予定では10話~12話くらい投稿したら花映塚に入ります。
人里(永夜抄終了後)阿求・魔理沙の語り始め
「……なるほど。そうしてあなたはまた人と妖怪を誑かしているのね」
「あれ、私の話ちゃんと聞いていたか?」
この目の前にいる、いかにもな魔女装束の少女は霧雨魔理沙。
きょとんと驚いたような表情を浮かべているが、それを見るこちらは深くため息を吐き出す。
彼女は、自身がどういう影響を周囲に与えているのか自覚がない。
どうせ見ていないのだろう新聞や、嫌でも耳に入る情報から。
この魔理沙が言う以上に異変の様子を把握している私は、こいつの目線だとそうなるのか、なんて思いつつ本人が語る仔細を聞いた。
きっと周囲の好意には気が付いていないのだ。
いや、気が付いていてもその力の大きさを測り間違えているのだ。
妖怪たちが向ける感情のベクトルが、そんなに軽いものである筈がないのに。
「しっかりと聞きましたよ。この助平」
「スケベ!?」
がーんっ! と衝撃を受けている様子を見ながら、すこし意地悪を言い過ぎたかしらと臆病心も生える。
だが心を鬼にして、言わなければならない。
「魔理沙さん」
向かい座布団にちょこんと座り、こちらの様子を気遣わし気に見る彼女。
特に用もないのに、遊びに来たぜー! なんて言ってこちらの様子を見に来てくれたのだ。
執筆がひと段落して、丁度人恋しさを覚えた時に。
どこから聞いてくるのか、それとも本当に計算ではないのか。
彼女は土産話を手に、いつも私が会いたいときに会いに来てくれる。
「……な、なんだ?」
年下の私にさえ、臆病な彼女は気取られないようにしながらおどおどとする。
もし声の限り怒鳴り付けたら、どういう反応をするのか、なんて関係のない疑問が頭をもたげて、すぐにその考えは打ち消す。
「あなたの思う、あなたへの周囲の評価ってどういうものだと思いますか?」
自覚を促していこう。そうして、これ以上にその毒牙をかける相手がいなくなればいい。
「え、周りからの自分への評価?」
「そうです。客観的に、あなたは周りからどう思われていると思いますか? そのうえで自分の行動を分析してみてください」
うん、とてもいい考えな気がしてきた。
「えっと、阿求は……友達だよな?」
「……ええ。あなたが、そう思ってくれているなら」
「よかった、そうだよなー!」
くそっ。
こいつホント。
「そうだなぁ。周りが自分をどう思っているか……かぁ」
腕を組んで、ふーむ。と考え込む様子。
そんなに難しい話だろうか。
色々な人妖との交友が多い彼女にとって、多少なりと考えたことはあると思っていたのだが。
「霊夢は家族、だと私は思っているんだけど、多分向こうもそうだと思うな」
真っ先に上がったのは博麗の巫女。
やはりその交友の長さから一番に名前が挙がる。
「レミリアたちはどうなんだろう。レミリアって、いまいちなに考えているかわかんないなぁ」
指折り数えながらまず挙げていったのは紅魔の勢力だ。
おそらく、初めて魔理沙さんが関わった幻想郷の異変。
「フランは人間と話したことがないって言っていたから、初めての人間の友達ってことで特別扱いしてくれてる気がするな」
うんうん、なんて満足そうに頷いている。
私が見た限り、そんな友達レベルの執着には見えなかったが。
魔理沙さんが慧音さんのもとを訪ねた際、和装の彼女を見たことがある。
周囲に「これは自分のものだ」と見せつけるように振りまいていた悪辣な吸血鬼を思い返し、ふつふつと苛立ちが湧く。
「咲夜は、なんか、妹? みたいに見ているんじゃないかな。お菓子とか、ごはんの心配とかしてくるし……」
紅魔の従者は人間の里にもよく姿を見せる。
そう深く交流があるわけではないが、あまり笑った姿を見たことはない。
ふと魔理沙と一緒にいる姿を見かけた時、表情豊かに心を寄せる様子、嬉しそうに一緒にご飯を食べる様子は、たしかに手のかかる妹を心配する姉のようだった。
「パチュリーは初めての弾幕ごっこで私に負けたことを未だに言ってくるのと、魔法の先生だから、普通に弟子くらいには思ってくれているのかなぁ。小悪魔は話しかけてこないけど、パチュリーとふたりの様子をよく絵に描いてるのを見るな」
パチュリーさんと直接の面識はない。
ただアリスさんから聞いた人物評から、積極的に人に関りを持つタイプではないと私は思う。
小悪魔も見たことはないので、ここは要調査だな。
「美鈴も咲夜と同じ距離感だ、近所のおねえちゃんって感じで、向こうもそのくらいに見ている気がするぜ」
うん、なんて納得している様子の魔理沙さん。
美鈴さんは人里でも咲夜さんに次いで、紅魔館の中では目撃されている。
人間にも友好的な妖怪で、時折居酒屋や屋台などで楽しんでいるらしい。
それ以上は知らないので、真贋は判断できないものだが。
「あとはチルノとかルーミア、大妖精とかサニールナスターは普通に友達だろ? あ、冬の間はレティもよく遊びにくるな」
妖怪や妖精だろうか、本当に人間よりも妖怪に知り合いの多い人だ。
「幽々子と妖夢は、結構仲良いと思っているぜ」
最近よく人間の里でも、見かける亡霊の姫とその従者だ。
妖夢さんは特に私も印象に残っている。魔理沙さんに貸し出していた衣服について、少し弁を交わしたことがある。
その主人である幽々子さんも、妖怪の賢者の友人であるという事や歴代の稗田のこともあり、知らない仲ではない。
ただ、そう。最近は特に魔理沙さんを気に入っているように感じるしこちらの様子をじっと見てはにっこり笑う様子は、なにか見透かされているようで怖くもある。
「あ、バイト先の楽団と屋台、花屋と居酒屋は……」
その後もどんどん出ていく情報を、聞き流しているふりをして耳を傾けながら、私の類稀なる記憶力でしっかりと脳に焼き付けていくのだった。
*
「やっぱり里に戻ってきましょうよ」
しばらく話を聞き、お茶で喉を潤したタイミングで声を掛ける。
それを望むのは私だけではない筈だし、彼女もきっと理解してくれている。
実家に戻ってくれというのではない。彼女が望むなら、うちにいてくれたって構わない。
そういう事も以前にも伝えたが、じっと目を見ながら再度伝える。
それを聞いた魔理沙さんは、困ったように眉を下げてまた笑う。
「戻らないぜ」
わかっていた答えだが、私は寂しい気持ちでいっぱいになってしまう。
「人間の里は……お嫌いですか」
「そ、そういうわけじゃないぜ。ただ、私は自分の我儘で、というか……そのう……」
「まあ、それならそれでいいです。いつか戻るのなら、今でなくても」
困ったように言葉を探す彼女を見て、これ以上困らせてしまうのは本意でないので、あっさりと見えるように翻す。
「あなたがいつか、こちらにいるのならば。今はいいです」
私もお茶を口に含み、本音を飲み込んで彼女に笑いかけた。