※人によっては不快に感じるかもしれない描写
※注意されたらタグ増やします(自分では判断むずかしいので)
「これ見てよみすちー!」
いつものように屋台で炭を入れて開店の準備をしていると、今日も来たリグルが手に持った新聞を突き出しながら嬉しそうに指し示す。
それは最近私達の間で話題の『文々。新聞』で、リグルはあるコーナーにすっかり夢中だ。
「王子様がタイプなんだってさ! ところで王子様ってなに?」
「さぁ……? そんなことより、リグルも手伝ってよね~」
ぱたぱたと炭に入れた火を扇ぎながら、新聞を購読しないくせに、アンケートだけはしっかり書いていくその子を半目で見る。
バツが悪そうに目を逸らしながら、誰か知らないかなーなんて何処かに思いを馳せている。
まったく、新聞取り上げちゃおうかしら。
でも普段は割と物静かなこの友人が、楽しそうにしている様を見るのは私も嬉しい。
「みすちー、来たよー」
「ルーミア! 王子様って知ってる?」
「えー、それって食べていいもの?」
「さぁ?」
途中ルーミアも来てくれて2人して新聞を見ながら、あーでもないこーでもないって言い始めた。
最近私の周りは、すっかり恋色通信に夢中だ。
恋色通信っていうのは、ルーミアの知り合いの人間が鴉天狗の新聞で連載している『恋色の魔法使い通信』というコラムのことだ。
お客さんの中にも読者がいて、私も暇な時に読んでいるから話自体はわかるんだけど。
「でも、そんなに夢中になるほどなのかしら……?」
ルーミアはそれを書いた人間と知り合いらしく、本人らしくて楽しいと夢中だ。
リグルは一度だけ本人を見かけた事があるらしく、その時の星の弾幕がいかに綺麗だったかを何度も語っている。
私は2人が言うその人間に会った事がないので、文章からしか、その人となりを感じられない。
あまり器用ではなく、人間らしいというのか、その独特の感性でコラムを書くという印象しかない。
私達妖怪に対しての疑問を何気なく問う事もあれば、自分がした努力でこんな結果が得られたと、非常に小さなことを素晴らしい大切な事だと書いていたり。
そもそも人間と深く交流を持つ事がないので「へぇ人間ってつまらない事が気になるのね」なんて思いながらも、ついつい「私はどうしてたかしら?」なんて考えてみたりする。
思い返すと、意外と内容を覚えている事に気がつく。
私も知らず、惹き込まれる1人なのだった。
霧雨魔理沙、なかなかすごい人間だ。小さい人間だろうから、魔理沙ちゃんか。
「流石に本人へ聞きにいくのは……ほら、迷惑だろうしさぁ」
「リグルって、基本的に考えなしの癖に凄く臆病な時があるねー」
2人の会話を聞きながら、屋台の準備中にそんなことを思っていた。
*
「冬のうなぎは~♪ あぶらが多め~♪ あら?」
リグルが何かを決意して、妖怪としての格を上げたいなんて言って鍛え始めた頃。
まだ季節は冬で雪が深く積もった森の中で、いつものように提灯を灯しながら屋台をがらがらと引いていると、遠くに人間の気配を感じる。
人里の近くではないのに、めずらしいこともあるものだ。
いつものように歌に魔力を帯びさせ、歌いながらそれに近づいていく。
きっと夜の闇が深くなり、あたりが見えなくなっている頃だろう。
「鳥目を治すには~♪ 八目鰻がおいしいよ~♪」
「わぁ! よ、妖怪屋台だー!」
人間らしく怯えを含んだ声で、しかしそこに嫌悪を含めない不思議な声色で、まるで私の事を知っていたかのように、それを歓迎するような不思議な声音だ。
普段なら怯えさせて鳥目を治したあと、適当に遊ぶだけなのだけど。
私はその幼い少女の声に興味を覚えて話しかけてみることにした。
「こんばんは、人間!」
「おおぉ! こんばんは!」
それはこちらを認識した瞬間に、ぱっと笑顔を浮かべてやけに嬉しそうに近づいてくる。
はて、人間の里に私の評判はどう伝わっているんだろう。
そんなに友好的に接した覚えはないんだけど。
「これってなんの屋台なんだ? うなぎ?」
「八目鰻よ、栄養たっぷりでおいしいわよ~♪」
提灯の明かりに入ってくる、白黒の魔女衣装に金髪の少女。
頭に乗せた如何にもな魔女帽子を見て、その正体に心当たりがあったのでそのまま声を掛ける。
「あなたは新聞でコラムを書いていた魔法使いね♪」
「うわ、知ってるのか……。そうだよ、おまえは何て名前なんだ?」
「私はミスティア! ミスティア・ローレライよ~♪ 友達はみんな、みすちーって呼ぶわ♪」
「よろしくなみすちー! 私は魔理沙で良いぜ!」
「あら、友達になってくれる人間なのね♪」
懐からがま口を取り出して、中のお金を数えている魔理沙を見ると「これはからかい甲斐のありそうな人間ね~」なんて嬉しくなる。
新聞のコラムで見た、そのままの印象の少女がそこにいた。
「ちょっと食べたいんだけどお金足りるかな。この前博麗神社にお米を買って行ったら、もうあんまり蓄えもなくてさ……」
若干恥ずかしそうにしながら、がま口をひっくり返して掌に出した二束三文を見せ、照れ笑いを浮かべている魔理沙。
別に儲けたくてやっているんじゃないし、値段の設定も適当だ。
もしかしたら、少しだけこの子にとっては高い買い物なのかもしれない。
「別にお金なんて……」
と、言いかけて。そうだ、と思いつく。
「そうだ、そうしたらお店のお手伝いしてくれないかな~♪ お手伝いの分、ご馳走してあげる♪」
「え、いいの!?」
即答で返されたその笑顔にはこちらが戸惑ってしまった。
こんなボロの屋台で妖怪の手伝いをさせられるのに、なにが嬉しいのか。
「助かるぜ、みすちー良い奴だなぁ!」
なんて、心底から嬉しそうに笑うのだ。
これは驚いた、なんで私のことを親切な妖怪だと思っているんだろう。
もしかして、侮られているのだろうか。驚かしてみようか。
「ただし条件があるわ!」
「えぇ、なんだ!?」
こちらの大きな声に驚き、目を丸くする魔理沙に気分を良くしてそのままふふんと胸を張って告げる。
「これからずーっと、鳥肉を食べないで! もし食べたら私があなたを食べちゃうから!」
元から鳥肉食を止めさせるために始めた屋台だ、その目的を達する意味合いもあるので、とてもいい提案じゃないかしら。
目を丸くしている魔理沙が、ぱちぱちと瞬きしてすこし考える仕草。
それから、ひとつ頷いて了承を返してくる。
「え、いいの?」
思ったより素直に受け入れられたのに驚き、思わず聞き返す。
良いのかしら、人間はとり肉が好きだって思っていたのだけど。
「うん、別に構わないぜ!」
しかしその顔に嘘をついている感じはしない。
脈拍、心拍も上ずらないので嘘ではないと信じられる。
「だって、もともと私お肉なんてあんまり食べられないし」
事も無げに言う魔理沙を、その言葉を咀嚼しながらよく見てみる。
一目見た時から、やけに小さい子だと思っていた。
それは背の高さもそうだが、長袖や長い丈のスカートでシルエットが見えないのに全体的にほっそりとしている。頬や顔は健康的だが体は薄くてやせ気味だ。
「貧乏で、お肉なんて滅多に食べられないぜ!」
あはは~! なんて能天気に笑う少女を見て、心配が先に立つのだった。
*
「うまーい!」
「そう? よかったわ~♪」
なんだか放っておけなくて、そのまま屋台で八目鰻を振る舞うと目を輝かせて食べ始めた。
口を抑え、その乱暴にも見える口調とは正反対で、お上品に端から少しずつ食べている。
その様子は小鳥が餌を啄むようで、思わずじっと見つめてしまった。
あまりたくさんは食べられないのだろうけど、少しでも栄養のあるものを食べたほうが良いだろう。
もし私が魔理沙を食べるとしても、もう少し太っているのを頂きたいし。
人間をじっくりと観察する機会が少ないから、ついつい目で追ってそんなことを考える。
「こんなにおいしいんだったら人気になるのもわかるな。さっそく手伝うぜ! なにをしたらいい?」
「あ、そんなにすぐにやることはないわよ~♪ まずはゆっくりご飯でも食べて……」
「いやいや、貰ってばかりではいられないよ。ところで、これ」
言いながら、じっとお皿に残った八目鰻を見つめている。
「持ち帰りたいんだけどなにか入れ物ないかな?」
どこか照れながら、頭を掻いて聞いてくる。
「笹の葉ならあるけど」
「もらっていいかな、持ち帰りたくて」
「もしかして口に合わなかった?」
無理に食べさせてしまっただろうか。
人間によっては苦手なのもいるのだろう。
すこし小骨が多かったかしら。あんまり濃い味は好みじゃなかったかな。
「いや、おいしいよ! 本当だ! けど、私だけ食べるのがもったいなくて……」
慌てて手をぶんぶん振りながら力説する様子は、嘘を言っている風には思えない。
安心して、それじゃあどうしてこの場で食べていかないんだろうと疑問に思う。
「私だけって、他に誰かいるのかしら?」
「えっと、神社にいる霊夢にも分けてあげたいんだ」
霊夢って誰なんだろう。
さっきからこの人間と話していると、戸惑う事ばかりだ。
「あ、じゃあその霊夢のためには別のものを用意するわ♪ だから、それは魔理沙が食べていいのよ~♪」
なんだか普段の私らしくないけど、その見ず知らずの霊夢のためにも八目鰻を焼いてあげよう。
そういうと魔理沙はぱっと顔を輝かせて、にっこり笑ってくれた。
「ありがとう、本当にいいやつだな! 頑張っていっぱいお手伝いするぜ!」
どうも調子が狂うなぁ。
わたしって人間に対して、こんなに親切しないのになぁ。
リグルとルーミアとたくさん遊ぶようになったからなのか、幻想郷では平和ボケが加速してしまうようだ。
*
「ふぅ~、お皿も洗ったしテーブルも片付けた。あとはなにかやることあるか?」
「うん、うん♪ 働き者ね~♪」
魔理沙がご飯を食べて少しして、ゴシップ記者の鴉天狗がふらっと寄ってきたのを皮切りにどんどん妖怪が集まってきた。
忙しくそれをさばいていると、あっという間に食材が尽きてしまったのだ。
どの妖怪も物珍しそうに人間を見て、鴉天狗のコラムを知っている妖怪なんかもちらほらいた。
それも食べていいのかい? なんて声を掛けてくるのに、まあそのうちね~♪ と返答していると一々怖がる魔理沙ちゃんが可愛らしく、からかっていたらあっという間に時間は過ぎていった。
途中変わり者の河童まで来て、「盟友、盟友!」うるさくて迷惑だったのだけど、魔理沙ちゃんは嬉しそうにしていた。
これだけ繁盛したのにその報酬が一食だけなんてとんでもない、すこしお給金も弾んで渡してあげよう。
「あ、でも食材なくなったからお土産が渡せないじゃん!」
そういえばと最初の約束を思い出して、悪いことをしてしまったなと気が付く。
あんなに妖怪たちが来なくても渡すはずたったのに、元々約束していた土産用の八目鰻まで全部焼いてしまった。
魔理沙ちゃんを見ると、その子はきらきらと目を輝かせながら「じゃあ、またお手伝いにきていいか?」なんて聞いてくる。
「別にそれは、こっちからお願いしたいくらいだけど。でも、あなた怖いんじゃないの?」
妖怪たちに囲まれているのは怖がっているようにも見えた。
一応、それなりに気を遣っているつもりだけど、また来たいなんて人間のことはわからない。
「ぜんぜん怖くないぜ! 妖怪たちも愉快な奴が多いし、お店が人気だから誰も襲ってこないしな!」
恐れながらもとても楽しそうに働いていたから。そういう風に言ってくれるだろうとは思っていたけど。
うちが人気というか、あなたからの『畏れ』が美味で集まった気もするんだけどね。
適当に腹も満たせるし、精神も充実できるならそりゃあ今だ今だと駆け込んでくるだろう。
最近の幻想郷は、人間を襲うことを禁止されて妖怪たちはどんどん力を失っている。
ただでさえ追いやられたモノたちが、ゆるやかに衰退している最中なのだ。
「う~ん、うちは構わないけど」
「よかった! あ、それに鰻の事も気にしないでくれ!」
言って、自分の荷物が置いてあったのだろう箒の傍にこんもりと出来上がった土産の山を指し示す。
「みんなから少しづつお土産も貰って、食べきれないくらいだからさ!」
変なものは混ざっていないと思うんだけど、まあ神社の巫女と一緒に食べるなら平気か。
お店で働く魔理沙があんまりにも痩せっぽっちだからか、余計な世話を焼く神妖が数人いたのだ。
「魔理沙ちゃんがまた来たいっていうなら、また来たら良いわ♪」
なんとなく、そのお土産たちは気に食わないけど。
せっかく気に入ってくれたのに、私のごはんを食べてくれたらいいのに。
そんな風に思いながら、表には出さずにまた来たらいい、なんて誘いをかけておく。
次は妖怪の山の近くとかじゃなくて、もっと静かな場所に屋台を持っていこう。
すこしゆっくりと、ふたりで話すのもいいもんね♪
「ありがとうみすちー!」
そんな風に笑うのを見ると、心がきゅーっとなる。
急にそうなった原因に心当たりがなく、私は軽く頭を振って首を傾げた。
*
それから何度かのお手伝いをしてもらって、季節は廻り春が過ぎて夏を迎えた。
私はお店のお手伝い以外にも、魔理沙の家にまで行ってごはんを振る舞ってあげたり、すっかり世話焼き雀になっている。
関係ないけど最近のリグルもどんどん強く、またどこか所作も洗練されて貴族のような振る舞いをするようになってきた。
その理由を聞いたときに、半分は理解できなかった。どうも魔理沙が関わっているらしいということだけ理解できたので好きにさせている。
少し前から制定された弾幕ごっこで遊ぶことが増え、その力を感じる機会が増えていた。
近頃の魔理沙はなにかに悩んでいるようで、じっと手に持つ八卦炉を見つめる時間が増えた。
弾幕ごっこを通じて星の弾幕を見る機会が多くなると、ますます何かに悩んでいる時間が増えているように感じた。
「って、思っていたんだけどね……」
「ほら見てくれよ、これが本場のマスタースパークだー!!」
少しの期間見なくなったなと思っていたら、どうやら太陽の畑にいる妖怪から魔法を教えてもらったのだとか。
リグルとルーミアはそれを見て閉口しているし、私も思うところがあって黙ってそれを見ている。
なんというか、それは魔理沙ちゃんらしくない魔法だった。
決して馬鹿にしているのではないが、魔理沙ちゃんは弱い。
それは種族として仕方ないんだろうけど、弾幕ごっこを始めたての私たちにも劣るくらいにセンスがない。
いや、より正確に言うなら。
弾幕避けはすごい。けど攻撃は、もう本当に滅茶苦茶な方向に星の弾丸を出すくらいしかできない。
どうして目の前の相手に、全方位に飛び出す星の魔法を撃つ必要があるんだろう。
そりゃあその方が綺麗だけど。自衛と攻撃を両立していると言われればそうなんだけど。
避けるのに集中しているときは避けられるのに、攻撃しようとするとすぐに被弾している。
とにかく、不器用な子だ。
それなのに、そんな体中から魔力を絞り出してぶつけるような、そんな大雑把な技はどうなんだ。
「はぁっ、はぁっ! よし、ようやく幽香にも怒られないで済むかな……!」
魔力を短時間に消費したからだろう、顔を青ざめさせながら苦しそうに魔理沙ちゃんが息を吐いているのを見ると、これはやめさせた方がいいとさえ思えてくる。
「ふふふ、これで私の代名詞も完成だ……! いつでもいけるぜ、霊夢め待ってろよ……!」
それなのに、そんなに満足そうな笑顔で楽しそうにしている魔理沙ちゃんを見ていると、誰も言葉を発せないのだ。
「んっ、うぅん! そうだな、魔理沙。いまの弾幕だけど……」
それでも勇気を振り絞って、咳ばらいをひとつしてリグルが声を掛ける。
いいぞ、いけいけ! 止めてあげろ!
「はぁっ、はぁっ……。ど、どうだったかな。ちょっと弱いって言われているんだけど、みんなに先に見てほしくて」
「ああもう最高だね、息が切れていてセクシー」
「リグルは頭冷やした方がいいなー」
「わ~♪ ルーミア最高ね♪」
リグルの頭に氷の塊をガツンとぶつけてそれ以上の言葉を封じたルーミアに、思わず拍手しながらさてどうしたものかしらと頭を悩ませる。
「や、やっぱ……まだまだかな……?」
不安そうに瞳を揺らす魔理沙ちゃんに、ますますどう言ったものかと苦悩する。
魔力が足りてない。いやせっかく上手くいっているらしいのに、駄目出しなんてしたくない。
むしろ、止めさせなくても満足いくまでやらせてから、そのうちに飽きるのを待つ?
そうだ、それが良い。
どうせ自分に合っていない魔法を長く使い続けるはずがないんだ。
飽きるまでやって、そのうち使わなくなっていくだろう。
「うん、いいんじゃないかしら~♪ 流星とか光線って感じだけど、とってもカッコいいわね♪」
なんて、適当に調子を合わせておく。
本当か!? よかった~! なんて無邪気に笑う魔理沙を見て、早々に使わなくなることを祈りながら。
そして私はこの自分の発言を後悔することになる。
*
「ま、魔理沙ちゃんが倒れた!?」
それから2,3日ですぐにその時は来た。
夏の間は同胞を使って色々な目を使えるリグルが、発見してすぐ博麗神社に運び込んだらしい。
「そんな、どうして……!」
「魔力不足らしいよー」
いつも能天気ににこにこしているルーミアも、顔を曇らせながら話をしてくれる。
「元々よわっちい魔力しかないのに、ずーっと頑張っていたんだって」
あんなこと、言わなければよかった。
どうしてすぐに飽きるだなんて思ったんだろう。すぐに止めるべきだったのに。
人間と妖怪の精神は構造が違うのに。
気長に考えるべきじゃなかったんだ。
「わ、わたしがあんなこと言ったから……」
「ちがうよ、みすちーのせいじゃないよー」
後悔しても結果は変わらない。
それならばと、今私にできることを考える。
「お、お見舞いに行こう!」
「うん、はやく元気になってもらいたいからね!」
*
「……それで、あんたたちは魔理沙の何なの?」
ぶすっとふてくされた表情で、縁側で行儀悪く片膝を立てて、片手で湯飲みをぐいっと飲干しながら巫女が問うてくる。
その存在は多くの妖怪が知るところ。
幻想郷の調停者である博麗の巫女は、清浄な気配を漂わせつつも全身から不機嫌さを隠そうともせず霊力を滾らせている。
「と、友達です~……♪」
「うーん、今代の巫女はとても怖いなー……」
ルーミアとふたりで、ふるふると震えながらどうにか魔理沙に会いたいと伝え、それを受けて巫女はため息をつきながら、「変なのばっかりが来る……やっぱり一緒に暮らした方が……」なんてぶつくさ言いながら、奥の襖を指し示している。
どうやら、私たち以外にも妖怪がお見舞いに来るらしい。
いちいち相手にして、安全かそうでないかを見極めているらしい巫女は番犬のようでものすごく怖い。
追い返しているのではなく、見極めて通している辺りが優しさを感じるけど。
「ま、魔理沙ちゃーん……大丈夫~?」
そうっと襖をあけて中を覗くと、すでに来ていたリグルが顔を上げてこちらに気が付いた。
部屋の中心には青色の浴衣を着て、布団から上半身だけ起こしている魔理沙ちゃんがリグルの後に気が付いて笑いかけてくる。
「あ、みすちーにルーミアも! わるいな、なんか心配かけたみたいで」
能天気を絵にかいたようなその笑顔をみて、まずは胸を撫でおろす。
よかった、思ったよりも元気そうだ。
というか、魔力切れで倒れるくらいでそんな、一大事にはならないか。
倒れたと聞いてから冷静じゃなかった心が、その様子を見て冷静さを取り戻してくれる。
「びっくりしたよー、倒れたって聞いてー」
「みんな大げさだぜ。魔力不足なんていつものことなのにさ!」
「元気そうでよかったわ~♪」
ちらりと傍のリグルを見るが、その顔は魔理沙以上に蒼白でこちらの方が心配になる。
ふとんの傍まで寄って、どうして無茶しているんだと事の経緯を聞いてみる。
「あー……。ちょっとね、私に才能がなくて」
たははー! なんて明るく笑うが「ははっ……」と言葉がそのあとに続かない。
「あ、あれ……」
ぽろぽろと、その目から大粒の雫が零れ落ちるのを見ると、私達は皆大いに慌てた。
「ま、魔理沙ちゃん! どこか痛いの!?」
「心が苦しくなるよ、その原因が憎くて仕方ない……」
「わあー! 泣かないで、よしよし、よしよししてあげるよー!」
「あ、はは! いや、ごめんごめん!」
そういって、布団で顔を隠しながら声色だけ取り繕って魔理沙ちゃんは強がりを口にする。
「ちょっとびっくりしただけだぜ、すぐに治るから心配しないで! っひ……、んん! き、今日はみんなありがとうな! すこし疲れが出たんだな、きっと明日には元通りだ」
嗚咽を隠すその子に、誰も二の句を継げすにいるとすぱーんっと襖が開かれて巫女がずかずか部屋に入って、私たちをポイポイと外へ放り投げた。
「今日はもう帰って」
それだけ言って、すぱーんとまた襖が閉め切られる。
「……リグル。どうして魔理沙ちゃんはあんなに泣いているの?」
博麗神社を見下ろしながら、3人で心配をしながら。
私はその原因に心当たりがあるだろうリグルに、ついつい視線が鋭くなってしまうのを自覚しながら問いただす。
「……あの魔法のことでね」
あの魔法というのは、あの日披露してくれた『マスタースパーク』のことだ。
曰く、それはやはり魔理沙ちゃんには全然合わない魔法、というか、その魔力に見合わないものだったようだ。
それでもそのうちに馴染むと、なぜか無暗に信じて魔理沙ちゃんは体を蝕むほどに魔力を使い果たしたそうだ。
「そんな……」
ただの馬鹿みたいじゃない。
そう思って二の句を継げずにいると、リグルはそのまま話を続ける。
「魔力を増やす方法はいくつかある。魔理沙はそのうちのひとつで、魔力を使い切って限界値を伸ばす方法を試しているんだ」
でもそれって。
肉体に依存する人間でも、死ぬほど辛い目にあうんじゃないかしら。
「私にもわからないけど、魔理沙には魔理沙の考えがあるらしい。倒れて魘されながら、幻想郷のため、だとか。みんなが変わらない為だとか。譫言みたいに言っていたよ」
「っそんなこと……!」
誰があの子を誑かしているんだ。
たかが一人の人間がどうこうなったくらいで、大勢に影響なんか起こるもんか。
「でも、私は魔理沙を応援したいと思っている……」
「……リグル?」
過去の自分の発言を後悔しながら、はやく止めるべきだったと思いを滲ませながら博麗神社を見下ろす私に、リグルが話を続ける。
「魔理沙は普段から臆病で、弱くて、ちっぽけな人間だけど。それでも涙を人前で見せないように、努力を隠して必死に足掻く、そういう人間だ。それが……」
きらりと夕日に目元を煌めかせて、自分もその思いを受けて同じように思っていると、そう感じている姿。
「人前で、決して見せなかった涙を堪えきれないほどに。悔しいって泣いているんだ」
思いに共鳴するように、ぎりっと拳を握るリグル。
私もその思いを聞きながら、どうにも遣る瀬無く心がざわざわと騒がしい。
そしてあるひとつの事を、いつからか考えていた事を言葉にする。
「魔理沙ちゃんは魔力を増やしたい、んだよね」
「ああ、そうだね」
「それなら、私に考えがあるんだけど」
*
「そんな大したことないのに!」
「まあまあ、いいからいいから♪」
すっかり良くなったという魔理沙が、いつもの魔女衣装で屋台に来てくれた日に。
私は準備していた快気祝いとして、ごはんを作ってあげることにした。
「今日はね、いつもの八目鰻じゃないのよ♪」
にこにこと笑顔で、炭から上げた焼きたてのそれを目の前に置いてあげる。
塩コショウで簡単に味付けをしたものと、たれをつけてじっくりと焼いたもの。
「美味しそうな匂いだな、これってなんなんだ?」
「それはね、焼き鳥だよ~」
「ぶっ! おい、笑えない冗談だぜ!」
「あははははっ! まあまあ、滋養強壮に良いんだから~♪」
冗談なんかではない。
それは紛れもなく、私自身だった。
私自身の妖怪としての本体は肉ではなく魂なので、肉体の損傷なんてすこし時間を掛ければ簡単に治る。
それに、力のある妖怪の肉は人間を強くする。
簡単に解決するし、そして誰も泣かない方法だ。
それを伝えると食べなくなってしまうだろうから、絶対に伝えないけど。
冗談みたいに笑ってあげて、口にするのに罪悪感を感じないように誤魔化していく。
*
表面上はにこにこと笑いながら、魔理沙ちゃんがそれを口に運ぶたび背筋が震えた。
感じたことのない、それは悦楽ですらあった。
私が、魔理沙の血肉になっていく。
その口から運ばれ、臓腑に至り体を作っていく。
体を作るのは食事だ。そのすべてに私が成れれば、私の体で魔理沙ちゃんを構成することになる。
つまり、この子は私にとって血肉を分けた、子供のような存在と言えるんだ。
「どんどん食べて、もっと大きくなってね♪」
全部、私で作り変えてあげたい。
妖怪として、私はその欲望に素直になる。
霧雨魔理沙は、私にとってそういう存在だ。
血肉を分けて生きてほしい、子供のような。
すべてを管理したい、恋人のような。
私を食べてほしい。
わたしで全てを満たしてほしい。
そういうどす黒い感情も自覚しながら、私はこの子に向き合っていく。
「……♪♡」
どろどろと湧き出る黒く甘い欲望を、その子のためだと理由をつけながら満たしていくのだった。
だぜ娘が一生気が付かないだけで今後もこういう話は出てくると思います。
状況によってはこの話だけイ甘エに引っ越しするかも。