だぜ娘奮闘記!   作:元掃除道具

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妖々夢編 開始!


妖々夢 +(萃夢想)
その0 春雪から


 すっかり暗くなってしまった幻想郷の空を箒に跨って飛んでいく。

 暦の上では春なので、最近は日が長くなってきたけれど今日は雪が降っている。まだ夕方なのにあたりはすっかり暗くなっていた。

 お腹を空かせて待っているだろう霊夢を思い、私は用事を済ませてしまうため魔力を一層込めてスピードを上げた。

 

 今年の冬が長くなることを覚悟していたのは、『紅魔郷』の次に『妖々夢』が始まることを知っていたからだ。

 魔法の森をすっかりと覆いつくす雪の中で、雪精たちがきらきら光りながら箒の下を飛んでいくのを見ていた。

 

「本編がいつから始まるのかは知らないんだけどな」

 

 ぐるぐると長いマフラーを巻いて、すこし薄着だが『温度調整魔法のバリア』を張りながら森の中を飛ぶ。

 ご近所のアリスに頼まれごとをしているので、紅魔館の図書館で借りて来た本を運ぶ道すがら。

 紅霧異変を解決した夏から、秋が足早に過ぎ去って厳しい冬を超え、本来なら季節が廻りもう春を迎えている頃だ。

 

 知っているなら対策も取りようがある。

 私は例年よりも冬の備えをして、自分的に万全の準備を整えた。そのはずだった。

 けれど異変解決後にも広がった交友関係によって、その備蓄はもうほとんどを使い切ってしまっている。

 

 家にはぐうたらと寝てばかりいる妖怪や妖精がいるし、人里も困窮したところに少しだけ備蓄を分けていた。最初は余裕があるからと分けたのに、気が付けばすっかり使い切ってしまったのだった。

 おかげでこうして、冬の間でもアルバイト生活を続けている。貧乏暇なしだぜ。

 

「おじゃまするぜー!」

「邪魔するなら帰って頂戴」

 

 つれないことを言いながら玄関先で箒を降り立った私に、わざわざ外まで出迎えながらアリスが告げる。

 私が使っている『温度調整魔法のバリア』はアリスが使っていたのを教えてもらったものだ。

 範囲も精度も段違いなそれは、すっかり家の周りを覆っているのでアリスの家の周りには雪が積もっていない。

 相変わらず人間に優しいその魔法使いは、手に持ったタオルを私に投げて寄越して、さっさと入りなさい。なんて言いながら玄関の扉を開けた。

 お言葉に甘えてそれで体に付いた雪を払い、濡れないように服の中に入れていた布の鞄から分厚い本を取り出した。

 

「おっと、今日はもう遅いからお届け物だけで失礼するぜ」

「あら、珍しい。いいの? お腹減っているんじゃない?」

「そりゃあそうだろ、私だってアリスとごはん食べたいよ。けど今日は先約があるんだ」

 

 私は異変が起こったときにすぐに気が付けるよう、霊夢と日替わりで昼飯と晩飯を一緒に食べているのだ。

 ひとりで魔法の森に住んでから、ずっと続けていることだ。

 それで、今日は霊夢が晩御飯を作る日。なので多分霊夢は律義に待っているだろうし、待たせているのは悪い。

 それと理由のひとつに、お互いに裕福じゃないから補い合っているというのもあるかもしれない。霊夢なんて放っておいたら飢え死にしそうだ。

 異変の解決には霊夢と『魔理沙』が必要なんだから、元気でいてもらわないと困る。一石二鳥なこの作戦は、我ながら知恵が回って良い事だと思っている。

 

「あら残念ね」

 

 なんて言いながら人形のように整った外見のアリスは、ちっとも残念そうじゃない。

 親切心に付け込んで事あるごとに転がり込んでいたから、ゆっくりできる日はアリスにとってもありがたいんだろうと思う。

 そんな相変わらずの調子に思わず笑みがこぼれてきて、意識していたずらっぽく笑う。

 

「明日はその本の内容をもらいにくるぜ。それと今日食べられなかったごはん、ちゃんと用意しておくんだな!」

 

 言ってから再び箒に跨り、寒空に飛び上がってぶんぶんと片手を振ってから博麗神社に急いで向かう。

 渡してもらったタオルは返さないぜ! 私は魔理沙だからな。明日覚えていたら、その時に戻そうと考える。

 アリスと私の関係は、一番原作の『魔理沙』と『アリス』っぽくて良いんじゃないかな!

 すごく親切で人間らしく、なのに魔法以外にはあまり拘らずさっぱりとした性格のアリスは付き合いが気軽で楽しい。

 人形劇をする魔法使いは人里でも評判が良く、迷い人も家に泊めてくれたり里まで送ったり面倒見もいいし。

 ホント、ご近所に住んでてほしい妖怪ナンバーワンって感じだ。

 

 *

 

 まだ魔理沙の体温を感じる。

 本を受け取ったあと。家の中で人形たちに紅茶の準備をさせて、それをゆっくりと開く。

 あいつ、相変わらずねー。

 なんて独り言ちて先ほどの魔理沙の様子を思い出す。

 

 トレードマークの魔女帽子には雪が積もっていた。薄着のその恰好は何度も練習してようやく習得できた魔法で雪避けと防寒をしていたのだろう。

 それでも全部は防げないから、突き抜けた雪を帽子に積もらせて寒そうに震えていた。

 相変わらず、なんでこんな簡単な魔法も満足に使えないのか。才能って残酷ね。

 なんて自分の教え子を不憫に思いつつも、楽し気に楽観的に笑っているあの子を思う。

 

 あの子は気が付いているのか、あの子の周囲を漂う霊気と妖気に。

 

 そして先ほど私が持たせたタオルに掛けられた、防寒の魔法に。

 

 過保護なあの神社の巫女と、最近できた吸血鬼の防護魔法だろうか。

 博麗の巫女や吸血鬼と直接の面識はないが、人里の評判や魔理沙が来るたびに漂っている気で、何となく人となりを察していた。

 

 おかげでこちらに向かってきているのがすぐに解ってしまう。気配すら感知してしまう優秀な自分がこういう時は少し憎く感じる。

 おかげで待ち望んでいるみたいに出迎えてしまうのは、その気が落ち着かない為仕方なくだ。

 ちなみに道中の妖怪除けにしては目立つので、まるでマーキングみたいだと感じているのは本人には絶対に言えない。

 

 相変わらず気が付いていなそうだけど。なんて言いながら思わず目を半分閉じて暖炉の前の安楽椅子に腰かける。

 私の魔法で操る人形たちが紅茶の入ったカップを目の前に浮かべる。別の子が対面の、空いている安楽椅子に掛けられた黒白の毛布を片付けていく。

 

 あいつの周りの人妖は、みんなあいつに甘々で困る。

 

 おかげで生意気だし、タオルも持っていかれちゃったし。あしたも来るなんて、ごはんの約束もされてしまった。

 私くらいはすこし厳しく、魔法使いの先達として諭してあげないといけない。

 やれやれ仕方ない。しかし、これも先輩としての役目か。

 

 ふう、とため息をひとつ零す。仕方なく、本当に仕方なく手元の本にも後であの子が見てわかるように、付箋を貼りながら読み進めていくのだった。

 雪が降っている幻想郷は随分と静かで、人形たちが食器類を片付ける音と暖炉で薪が爆ぜる音だけしばらく響いた。

 しばらくゆっくりとそんな時間を楽しみ、何度目かの薪が割れる音を聞いてふと思い出す。

 そういえば、あの子から頼まれていたミニ八卦炉の改造。終わったから持って行きなさいと伝え忘れてたわ。

 

 *

 

「いい加減なんとかした方がいいのは、私だってわかっているのよ」

 

 すっかり雪が積もった境内を眺めながら、並んで縁側でゆっくり過ごしている。

 傍に置かれた火鉢の中で炭がぱちりと音を立てる。

 食後のお茶をすすって、霊夢が一言。

 

「もう5月だぜ。まだ雪降ってるのって絶対異変だよな」

「そうねぇ。誰かが冬を長引かせている。というか、春を奪っている? 結果的に寒いのは変わらないわね」

 

 私は以前から主張していたが、1か月くらい経ってようやく霊夢も重い腰を上げる気になったみたいだ。

 やれやれと頭を振って霊夢に同意する。

 こうなったらいよいよ始まるのか、春雪異変!

 今日だったとは思わなかったけど、私の中ではいつでも準備は出来ている。

 霊夢はじとっと此方を見て、やる気を出している私を止めないでお茶をすすり、またため息。

 

「誰かさんのおかげで中々動けなかったんだけど、もう腹を括って行くしかないって感じよね」

「へー。それって巫女の勘みたいなものか? いまは動く時ではない、みたいな」

「まあ似たようなもの。あとはちょっとの準備と覚悟の問題ね」

 

 言って霊夢がその場で立ち上がり、縁側に置いていた火鉢を室内に片付ける。

 私も自分の湯飲みと霊夢のを流しに片付けて、居間でこちらを待ってくれていた霊夢に合流する。

 

「異変の解決に行くわ。魔理沙も付き合いなさい」

「おう、もちろん!」

 

 同行の許しがすんなりと出るとは思わなかったが、これでようやく長い冬が終わると思うと嬉しく感じる。

 冬が嫌いなわけではない。けど花も咲かないし四季の妖精たちの様子も心配だ。

 人里では畑仕事や今年の食糧不足で不安が広がっているし、とにかく至る所で影響が出ているのだ。

 

「いつでもいけるぜ、今すぐにでも!」

 

 私たちはこの長い冬を終わらせるために、まだ場所も知らない西行妖を目指していくのだった。




2024/05/22 一部表現の違和感と誤字修正
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