だぜ娘奮闘記!   作:元掃除道具

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注意・本編以前の話なのでまだ好感度が足りていない妖怪も出ます。
6/28 タイトル変更。イメージ違いすぎるので!


閑話1 星のおうじさま

 蛍は綺麗な水にしか棲めないと言われている。

 

 いつの間にか幻想入りして、妖怪になった。

 私はそうして生まれて、気が付けば人の形を象って周囲の妖蟲のなかで一番力を持つものになっていた。

 

 甲虫よりも硬く、蟻よりも力を持ち、蜂よりも毒性が強く、蜻蛉よりも速い。

 しかし私は蛍だった。

 蟲を統率する術を持つ私は、ただ光を放つ蟲の妖怪として生まれた。

 

「お~、これ全部蛍なのか!」

 

 妖怪の山と人間の里の間に流れる小川で、小さな人間の女の子が私たちを見て声を潜めながら、それでも興奮を隠しきれないと声をあげる。

 こんなところに人間がいるなんて珍しい。

 周囲の妖蟲たちが餌の気配に色めき立ち、ぎちぎちと羽を鳴らしている。

 

 特に興味もないので好きにさせる。周囲の妖蟲から歓喜の感情が向けられる。

 八雲紫がうるさく言うので、妖怪たちは積極的に人間を襲わなくなった。

 恐怖の感情や人肉は我々の生きる糧だ。

 それを久しく取り入れられていなかった同胞たちは、ご馳走を前に我慢ができないようだ。

 

 里で守られていればいいものを。

 こんな僻地までよく手を付けられず、たどり着いたものだ。

 その愚かさを嗤い、愚鈍さを軽蔑する。

 それきりすっかり興味をなくし、光りながら躍る同胞たちと水辺を舞う。

 

 少しの戦闘の音。

 最初の頃こそ驚いて応戦している様子だったが、次第に人間の声は小さくなっていった。

 逃げたか、くたばったのか。

 存外大したことのない奴だった。あっという間に終わってしまったそちらを、ちらりとだけ見る。

 

 瞬間、光と音が辺りを包んだ。

 

 それは美しい星の弾幕だった。

 金糸の少女が、箒に乗りながら周囲に魔法をかけていく。

 

 私が弾幕ごっこを、スペルカードを見たのはこの時が初めてだ。

 

 周囲の妖怪を傷つけることなく、ただその場に押し留めるくらいの威力しかない程度のものだったが。

 光と音は蟲達を退けるには十分だった。

 

「魔符『スターダストレヴァリエ』! 悪いが逃げさせてもらうぜ!」

 

 その中心で不敵に笑う少女に、私の目はくぎ付けにされた。

 あっという間に光は収まり、少女は呆然とする同胞たちを横目に、全力で飛んで逃げていく。

 追えばすぐに追いついてしまいそうな速度だ。

 でもなぜだか、その光の残滓が私たちを縛り付けてしまったように誰も動かない。

 同胞たちも私も、そのあとを追うことなくその場でポカンと立ちすくんでしまった。

 

 *

 

 しばらく後。

 妖怪の山の天狗が発行する新聞を、友人の経営する八目鰻の屋台でたまたま目にした時の事。

 

 幻想郷の『景色』を河童の機械で切り取り、色とりどりの絵で芸術を競い合う催しをしている新聞だ。

 その中にそれを見つけた。

 たしか、写真というのだったか。

 大賞や佳作は見事に大きく、美しい空や山々が見事に描かれている。

 そんな見事に切り取られた数々の中で、入選作の中に小さく掲載された一枚の写真。

 

 『星』と、シンプルに題された其れは間違いなくあの日の私達だ。

 波紋を広げながら水に足をつける私と、その周囲を飛ぶ同胞たちの姿。

 

 思い思いに光り、なにも考えず漂うだけの光る姿に。

 あの星の魔法使いが、『星』だなんて。

 

「あら、リグル~♪ なにを照れているの~♪」

「照れ? いやいや、そんなまさか」

 

 顔が熱いのは自覚している。

 だが、これはそんな。たかだか人間に感情を動かされるなんてことは。

 

「まっかな顔ね、にやにや笑って! すっごく嬉しそう♪」

「へ?」

 

 顔をムニムニと触って確かめる。

 頬が、口角が上がってしまうのを止められない。

 胸から沸き上がるこの感情はなんだろう、嬉しい恥ずかしい、そういうむず痒い感情がどうしてか止まらない。

 たかが、人間に。

 

「天狗の新聞、なにかあるの?」

「おー、これもしかしてリグルなのかー?」

 

 後ろからルーミアが手元の新聞を覗き込み、感嘆の声をあげる。

 それをどれどれ? なんて覗き込んで、ミスティアも驚いたように声をあげる。

 

「すごい、いつもと違って神秘的ね~♪」

「かっこいいぞリグルー!」

「おい、いつもは違うって言いたいのか!」

 

 ワイワイと、すこし騒いでそれを投稿した名前を確認する。

『霧雨 魔理沙』と書かれたその投稿者を、私は初めて認識した。

 

「おー、魔理沙が入選してるのかー」

「ルーミア知っているの?」

「うん。あのキノコがたくさんある魔法の森に、最近住み始めた変わった人間だよー」

 

 のんびりと間延びした声で、別段興味もなさそうな相槌をうつルーミア。

 

「人間があんなところに住むなんてね〜」

「それって、黒白の魔女衣装を来た金髪の女の子?」

「ああ、間違いなく魔理沙だなー」

 

 やっぱりそうだ。あの時の人間だ、星の魔法使いだ。

 あの綺麗な星の魔法を私は覚えている。

 そしてこちらの害意を受け流し、不敵に笑いを浮かべる姿を。

 細かく手足が震えて、明らかに強がりなその姿。

 

 変わった人間だな。

 

 私を含む同胞を嫌悪せず、まるで空の輝きであると喩えるその感性に興味を持った。

 

「……会ってみたいな」

「へえ、珍しいわねぇ♪」

 

 少しだけ嬉しそうにミスティアが笑う。

 

「そうかな?」

 

 そうかもしれない。

 同胞以外にはこの気のいい仲間だけが私の世界だ。

 何かに興味を持つこと自体が珍しいと、自分ですら思う。

 

「それなら、この文々の新聞見てみなよ」

 

 言ってルーミアが突き出してきたのは、天狗達の新聞の中でもゴシップ色が強くて発行部数も少ない、所謂零細の新聞である『文々。新聞』だ。

 自称幻想郷最速の、頭のおかしい天狗が書いている新聞だったか。

 

「これが?」

「うん。確か魔理沙がこらむ?とか書いてるんだって。お手伝いしてお金貰ってるんだって」

「へぇ〜、本当に変な人間だね〜♪」

 

 受け取り、ざっと斜め読みして読んでみるが既に天狗の新聞の中では情報が遅いように感じる。

 先週のトピックのようなものが今更取り沙汰されていて、新鮮味もない。

 そんなやっぱり売れない理由がある新聞の中に、少しだけ枠を用意されているのを見つけた。

 

『恋色の魔法使い通信』と銘打たれた可愛らしいフォントで、寄稿の欄に名前がある。

 

『さて先週の記事では、魔法の箒で空を飛ぶ術を得た頃の私の話だったが(編集注:未だ箒がないと飛べない様子)、飛び始めの頃はつい魔力切れを起こしてしまう事があった。

 その時には幼馴染で最強に強い(編集注:人間は頭も愚かなので原文ママ)博麗の巫女に助けてもらえた。

 (編集注:何度目か、既に数え切れませんね)

 その時に思ったんだが、妖怪たちって生まれた時から空を飛べるやつが多いよな。

 人間は普通飛べないから、空を飛ぶことに憧れを持つんだけど。それなら妖怪たちって何に憧れて、何を目指すんだろう。

 文(編集注:幻想郷最速の天狗にして最高に可愛い記者のこと)は、どうせ飛ぶなら最速を目指すべきって言うけど、そもそも種族差が大きいよな。

 速く飛ぶやつ、ゆったり飛ぶやつ、たかーく飛ぶのが好きなやつ。

 私は人間だけど、多分そのうちその辺の妖怪よりも強くなるだろうし(編集注:笑)空も今よりずっと速く飛べる(編集注:笑笑)ようになるはずだ。

 それは人間が、妖怪たちにとっては短命の中で必死に努力するからなんだろうけど、多くは憧れを持ってそれに見合うための努力をするからだと私は思う。

 自分が足りないことを知っているから、理想の自分を思い描くことが出来る。

 それに近づく努力ができることって人間の凄いことだと思う。

 で、それじゃあ最初から色々な事ができる妖怪たちって、何かに憧れるんだろうかって思ったわけだ。

 良かったらまたアンケートとかに書いて教えてくれると嬉しいぜ!

 さて、先週のハガキからなんだが〜  』

 

 そこは読者の悩みに、人間らしい独特な視点から答えを用意する素朴なコラム。

 読めば惹き込まれる文章で、それを書いている人間性を文章から感じる事ができる。

 少なくともこの新聞の中では1番面白いコーナーだと思った。

 

「これは……?」

「へえ〜なるほどねぇ、なかなか楽しい読み物じゃない♪」

「うーん、わたしは読むより話をする方が好きだなー」

 

 少しだけ。その人間性に触れた気がして、あの人間を知れた気がした。

 

 *

 

「ふぅ〜、今日は文々。新聞の日かぁ」

 

 気がつけば長い期間。私はその新聞にあるアンケートで魔理沙と色々なやりとりをした。

 

「すっかり常連さんねぇ♪」

 

 機嫌良く鼻歌を歌いながらミスティアが新聞を差し出してくる。

 すっかり季節は巡り、今は寒さが厳しい冬だ。

 同胞たちは眠りにつき、私は1人雪原の屋台に顔を覗かせている。

 

「まあねえ。あんな新聞読むの、私くらいだろ?」

「そうかしら? 少なくともあのコーナーは人気みたいよ、記者の天狗が悲しそうにしてたわ♪」

「む、そうなのか。私以外にも読んでる妖怪がいるなんてね」

「ふふ、私も好きよ〜魔理沙ちゃん〜♪」

「はは、あんな人間のどこがいいんだか」

 

 そうそう、私くらいなものだろうさ。

 よわっちぃ人間の小さな努力で新しい魔法の実験が成功した、なんて些細なことに心から喜べる妖怪なんてさ。

 まあ確かに、たまに私以外のアンケートが取り上げられる事もあるけど。

 それは気まぐれな誰かが、気まぐれに送ったものなんだ。

 読者といえるくらいにいつも読んでるのなんて、私くらいなものだろうさ。

 

「そんなリグルにちょっと、今日の新聞は悲しいお知らせ……」

「はは、なに? また実験で爆発したとかって……はな……し……?」

 

 新聞には、いつもの魔理沙のコーナーがなかった。

 

「あれ? これじゃあただの紙屑じゃんコレ」

「天狗が泣いちゃうわね♪」

 

 編集後記まで読み、ようやくそこで理解する。

 

「えええ! 恋色通信終了だってぇ!!?」

「え〜……」

 

 ミスティアも残念そうに肩を落とす。

 

「そんな、どうして……?」

「ちょっとリグル怖いって」

 

 なにかあったんだ、きっと。

 他の天狗に脅されたり、この編集者天狗が人気に嫉妬して……!

 

「こうしちゃいられないよ、たしか魔法の森だったよね!」

「え、ええ。だけど過度な追いかけは本人の為にならないって、あなた行こうとしなかったじゃない?」

「そんな場合じゃないよ、体調を悪くしたのかもしれない! なにかに脅されてるのかもしれない! わ、私が!」

 

 私が守ってあげないと、あの人間は弱いんだから!!

 

 *

 

「さて、ミスティアは屋台があるから来れなかったけど……」

 

 こそこそと地を低く疾走し、目立たないように擬態の光を発しながら魔法の森を巡る。

 ひゅんと風を切って妖精たちを置き去りにし、血が上った頭に少しずつ冷静さを取り戻していった。

 

 森は広大だ。今は冬で無数の同胞たちは眠りに就いている。

 たった1人で探すにはこの森は大きすぎる。

 

 しかし足は止まらない、冬の寒さに軋む羽が力を与えてくれる。

 すこし広場に出て、周囲の魔力を探る。

 人間の気配や妖怪たちの気配は何となくわかるのだが、不思議なほどにこの森は静かだ。

 

 顔を上げた先、遠くに明かりの気配を感じる。

 きっとそこに違いない。

 虫の知らせに導かれてそれを追いかけ、ようやく私は人型が済むだろう家を見つけた。

 

 それは思ったよりも可愛らしい見た目で、いかにもな魔女然とした少女が住んでいるようには思えない建物だ。

 周囲に高度な魔力で隠ぺいが施されており、道理で見つかり難いわけだと納得しつつ違和感を覚える。

 あの魔理沙が、こんな魔法使えるのだろうか。

 

 あの不器用な魔法使い見習いが、こんな高度な魔法を?

 

 しかし今はその疑問を押し殺し、まずは様子を伺うべく敷地に入り込む。

 

「……っがっ!」

 

 ガツンと衝撃を覚え、思わず後ずさる。

 強力な妖怪除け、そして明らかに敵意のある魔法での遮断だ。

 

 人間も妖怪も嫌いだと、まるですべてを寄せ付けないような拒絶の魔法。

 それに先ほどよりも大きな違和感を覚える。

 

「っぐ……まけて、たまるか……!」

 

 なんとか足を前に出し、びりびりと皮膚が突っ張る中を窓際まで進んでいく。

 音を押し殺し、光で擬態しながら、どうにかその中を覗き込む。

 

『はぁ……あんた、本当に魔法使いなの?』

『……へへへ、けど助かったぜ。……ごほっ』

 

 そこには金の髪を持つ少女が二人、しかしその印象は真逆の二人がいた。

 

 肩や顔を赤くして布団に包まり、ごほごほと咳き込む小さな少女。

 それよりは大きな、強い魔力を感じる少女。

 

 間違いない、あの弱っているのが魔理沙だ。

 あの夏に私が目に焼き付けられた、星の魔法を放った少女。今は弱り切って寝かされている。

 

『これに懲りたら魔法の森から出ていきなさい。あなたみたいなのが魔法使いみたいな顔していられると、私も迷惑なのよ』

 

 イライラとした様子を隠しもせず、そっけなく強い魔力の少女が言う。

 それを受けてもへらへらと笑みを浮かべて、でも助けてくれるなんてやさしいぜ! なんて能天気に魔理沙。

 どうしてそんな顔をしていられるんだ。そいつの言葉は嫌じゃないのか、辛くないのか、苦しくないのか。

 

『そのうち私も迷惑かけないくらいには……ごほっ! つよい魔法使いになるからさ、今だけ大目に見てほしいぜ……』

『はぁ……。期待しないでおくわ』

 

 少しして、魔理沙は目を閉じ静かに寝息を立て始める。

 それを見ながら魔力の強い女が、独り言を零す。

 

『まあ、便利なうちは助けるけど。才能がないんだから、無駄なこと止めたらいいのに』

 

 その子の何がわかるというんだ。

 こいつに、魔理沙の素晴らしい努力の日々とその心根のなにがわかるというのだ!

 

 自分でも驚くほど心が一瞬で煮えたぎり、全身の関節がギシリと音を立てた。

 俄かに妖気が漏れ出してしまったのを慌てて抑え、訝し気に窓の外を覗いてきた女から姿を隠す。

 

 今は、この魔法使いの女に牙を向ける時ではない。

 魔理沙をこいつが助けている今、こいつを害しても魔理沙にとっては私が悪になってしまう。

 

 あの子の周りに、そんなものはいらない。

 

 そうか。そこで自分が抱く欲望に、素直に向き直って思い至る。

 私はあの少女の絶対的な味方になりたいんだ。

 

 すぐそばにいる存在じゃなくていい。いや、嘘だ。できれば近くに居たい。

 寄り添っていける相方でなくていい。いや、嘘だ。できれば寄り添っていきたい。

 ただ、あの子を無条件に応援する絶対的な味方になりたいんだ。それが一番芯になる部分だ。

 

 蛍は綺麗な水にしか棲めないと言われている。

 それは事実じゃないが、私は自分が棲む環境をその人間の中に見つけた。

 

 その人間の中にいないと、私はもうダメなんだ。

 

『好きなタイプって、どういう質問なんだろうこれ。まあ、私も乙女だからな、ここは王子様とでも書いておこうかな! 女の子はいつでも王子様を求めているんだぜ!』

 

 *

 

「こんばんは、君は霧雨魔理沙だね。ルーミアから話は聞いている」

「お、おう。なんだかきらきらした奴だなぁ。り、リグルなんだよな?」

「そうだよ、私はリグル・ナイトバグ。蟲を操る程度の蛍の妖怪さ」

「ええ、なんかちょっと……違う気が……いやでも、あんまり喋ってないし……うぅん」

「あの夏に君の星の弾幕を見てから少しづつ囚われて、今じゃ君に夢中さ」

「な、なに言ってんだ?! は、恥ずかしいこというなぁ!」

「本当の事だよ、魔理沙。うん、私は君の空想から出て来た王子様になりたいんだ。どうぞ、よろしくね」





アリスさんツンツン期。
こういう時期もあって今があると思うと胸が熱くなるぜ……!
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