だぜ娘奮闘記!   作:元掃除道具

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幕間1 晩夏は団子よりかき氷

 月の異変は人間の里への影響もなく「そういえばその日は、朝が遅かったかもなあ」なんて、誰も気にしなくなった頃。

 まだまだ残暑が残る幻想郷では、今日も元気に陽光が降り注いでいた。

 そこら中にある木陰やベンチで涼をとる町の人に混ざって、最近は里の中で妖怪も見かけるようになってきた。

 といっても、ほとんどの妖怪は人間のふりをして紛れ込んでいるので、パッと見てそれとはわからない。

 私も顔見知りや、特徴が残っている妖獣くらいならわかるけど、よく溶け込んだ妖怪は判別ができない。

 

 ミスティアとかリグル、文のように見た目ですぐにそれとわかる妖怪もいれば、急に首が取れて空を舞ったり、大きな唐傘からばぁ! なんて舌をだして驚かせてくるやつらもいる。

 そいつらに関しては普通にしていれば、見た目ではわからないのだ。

 

 私は背負っていた薬箱を地面におろし、木陰のベンチに腰を下ろす。隣で暑さにすっかり参ってしまった輝夜が寝そべるので、団扇でそれを扇ぎながらに声を掛けた。

 

「輝夜~、大丈夫か?」

「あっつ~い、かき氷たべた~い……」

「永琳たちに頼もうぜ。ほら、あと少しでみんな戻ってくるから」

 

 ぐったりと顔を伏せ、私と同じような格好をしている輝夜を励ます。

 いつもの桃色の上衣に赤いスカートではなく、薄紺色の和服の姿だ。たすき掛けをして腕を思い切り捲っている姿は、見る人にお姫様っぽくない快活な印象を与える。

 紺色の和装で、帯は黄色。私は真逆で、黄色い和服に帯が紺色を借りている。

 帯飾りに星の模様をお揃いで付けようって言われて、友達とのお揃いって良いなぁなんて同じ意匠の星と月を付けてみた。

 輝夜の真っ黒で綺麗な髪は結い上げて、つばの小さな丸い麦わら帽子を被っている。

 麦わら帽子まで一緒の格好が良いけど、私は金髪で輝夜は黒髪。印象は大きく違う。だけど町の人は姉妹か、なんて微笑ましく見てくれている。

 姫様たっての希望で、私と輝夜は同じような服で人間の里で薬を売り歩いているのだった。

 といっても、輝夜は今日が初めての薬売り体験だ。

 たまには遊びに、いやお仕事に行きたいなんて言うので、私が目付け役として一緒に薬を売っている。

 

 輝夜は人間、ではない枠組みの人間だ。

 宇宙人みたいなものだと思っているんだけど、その種族を蓬莱人と名乗っている。

 蓬莱人というのは所謂不老不死の人間で、その実態は肉体に生命が依存せず、致命傷でも何度でも蘇る。

 蓬莱の薬というのがその作用を引き起こし、寿命や死の概念から解き放たれるらしい。

 

 まあ、そんな蓬莱人でも暑さには参ってしまうみたいだけども。

 

「熱中症にならないように、お水もちゃんと飲むんだぜ」

「うぁ~、飲ませてくれないと嫌だ~」

「仕方ないやつだなぁ」

 

 竹筒の水筒を取り出して、栓を抜いて魔法をかけてあげる。

 元々保温保冷の魔法をかけていたそれに、すこしだけ氷を発生させて、ほら飲めよ、なんて口元に持っていく。

 

 ん~! なんて嫌々口を開けずに首を振る輝夜に、なんだ何が不満だと困っていると、さっきまでの草臥れた様子が嘘みたいににっこり笑って口を開いた。

 

「くちうつしで」

「姫様ー! ほら私のお水を飲んでくださいほらほらどうぞご遠慮なく!」

「ごぼぼぼぼっ! い、いなば……!」

 

 いつの間に近くにいたのか、うどんげが自分の水筒から、見た目以上の水量をばしゃばしゃと出して輝夜の顔を洗っていた。

 ほらほらほらぁ! なんて目を真っ赤にして言うものだから、見た目がちょっと怖い。

 

 少し離れたところに永琳がいる。こちらに歩み寄りながらため息を吐いた。

 

「輝夜、うどんげをからかわないの。魔理沙も、輝夜に隙を見せちゃだめよ」

 

 え、私も悪いのか? 全然納得いかないけど。

 うむむと口をへの字に曲げると、それを見ながら永琳がけらけらと笑った。

 

 *

 

 こうやって薬を売り歩くのも、もう何度目かになると慣れたものだ。

 最初の頃は霊夢も付いてきて博麗の巫女お墨付きなんて言いながら売り歩いたけど、すっかり人間の里に馴染んでからは霊夢もたまにしか来なくなった。

 

「それで、魔理沙はどう? 薬は売れた?」

 

 うどんげが、こちらにずいずいと体を寄せながら薬箱の中身を確認する。

 うむ、と唸りながらその中身をチェックして、ちっとも減っていない中身を納得がいかなそうに見ている。

 

「なーんで売れてないのよ!」

「だってぇ」

「だってじゃない! なんで普通の人間の方が売れないの!」

 

 それは本当に解らない。

 多分一緒に売り歩いているやつが悪い。

 

 輝夜はとても美人で、女の人にも嫉妬すら抱かせないような美貌だ。

 私よりもすこしだけ背が高いから、自称姉だなんて言って里の人に話をする。

 やせっぽっちの子供と超絶美人のお姉さんだったら、どっちから薬を貰いたいかなんて明白だ。

 

 というか、私が里の人間相手にあまり話ができないから悪いのかもしれない。

 さっとスマートに効能を伝えられる輝夜が、とても有能に見えるんだろう。

 

 お嬢ちゃんも、お姉さんの姿をみて頑張りな! なんて声を掛けられる事がとても多いのだ。

 

「まったく、不器用なんだから。この後は私と一緒に行くわよ、姫様はもう終わり!」

「ふふふ。私お姫様を辞めたら訪問販売で生計を立てられる自信があるわ!」

 

 にこにこと満足そうに笑いながら、手元では忙しなくかき氷をじゃくじゃくと崩している輝夜。

 

「ったく聞いてらんねぇよ。人生楽しみすぎだろお前」

 

 手車を回し、削り器でゴリゴリと氷を削りながら悪態をつくのは妹紅。

 

「いいのよ、こういうのも永い人生の醍醐味でしょう?」

「嫌だねえ、開き直って余生を過ごしているばあさんってのは。若作りかよ、見苦しいなぁ。うぇぇ」

「ほーう。焼き鳥が人の言葉を話しておるわ」

「なんだぁ? てめえ……」

 

 寺子屋の近くにあるあばら家で、私たちは妹紅が作ってくれるかき氷を頂きながら涼をとっていた。

 今日はこのあと、けーね先生にお薬を渡してからまた東西に分かれて里で薬を売り歩く予定だ。

 妹紅は慧音先生に用事があるらしく、偶々近くで会ってこうして世話を焼いてもらっている。

 なんだかんだ、輝夜と喧嘩しながらみんなの分のかき氷を削ってくれる妹紅は本当にやさしい。

 

 仲良く喧嘩する2人が口汚く言い争いをするが、それもすっかり慣れた日常の一幕。

 なにがツボに入っているのか、ケタケタとよく笑う永琳を見ながら私もかき氷を口に放り込んだ。

 

 *

 

「花火?」

「そう、あの永遠亭の輝夜がなーんか企んでいるのよねぇ」

 

 夜ご飯を霊夢と一緒に食べながら、明日は満月だな~なんて話をしていた時のこと。

 月見をしながら花火を眺めないか、なんて、霊夢から誘われたのだ。

 

 花火なんて、人間の里でもそう見ることはない。

 日中には永遠亭の皆はそんなことを一言も言っていなかったのに、どうやらなにか考えているらしい。

 

「花火は元々、災厄除去の祈願として……って、まあそんなことはどうでもいいわね」

「うん? じゃあ霊夢もなにかするのか?」

「いーや、なんにも。妖怪たちがなにか企んでるみたいだけど、私達には関係ないもの」

 

 そういえば、すっかり暦の上では秋の頃だ。

 春が遅かったから、夏が随分と尾を引いている気がしていた。

 けれど今も陽が落ちたら昼間の暑さが嘘みたいに穏やかな気温で、そよそよと入ってくる風が心地良い。

 

 日中はまだまだ暑いけれど、こうして食卓にもさつま芋が出てくるくらいには季節は移ろいでいた。

 

「ふうん。もちろん行くよ!」

「まあ、魔理沙が行くなら付いていってもいいけど」

「それじゃあ霊夢、一緒に行こうぜ!」

「……ええ、いきましょうか」

 

 ふんわりと笑みを浮かべ、なんだか嬉しそうにしている霊夢を見ているとこちらも嬉しくなる。

 しばらくニコニコとしながら近況の話をしていると、すすーっと遠慮がちにちゃぶ台の上の空間に隙間がひらいた。

 何だろうと見ていたら、そこから出た手が箸で私のお芋をひとつ取ってまた虚空に消えた。

 

「あ、紫!」

「はあい、霊夢に魔理沙」

「私のお芋だぞ!」

「意地汚い妖怪ねぇ……」

「あらぁ、ごめんなさいねお二人とも。邪魔するわ~」

 

 するりとまた空中に隙間がひらく。

 そこから悪びれもせず、箸を片手にもぐもぐと口を抑えて紫が半身を表に出した。

 

「うん、うん。秋がきたわねぇ。今日は霊夢がごはん当番なのかしら?」

「わたしのー!」

「はぁ……。紫、何の用なのよ」

 

 ちゃっかりと自分の分はしっかりと確保しながら、霊夢が呆れたように紫の手を箸を持っていない方の手で叩いて注意する。

 

「明日の花火のことなんだけどね、一緒に肝試しもしないかしら?」

 

 えいえいっとまだ私のおかずを狙う紫を、こちらも箸でけん制していると霊夢がお行儀が悪いわよ、なんて注意してくる。

 私は悪くないのに……。

 

「肝試し? あんたみたいなのが沢山いるこの幻想郷で?」

「誉め言葉として受け取るわね」

「肝試しか……」

 

 そういえば、永夜抄では肝試しをしていた気がする。

 どういう始まり方だったかは思い出せないけど。そうかこうしてEXが始まるんだ。

 

「いいじゃん、納涼だな! それで、場所はどこでやるんだ?」

「うふふ、魔理沙はそう言うと思っていたわ~。それで霊夢が断れなくなることもね」

「……まあ、いいわ。なんか企んでるなら、踏み潰してやるけど」

 

 ぶすーっと頬を膨らませる霊夢に、まあまあ、なんて宥めながら紫。

 

「今回は親切心よ。ほら、異変解決で頑張ったじゃない? 魔理沙も霊夢も、新しい浴衣を買ってあげるから! 明日は呉服屋に行きましょうね」

「べつに、いつもの服で良いけど」

「私も別に……」

「まあ、なんて可愛げのない! 明日着る服も全部隙間に捨ててしまおうかしら」

「それは勘弁してくれ……」

 

 親切は押し付けるモノじゃないぜ。

 楽しそうに笑う紫に毒気を抜かれていると、なんだか霊夢も楽しみにしてそうだと気が付く。

 

 霊夢は普段から変わらず巫女衣装だもんな。それが戦闘服であり、普段着であり、礼服だ。

 たまには霊夢も可愛い浴衣とか、おしゃれな服を楽しんでほしい。

 

「あ、じゃあ私が霊夢の浴衣を選んであげるぜ!」

 

 ぽんっと手を叩いて、私もせっかくなら楽しもうと思って提案する。

 私の可愛い幼馴染を、私のセンスで着飾ってやろうというのだ。

 

「私も! 私も魔理沙の浴衣を選ぶ!」

 

 前のめりに目をキラキラさせながら、霊夢もずいずいとこちらに身を寄せてくる。

 

「おー、良いぜ! 明日は呉服屋でたくさん見ような!」

 

 普段はあまり贅沢できないから呉服屋なんて行かないけど、せっかく紫が提案してくれるなら、それに乗って楽しんでも良い。

 

 そうして納涼の花火と肝試し、呉服屋での衣装決めが明日行われることになった。





こういう話はガチ無限に書けるから、短編とかはこういうのの詰め合わせだと思います。

次回(永夜抄終了後)更新のアンケート(永夜抄その9掲載までで締め切り)

  • すぐに花映塚
  • 本編時系列までの短編たくさん
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