「……なるほど」
簡単にこれまでの経緯を話し終えると、眉間を抑えながら紫が長い溜息を吐く。
つたない説明だったが、途中アリスや幽々子も口を挟んでくれてここに至るまでの経緯は話し終えたと思う。
「萃香はまったく……」
眉間を揉みながらパタパタと扇子で自分を煽ぐ紫。
最後まで聞いて、なんだか疲れた様子だ。
無言で聞いていた霊夢が私を、いや正確には私の魂が入った人形をぎゅーっと抱きしめて心配そうな顔をしている。
こんな顔をさせたいんじゃなかったのに。
ぎゅーっとされている分、心が苦しくなる。
人形で良かった、多分涙は浮かんでいない。
ぽんぽんとその腕を叩き、解いてもらいながら顔を見上げる。
「言っておくけど、あなたに魔理沙を責める権利はないわよ」
アリスがひょいっと私を取り上げ、うしろから抱きしめて声を掛ける。
「この子がどういう思いで追いかけているのか、すこしは想像するべきだわ」
「……」
無言の霊夢とアリスの間に、微妙な沈黙が下りた。
私は気まずくなって、つい声をあげる。
「お、おい。やめてくれよ喧嘩しないでくれ……」
「責める気はないわ。私の考えが浅かった。それは本当だもの」
そう言ってなんだか落ち込んでいる様子の霊夢に、アリスが驚いたように目を少し開く。
「あら殊勝な態度ね」
「魔理沙も私のことだから、そんなに無茶をするのよね」
アリスがその一言に顔を引き攣らせ、抱きしめる力がぎゅーっと強くなる。
なんだ、なんだ。
「こ、お、幼馴染の同じ人間だからよ。友情以上の思いはないわ! ないわよ、ね?」
「むぐむぐ……」
つよく抱きしめられて口が塞がれているので、否定も、肯定もできない。
そりゃあ一番は友情だけど、霊夢は家族のようなものなんだから! もっと色々心配とかあるぜ!
首を振って、意志だけは伝えてみる。
人形だから苦しくないけど、これ普通の体だったら痛いぞ。
「否定しているわ」
「ぐぬぬ……」
なんだか余計に不穏な空気が流れた。
「とにかく私も霊夢も予想外だったわ。そんな方法で関わってくるなんて。というか、危機感がないのかしらこの能天気人間」
紫がぱたんと扇子を閉じて、びしっとこちらをそれで小突いてくる。
ようやくアリスが腕で口を塞いでしまっていると気が付き、拘束を緩めてくれたので私もようやく話ができる。
「の、能天気人間!? いやそんなことより! やい霊夢、萃香から聞いたぞ!」
「な、なによ……」
「私の事を家から出さないようにするなんて、ひどいじゃないか!」
「それは……! いや、だってあんたが……」
「私がそんなに足手まといだっていうのかよ! ひどいぜ!」
結構気にしているんだぞ!
実際はそりゃあ足手まといだよな、と納得できる部分が多いんだけど。それはそれでモヤモヤしていたのでこの際言いたいことを言ってやろう!
「こっちはお前に置いていかれないように必死なんだぜ! なのに、置いていくなんてひどい!」
言っていて自分が情けなく感じるが、こういう時は人形の体で良かったと思う。
感情が高ぶっても、涙は出ないから言葉が詰まらない。
「ちょっと強いからって、なんでも全部ひとりでやるなよ! そりゃあ頼りないかもしれないけど、少しくらい頼ってくれよ! 心配なんだよ、怖いんだよ! だからもう置いていかないでほしいんだぜ……」
なんだか最後はしりすぼみになってしまった。
涙は出ない筈だけど、どんどん自分が情けなく思えてきたのだ。
懇願しかできないのが情けない。
私はちっとも頼りになる人間じゃないから。
異変解決とか妖怪退治っていう部分で、大きく遅れているのは事実だ。
私は『魔理沙』と違うから、色々な歩みが遅い。うん、ちょっとだけ。
自覚しながらもふて腐らずに頑張っていこうと思えるのは、私も幻想郷が大好きだからだ。
私が知っている幻想郷が変わってしまう可能性があると気が付いてから、ゆるゆる生きることはやめた。頑張らないとって気合いを入れた。
『魔理沙』になったからには、色んなことに手を伸ばす事ができるんだから。
周りに迷惑をかけてしまっていると気が付いていても、わかっていても。
私は私のわがままで、幻想郷の魔理沙になる為に歩みを止める気はない。
いろんな思いがぶわーっと溢れてきて、涙はでない筈なのに言葉が詰まる。
ぱくぱくと言葉にならないまま口を開けたり閉じたりして、結局それ以上は何も言えなかった。
みんな、しーんとして何も言わない。
「……ごめん」
霊夢が小声で謝ってくる。
私はなんだかそれにも悲しい気持ちになった。
謝ってほしかったのに、謝ってほしくない。やっぱり私は我儘だった。
「あー……それで? この先には行くの?」
頭を掻きながら気まずそうに声をかけてくるのは、赤いモンペが似合う銀髪の少女だ。
私はそこでようやく、霊夢たちに見覚えのない同伴者がいる事に意識が向いた。
「えっと……」
見上げ、銀髪の少女と目が合う。
私は実際に目にしたことがないが、この少女を知っている。
というか、EXボスだった。なんで今この場にいるんだ。
「私はただの案内人さ」
「あ、その……私は魔理沙だ。霧雨魔理沙。けーね先生が、竹林の案内人って言っていたのは……」
「ああ、私の事だろうな。巫女を案内したら私は帰るけど、あんたらはこの先に行くの?」
よく考えたら不気味だろう私に臆さず話をしてくれるのはありがたい。
ただぶっきらぼうに話をされていて、なんとなく壁を感じるのは人見知りだからなのだろうか、私が今は人形だからか。
「魔理沙だぜ。私は魔理沙って呼んでくれ!」
「わかったって。私は藤原妹紅さ、好きに呼びなよ」
「妹紅だな。わかったぜ」
にっと人好きのする笑みを浮かべて妹紅が笑って、その顔を見ているとよく似た人を思い返す。
そういえば、この笑顔をどこかで見たことある気がする。
「あれ、もしかして幽霊楽団のライブで……」
思い当たりを口にすると、それで向こうも気が付いたのか、先ほどまでの壁を感じる態度が崩れて私を指さして大声で反応する。
「あーっ! そういうお前はあれか、ライブでよく見る……!」
「やっぱりそうだ、あのお姉さんだ!」
「お前、なんでそんなに小さくなってるんだよ! って、そうかさっき話してたな」
わぁっと俄かに盛り上がり、こほんと咳ばらいをしたアリスに止められた。
「顔が広いとは思っていたけど、妖怪以外にも知り合いがいるのね」
*
「それじゃあ私は先に戻って、魔理沙ちゃんの為に後で食べる八目鰻を焼いて待っているわね♪」
「私も案内はここまでだな。無事を祈るよ」
「ああ、またな! リグルも、ありがとうな!」
「……助けが欲しければいつでも言ってね。すぐに駆け付けるから」
そういって妹紅、みすちー、リグルは永遠亭が見え始めてから帰路に就いた。
みすちーは無事に私を霊夢に合わせるという目的を達成したこと、妹紅は竹林の案内だけの約束なので、これ以上は手を出さないみたいだ。
妖怪が起こした異変の解決は人間の手で行う必要がある。リグルは最後まで手伝ってくれると言っていたが、私の方からお願いしてみすちーを無事に屋台まで送り届けてもらうことにした。
「少し減ったとしても結構な人数ね」
紫が呆れたように言う。
永遠亭の攻略にはアリスと私、霊夢と紫、幽々子と妖夢が残されて、各々やる気に満ちている。
「これから妖怪たちは気軽に異変を起こせないわね。怖い巫女と、色んな妖怪を引き連れて来る娘がいるんだもの」
「あら、逆にそれを見たさに異変を起こすんじゃない?」
「馬鹿な事を言ってないでさっさと行くわよ。あんまり夜を長引かせたくないんだから」
紫、幽々子、霊夢がそれぞれ好き勝手言いながら浮かび、私もアリスに抱えられながらそのあとを付いていく。
屋敷の様子を見に行っていた妖夢が近づいてきて合流し、私たちはついに永遠亭の敷地に踏み込んだ。
*
「先ほどはどうも、ご挨拶だったね」
「ああ、悪かったよ。魔理沙の知り合いの妖怪たちだったんだな」
「こちらこそ悪かったわ~♪」
帰路に就いた道中で、人妖は言葉を交わす。
欠けた月の影響で妖精たちは騒いでいるが、その影響を全く受けずに3つの影は悠々と竹林を飛んでいた。
「おいおい、ただの人間相手にそんなに肩肘張らないでよね。物騒じゃない?」
リグルは言われて、知らず緊張していた全身を弛緩する。
友好的な相手にする態度ではなかったなと自戒し、苦笑しながら謝罪する。
「いや、あなたの炎があまりにも理想的だったので思わずね」
「理想的? 何の話なのさ」
「ああ、いや。これは身内の話で申し訳ないんだが……」
言って、一区切り。
「最強を志す友達がいてね。私も彼女も、炎を克服したいと考えていたものだから」
好戦的な笑みを浮かべながらリグルはある氷精を思い浮かべて話をする。
「へえ。私の炎を見て。挑戦できる、勝てると、そう思ったの?」
その笑みを向けられて、合点がいったという様子と、甘く見られていると感じたのか片眉を上げて好戦的な笑みを返す妹紅。
「難敵こそ挑み甲斐があるというものだよ。後日で構わないから、弾幕ごっこに付き合ってほしいな」
*
永遠亭の中は多くの妖怪兎たちが警戒しており、物々しい様相だった。
「困ったわねぇ。弾幕ごっこじゃないなら一掃できるんだけど」
「幽々子は絶対にやめてくれ!」
頬に手を当てて物騒なことをいう幽々子を止める。
そろそろこういう場所で活躍しないと、今回の異変中も活躍できない気がする私は、アリスの手を叩いて前に出てもらった。
あによ、なんて言いながらこちらを見る霊夢に、ふふん! と笑みを返す。
背中に背負っていた八卦炉を前に出して、アリスにも声を掛けてしっかりと準備する。
「ここは私たちに任せてもらおうか!」
「……私達に、ね」
「いい加減、なにかして関わっておいた方が良いわよね」
霊夢は含みのある言い方をして、アリスが私の内面をずばり言い当ててくるのを黙殺する。
人形の体だけど、魔力の運用は普段と変わらないはずだ。
なんなら箒を使わないでアリスに掴んで貰っているから、そっちに意識を裂かなくていい分全力を出せる。
「いくぞ兎たち! 私が相手だ!」
わーっと飛び掛かってくる兎たちを見据え、アリスの展開した人形たちが前に出るよりも早く、私は体中の魔力を八卦炉に送り込んだ。
「偽恋符『マスター……」
言いかけて、魔力の様子がいつもと全然違うことに気が付く。
慌てて八卦炉の先を兎たちから空に向ける。
「うわぁ!」
八卦炉から放たれた極光は空に向かい、その光を追う様に星形の弾幕が次々に放たれる。
私が思い描く、そして1回も成功したことのない本物のマスタースパークだ。
しっかりと魔術式に魔力が乗り、中途半端には終わらず本領を発揮した全力のマスタースパーク。
突然放たれたそれに、すっかり驚いてしまった。
「どうしたのよ魔理沙、なんで兎たちに撃たないの?」
アリスはその様子をおかしそうに、悪戯が成功した子供のようにニコニコと笑顔でこちらを揶揄ってくる。
なんだこれ……!
考えてみたら、そりゃあ人形の体はアリスの魔力で動いているんだから、同じ運用でも出力が違うのか。
アリスがこちらに魔力を回す分、私の魔法の威力が底上げされている。
「な、なんだよこの威力、知らない魔法かと思ったぜ!」
「ま、魔理沙が攻撃……?」
「あれがマスタースパーク……? 冗談でしょう、私が受けたのと威力が違い過ぎる……」
「魔法というより魔砲。いやね、あの花の妖怪に影響受け過ぎよ」
「あらぁ、だけどあの星の追尾弾幕は綺麗よ」
各々好き勝手言いながら品評していると、兎たちの中から周囲より少しだけ大きい人型が慌てて飛び出してきた。
ピンクのふわふわしたワンピースに、にんじんのアクセサリーをつけた可愛らしいうさ耳の妖怪。
見たら幸福が訪れると言われる、そんな妖怪兎だ。
「下がれ、下がれ! あれに撃たれたら、お前たちひとたまりもないぞ! みんな下がってー!」
大声で喧伝し、それを聞いた妖怪兎たちは、わーっと屋敷に入ったり竹林に身を隠したり大騒ぎ。
バタバタと騒動が終わると、ぽつんと私達だけが取り残された。
「……とりあえず中に入ろうぜ」
多分妖怪兎たちには誤解されてしまった。
静かになった庭先で、なんだか衝撃を受けている霊夢と妖夢に声を掛けてから私たちは中に入っていくのだった。
*
「衝撃的な光景だったわ……」
「ええ。複雑な心境です……」
疲れた様子の霊夢と妖夢が揃ってため息を吐き出し、永遠亭の妖怪兎たちをバッタバッタと倒して進む。
日本家屋然とした屋敷だが、やけにその廊下は長くて異変の時の紅魔館を思い起こす。
「驚異的な魔法だったけど、次は魔理沙の星の魔法で見てみたいわねぇ」
「私だってマスタースパークよりシュバリエとかミルキーウェイを見たいけど、あくまで選ぶのは魔理沙なんだもの。仕方ないじゃない」
「すごい技術ね〜。私の霊力を使ってもらう事もできるの?」
「理論上は可能よ。だけどそれを扱うには……」
霊夢たちが道を開いて、それの後を悠々と飛びながら紫、アリス、幽々子は話し込んでいる。
私自身も衝撃だったけど、それを見たみんなの方が色々と言ってて置いて行かれている気分だ。
そりゃあ借り物の力。私自身の魔法や魔力ではないから、あまり面白くない。
ぶすーっと膨れていると、紫にほっぺたを押されてくすくす笑われる。
「可愛くないわよ、そんなに膨れ面してぇ」
「うるさいなぁ。そのうち1人でもできるようになるんだから、真っ先に紫を倒しに行くからな」
「あら怖い」
くすくす笑って、楽しげに日傘をくるくる回す。
私は? なんて声をかけて来る幽々子に、幽々子は悪い幽霊じゃないだろ、と行ってから前を向き直る。
いい加減廊下が長すぎる。
「そろそろお出ましね」
丁度霊夢がそう言って、無造作に空中を掴む。
掴んだその掌を開くと、手の中のそれはうっすらと鈍く光を反射した。
段々端から光の粒子になって空中に溶けていくそれは、私には鏃のように見えた。
「なんだそれ?」
「さあね。また碌でもないものでしょ」
「すべての扉は封印したわ! もう姫は連れ出せないでしょう?」
廊下の横、室内の襖をすぱーんと開けて声と共に大きな人型の妖怪兎が豪快に出てきた。
特徴的なのは、白いブラウスに赤いネクタイ、まるで学校の制服みたいなブレザーにミニスカート、よれよれの大きな耳だ。
長い薄紫の髪の毛に真っ赤な瞳でキッとこちらを睨みつけながら、しかしその目に悲壮な決意を宿しながら、こちらに人差し指を突きつけている。
「あなたが月の尊きお方でも、私はもう地上で生きていくと決めた! この地上を密室にする師匠の秘術を、どう抜けたのかは分かりません! ですがこれ以上は進ませない! 姫の元には向かわせない!!」
そう言って突きつけた指を、アリスに向けている。
え、いや、これって……。
「え、私?」
なんでだか、その視線や指の先はアリスに抱えられている私にすべて向いているようだ。
紫がまた大きな疑問符を浮かべて頭を抱えた。
諸事情(PC壊れた)により執筆速度低下中
スマホだと会話文しか書けない……
本編書いていて進みが遅かったら、次回は会話文とか多めの甘めの閑話になってしまいます……ザンネンダナー
7月中には永夜抄終わらせて花映塚に入りたいのに……はよきて天狗様