だぜ娘奮闘記!   作:元掃除道具

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さいきょーの氷精 まだ途上

「あいった~!」

「魔理沙っ!?」

 

 スペルカードブレイク後、咄嗟に放った氷の弾幕を避けきれず、魔理沙の左肩に氷がぶつかる。

 紅霧の異変から日が経ち、暑さも和らぎ秋の気配が漂って来た霧の湖。

 修行と称しての、何回目かの弾幕ごっこをしている最中、それは起こった。

 ふら~っと地面に降りた魔理沙の方へ、近くで見ていた魚の妖怪や親友の大妖精が心配そうに近寄る。

 あたいも大慌てでそれに続き、魔理沙へ駆け寄る。

 

「いててぇ……チルノ、やるなぁ!」

「だ、大丈夫魔理沙? 肩見せて!」

「だ、打撲は冷やした方が……。あわわ、死なないで人間さん……!」

 

 右手で肩を抑えて、くっそ~! なんて悔しがりながら、額に汗を掻いて気丈に振る舞う魔理沙。

 大妖精と魚の妖怪があわあわと怪我の様子を確認しようとするが、それを押し留めながらこちらを賞賛してくる。

 あたいは言葉も出せず、心配そうに見つめることしかできない。

 

「魔理沙……あたい、その……」

「くっそ〜、次は勝つからな!」

 

 ごめん、と謝りかけたのを遮られる。

 その顔は明らかに痛みを感じているようなのに、悟られまいと必死に取り繕っている。

 

「弾幕ごっこで多少の怪我は仕方ないって、真剣勝負に怪我は付き物だ!」

 

 ずきりと心が痛んだ。

 あたいはまた、感じたことのない心の情緒を魔理沙から受け取っていた。

 

 *

 

 真剣勝負だ。

 魔理沙は、幻想郷の中では少し魔法が使える程度の弱い人間だ。

 

 あたいのライバルであり、あたいにとっては、あの頃の小さなままの人間。

 弾幕ごっこはそんな魔理沙と真剣に戦いを楽しめる、またその努力を身近に感じることが出来る娯楽だ。

 

 侮っているつもりはない。

 日々研鑽を積み上げる魔理沙は素晴らしい成長をしているし、弾幕を避ける精度もどんどん上がっている。

 

 あたいがスペルブレイクをされたときに、魔理沙が放った魔法弾はいつもの見当違いな方向ではなくあたいの至近をかすめた。

 それは大きな成長を感じさせるものだったが、それを受けて咄嗟に反撃をしてしまったのは完全にあたいのミスだ。

 

 紅い霧の異変の最中に、あたいと魔理沙はライバルになった。

 それは鮮烈な思い出で、明らかに力が劣る相手に負けたという記憶は、あたいにとって嘆きのものではなく心からの喜びのものとして記憶されている。

 

 弾幕ごっこというのは力の劣る相手でも、強者に立ち向かうことができるものだ。

 それは力の弱い妖精でも、神霊すらも打倒しうるという可能性の話だ。

 

 挑み、挑まれる。挑戦者はいつでも入れ替わる。

 こうして魔理沙に怪我をさせた今、あたいは強烈に己の未熟さを呪った。

 最強の博麗霊夢なら、万が一にも怪我をさせるなんてことないのに。

 

「で、あんたはどうされたいのよ?」

 

 霊夢が、困ったように眉を下げる。

 てっきり罰を受けるものだと思っていたから、その反応にこちらも戸惑ってしまう。

 

 魔理沙に怪我をさせてしまったあたいは、とにかく人間に関わることは博麗の巫女に話した方が良いと思って魔理沙を連れて神社を訪れた。

 最初は左肩を庇う魔理沙を心配そうにしていた霊夢だが、手当をしてからこちらの様子を見て深くため息を吐いた。

 

「どうって……。あたいは魔理沙に怪我を……」

「あのね、あんな打撲程度で人間は死なないわよ。それに、そんな顔してる相手を追い詰めるほど私も鬼じゃないわ」

 

 座敷の奥で大ちゃんが魔理沙に気遣ってお茶を口元に運び、大袈裟だなんて言いながら怪我をしていない方の腕でお茶を受け取っている。

 それを横目にあたい達は境内で対峙していた。

 正直、ここで自然に還されるくらいには覚悟していたのだけれど。

 

 あっさりと話をしながら、霊夢がそのまま続ける。

 

「泣かないでよね。私が魔理沙になんか言われるのよ」

「な、泣いてないっての!」

「泣きそうな顔してるじゃない」

 

 慌てて声をあげるが、霊夢は肩を落とした。

 

「あんたが気遣っていたことは、その様子を見ればわかるわ。怪我だってわざとじゃないんだろうし」

「でも、あたい……!」

「あのね、あんまり舐めないことね」

 

 言って、霊夢は魔理沙が運ばれてきてからずーっと握っていた拳を開く。

 

「魔理沙にだって覚悟があるのよ。遊びの範疇での怪我だし、私もあんたを責めることはないわ」

 

 *

 

 霧の湖で、ぷかぷかと浮かべた氷の島に胡坐を掻いて、頭をひねって悩む。

 

「最強になれば、守れるはずなのよね……?」

 

 うーん。と頭を悩ませる。

 あたいは当初から思い描いていた自分の理想の姿と、いまの現状に思い悩んでいた。

 

「最強……」

 

 あたいは大ちゃんにすら言わないまま飛んで来た湖の中央で、握りこんでいた氷を解きながら紅魔館の方向に目をやった。

 

 夏に起こった紅霧の異変で魔理沙から言われた事を思い出す。

 

『負けてすぐ立ち直る強さがあるんだからさ、チルノはきっと最強になれるぜ』

 

 立ち直る強さ。

 あたいはあと何度倒れれば最強になれるんだろう。

 考えなしに走る事が出来るのは、手放しにそれを信じてくれる大ちゃんや魔理沙がいるからだ。

 

 そしてその仲間を傷つけてしまったことが、あたいの心に暗い影を落としていた。

 

「おーい、チルノー! なにしてんだよこんな所で」

 

 遠くから箒に跨り、いつもの魔女帽子を被った魔理沙が飛んでくる。

 外見からは怪我なんてしていない様に見えるが、左肩を庇っていることが動きからわかる。

 

「魔理沙! その、昨日はごめんね……!」

「何回謝るんだよ。気にすんなって、ほらもう治ってるぜ!」

 

 左肩を少し上げ、笑顔を見せる魔理沙。

 傍目には自然な動きなのだろうが、見るものによってはぎこちないと気がつく。

 心配かけまいとしている姿にまた心がきゅーっとなる。

 

「……」

「落ち込むなってー。あ、そうだ。チルノも紅魔館に一緒に行かないか?」

 

 パチュリーから魔法を教わるのだと言う魔理沙が、あたいのことも誘ってくれる。

 にっこり笑いながら、またあたいの心の影を取り払おうとする。

 

 *

 

「だから元気がなかったのね〜」

「うん……。魔理沙は大丈夫って言うし霊夢も怒らないし、あたいはどうしたら良いのかな?」

 

 紅魔館の地下には大図書館があり、魔理沙はそこでパチュリーに勉強を見てもらうのだと、本を抱えて向かった。

 あたいは美鈴とフランと、3人で門柱に背中を預けて話をしていた。

 

「もし魔理沙に怪我をさせたら、かぁ」

 

 フランがお行儀悪く地面に座り込みながら、足を投げ出して言う。

 

「私も落ち込むなぁ」

 

 想像しながらだろう、頭をふるふると振って肩をすくめる。

 

「魔理沙や霊夢の言っていることもわかりますよ。故意ではない事故で、実際大きな怪我でもないですし」

 

 魔理沙の怪我について、美鈴も何か施して痛みを和らげてあげていた。

 治る訳ではないと言っていたが、お礼を言って飛んでいく魔理沙は痛みが減った様子だった。

 

「あたいも、美鈴みたいな能力なら良かったのにな」

 

 手の中に冷気を圧縮させて氷を作り出す。

 美鈴の様に癒すこともできず、フランの様に圧倒的な力でもない。

 

「能力は使い様ですよ。ただの1要素です」

 

 手の中の氷がじわりと解ける。

 次いで亀裂が入り、粉々になって消えた。

 

「そうだわ、チルノも一緒に教えてもらうのはどう?」

 

 フランが名案だ、と手を叩きながら立ち上がり、あたいの手を取って立ち上がらせてくる。

 

「一緒に教えてもらいましょうよ。私の能力は危険すぎるから、美鈴とパチュリーに見てもらわないといけないの。チルノだったら壊れる心配もないし、丁度いい相手だと思うんだけど」

「妹様も随分と力の制御は上手くなりましたよね」

「力の制御?」

 

 フランは強い。

 吸血鬼という上位種の力に加え、全てを破壊できるという能力は限りなく最強に近い気がする。

 

「うん。まだお姉様達みたいに上手く力を制御できないから、弾幕ごっこで魔理沙と遊べないの。私も遊びたいから今は頑張ってお勉強中よ。最強を志すなら、魔理沙みたいに頑張らないと。ね?」

 

 魔理沙みたいに、というのはとても魅力的な提案に思えた。

 自分だけで模索していたあたいに、2人はそんな提案をしてくれた。

 

 *

 

 永遠亭から少し離れた、竹林の中の開けた場所では『花火大会』と称して弾幕ごっこが次々と行われ、遂に最後の対戦が行われている。

 

 輝夜が持つ宝の枝から放たれた5色の魔力弾が美しく空を彩り、数で優勢を保っていたルーミアとリグルが圧されていく。

 隙をしっかり読んだ妹紅が鳥を象った炎を生み出し、威圧的な光が竹林を照らしていく。

 バチバチと派手な音を立てて周囲が燃え広がるが、霊夢の結界が途中まででそれを押し留めている。

 

 勝負は決するかと思われた。

 結界内を炎が満たし、周囲からも感嘆の声が上がる。

 

 しかし炎を、その形を保ったまま凍り付かせるという規格外の力でもって、再度盤面は振り出しに戻る。

 

 それを為したチルノは肩で大きく息を吐きながら、氷を砕きながら飛翔していく。

 キラキラと空気すら凍らせて、周囲に光が満ちていく。

 

「……なんか、チルノまた強くなっていないか?」

 

 異変の時よりも激しい戦いが行われている迷いの竹林で、私はポカーンと空を見上げていた。

 霊夢が結界を見に行ったので、パチュリーとふたりで竹のベンチに座っている。

 パチュリーは特に驚きもないのか「まああれくらいはね」みたいな顔をしている。

 炎って凍るんだ。知らなかったなぁ。

 

「まあ、普通じゃないわよね」

「やっぱりそうだよな。パチュリーもそういえば、偶にチルノの事も見ていたな」

 

 パチュリーが珍しく手に本を持たず、一緒に空を見上げて同意してくれる。もぐもぐと餅を口に含んで、お祭りだからと紅魔館の面々も和装だ。

 チルノやフランも、パチュリーが一緒に教えてくれることがあった。

 

「パチュリーの事もそのうち超えていきそうだな……」

 

 遠くで次々に氷の結晶が浮かび上がり、それをミスティアが歌いながら隙間を縫って妹紅に襲い掛かっている。

 やけに怖い顔をして気合いを入れていたのだが、ミスティアはいつもより近距離で妹紅と殴り合いをしている。怖い。

 

「あら。私の炎魔法はもう克服されたわよ」

 

 さらりと事も無げに言い出すので、ぎょっとしてそちらを見る。

 なんでもないことの様に言い、悔しそうな様子もない。

 

「でもまだ総合力では私の方が強い。あなたの先生は、それなりに強いのよ?」

 

 心なしかどうだと言わんばかりの顔をして、微かに笑みを浮かべてる。

 

「ひえ、ふたりとも凄いなぁ」

 

 あのチルノより強いという、目の前の魔女を改めて尊敬するのだった。

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