だぜ娘奮闘記!   作:元掃除道具

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※6/27 タイトル編集


閑話2 魔女たちの秘密会議

 随分細かい魔力操作ができるのね。

 紅魔館の地下、広大な蔵書量を誇る大図書館の主であるパチュリー・ノーレッジは感心したように息を吐いた。

 最近自身が魔法を教えている生徒、霧雨魔理沙に手ほどきをしながらのこと。

 異変解決の際に見た彼女の魔法は、無駄が多い、言ってしまえば雑な魔法という印象があった。

 魔力が多いわけでないのに。なんでそんな力任せの魔法を使うのかしら。

 それは彼女を教えているうちに感じていた明らかな違和感として、パチュリーはチグハグさを感じていた。

 

 この少女は戦闘用の魔法以外の、例えば所謂生活魔術と呼ばれるような「布団を温める魔法」だったり、「水を温めて紅茶を淹れるのに適した温度にする魔法」に関してはばっちりと適性を見せる。

 なんならそれらを「温めた布団からお日様のにおいがする魔法」や「水の温度を紅茶・緑茶の最適なものに変える魔法」まで昇華させる始末。

 パチュリーは口にはしなかったが、この子の進んでいく先はメイドや家人であると思う。

 つまり、良いお嫁さんになりそうね。と思った。

 

 この子に今まで魔法を教えていたのはどういう人なんだろうと、覚えている魔法の種類などからそちらに興味が出てきた。

 

「今までの魔法の先生? そうだな、ちゃんと教えてくれたのはアリスと幽香だな」

 

 聞けば、魔法の基本をアリスという人形遣いに。

 あの雑な力任せの魔砲を、幽香という花の妖怪に教わったのだという。

 

 ふたりがいかに素晴らしい先生だったのかを伝えている魔理沙の顔を見ながら、パチュリーは魔理沙が淹れた魔法で適温にされている紅茶に口をつける。

 

 ――まったくなっていないわ。

 

 それは苛立ちに似た思いだった。

 この少女は、例え偶然だとしてもこのパチュリー・ノーレッジを下したのだ。

 

 それが蓋を開けてみれば、生活魔術ばかりが得意であとは多少星魔法くらいしか適性がない。

 戦い方をしらない。そして魔法使いとしては哀れに思えるくらいに才能がない。

 これでは捨食や捨虫の魔法を習得して、同じ種族としての『魔法使い』になることは出来ない。

 

 この少女に思いを寄せている館の主にして親友の吸血鬼を思い、このままでは寿命差による別れが起こると考えてしまう。

 同時に自身もそれは起こるのだが、それは思考の隅に追いやってより根気強く魔法を教えていく事にした。

 

 *

 

 余計なことをしているモノがいる。

 最近の魔理沙が身に着けている知識は、まるで生粋の魔法使いになろうとしている求道者のものだ。

 本人はその自覚がないが、このままではいずれ種族としての魔法使いに至ってしまう。

 そういう危険が感じられる。

 

「ねえ、その先生ってのに私も会ってみたいのだけれど」

 

 魔理沙が今年の夏に関わった紅霧異変、その解決のための東奔西走は既に本人の口から聞いている。

 それはとても楽し気で喜ばしく、本人が嬉しそうに語るのを聞いてアリスも嬉しく思っていた。

 その中で、どうにも看過できない話があったのでアリスは魔理沙の話を止めて口を出していた。

 

「え、パチュリーに?」

 

 ぱっと顔を明るくさせて、ふたりとも絶対気が合うと思うんだよ! なんて嬉しそうな魔理沙を見てこちらも笑顔になる。

 上海人形が持ってきた、氷の浮いたリンゴ果汁の飲み物をお礼を言いながら受け取っている。

 そんな、本人にとっては自然な、周囲からは律義に見える姿をしながらアリスの愛しい魔法使い見習いは顔を輝かせた。

 

 ――この子は自身の周囲に善意が溢れていることを信じて疑わない。

 

 そしてそれを真実にするため奔走する存在の事は知らなくていい。

 アリスはそういう思いを笑顔の下に秘めて、いつであれば会えるのか確認するために口を開く。

 

 魔理沙は太陽の下が似合う普通の少女だ。

 それは自身の思いを押し付ける行為だと自覚しながらも、アリスにとって、それを侵害する何某らは我慢のならないことだった。

 魔理沙はいずれ人里に戻る。

 その時にも、そうなっても一緒にいられるようにアリスは準備をしているし、危険な幻想郷でひとりでいるよりはその方がいいと思っている。

 だから、もし万が一にでも種族として魔法使いになってしまったら。

 その時には、どうしてこの非力な少女が、長い魔法使いとしての生命を全うできるのか。

 どうして、その笑顔が曇ってしまうようなことができるのか。

 

 アリスは魔理沙を庇護するべき、か弱い少女だとしている。

 パチュリーは魔理沙を、自分を下した強い魔女になるべきだとしている。

 

 2人は近く、なにも考えていない魔理沙によって紅魔館の図書館で顔を合わせることになる。

 

 *

 

 サバトだと魔理沙が言って、アリスとパチュリーに声を掛けたのは間もなくの事だった。

 お互いに自己紹介は済み、それぞれアリス、パチュリーと呼び合う様になってから少し。

 にこやかに話がされていくのは、お互いの得意な魔法。実力を認め合いながら、こうして話ができることを嬉しく思っているという言葉。

 自身の他の魔女をどのように思っているのか、スタンスの違いなどのすり合わせがすっかりと済んだ後の事。

 アリスにとっての本題を、ようやくパチュリーに切り出した。

 

「魔理沙は魔法の才能はないけど、すごく一生懸命に魔法を勉強するわよね。質問の内容が簡単なこと過ぎて、パチュリーにとってはすこし迷惑だったかもしれないわ」

 

 がーん、と急に悪口に思えるようなことを言うアリスを、口を開いて魔理沙が見る。

 そして、そんなことないよな? と言いながら魔理沙が不安そうにパチュリーを見る。

 

「ええ。全然迷惑じゃないわ。けど、たしかに。今まで魔理沙に魔法を教えていた妖怪たちは、大変だったんでしょうね」

 

 同情しつつ、明確にその立場の違いを知らしめる。

 アリスは片眉を上げてパチュリーの言葉をそのまま待った。

 

「これから先は私が。魔理沙を立派な魔法使いにしようと思うの」

「それは必要ないと思うわ、パチュリー。こうして話して、あなたが思慮深く優秀な魔法使いだということは私にもわかる」

 

 遮るように声をあげるアリス。

 

「だから魔理沙にあなたのような魔法使いが魔法を教えるのは、良くないことだと思うわ。あなたは魔理沙を理解できる? この能天気な凡俗の少女を」

「おい、凡俗って失礼だぞ! 言っておくがお前らのほうが能天気だからな!」

 

 そのままの言葉を受けて、これは馬鹿にされているぞと魔理沙が憤慨してアリスに噛み付く。

 魔理沙を理解ができるのかという言葉に、ピクリと反応を見せてパチュリーが言葉を返した。

 

「あなたなら理解ができると?」

「ええ。あなたよりは間違いなく」

 

 ふうっとため息を吐く。

 いっそ笑みさえ浮かべて、パチュリーは言葉を返した。

 

「そう。若いわね魔法使い。あなたは理想を押し付けているだけ。」

「いいえ先輩。私はあの子を理解しているから正しく導ける」

 

 ばちりと空気が音を鳴らす。

 図書館の小悪魔はその異変を敏感に察し、せめて自分だけでも逃れようと出口を目指して飛び上がった。

 

「ふたりとも言いたい放題すぎるだろ!」

「あ、魔理沙! ねえ、ふたりともお話が長いなら魔理沙連れてっちゃうね!」

 

 魔理沙が抗議で大声を上げるのを、なんだなんだと見に来たフランが、にらみ合う二人に挟まれながら涙目の魔理沙を見て。息を荒くし一瞬で連れ去ってしまってから。

 2人は同時に立ち上がって、それぞれに魔本と魔道人形を構えた。

 

「とりあえず今は」

「ええ。あとでじっくり話し合いましょう」

 

 しばらく紅魔館の地下、魔法図書館では轟音と地鳴りが響き、それは館の主が止めに来るまで続けられた。

 

 *

 

「理解はできる。けど、どうしてあの子のことをそこまで思うのかしら」

 

 暫し後。

 すっかりと日が落ちてあたりは闇に包まれた幻想郷の、湖のほとりにある紅魔の館その屋根の上で。

 酔うこともできないのにワインを開けながら魔法使い2人は話をしていた。

 

 魔法を使って暴れた後なので、すっかり冷静になった。後にはお互い気質の似ている者同士、冷静に話し合いができていた。

 手酌で注ぎ、グラスを傾けながら。

 ふたりはお互いのとる立場の違いや関わり方、相容れなさを理解しつつ、話し合いをしていた。

 

「どうせそのうちわかる」

 

 どうして、という問いにはアリスが。

 そして、まだ関りが薄いだろうから。と、どこか羨ましそうに、誇らしそうにパチュリーへ言葉を続ける。

 

「そのうちあなたも解ると思う。理解したなんて口先ではなく、本質的な意味がね。でも知らないでいて欲しいとも思うわ」

「迂遠な言い方ね。どういうこと?」

「あの子を大切に思う気持ちを陳腐な言い方で表現してほしくない。そういう我儘な思いと、同じ思いを抱えないでほしい。そうも思っているのよ」

 

 グラスを傾け、自身の金の毛先を指でくるくると弄りながら、アリスは続けた。

 

「あなたの言う通りこれはエゴ。自分でもわかってるわ。それでも。あの子に平穏でいてほしいと願うのは、いけないことなのかしら。あの子には普通の人間として最後を迎えてほしいと願うのは……」

 

 パチュリーはそれに返す言葉を持っていなかった。

 珍しくワインに付き合って、手にもったグラスをすこし傾けた。

 

「本人がそれを望まないとしても?」

 

 ワインを飲み下して言葉を吐き出す。

 パチュリーの知る魔理沙は、異変の解決に挑む勇敢な少女だ。

 実力は見合わないが、強い心と運命を引き寄せるツキを持っていると感じる。

 弱い側面もあるのだろう。確かに強調するが、実力は劣っている。

 しかし強さも持っているのだ。パチュリーはそれが魔理沙だと思っている。

 アリスから聞く魔理沙は弱く、庇護を必要としているモノであるように感じられた。

 そうではない筈だ。魔理沙は強く、勇敢な少女であるはずだ。

 そう語るパチュリーに、それもそうであると肯定しながらアリスは続ける。

 

「ええ。それでもよ」

 

 欠けた月を背景に、少女は儚げに笑みを浮かべ黙る。

 それきり口を開かず、静かなふたりの周囲では虫たちの合唱が響いていた。

 まだ季節は夏の頃。紅霧異変の後、春雪異変よりも随分前の事。

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