※閑話は本筋に関係がない無駄話なので基本読まなくても問題ないです、もし苦手な方はスルー推奨。
※R15タグは注意されたら付ける予定なのですが、この1話のためにつけるくらいなら切り離して別小説にまとめます。
と思っていたけど一人称が頭お花畑なのでセーフな気がしてきた。三人称や相手視点だと際どい描写になりそう。
すっかり明るくなった幻想郷の空を、後ろに霊夢と咲夜を乗せやや定員オーバーな箒が翔ける。
徹夜は慣れている方だが、魔力も使って体も動かしているのですっかりクタクタだ。
道すがら、どうして咲夜が白玉楼にいたのかを聞いたりこちらの道中を話しながら。
春が戻っただとかで周囲は暖かくなったが、夜中まで降っていた雪はまだそこら中に残っており、幻想郷はまだ雪に包まれていた。
ゆっくり飛びながらそれらを見て、安堵の息を吐きながら後ろのふたりを振り返る。
「咲夜は紅魔館に送って行けばいいか?」
「いえ、神社に行きます」
「帰りなさいよ」
「いいじゃない、ごはん作ってあげるわ」
うげっと顔を顰める霊夢に対し、咲夜は平然と、どこか楽し気に言い返す。
「あんたのところのお嬢様はいいわけ?」
「どうせ夜になったら神社へ来るだろうから構いませんわ」
「宴会の準備もあんたなしでできるの?」
珍しく食い下がる霊夢に言われて、ふう、と咲夜がため息をひとつ零す。
「まあ確かに、燃料の確保とお花見の準備は必要なのよね」
ああ、燃料か。
私も春になったとはいえ、まだ家に備蓄造らないとなぁ。
「無理しなくていいぜ。咲夜も疲れてるだろうししっかり休んだほうがいいって」
「せっかく会えたのに、少ししか話せないなんて寂しいじゃない」
「どうせ夜にはあの吸血鬼たちとうちに来るんでしょうに」
半眼の霊夢に笑顔の咲夜。
仲の良さそうな様子に私も思わず笑ってしまう。
「揶揄うのもこの辺で、見送りは大丈夫よ。湖からは自分で飛んで行くわ」
「あ、そうかぁ。じゃあそこまでだな」
もう霧の湖はすぐそこだったので、少し近づいてから箒を止める。
1番後ろから霊夢ごと私の腰に手を回していた咲夜が箒を離れる。
別れ際にポケットからゴソゴソと何個かの飴玉を渡してきたので、ありがたく霊夢と2人でりんご味の飴を頂く。
「それじゃあ道中気をつけて。なにか困ったことがあったらすぐに知らせるのよ。まだまだ寒いんだから暖かくして……」
「もう! お母さんじゃないんだから世話焼くのやめろよな!」
帰り際に霊夢が咲夜を呼び止めて、なにか掴んで放り投げて渡していた。
*
「おー! どんどん雪が溶けてるけど、まだまだ境内は積もってるな!」
2人で取り留めなく話をしながら飛んでいると、博麗神社の大きな赤い鳥居が見えてくる。
吹雪が吹き込まないように縁側に板戸まで閉めたんだが、少し雪がついている。閉めててよかった。
「んー! ようやく帰ってきたわねぇ……」
霊夢も流石に疲れた様子で、大きく伸びをした。
「昨日は私がお夕飯の準備したわ」
「分かってるって、朝ごはんは私が作る」
「ん。あんたのお味噌汁好きよ」
「私も神社にある味噌は気に入ってるぜ」
言いながら拝殿を通り過ぎて横の玄関前に降り立つ。
まだ雪深く、ずぼずぼ雪に足跡をつけながら玄関の戸まで歩く。
霊夢が戸を開け先に入り、私はあとからついていく。
玄関土間に箒を立て掛け、魔力切れしたのか途中から動かなくなった蓬莱人形を先に居間に入れる。
冷え切った室内に入って2人で縁側の板戸を開けていくと、爽やかな風が吹き抜けていった。
外の空気はまだひんやりしているが、ぽかぽかの陽気が気持ちのいい日だ。
「お風呂沸かすわね」
「あ、この前作った入浴剤入れてくれよ」
「はいはい。お料理用の炭は足りそうかしら?」
「見てくるぜ」
相変わらず、中途半端に近代化された台所に入る。
お米は魔力で動く電子ジャーがあるからいいとして、かまどの薪は心許ないように見える。
土間にある巻藁と炭を確認すると問題なさそうだ。
「こっちは大丈夫そうだな。それじゃあちゃちゃっと作るからお風呂の準備お願いするぜ」
「うん。魔理沙、着替えは?」
「あー。借りてもいい?」
「色は? 白と赤」
「白かな」
「下着はないけど」
「ゔ、でももう帰るのも面倒だなぁ」
「……貸す?」
「……いや、うーん」
お米を洗い、炊飯器にセットして。
火の入ってない鍋に干し椎茸を何本か入れて戻しながら、別の鍋に火をかけてそんなことを取り留めなく話す。
すっかり異変解決は終わって、いつもの穏やかな日常を感じる。
泊まりに来る時はいつも着替え持参してたから、突発だと困るなぁ。
今度から何個か勝手に置いていこう。
かまどから炭を何個か火鉢に移し、室内を温めながらお風呂場の方にいる霊夢と話を続ける。
「ねえ、お風呂……」
「うん? まだご飯は作り始めだぜ」
霊夢が廊下の方からひょこっと顔だけ出してこちらを見てくるものだから、そちらに目をやる。
「お風呂、一緒に入らない?」
*
「体が温まると一気に眠くなるなぁ」
2人でお風呂を済ませて、下拵え済みの料理を手早く済ませて居間に持っていく。
ごはんにお味噌汁、蕗の煮物とお漬物、昨日霊夢が作ってた煮豆も添えて十分だろう。
意外と健啖家な霊夢の為に少しだけ多めにご飯をよそい食卓に並べる。
「霊夢ー。大丈夫か?」
すっかり温まって、霊夢も疲れが出たのだろう。
湯当たりしてしまって顔が赤く、頭の上に冷やしタオルを乗せ寝転がる霊夢に声をかける。
まだ顔を赤くしながらのそのそと起き上がる。
「……ごちそうさま」
「まだ食べてないぞ?」
もう寝ぼけたのだろうか。
お風呂上がりに霊夢は薄赤い浴衣、私は白地に赤い線が入った浴衣を着てすっかり気が抜けていた。
置いた火鉢と外から差す陽気で部屋の中も暖かくなっている。
まだ午前も午前、時間的には早朝だろうに体内時計は夜の時分。
私もふわぁ〜っとあくびをそのまま、ちゃぶ台に座る。
「霊夢、ほら!」
「ん……」
そのまま横に座ってきて、火鉢にかけられたやかんから急須にお湯を注ぐ。
お茶は霊夢が淹れてくれる。霊夢の日でも私が作る日でも変わらない。
湯呑みを受け取り、さて。と手を合わせていただきます。
「……おいしい」
「よかったぜ」
どちらも和食しか作れないけど、何となく味が2人とも違う。
私は霊夢のご飯が好きで、霊夢は私のご飯が好きだってお互いに言う。
多分、どちらも心の底では相手に食事当番を押し付けて楽したいから、そう言ってるんだけど。
だけど、作ったものを褒められるのは素直に嬉しい。
「へへ。うれしいなぁ、霊夢とご飯。この先もっと人が増えたら、こういうの少なくなるのかなぁ」
寝不足の頭が思考をそのまま垂れ流す。
この先の異変解決で、どんどん霊夢の周りには人妖が集まるのだ。
それが本編の流れで、もちろん私もその輪の中にいるんだけど。
こうして2人きりで過ごすことは少なくなっていくんだろうなぁ。
それだけが少し、寂しくもあるんだぜ。
「ならないわ」
「うん?」
「少なくなんてならない」
横の霊夢を見る。
まだ若干顔の赤みが引いていないが、真剣な表情でこちらを見つめている。
その表情に嬉しさと、笑いが込み上げてくる。
「な、なに?」
戸惑った様子の霊夢の頬を手を伸ばし、口の端にくっついていたお米粒を取ってあげる。
「ふふふ、霊夢。お米粒ついてる」
くすくす笑うと、ますます顔を赤くする霊夢がなんだか本当におかしい。
「かわいいなぁ」
「な、なに! なんか変よ魔理沙」
「変じゃないよ、本当にそう思ってるんだから」
異変の時はあんなにかっこいいのにね。
一緒にお風呂に入って、懐かしい気持ちがすごく蘇った。
あんなに小さかった女の子がこんなにカッコよく、可愛くなって。
「呑んでる?」
「呑んでないってば」
でも変わらず、少しだけ弱みを見せてくれる。
お風呂に一緒に入りたいとか、ご飯作って欲しいとか。
その様子がなんだか無性に可愛らしく思えて笑いが込み上げてくる。
「あー、おかしい! 霊夢?」
「なによ!」
「たくさん食べてね」
「……うん」
*
板戸をまた閉めて、部屋の中を薄暗くする。
ご飯を食べてゆっくりしたら、やっぱり夜更かしのツケが回ってきた。
ただでさえ弾幕ごっこで魔力もたくさん使ったし、緊張する場面の連続だったので一度疲れを自覚すると後はもうドロドロだった。
ちゃぶ台を片付けて、板戸をつけてきた私が部屋に戻ると霊夢が布団を敷いて待ってくれている。
「あれ、お布団ひとつしかないんだけど」
「……疲れたから」
布団は普段霊夢が使っているものだけで、枕がふたつ用意されていた。
陽気が戻ったとはいえまだ冷えもするし、これも懐かしい気分になって私は機嫌良く布団に入った。
「ひゃあ、お布団つめたいぜ」
「……」
その後にゆっくりと霊夢が布団に入る。
こいつめ、私が人肌で温めた布団に!
「懐かしいなぁ〜」
背を向ける霊夢に声をかける。
私もそうだが、普段と風呂上がりで髪型が違うから新鮮だ。
同じ石鹸を使っているのに、人の匂いはなんだかドキドキした。
「れいむ。こっち……」
背中をつんつんふざけてなぞり、眠たい頭がまだお喋りがしたいと訴える。
瞼はどんどん重くなるが、こんなに幼馴染が甘えてくるから私も遠慮なく甘えたいのだ。
「……魔理沙」
霊夢がもぞもぞと体勢を変えて、布団の中で向き合うようにして見つめ合う。
しばらく黙って、黒い瞳を覗いている。
体に伝わる体温が暖かくて安心する。
だめだ、もっと話したいのに意識がどんどん溶けていく……。
「ねえ……〜……?」
霊夢がなにかを聞いてくる。
ああ。だめだ、意識が……もう……。
すーっと瞼が下りていく。
だんだん霊夢が近づいてくるのを最後に私は意識を手放した。
*
「……あの魔法使い」
目の前にはすやすやと寝息を立てる魔理沙。
すこしだけ、と顔を近づけるのを、物理的に引き留められる。
頭をがしっと掴んでいるのは、魔理沙が異変の最中手放さなかったあの西洋人形だ。
たしか、蓬莱人形。
表情がないはずのその人形が、確かな圧を放ちながら私の頭を止めている。
「……」
いや。別に大丈夫。
怒ってるとかではない。ただ魔理沙の髪がいい匂いだから近くで嗅ごうとしただけだ。
止められるならこれ以上近づくつもりなんてないし。
知らず、深くため息が漏れる。
魔理沙には揶揄われるし、ご飯は相変わらず美味しいし、久々の泊まりはもやもやとした物を抱える羽目になってしまった。
ああ、どうしてこの記憶を取り出して保存ができないのだろう。
湯上がり。上気した頬。イタズラっぽく笑う魔理沙。私の唇の端の米粒を取って、そのまま口に運ぶ、その唇。
体温が上がる。
薄暗がり。布団の中。とろんとした顔。
「恨むわよ……」
どうもしばらく眠れそうにない。
能天気によだれまで垂らして、すやすや眠る目の前の子。じっと息を殺してその顔を見つめる。
もう一度そろりと近づく。
頭を、がしっと掴む人形。
冷たいその手が冷静さを取り戻させる。
自分でも何がしたいんだかわからないので、諦めて頭を離す。
ある意味では、なにをするかわからない自分を止めてくれる人形使いに感謝する。
だけどどうにもやるせ無い。どうして私がこんな目に。
まだ朝なのにすっかり疲れ果てて、眠れる自信が無いけど私は無理やり目を閉じた。
――目を閉じると余計に体温と匂いが――