だぜ娘奮闘記!   作:元掃除道具

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その2 vs橙

 いやあ、冬の妖怪は強敵でしたね。

 再び吹雪が吹き荒れる幻想郷の空を、霊夢の勘に従って言われるがままに箒を飛ばす。

 相変わらず視界は悪いが、結界のおかげでいつもよりも随分快適に飛ぶことが出来ていた。

 私は何度目かになるか、後ろの霊夢に向けてミニ八卦炉を取りに行きたい旨を零すのだ。

 

「なあ、霊夢~。1回魔法の森に行かせてくれよぉ」

「別にいいじゃない」

 

 さっきからこの調子で、取りつく島もない。

 

「弾幕ごっこのときはさっきの魔法を使いなさいよ」

「あれはまだ未完成なんだって……!」

「そんなに変わらないってば」

 

 私のマスパを何だと思っているんだ。

 幽香直伝なんだぞ。

 あいつには何度もため息を吐かれて、どうして威力が出ないのか未だに詰められてるけど。

 怖いんだよ、めちゃめちゃ笑顔でいぢめてくるんだよ。

 

「あんな妖怪が教えた魔法なんかより、よっぽど魔理沙らしくて良いと思うのに」

「あのなぁ、霊夢。わかってないぜ、弾幕はパワーだぜ」

 

 昔から霊夢は私の星の魔法を気に入ってくれていて、綺麗で魔理沙らしいと褒めてくれる。

 私も星の魔法や弾幕は『魔理沙』らしくてお気に入りだけど、それはそれとしてマスタースパークは代名詞。

 そこは譲れない。

 

「あのねえ。今どこを飛んでるのかもわからないんだから、戻るなんて無理よ」

「まあそうなんだけどさ」

 

 霊夢だったら勘で戻れそうじゃん。

 先ほど遭遇した冬の妖怪、レティが言っていた遭難というのもあながち間違いではない状況だった。

 吹雪で視界は悪く、周囲には風の音と霊夢の声しか聞こえない。妖精のひとりもいないような静かな場所だ。

 正直、愚痴を言うように話しかけているのも不安を紛らわせるためだったり。今回は1人で出かける事にならなくて本当に良かったと思っている。

 

「安心しなさい、八卦炉がなくても弾幕ごっこはできるんだから。ゆっくり楽しみましょう」

 

 なにが嬉しいんだか終始ご機嫌で、一緒に巻いているマフラーの端を指でくるくる巻き取って遊んでいた。

 いくら魔法で温度管理していても、霊夢の見た目が寒々しいので早く帰りたいのだが。

 霊夢自身はこっちの心配なんて全然知ったことではないのだろう。

 異変解決で出ているからなのか、すこしテンションが上がっているようにも見える。

 腰に回されている手の温度を感じながら、ぽつぽつと話をして箒を飛ばしていると、遠くに人の明かりが見え始めた。

 気がついたら人里の方に来ていたのか、まばらな明かりの方へふらふらと近づいてく。

 

 近づいてから感じたのは、それがぽつんと一軒だけの様子だ。

 どうやら人里ではないし、おそらくこんな場所にあるんだから人間のものではないだろうという事だった。

 こういう辺鄙なところに住んでいるのは、だいたい妖怪か仙人くらいのものなのだ。

 自分の魔法の森にある家を棚に上げて、そう結論付ける。

 

「ちょっと寄って行こうぜ。なんか話が聞けるかもしれない」

 

 言いながら箒をそちらに向けて、私たちはその家に向かった。

 

 *

 

「おじゃまするぜ!」

 

 言いながら引き戸を開けると、広々とした土間に人の気配はなかった。

 しかし明かりはついているし、土間にあるかまどに火が入っている。

 いい匂いが漂っているのは、そのかまどに掛けられた鍋からだ。お汁粉かな。

 

「誰もいないのか」

「すこし休みましょうか」

 

 言いながら無遠慮に霊夢が室内に入り、囲炉裏の傍に座る。

 私も箒を扉に立てかけて、霊夢の後に続いて囲炉裏を囲んだ。

 ここって、あれかな。

 

「マヨヒガへようこそ」

 

 すーっと囲炉裏の奥の、閉じていた襖をあける音とともに声を掛けられる。

 急に声を掛けられて驚いてしまった。慌てて体面を整えて振り返る。

 猫耳をピンと立てている頭に、緑のふらふわとした帽子をかぶった姿。

 白いフリルのたくさんついた、可愛らしいオレンジの洋服を着た幼い人型の妖獣。

 悪戯が成功したような、にやりと笑みを浮かべたそいつを見てそういえばと思いだす。

 そうか、これマヨヒガか。

 

 *

 

 橙という名前は、漢字で書いていると全然読めない。

 ちぇん、と読むそうだ。

 

「人間が迷い込んでくるのも久しぶり。ここに来たってことは道に迷ったんでしょう」

 

 嬉しそうににこにことした笑顔でそう言ってくる。

 私たちは橙がふるまうお汁粉を頂きながら、ゆっくりと囲炉裏を囲んで休んでいた。

 うーん。やっぱりあんまり覚えていないんだけど、弾幕ごっこはしないんだっけ?

 随分友好的なその姿に、妖々夢を思い出しながら私は悩んでいた。

 

「私たちのこと知っているの?」

「ええ、博麗の巫女は有名だしね。それと魔法使いの子だよね。人里の猫たちがお世話になっているわ」

 

 言いながらこちらにすりすりと身を寄せてくる姿。

 ああそうか、猫の妖怪だもんな~なんて考えながらその喉元を少し撫でて思わず和む。

 私は猫が好きだ。魔女と言ったら猫ってイメージもあるし、すごい可愛いし。

 人里にも猫はたくさんいるので、たまーに構ってもらっている。

 中でも可愛らしい黒猫がいるんだが、こちらを見ると寄ってきてくれるそいつと橙の印象が重なっていた。

 もしかして人里で会っていたんだろうか。

 妖怪とかに関係ないと思って、人に聞かせられないような猫撫で声で構っているのを思い、恥ずかしくなってきた。

 なにを思っているのか、橙はにやにやとしながらいたずらっぽい瞳をきらきらとさせてこちらをじっと見ている。

 気まずい。微妙に気まずいぜ。

 目線を逸らしながら縮こまっていると、畳にどんっと椀を置く音がする。

 対面にいる霊夢が受け取ったお汁粉の椀を空にして、音を立てて床にたたきつけていた。

 胡坐をかいて、こちらを無表情で見ている。

 

「マヨヒガね。じゃあここにあるものを持ち帰ったら幸運になれるって本当なのかしら。」

「なれるわよ。」

 

 若干冷たい物言いの霊夢に、余裕たっぷりに橙。

 遠野の伝承だったっけ。なんかこの橙すごい友好的だし普通に何か持ち帰れそうだな。

 

「そう。じゃあ略奪開始ね」

 

 言いながら霊夢がお祓い棒を取り出したのと、橙が一瞬で私の傍を離れて霊夢から距離を置いたのはほとんど同時だった。

 

 *

 

 吹雪が吹き荒れる幻想郷の空を、霊夢の勘に従って言われるがままに箒を飛ばす。

 マヨヒガで受け取った椀は返却する機会を失って、結局そのまま持ってきていた。

 箒に括りつけた道具袋に、汚れだけ落として仕舞い込んでいる。

 

「霊夢、動物虐待だぜ」

「いいのよ化け猫なんだから」

 

 あの後は霊夢と橙がその場で弾幕ごっこを始めた。

 荒れる室内をそのままに、私たちは目を回している橙を置いて再びあてもなく飛んでいた。

 弾幕ごっこはしたから、多分間違いじゃなかったんだ。

 私は無理やり「原作通り、原作通り」と納得することにした。

 先ほどよりも不機嫌に見える霊夢に、自分が巻いている長いマフラーの余っている部分を掛けてやる。

 今度人里で、また黒猫を見たら優しくしてあげよう。

 ついでにそいつが橙なのかはっきり確かめたい。

 もし橙だったら。もうあんなに猫なで声では話しかけられないぞと思う。

 恥ずかしいのでどうか違ってほしい。もしだとしても黙っていてほしい。

 気まずい思いを抱えながら橙を思って、箒を再び強く握るのだった。

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