だぜ娘奮闘記!   作:元掃除道具

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本 編 開 始


その7 朝を迎えに

「お、帰って来たな」

 

 目を開けると大きな角がまず見えた。

 そのあと、息を吸おうとしたら驚き咽てしまった。

 

「ゆっくり息を吸え。すこし気持ち悪いだろうけど、すぐに慣れる」

「ごほっごほっ……! ぁ……ぃ」

 

 家だ。

 体が重く、頭がぼんやりとする。

 ランプの明かりがうっすらと点いている薄暗い部屋。

 眠りから覚めた感覚と、久々に感じる体の重み。

 さっきまで着ていたメイド服に割烹着ではない。

 人形になる前に着ていたいつもの服装でもなく、寝間着でベッドに横になっていた。

 

「すいか……」

「おう、萃香さんだぞ。無事に戻ってこれてよかったな」

「よか……」

「おう、良かったなぁ。ところで、お客さんが外にいるんだけど、通して大丈夫そうか?」

 

 言葉がうまく口から出ない。萃香が傍に居てくれる。

 なんだか介抱するのを慣れている様子で、ベッドから半身だけ起こしてくれた。

 背中をさすられながら、呼吸が落ち着くのを待ってくれる。

 

「きゃ、く……?」

「ああ。お前を心配して来てくれたみたいだ。外に待たせているけどな」

「ま……あう……」

「会えるのか? もうすこし落ち着いてからの方が良いんじゃないか?」

「らいじょうぶ……」

「うーん、全然大丈夫そうに見えないんだけどねぇ」

 

 まだ頭がぼーっとする。

 いつもの魔女帽子をかぶせてくれた萃香が、帽子ごと頭をぐりぐりと撫でてくる。

 

「まあ、お前が良いなら呼び込むか。おい、あんまり騒がしくするなよ」

「魔理沙ー!!」

「騒がしくするなって……」

 

 扉を開けてまっさきに中に入ってきたのはフランだった。

 虹色の宝石が翼できらきらと光っていて綺麗。

 だーっと近づいてきて、ベッド脇へ飛び込むようにしてこちらの様子を上目で伺ってくる。

 

「大丈夫? なんだか、大変なことをしているって聞いて……」

「フラン、落ち着いて入りなさい」

 

 そのあとにパチュリーが入ってくる。

 外で見るのは珍しい。

 寝起きの頭で二人を認識して、友達が部屋に来てくれるという珍しい体験にまず嬉しさを感じていた。

 しかも心配して来てくれるなんて、本当に嬉しい。

 

「へへ……」

 

「なんで無防備に笑っているのこの子、攫われたいの?」

「おい吸血鬼妹、手を出したら叩き出すぞ」

 

 *

 

 頭がはっきりしてきたので、ようやく二人の話を飲み込み始めた。

 

 アリスが事前に話をしていて、パチュリーは私の様子を見に来てくれたらしい。

 レミリアと咲夜が出かけていたので、フランに見つかっても振り切れずそのまま連れて来たと言っていた。

 

「うん、問題なさそうね。人形の体はどうだったかしら?」

「うーん。どうって言われても……」

 

 ほとんど抱きかかえられて移動していたからなぁ。

 新鮮な体験だったとは思う。体は軽いしマスタースパークも撃てたし。

 

「そうだなぁ。これっきりでいいな」

「そう」

 

 お腹も減らないし、痛みもない。なんだか夢を見ているみたいだった。

 短くパチュリーが感想を受けると、安心したようにふぅっと息を吐いて、私の手をポンポンと叩いてくる。

 

「貴重な経験をしたわね。これが魂の知覚のきっかけになるといいわね」

「パチュリーって、偶に本当に先生みたいなことを言うよな」

「元々あなたの先生でしょ。もっと敬いなさいよ」

「あ、そういえば異変の最中に、寺子屋へ通っているときの先生に会ったぜ」

「へえ! 魔理沙が人間の里にいた時の先生?」

 

 フランがそれには食いついてきた。

 

「ああ。全然通っていなかったから、私の事なんて忘れていると思っていた。だけど覚えていてびっくりしたぜ」

「ねえねえ! 小さいときの魔理沙ってどんな子供だったの?」

「えー、そうだなぁ」

 

 小さいときかー。

 私ってどんな子供だったんだろう。

 ずーっと霊夢に付き纏っていたな、あとこーりんにも。

 

「霊夢とか、けーね先生に聞いた方がいいかもなぁ」

「ふうん、それじゃ今度一緒に会いに行きましょう!」

「いいぜ、付いてきてくれるなら私も会いに行きやすいし」

 

 やったぁ、デートねー! なんて喜んでいるフランを見て、人心地ついて窓を見る。

 窓際に置いた椅子に腰かけた萃香が、こちらを見ながら瓢箪を傾けてお酒を飲んでいる。後ろに見える窓にはまだ外の月の光が窓枠に影を作っている。

 

「あれ、そういえば異変は解決されたのか?」

「さぁねぇ。まだ相変わらず月はあの様子だけど、そのうち元に戻るだろうさ」

「え、まだ間に合うかな!?」

 

 慌ててベッドから立ち上がって、窓際に駆け寄って外を見る。

 月は変わらず、わずかに欠けていて満月ではない。

 さっきまで人形の体で見ていた満月とも違う。

 

「ああそうか! 私途中で動けなくなったんだ!」

「あら、そうだったの」

「じゃあお姉様も霊夢もまだ帰ってこない……ってこと!?」

「おい吸血鬼妹、手を出したら叩き出すぞ」

 

 こうしてはいられない!

 慌てて準備をするために戻って、いつもの魔女衣装をクローゼットから取り出す。

 

「着替えるから、1回部屋の外に出てくれ!」

「いや大丈夫。どうぞ着替えて」

「いいから、出てろ!」

 

 *

 

「いや駄目だよ。今日は魔理沙を家の外に出さないって約束なんだから」

 

 困ったように眉を下げた萃香が、私の箒を取り上げて扉の前に立っている。

 

「もう日付なんてとっくに過ぎているぜ!」

「そんなの証明のしようがないだろ、この家には時計がないんだから。外だってあの様子だし、月と星の位置で時間を測ることもできないよ」

 

 頑固者!

 せっかく着替えたのに、外に出ることもできずに私は地団駄を踏んだ。

 

 フランは私が荒らしたタンスを漁ってへー、とかふーん、とか全然こちらには興味がなさそう。

 パチュリーも私の部屋の蔵書とか、書き溜めた研究書を読んで視線も寄越さない。

 

「それにさぁ。曖昧だったけど、私は今回の報酬もまだ貰っていないぞ」

「ほ、報酬?」

「ああ、アリスが報酬を受け取らないならこの体を守っていた件に関しては貰わないよ。だけど、ここから先は話が別だろう?」

 

 ぎくりとする。

 そういえば、そんな話もしていたっけ。

 

「だ、だけどそれは私の我儘というか、萃香が力を貸してくれるならっていう話だよな」

「おいおい薄情だな。私は霊夢との約束があるのに、その隙間を縫っているんだぜ?」

「う、それは……たしかにそうだよな」

 

 我儘を言っているのは確かに私の方だ。

 たぶんそのうち、異変は解決するのに。皆のところに行って、一緒に解決した気になりたいなんて。

 

「そうだろうそうだろう。それじゃあ、わかるよな?」

「う、うん……」

 

 腕を組んでいる小さな鬼が、箒を扉に立てかけてふふんと胸を張る。

 

「それじゃあ頼むよ!」

「じゃあ……」

 

 言って、私はポケットから小さな宝石を取り出した。

 私が差し出せる最も価値の高い物は、これくらいしか思い浮かばない。

 

「……ん?」

「これ、魔法の森のキノコで作った魔力結晶なんだけど……」

「……ん?」

「宝石っぽくできたから、大事にとっていたんだ。これくらいしか今はないけど、もっと用意するから……」

「……ん?」

「あら、綺麗にできているわね。純度の高い魔力、とても綺麗だわ」

 

 後ろからパチュリーがそれを覗き込み、褒めてくれた。

 嬉しくなって、だろ? なんて得意げに笑う。

 

「いや、ちがうって。接吻の話だよ」

「は?」

 

 呆れたように萃香が言った瞬間、室内の温度が上がった。

 温度の上がった方を見ると、クローゼットを漁っていたフランが私の普段着を握りながら萃香を睨みつけ、その両翼からは魔力が目に見えるほど溢れ出している。

 

「不当な対価を要求する悪徳の鬼?」

 

 パチュリーも、私を庇うようにぎゅっと抱き着いてくる。

 ふよんふよんと柔らかいパチュリーが、スキンシップを取ってくるのが珍しくてドギマギしてしまった。

 

「ああ、やっぱりこうなった……!」

 

 萃香が頭を抱えた。

 

 *

 

「とっくに日付は超えているんだから、その約束はすでに履行済みよ」

 

 パチュリーが浮かべた魔法の疑似天体が手の中で消え、萃香を論破してふんっと息を吐く。

 ぐぎぎ……と悔しそうな様子だが納得してしまっているのか、萃香はそれ以上なにも言わずにぐいっと瓢箪で酒を呷った。

 

「しかたない……。報酬は次の機会を狙うしかないな」

 

 はぁーっと酒臭い息を吐き出して朗らかに笑い、がはは! なんてさっきまでの表情が嘘のようだ。

 

「えっと、じゃあもう外に出て良いって事?」

 

 途中から置いていかれてしまった私は、横で同じように首をひねっていたフランと一緒にパチュリーを見た。

 

「ええ、この鬼の屁理屈はおしまい。あなたを縛るものはないわ。逆に言うと、守る約束も終わりってことだけど」

「仕方ないよな! まあ難易度の高いお宝こそ狙う価値があるってことだな!」

「報酬っていうか、お前ちゅーしてほしいだけじゃん……」

 

 自分を安売りするつもりはないけど、幻想の鬼が動く理由にはならないだろ。

 よっぽどこの魔力結晶の方が、一般的な価値があると思うんだけどなぁ。

 

 「さて、それじゃあお姉様たちのところに行くのよね!」

 

 フランはそういって立ち上がり、私の手を取って部屋の扉を開けた。

 そのまま玄関に向かい、外に歩いていく。

 後ろを何も言わずにパチュリーと萃香が付いてきて、なんだかんだ優しいみんなで迎えに行こうかという流れみたいだ。

 

「あ!」

 

 外に出て月を見上げると、欠けた月ではない本物の月が浮かんでいる。

 どたばたしているうちに、異変が解決してしまったようだ。

 

「おー、夜が明けていくぞー!」

 

 萃香が東の空を指さすと、夜の暗さが異常な速さで取り払われていくのが見えた。

 時間的にはもう朝なんだから、今まで暗かったのが異常なんだけど。

 あっという間に朝になってしまう、どんどん夜の気配は薄まっていく。

 

「あわわ、急いで向かわないと!」

 

 箒に跨って、さて飛ぶぞと思ったら後ろにフランが座ってくる。

 

「よし、いきましょう!」

 

 自分で飛べるくせに、甘えんぼめ。

 気にせず飛び上がると、途中でパチュリーも乗ってきた。

 

「疲れたから私も乗らせてもらうわ」

 

 面倒くさがりめ。

 

「よーし、ついでに異変の首謀者でも見ながら酒を飲むかー」

 

 右肩で小さな萃香が声をあげた。

 いつの間にか潜り込んでいたのか、体を小さくして私につかまっている。

 みんな、自分で飛ぶ気はないみたいだ。

 

「よーし、急いで竹林に向かうぞー!」

 

 着くころには、まだ皆いるだろうか。

 もし帰っていたとしても、永遠亭の妖怪たちにみんなを紹介してみよう。

 人形の姿の時に変な勘違いをしていた鈴仙にも、きちんと話を聞きたい。

 

 よし!

 いつもよりも楽しい気持ちだ、眠っていたようなものだからなのかな。

 清々しい朝の気配を切り裂きながら私たちは竹林に向かった。




永夜抄編はあと2話で終わり。
そのあとは花映塚なのか、一旦短編集を駄々書きするのか

そうだ、アンケートとろう!
そういうことでよろしくお願いします。

次回(永夜抄終了後)更新のアンケート(永夜抄その9掲載までで締め切り)

  • すぐに花映塚
  • 本編時系列までの短編たくさん
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