外で飛ぶなんて初めてだし、フランがスピード出し過ぎてて……具合が悪くなったんだ」

 

「ええ!? ごめんね魔理沙!」

 

「い、いや気にしないでくれ。慣れてない私が悪い」

 

「仮にも魔法使いが、その様でどうするの」

 

「うう、言い返すことができないぜ……!」

 

「違うよ、魔理沙は悪くない! 私がはしゃいだだけだもん!」

 

「うるさい、あんたには言ってない!」

 

「れ、霊夢。落ち着いてくれ……」

 

「むう、アンタって名前じゃないよ? 私はフランドール・スカーレット!」

 

驚いた。フランから狂気が感じられない。

フランは情緒が不安定で、その能力の危険性から幽閉していたのに。

何度もあの地下の部屋でフランと会話したが、こんなにハッキリとした受け答えは一回もできなかったのに。

フランに一体、何が起こったのか。

パチェだけでなく、フランにも良い影響があるとは。

様々な期待と希望感から、思わず目が潤む。

 

「スカーレットって、異変の首謀者と同じ家名じゃない」

 

「うん。お姉さまが異変を起こしたんだけどね、魔理沙が異変を解決したいって言うから一緒に戦うの!」

 

え!?

驚いて思わずフランを見る。

フランはニコニコと笑いながら、片手で背の霧雨魔理沙を支え、もう片方の手で変わった形の杖をびゅんびゅん振り回している。

あれれ、なんだか雲行きが怪しい。

 

「だから、一緒に戦おうよ!」

 

「はあ。……わかったわよ」

 

巫女はフランに危険性がないと判断したのか、一つため息をつくとフランに向けていた警戒を再び私に向けた。

フランはにっこりと笑うと、大きく頷いて私に向かい合う。

 

「魔理沙。異変終わったら話があるわ」

 

「うーん、あの、霊夢?」

 

「お姉さま、覚悟して」

 

え、ええ!?

気づけば周りは敵だらけ。私は同じ吸血鬼の妹と、恐ろしい人間の巫女を同時に相手にしなくてはいけなくなった。

……これは無理よ!

とんでもなく絶望的な戦いが、幕を開けようとしていた。

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ!」

 

そして、その私を救ったのが霧雨魔理沙だった。

 

 

いやいや! ダメだって!

この2人なら間違いなくレミリアを倒せるだろうけど、私が来た意味なくなっちゃうじゃん!

何のために来たって、そりゃレミリアと弾幕ごっこして、できれば勝つことなんだけど!

 

「2人とも、一旦落ち着いてくれ!」

 

「なによ」

 

「どうしたの?」

 

私の出番なくなっちゃうから!

なんて言えるわけもなく、声をかけたは良いが、何も言えなくなってしまう。

 

「……なんなの?」

 

霊夢が怪訝そうに私を見て、フランも振り返りながら首を傾げた。

 

「えっと……だ、ダメだ!」

 

「なにが?」

 

「魔理沙、どうしたの?」

 

「とにかく、2人ともダメだ!」

 

「だから、なにがダメなの?」

 

「どうしたのよ魔理沙」

 

「そ……そいつには手を出させないぜ!」

 

「……は?」

 

「……え?」

 

「……っ!」

 

三者三様、様々なリアクションがあった。

言った本人の自分が一番混乱しているけど。

 

「ちょっと、何言ってるのよ魔理沙!」

 

まず食ってかかってきたのは霊夢。

目がつり上がっており、はっきりと怒りの表情。

 

「そうだよ、さっきと言ってる事違うよ!」

 

次にフラン。

こっちは眉を下げたかなり困惑の表情。

 

「え……?」

 

そしてレミリア。

なぜが頬を赤く染めて、指を絡めて胸の前に組んでいる。

目は恐怖からか潤んでいて、その姿から吸血鬼の威厳は感じられない。

 

「えーっと、その……」

 

ぐるぐると頭の中で言い訳を考える。

 

「どういうことなの魔理沙!」

 

「どうしたの魔理沙?」

 

ぐるぐるぐるぐる。

 

「魔理沙!」

 

「魔理沙」

 

う、うわーん!

 

「う、うるさい! もうしらない!」

 

言って、フランの背からポンっと飛び降りる。

あ。

 

「あ」

 

「え?」

 

「ん?」

 

「まっ、魔理沙!」

 

上から、私、レミリア、フラン、霊夢。

きょとんとした顔のフランに、目を見開いて固まっている霊夢。

そして私は飛べないんだった。落ちる。

 

「ぎゃわああ!」

 

咄嗟にフランが手を伸ばすが、僅かに間に合わない。

後ろ向きのフランの手が、私のいない空間を必死に掴む。

 

「ま、魔理沙!?」

 

「バカ! なにしてんのよ!」

 

振り返ったフランが、こっちに飛んでくる。

既に霊夢も飛んで来ていて、私に手を伸ばす。

私も手を伸ばして掴もうとするけど、振り返ったフランと霊夢が空中でぶつかってしまう。

 

「あいた!」

 

「ちょっ!」

 

ヒューッと、重力に引かれて2人から離れていく。

お、落ちる!!

私は一体何をしているんだ!?

箒がなくて飛べないからフランの背に乗っていたのに、いつも飛んでいて感覚がマヒしていたのか?

空を飛べるようになって、特別になった気がしていたけど、やっぱり私はただの人間で、箒がなければ飛ぶこともできない。

本物の『霧雨魔理沙』なら、こんな風に落ちる事なんてないだろうし、あの2人を説得する事もできるんだろうか。

所詮は偽物の私が、必死になって模倣しても、なんにもできなかった。

 

「っ!」

 

「わっぷ!」

 

と、背に軽い衝撃があり、ゆるりと減速してまた宙に浮く。

何かと思って目を開ければ、真っ赤な瞳と目が合った。

 

「……」

 

「……」

 

互いに無言。

レミリアが私の首と膝の後ろに手を入れて持ち上げている状態で、顔がとても近く向き合っている。

 

「あ、ありがとう……」

 

直前までの行動と思考が思い返されて、すっごい恥ずかしい!

穴があったら入りたい!

こんな状態ではままならないので、せめて顔を両手で覆う。

うう、顔が熱いぜ……。

チラッと指の隙間からレミリアを伺えば、ジッとこちらを見ながら頬を赤く染めていた。

 

「……」

 

「……」

 

なんとなく、互いに無言になってしまう。

 

「魔理沙! 無事?」

 

「お姉さまずるい! 離れて!!」

 

私から姿は見えないが、霊夢とフランの声が聞こえてきた。

 

「お、おう……。なあ、なんで助けてくれたんだ?」

 

問いかけると、レミリアはボーっと熱にうかれたような表情で口を開いた。

 

「……私はレミリア・スカーレット。好きに呼んでいいわよ」

 

「あ、ああ。レミリア? 私は」

 

「知ってるわ、霧雨魔理沙でしょう? 魔理沙って呼ぶわね」

 

なんだろう。レミリアの目がとっても怖い。

 

「ねえ魔理沙」

 

「う、うん?」

 

「私のモノにならない?」

 

なにをいってるんだこのきゅうけつき。

首にまわされた腕に力を入れられて、どんどんと顔が近づく。

私には何がなんだかわからず、なにも考えられない。

頭が真っ白で、レミリアの顔が近づいてくるのをボーっと見ているしかできなかった。

 

「離れろこのエロ妖怪!」

 

「ごっふっ!!」

 

レミリアの頭が、霊夢にボールみたいに蹴られて私の視界から消えた。

私は気づけば霊夢に抱きかかえられている。はるか下の地面で、ブワッと土煙が舞ったのが見えた。

う、うわぁ……。

 

「魔理沙、大丈夫!? お姉さまに変な事されてない!?」

 

フランも飛び寄ってきて、私の顔をぺたぺたと片手で触る。

安心したようにほっと息をついているけど、反対側の手に握られた杖が、尋常でない魔力で炎を纏っている。

 

「あ、あははは」

 

レミリアは大丈夫だろうか。

 

「ごめんね、ちょっとお姉さまに話してくるから、後でね」

 

にっこりと笑顔で言うけれど、その笑顔とは裏腹に、さっきまで感じられなかった禍々しい魔力。

下の方では、浮かんできたレミリアが顔を青ざめてその姿に背を向けた。

 

「どこに行くのお姉さま! 禁弾『カタディオプトリック』!」

 

「ちょっ、待ってフラン!」

 

「あはは! 禁忌『レーヴァテイン』」

 

「ちょ! 落ち着いて! あれは本能的な行動で……!」

 

「絶対に逃がさナイ! 禁弾『スターボウブレイク』」

 

「きょ、狂気が! 狂気が戻ってる!?」

 

「秘弾『そして誰もいなくなるか?』」

 

「ふ、フラーン!」

 

恐ろしい姉妹対決だった。いや、妹による一方的な虐殺だった。

私自身は霊夢にしがみ付いている安心感からか、全く恐怖を感じなかったけれど。

結局、原作を最悪の形にしてしまったのではないだろうか。

大筋の流れは変わっていないハズだけど、これが後にどう影響してくるのか。

 

「……まあ、いいか」

 

今は考えたくない。

霊夢に抱かれながら、霊夢の鼓動と体温を感じて安心してくる。

疲れがどっと溢れて来た。瞼が重い。

霊夢がちょっと厳しい顔で、私に問いかけてくる。

 

「魔理沙……。なんで異変解決なんてしようと思ったのよ」

 

「んー?」

 

頭がぼーっとしてくる。

眠たい。

霊夢にもっとしがみつく。

 

「そりゃあ、心配だったからな」

 

原作通りじゃない私が影響を与えていて、変化しちゃったんじゃないかと思って。

 

「心配?」

 

「うん。霊夢が怪我したらいやだし」

 

異変の解決で、怪我をすることはあるだろうけど。

『霧雨魔理沙』が違う事で、余計な傷を負う可能性だってあったわけで。

 

「紅霧で人里の人が倒れるのも嫌だし」

 

実際に紅霧を見て、考えてたよりずっと規模が大きいと思った。

原作では紅霧の影響は、具合が悪くなる程度で済んだハズだ。

まだ人里の様子を見ていないので、どうなったのかはわからないけど。

 

「……あと、この異変を起こした人を見たかった」

 

レミリアが犯人じゃない可能性っていうのも、考えられたからな。

 

「それで、仲良くなりたかったんだぜ」

 

「なにと?」

 

「レミリアたちと」

 

幻想郷のパワーバランスの一角を担う、っていうのと、月に行くロケットの事あるし。

あと、好きだからな、紅魔勢。

 

「会って、話して、仲良くなって、宴会して」

 

それで異変は終了ってのが流れ。それが変わっちゃうのが怖い。

 

「私も、この幻想郷の一人なんだって、実感したかったんだ」

 

たとえ偽物でも、幻想郷に魔理沙はいるんだ。それを示したかった。

 

「バカね、あんたは。……本当に」

 

「あー……眠たくてあんまり考えられないぜ」

 

「寝ちゃいなさい。よくここまで来れたわね。すごいわ」

 

「えへへ、だって私は霊夢のライバルだからな」

 

ふふ、っと笑ってくれた気がした。

 

「そうね、まったく。敵わないわ」

 

そのまま私は目を瞑り、まどろみに意識を落として行った。

起きたらきっと筋肉痛だ。

 

 




* * *

恋色魔法使いの本領発揮。
このあと、EX(後日談的なもの)がありますが、とりあえず紅魔郷編、終わりです。
マイナーですが、実はレミマリが大好きです。
広がれレミマリの輪!
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