その0 紅霧から
「……ついに来たぜ」
魔法の森を覆う紅霧。
日差しを遮ってただでさえ暗い森が一層暗く、不気味に見える。
これが“紅霧異変”の始まりで、わたし『霧雨魔理沙』と『博麗霊夢』が主人公の『東方紅魔郷』の幕開けだ。
わたしは、『本物の霧雨魔理沙』ではない。
いわゆる転生というやつで、当初は「東方で、しかも魔理沙に転生って最強物ktkr」とワクテカしていたのだが、多くの問題にぶつかった。
まず最大の問題が、わたしに『魔理沙』のような才能がなかったこと。
原作でも「努力型の主人公」という設定があったが、それでも『魔理沙』には才能があった。でなければ同じ魔法使いのパチュリーやアリスに勝つことなんてできないし。
で、ないものはしょうがないと『魔理沙』とは違う道を歩もうとしていたら、母親が死んだ。「え?」ってなった。
原作の設定を熟知してるわけではないが、『魔理沙』は魔法の事で両親に勘当され、家出同然に魔法の森に引っ越したのではなかったか?
なのに、おそらく原作にない事が起きた。焦った。なにせ、私の知っている『ゲームとしての東方Project』が当てにできない。
どうしてこうなった? 幼かった私は必死に考えた。
私が『魔理沙』と違う行動をしているのが原因だ。これ以外に考えられない。
母さまの事も、私が原因で、私が殺してしまったんだ。
それからの私の行動は早かった。
普段の口調はやめ、『魔理沙』のような男勝りの口調に改めた。『魔理沙』のように白黒の魔女衣装を着るようになった。『魔理沙』のように魔法の勉強をこっそり行い、香霖にそれを手伝わせた。
父親は母を亡くしてからの私の変化に戸惑いを隠せなかったようだが、お店で忙しいこともあり、私に注意が向きながら直接なにか言われることはなかった。
霊夢とは以前から友達なので、その関係からよく弾幕ごっこに付き合ってもらった。
「あんた弱いんだから無理するんじゃないわよ」とは霊夢の言葉。
そして魔法の練習をしている様子を親にばらし、父さまが何か言う前にさっさと家出をし、魔法の森に引っ越した。
しかし、魔力すらも『魔理沙』に及ばないわたしは、魔法の森の奥地にあったボロい家に移り住んで、早々に体調を崩した。
本気で死ぬかと思ったが、原作知識を動員してフラフラの体でアリスの家を探し、無理矢理押し入って看病していただいた。いやあ、アリスには頭が上がらない。
「あなた魔法使い? ……冗談でしょ?」とはアリスの言葉。
その時にアリスから魔法の森で暮らすための空気を浄化する魔法を教わった。
こういう小手先の魔法は得意です。『魔理沙』と全然違うなあって思う。
そしてまた問題。ミニ八卦炉の性能が原作に比べて劣っている。
確かあれは山一つ消し飛ばす威力があるハズなのに、細いレーザーしか出ない。
あれは原作魔理沙の特性を理解しているこーりんが作ったものだから仕方ないのかもしれない。しかしそうなると『魔理沙』の魔法の代名詞であるマスパが……!
というか、出力の問題なのか?
とりあえず保留している。
それと、お金の問題。そこで、薬師のいない今のうちに魔法の薬を売ろうと考えた。
けど、これがまた問題。売れないのだ。まったく。
魔女の恰好をした女の子が売っていて、しかも見た目が悪い液体(効果は良いと思う)を好んで買う奇特な人はいない。
仕方ないので、アリスの人形劇の手伝いや、虹川三姉妹のライブの手伝い、紫のお世話や幽香のお花の世話、文の新聞を作る手伝いなどして日銭を稼いでいる。
原作にない交友関係を築いているが、生きるためには仕方ないと割り切って働く。
幽香にはマスパの打ち方を教えてもらったり(「なんでこんな事もできないのかしら?」幽香)、紫には魔法書をもらったり(「英語がわからない? 自分で調べなさい」紫)と逆に世話になる場面もあったし。
まあ、これだけ頑張っても原作の『魔理沙』には程遠い。
いまだ霊夢に遊ばれている。
まあ、こんな事をしている内に原作が始まってしまった。
しっかりと気合をいれて、入念に準備をすませる。
「よしっ! 気合いれて行くぜっ!」
箒にまたがり、わたしは紅霧の空に飛び込んだのだった。
* * *
いろいろと勘違いし、勘違いされている魔理沙が主役です。