だぜ娘奮闘記!   作:元掃除道具

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その2 vsミスティア

 夜雀。

 鳥の妖怪で、夜に現れて人を鳥目にする妖怪だ。

 ちっちっと音を立てて鳴き、美味しい八目鰻の屋台を、鳥肉食撲滅を掲げて日夜営業している。

 

 私のよく知るミスティアは夜に屋台を引っ張って、調子の良い歌を聞かせてくれる気のいい奴だ。

 昼にはダラダラと鰻を釣ったり、うちに来て他の妖怪たちとお喋りしたりしてる。

 人里のお酒とか調味料の購入を頼まれるくらいには気安く付き合ってくれて、信頼してくれていると思う。

 生活に困ったときの、私のアルバイト先のひとつでもある。

 激しめの歌が得意で、私が調子を合わせて歌っていると、とても嬉しそうに「上手、上手~!」なんて褒めてくれる。

 

「~♪ ~♪ あ、お腹減っていないかな? 魔理沙ちゃんが食べる分もあるから、いつでも言ってね♪」

 

 提灯の明かりを小さく灯し、屋台の周囲に深く濃い闇を纏わせてガラガラと車輪が回る。

 ミスティアが、私の乗る肩に頭をすり寄せてくる。

 

「お腹は減ってないよ。なんだか悪いな、気を使わせて」

「いいのよ~♪ 遠慮しないでね、魔理沙ちゃん!」

 

 犬のようなそのしぐさに和むが、私はいつまでもここにいられないし、はやく戻らないといけない。

 咲夜も心配だし、せっかくもらったメイド服も返さないといけないし。

 アリスとリグル、レミリアも大丈夫だろうか、あんなに戦っていたんだから心配だ。

 今はミスティアが引っ張る屋台で、同じように割烹を着ながら「うちの看板魔理沙ちゃん♪」なんて上機嫌な夜雀に連れられて。

 頭の痛い思いを抱えながら、先ほどのことを思い返すのだ。

 

 *

 

 レミリアとアリス、リグルの戦いは周囲に影響を及ぼしながら、意外なほど長く時間をかけていた。

 その間、咲夜が木の枝に腰掛けたのでその上に乗せてもらいながら色々な服のスケッチを見ていると、辺りが少しだけ静かになる。

 

「あら?」

 

 パタンとスケッチブックを閉じて、瞬きの間に立ち上がっていた咲夜に抱えられてその場から高く飛び上がる。

 また時間を止めて移動した、どうしたんだろう。

 

「~♪」

「……! 魔理沙?!」

「ん、え?」

 

 遠くから歌が聞こえ、気が付けば周囲は真っ暗闇だった。

 

「わわ! さ、咲夜?」

 

 気が付けば腕の感触が消えて、私は上も下もわからない暗闇に放りだされていた。

 手探りで箒を探し、ばたばたと体を動かす。

 一瞬の浮遊感のあと、また何かに抱えられる感触。

 急いでそれにしがみつき、何かに手を回されてようやく止めていた呼吸を再開した。

 ぜーぜーと落ち着いて深呼吸をする。

 相変わらず周りは真っ暗で、私はなにに抱きかかえられているのかわからないまま。どこかに移動する感覚だけがあって、さっきまで抱えられていた咲夜とは違う匂いがすることだけは解る。

 

「~♪ ~♪」

 

 歌が聞こえる。

 聞き覚えのある声なので、すぐにそれがミスティアのものだと気が付いた。

 

「み、みすちー! みすちーなのか?」

 

 抱えられながら、腕をぎゅっと握りながら声を掛ける。

 声には答えてくれず、そのまま何も見えずに凄い速度で移動していくのだった。

 

 *

 

 油断はしていなかった。

 自分の周囲の空間は完全に把握していたし、いつでも時間を止められるように気を張っていた。

 しかし咲夜は出し抜かれ、見事に魔理沙はその腕から消え去ってしまった。

 

「やられた……!」

 

 自身の能力が破られると思わなかった、油断があったのだろう。

 傍で戦う妖怪たちも各々強力な力を持つが、それでも守り抜くという一点で咲夜は誰よりも自身が優れているという自覚があった。

 だから一瞬の、一音に感覚を崩されて前後不覚に陥った瞬間。自身の失策と傲慢を悟った。

 その瞬間に咲夜ができたことは非常に少ない。

 まだ頭がガンガンと痛みを訴え、覚束ない浮遊で魔理沙を連れ去った妖怪の跡を追うために、主人のもとへ急ぎ向かう。

 

「咲夜、なにがあったの!」

「……申し訳ございません、魔理沙を攫われました」

 

 異常を察し、こちらに飛んで来た主に向かって短く告げて自身が張り巡らせた銀の糸をピンと張りながら主人に示す。

 この糸こそ攫われる直前に張り付けた手がかり、そしてその先にいる魔理沙を追うための手段。

 

「ええい! 蟲に魔法使い、次はなんなのよ!」

 

 一瞬で大量の蝙蝠に姿を変え、後ろから来たリグルの飛び蹴りを躱して再び姿を構成しながら苛立ちを隠さずにレミリアが嘆く。

 咲夜は片手でまだ痛む頭を抑えながら、飛び込んできた起爆寸前の人形を彼方へと放り投げる。

 

「こんな夜に、出歩くものが多すぎるわ!」

「妖怪たちの様子がおかしいのも、この月のせいですか?」

 

「そうよ、今日は満月の筈なのに! こんな可笑しな月が昇っているから妖怪たちもおかしくなるんだ!」

 

 *

 

「ふ~♪ ここまで来れば安心ね! まったく、相変わらず変なのに絡まれているんだから!」

 

 ぎゅーっと抱きしめられてどこかに連れ去られること暫し。

 ようやくミスティアが私を解放してくれたのは随分と移動してからだった。

 体感では5分ほどだろうか、いつもはのんびりと飛んでいるこの夜雀が、どういうわけか凄い速さで真剣に私を運んでくれた。

 

「え、えっと、どうしたんだみすちー」

「どうしたですって? こっちのセリフよ魔理沙ちゃん♪」

 

 ぷんぷんと頬を膨らませながら、指先でこつんと頭を叩かれる。

 

「どうして魂むき出しの無防備な姿で、あんな可笑しな妖怪たちの傍にいるの! リグルもいたけど、さすがに私ひとり加勢したくらいじゃどうにもならないから、置いてきたわ♪」

 

 あの子なら一人でもどうにかなるでしょ♪ なんて言ってこちらをぎゅっと抱きながら、良かったと安堵の笑みを浮かべる夜雀の妖怪。

 羽飾りのついたナイトキャップに似た帽子を被り、可愛いリボンのあしらわれた茶色いジャンパースカートを着ている少女の姿。

 その背には禍々しい羽根を持ち、顔の横、耳の部分にも鳥のようなふさふさの毛が生えた妖怪。

 可愛らしい見た目で、こうして善意で私を心配してくれる友達だ。

 

 こ、ここでも誤解かぁ。

 

「あのな、この姿はな……」

「お話が長くなるなら、その間にお店のお手伝いもしてもらおうかしら? せっかくそんなに可愛らしい姿なんだものね、すこしは私にも役得があって良いと思わない?♪」

 

 歌う様に跳ねる独特の喋り方で、こっちこっちよ~♪ なんて言いながら話も聞かずにどんどん飛んでいく。

 

「いつもの魔女の衣装も可愛いけど、今日はメイドさんの気分なの?♪」

「これは私の趣味じゃないんだぜ……」

「さっきの人間と同じ格好じゃないかしら、これはうちのお割烹も着てもらわないと!」

 

 次々と興味が移り、全然話を聞いてくれないいつものミスティアだ。

 もう諦めながら、咲夜は大丈夫かな、とか私も遠くを見ながら考えるのだった。

 

 そうして、話は冒頭へ戻る。

 

 *

 

「みすちー、今日はやけに歩き続けるな」

 

 普段ならもうどこかで足を止めて、そこここで見かけた妖怪達が集まるのを待つ時間だ。

 呑気に歌い続けながらゆっくりと来たが、屋台の周りはやけに暗くてここがどこかもわからない。

 

「さぁてねぇ♪ ここはどこかな♪」

「冗談だろ?」

 

 まさかあてもなく歩いていたのではないだろうに。

 迷いなく歩き続けているから、てっきりどこかに向かっていると思ったのに。

 

「まあたまにはいいじゃないの♪ それで、博麗の巫女を探しているんでしょ? いまは人形の体だからお腹も減らないわけだねぇ♪」

「お腹は減ってない、というか食べられるのかな。口はあるけど……」

「試しに食べてみる? 焼き鳥ならあるけど」

「また笑えない冗談だぜ……」

「うんうん♪ 食べたいけど、それはちゃんと自分の体の時がいいよね♪」

「食べないって……」

 

 さっきからこんな調子で、話をしたり歌を歌ったり。たまに私の体に顔を寄せてくるのを撫でたり、結局いつもの日常の延長のように時間が過ぎていく。

 すっかり経緯も話し終わったのに、それじゃあ元のところに戻してほしいと言うと、はぐらかされてしまうのだ。

 

「ところで、なんでずっと魔理沙ちゃんって呼ぶんだ?」

 

 こうしてみすちーと2人でゆっくりしているのは珍しいので、私も呑気が移ってきた。

 異変の最中だというのに、そういえば、なんて普段から気になっていたことをつい口にしている。

 

「魔理沙ちゃんは、魔理沙ちゃんだから♪」

 

 なにが楽しいんだか、くすくすと笑いながら歌を口ずさむ。

 ご年配の方々は敬遠するような明るく激しめの曲を好んで口にするミスティアだが、今日はやけに静かなゆったりとした歌を口ずさんでいる。

 

「へえ、まあ新鮮でいいけどな……。って、違う違う。アリスのところに戻るか、このまま霊夢を探さないといけないんだって!」

 

 ついつい気が緩んでしまうが、背負った八卦炉の重みが私を異変解決の責任に戻してくれる。

 むうっと頬を膨らませながら、不満げにミスティアが首を傾けて私に顔をくっつけて再びすり寄る。

 

「いいじゃないの、たまにはお店のお手伝いして、このままお客さんがいないなら帰りましょうよ♪ 人里の近くまでは送ってあげるから、今日くらいは安全な場所にいよう?」

 

 その表情はうかがえなかったが、初めてその声に固さが含まれていることに気が付いた。

 

「まさか、今って人間の里の方に向かっているのか?」

「ん~♪ どうかな、わかんないな♪」

 

 露骨に誤魔化してくるので、いよいよ何が狙いなのか解らなくなる。

 

「人間の里に寄ってもいいけど、私は異変解決に向かうぜ」

「わぁ、頑固~♪ あぁ、それにしても。もう少し2人でいたいのに。無粋な輩が多い夜だね~」

 

 ちっちっと音を立ててリズムを取りながら、ミスティアが少し足早になる。

 

「みすちー、どうかしたのか?」

「なんでもないよ~♪」

 

 車輪が音を立てて回り、すっかり走っているような速度になりながら屋台はどんどん進んでいく。

 それを引くミスティアは先ほどよりも大きな声をあげて歌を奏で、近くで聞いていると騒がしい。

 

「そ、そんなに急に動くと危ないぜ」

「そうだね、しっかり掴まってて!」

 

 言って、とうとう屋台を手放して私を抱えて空に飛びあがるミスティア。

 その羽根を大きく広げ、力いっぱいに羽ばたくからすごい風が巻き起こる。

 

「わぁ!」

「ごめん! あとちょっとだけだから!」

 

 ぎゅっと私を力強く抱きしめ、空を駆けるその周囲が、よく見ると先ほどまでの深く暗い闇ではない様子に気が付く。屋台の周りだけがやけに暗かったけど、今は大きな月が明るい普通の幻想郷の夜で、周囲は開けた草原だ。

 なにかに急かされるように飛ぶミスティアの様子に驚き慌てながら、ぎゅっとその体にしがみつく。

 周囲は知っている道だ、ここは人間の里の近くだ。

 やっぱりミスティアは人間の里に向かっていたんだ。

 

「もう! 人間も妖怪も、私の歌で狂うはずなのに!」

「残念ながら私はどちらも半端」

 

 悔しそうに、焦燥感を隠しもせずにミスティアが叫びながら飛ぶ。

 その背後を銀の線が追い、きらきらとなにかが煌めいて光っている。

 きれいな銀だ。地を這うように駆けるそれは、あっという間に私たちに追いつくと高く飛びあがりこちらの進行方向を塞いだ。

 

「その方を離せ。触れるな夜雀」

「なに、こいつ!」

「あ、妖夢!」

 

 一振りの大きな刀を構え、油断なくこちらを睨みつけるように立ちふさがる妖夢だった。

 また、なにか勘違いをしている気がする。

 しかし、今日はよく知り合いに会う日だ。

 

 *

 

 咲夜は途絶えた糸を手繰り寄せながら肩を落とす。

 その先端は何か鋭いもので切り裂いたように綺麗に裂かれており、ついに追跡が困難になった様子を伝えている。

 レミリアはそれを見ながら、肩を落とす咲夜を励ます。

 運命はまだ途絶えてはいないと、自身の能力で魔理沙が無事であることを確信している。

 

「しかしお嬢様、彼女らに……」

「良い。まずはあの子の無事が優先だ」

 

 蟲の妖怪と人形の魔法使い。

 2人は既にこの場には居ない。

 

 咲夜の能力を使い、眼前の戦いから二人は離れたのだ。いや、逃げたと言い換えても良い。

 強い相手だった。勝てないという判断ではなく、時間がかかるという判断で、瞬時にその場から離れた。

 

 吸血鬼のレミリアにとって、相手に背中を向けることは自身のプライドを傷つける行いであるはずだ。

 咲夜はそう思っていたし、レミリアにも思うところがあるのは事実。

 

 しかしそれらを些事として、主人はその後を追う決断をした。

 そうまでして追い、この始末。

 

 咲夜は自責の念に苛まれるが、しかし顔を下げるわけにはいかないと今も周囲を探る主人の後を追う。

 そして尚一層、この主人のためにも無事に魔理沙をこの奇妙な夜から助け出さないといけないと思いを強くした。

 

(あの巫女から逃げたのとか、フランとの姉妹喧嘩で逃げるのなんて今更だしね。そんなことより魔理沙よ、魔理沙! はやくあの小さな魔理沙を少しでもいいから目に焼き付けないと。あわよくば少し、ぎゅーってしてみたいわ! はやく、はやく見つけないと夜が終わってしまう!)

 

 主人の心、従者は知らず。またその逆も然りなのだった。




いちゃ甘書いてからおぜう書くときはもうホント手が止まらなくて……などと供述しており、余罪を追及する方針です。
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