紅魔館の廊下はボロボロに崩れているところが多く、廊下では妖精メイドたちが忙しそうにしていたが、この部屋は被害を免れていたのか随分と綺麗だ。
美鈴に筋肉痛を治してもらって、また咲夜に抱えられて次の瞬間にはみんなが待っている室内にいたのだ。
「お待たせ致しました」
「うわっ! お、お待たせだぜ……」
外にいたのに気が付いたら室内にいたので当然驚く。咲夜式の移動には慣れそうにない。
「咲夜、ご苦労だった。客室の居心地はどうだっただろうか、魔理沙」
「レミィ、随分態度が変わるのね」
パチュリーがじとっとした目をレミリアに向けている。私が来るまでの間になにかあったのだろうか。
室内にはソファーに掛けて座る吸血鬼の当主レミリアが、昨日の夜のイメージそのままで威厳たっぷりにこちらを見つめていた。
その隣に眠そうな目でパチュリーがいる。小悪魔はいない。
「随分良い布団使ってるんだなって感心したぜ。良い部屋だったよ、ありがとうな」
「魔理沙、頭に何かついているわよ」
そう言いながら、気が付けば横にいた霊夢に頭を払われる。
パラパラっと落ちたのは花びらのようなもので、外にいたからなのか、いつの間についたのか。
後ろで咲夜があらあら、なんて声を出していた。
「おっと、ありがとうな霊夢。えーっと、今回の異変についての話し合いだったか」
気合を入れ直して、しかしはたと気が付く。
原作だとどうやって宴会の流れになったんだっけ。
なんだか随分時間が経ってしまった気がして、あんまり覚えていないのだぜ。
「それはもう済んだわ」
なんて簡単に霊夢が言うもんだから、気合が口から音を立てて抜けてしまった。
「え、じゃあこれってなんの話し合いなんだ?」
「べつに、ただ呼ばれたから来ただけよ」
「ああ。というか、呼んだのは魔理沙だけだったのだが」
「なにかしら?」
「いや別に」
霊夢が普段通りに平易な声でレミリアに声を返すと、なんだか顔を青くしながらレミリアは紅茶に口をつけた。
なんとなく気持ちを察する。わかる、霊夢の口調ってちょっと冷たく感じるよな。
まあでも、すぐに慣れるだろう。この二人は原作でも結構仲良くなって、今後の異変でも関わりがあるし。
どんどん仲良くなってもらたいものだ。
「ねえ魔理沙。ベッドを気に入ったのならこの館に住んでも良いのよ? そうよね、お姉様」
「ああもちろんだともぜひ住んでもら「おい」はい」
フランがそんな冗談を言ってレミリアがそれに乗ったが、霊夢が途中で遮って言葉を止める。
なんだ、心配しなくても仲良さそうだな。
後ろのほうにいたのか、フランが声を掛けてきた。
そちらを見ると、小さなテーブルと椅子にフランとチルノが座っていた。
「チルノもここにいたんだな。ルーミアは?」
「さあー。図書館から出た時には一緒だったと思うから、その辺にいるんじゃないの?」
チルノがぽんぽんと氷を作り、フランがそれを指でぴんぴん弾いて壊して遊んでいる。
最後に見た時は図書館だ。随分疲れているように見えたから心配していたが、どうやら今は調子が良さそう。
そういえばさっき妖精メイドを見た時に思ったんだけど、見比べたらチルノって少しだけ他の妖精より大きいんだな。
ルーミアは帰ったのかぁ。まあ本人は頑丈だし、何かあっても凄い能力だし、心配はいらないだろう。
「魔理沙を呼んだのはその、どうだろうか。私達もこの幻想郷に来てまだ日が浅いんだ。よかったら食事でもしながら、一緒に友好を育もうと思ってね」
おお、まさかそっちから提案してくれるとは!
なるほど、これで宴会の流れになっていくんだな。
「いいぜ、戦った後はみんな仲良く同じ釜の飯を食らう仲になるんだな! それじゃあさっそく博麗神社で準備しなきゃいけないな!」
そういって、霊夢のほうに笑いかける。
霊夢はあきれたようにため息をついて「仕方ないわねぇ。」なんて言っているが、普段から一緒にいる仲だ。そんなに嫌そうにしている訳じゃないのはよくわかる。反対意見もないようなので、さっそく段取りを整えるために色々なことを考える。
今回の異変の主である紅魔館のみんなはもちろん、道中のルーミアやチルノももちろん誘わなきゃ。
中ボスでいたはずの大妖精なんかも、もしかしたらチルノに誘ってもらえば来るのかな。
さすがに妖精メイド全員は呼べないだろうけど、大人数になりそうだ。
そうだ、次回以降の異変に関わる妖怪たちはまだ宴会に呼べないな。そうなると案外人数が絞り込まれてくる。けど、これからどんどん人数が増えていくのを楽しみにすると心が跳ねる。
「こうしちゃいられないな、さっそく準備しないと! 霊夢、神社に戻ろう!」
「ハイハイ、それじゃあ帰りましょうか」
*
「今日の宴会は許すわ。けどあんまりあの子に関わらないで」
寒気、いや殺気すら感じさせる冷たい目線を感じる。私は嫌な汗を滲ませながら表面上は取り繕って余裕そうに笑みを浮かべる。
「それを決めるのはお前ではない。博麗の巫女」
空気がギシリと音を立てたように感じるのは気のせいではないだろう。
こいつ、いや、こいつも魔理沙の前では随分猫を被っているものだ。
私のデートの誘いは全く聞いてもらえず、何故かいつの間にか、博麗神社で宴会を行うことが決まってしまった。
まあそれでも、魔理沙が嬉しそうなので良いかと考えたのが先ほど。
私が咲夜に、じゃあ準備のために何か持っていきましょうと声を掛け、魔理沙が食べたいものを館から持っていくように伝えて、咲夜が魔理沙を連れて食堂に向かってから。
じゃあ着いていこうかしら、なんていってパチェが同行し。
次は私がおんぶしてあげる!なんてフランが、それを断る魔理沙に着いて出ていった後の室内。
小さな窓にはぶ厚いカーテンが掛けられており、日差しはこの部屋に届かない。
ガス灯がともる室内は薄暗いが、あの子が出ていったあとは異常に暗く感じられる。
「うわ~、あたいもあっちに行けばよかったぁ」
なんて氷精が気まずそうに口にする。
「その吸血鬼の言うとおりよ~」
その場の誰のものでもない声がその場に響く。
少し前から、様子を伺うように漂っていた空間の隙間からにゅるっと女が顔を出した。
「人間の好奇心は止められませんわ。それにあの子が抱く私たちへの畏れは心地よく、身を滅ぼしてでも手にしたいと思ってしまうもの」
妖怪の賢者、八雲 紫。
先ほど魔理沙がいないうちに。さっさと済ませた今回の異変の話し合いの場で、調停者として姿を覗かせていたもの。
「霊夢。あなたにとっても、あの子を籠に閉じ込めるのは本意でないでしょう?」
「……」
霊夢はなにも言わない。
その存在を無視するかのように、私から目を離さない。
「ええ。あれは是が非でも手にしたい。ただその存在を歪ませることはないと、誇りにかけて誓うわ」
実際には八雲紫の言う以上に、私はあの子に興味がある。
霧雨魔理沙という少女は身を焦がす毒だ。
手にしたいと思う。しかしあの子がそれを望まない限り、無理に手折ってその精神性を変えてしまうことに恐れを抱いてしまう。
しかし。もしあの子が私を望んでくれるのならば。
その運命を、私に操ることができるならば。
考えを中断し、にやりと口角を上げる。
ああ、いけない。やはり毒だ。しかしそれを理解しながら求めずにいられない。
「今はね。これ以上は我慢するさ。せいぜい取られないように気を張っているんだな」
「言ってなさい。あんたらみたいな胡散臭いやつらとは、やっぱり関わらせるべきじゃないのよね」
ふう、とため息を零す霊夢。
この巫女も含め、よくよく人外に好かれている子だ。
「まあ今日は楽しみましょう。それになんだか、あなたとも仲良くやれる気がしているのよね」
「冗談じゃないわ」
あら、つれない。
私たちのやりとりを聞いて、八雲紫はくすくすと笑みを零すと手に持った扇子をパタンと閉じた。
「そうよ~、2人とも仲良くしないと。後から来たのに追い越されちゃうわよ?」
くすくすと意味深に笑う。その声は人を苛立たせるもので、表情は変わらないが霊夢も同じように思っているだろう。
と、視線の先で霊夢の肩が一瞬跳ねた。
「……魔理沙?」
つぶやきを聞いて私も気が付いた。
館内にいたはずの魔理沙の気配が消えた。
「なに!?」
動揺し、扉を開けるのも億劫でブチ破る勢いで廊下に出る。
すぐ後ろには霊夢と氷精も付いてきていることを感じ、異変の時よりもはるかに速い速度で私たちは食堂に向けて廊下を飛んだ。