だぜ娘奮闘記!   作:元掃除道具

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紅霧異変の後、最初の宴会では

「これがワインかー」

 

 ふわふわと頭を揺らす魔理沙が、いつも以上にゆるゆるの声で、ニコニコと笑顔で赤い液体を飲み込む。

 ふわーっ! なんて口から息と一緒に漏らし、味わう様子は一ミリもない。

 神社にはグラスがなかったので、お姉様がワイングラスを持ってきた。

 それを片手に、なにが面白いのかずーっと笑顔。

 今は縁側に座っているが、私が着く前から始まっていた宴会では、ずーっとそこらの人妖にちょっかいを掛けられていたのだ。

 おかげでちっとも捕まらないし、ようやく一緒にいられると思ったら「おーフランー」なんてフワフワですっかり出来上がっている様子。

 ちゃんと私を認識しているのか、していないのか。

 せっかくおめかししてるのに、見てほしい人に見てもらえていないのだ。

 

「どうかしら、気に入ってくれた?」

 

 私はおいしいって思わなかったけど、甘めのものを選んだ。

 価値はわからない。けどお姉様が大事にしていたから、たぶん良いものだろう。

 美鈴に着付けを手伝ってもらったり、お姉様のセラーでとびきりの一本を選んで遅れてしまった私は、慌てているのだ。

 ボトルから香る葡萄とアルコールの匂いに、すこし頭を痺れさせながら聞いてみる。

 

「うふふ、味なんてもうわかんないぜー!」

「そう! でもどうせならたくさん呑んでね、すごーく良いものらしいわ!」

 

 グラスに注ぐと、それを受け取ってふわーっ! と一々声に出すのは面白い。

 終始ニコニコと笑顔のまま、嬉しそうにしている。

 

「フラン、かわいいドレスだなぁ」

 

 不意に。ようやく貰えたその一言に。

 ふんわりと、こそばゆい笑顔を浮かべながら告げられた一言に。

 全身を羽で撫でられているような心地を味わった。

 くすぐったくて今にも転げて回りたくなるような、そういう感覚。

 ぐーっと上がる口角を無理やり押さえながら、おとなしめに、おしとやかにお礼を言う。

 上手く取り繕えているのかはわからないが、魔理沙は変わらず笑っていた。

 

 *

 

 魔理沙の近くを陣取る、愛しの妹が笑顔でワインを勧めていく。

 しかし時折、その顔を真顔にしてじっと魔理沙を見つめている。

 口の端からよだれが溢れてはそれを拭う様子は、傍目から見て尋常な様子ではない。

 というか、あのワインって……。

 幻想入り前に密かにコレクションしていたものだと気が付いたが、魔理沙と妹が楽しそうならと涙を飲む。

 

 まだ暑い日が続いている幻想郷。

 博麗神社で行われている野天の飲み会は、多数の人妖が各々勝手に始めて勝手に出来上がっていく。

 そこらの岩に腰かけたり、勝手に持ち寄った椅子へ座ったり。

 主宰たちも顔を赤くしながら、そのまま地面に、服が汚れるのを気にせず座り込んで笑っていた。

 やっぱり中心にいる魔理沙は、人気が高くてなかなかお話ができない。

 

 呼んだ覚えがない鴉の妖怪は「今回の異変解決について、ぜひ一言!」なんて言いながら、終止パシャパシャと写真を撮っていて離れないし。

 多数の妖怪と改めて話をする中、私は咲夜が取り分けてきたソーセージを噛み砕きながら不満を口にした。

 

「不公平だわ。どうして私の周りはこんな奴らしかいないのかしら」

「あやややや、どうも吸血鬼のお嬢様は不満な様子ですね」

「なにが不満なのかしら、こんな美少女の目の前にいるのに」

「ふふふ、気持ちはわかるよ若い吸血鬼。それよりこの封印の札、どんどん締めてきて苦しいんだけど。少し緩めてくれない?」

 

 幻想郷の文屋、鬱陶しい烏天狗の射命丸何某らという奴と、調停者にして賢者の八雲何某ら。

 それと最後にやってくれた宵闇の妖怪。

 

「私だって取材と上司の言いつけがなければ、あなたなんか相手していないんですけどね」

「慇懃無礼な奴だな。妖怪の山だったか、お前程度が使者とは。勢力もたかが知れたものだな?」

「あ?」

「おう?」

「やめなさいよ、宴会でみっともないわ。ほら、向こうで魔理沙が見ているわよ」

 

 射命丸文とにらみ合いをしていると、八雲紫にたしなめられる。

 ばっと魔理沙の方を見ると、不安そうにグラスを持ちながら、フランの片手をぎゅっと握ってこちらを見ている。

 フランはというと、お酒のせいなのか顔を赤くしながら魔理沙を見つめてこちらに一顧だにしていない。

 にこにこと笑顔を浮かべているが、口の端によだれが滲んでいる。

 

 怖い顔をしてしまっただろうか。うるうると涙の浮かぶ瞳に見つめられる。

 慌てて顔を取り繕って笑顔を浮かべる。

 隣にいる射命丸文を見ると、ばっちりと目が合ってしまった。

 

「……なーんてね。光栄だわ幻想郷の一大勢力に目を掛けていただけるなんて」

「……いやー! 新進気鋭の紅魔の勢力の、トップともなればさすが懐が広い!」

 

 がしっと握手を交わす。

 ぎりっと周囲の空間がゆがむほどの力を込めているのに、向こうからも同等に力が返ってきた。

 

 こいつもか!

 

「いやぁ……光栄……ですねぇ……!」

「そうね……話せば……わかるのねぇ……!」

 

「なぁにやってんのよ、くだらない!」

 

 言って、ぎりぎりと力を入れていた手を叩いてくるのは霊夢だ。

 顔を若干赤くして、目をトロンとしているのは酔っているからなのか。

 半目だけど、異変の時のような威圧的な恐怖感はない。

 

 異変の最中はあんなに恐ろしい幻想郷の調停者が、お酒が入って普通の人間らしい様子。

 やはり、魔理沙も良いがこの人間も魅力的であった。

 

「あら霊夢。お酒は程々にしなさいよ~」

 

 簀巻きにされている宵闇の妖怪に、犬に餌を与えるように、チーズを割りながら与えていた八雲紫が一応ね、と声を掛けてまた宵闇にチーズを与え始める。

 宵闇は大人しく与えられたものに食いついて満足そうな顔。

 

「宴会での揉め事は、お酒で決めんのよ!」

 

 それを無視しながら、どんっと一升瓶を地面に置いて胡坐をかく霊夢。

 射命丸文が手を離し、霊夢の傍に正座しながら転がっていた升を手に取った。

 

「ふむ。天狗に酒で挑むのは無謀ですよレミリアさん」

「なるほど。酒に自信があるのね、文」

 

 上等。

 私がレミリア・スカーレットだと知っていて挑もうというこの鴉に、どうやら格の違いを見せつけないといけないみたいだ。

 

 私も地面に転がっていた升を手に取り、互いに掲げる。

 そこに霊夢がたっぷりと日本酒を注ぎ「さーのんだ! のんだ!」なんて声を掛けてくるのを聞きながらさっさと流し込む。

 互いにかんっと地面にたたきつけ、一息ついてにらみ合う。

 

「あらぁ。飲み会らしくなってきたわぁ」

「うまうま。それより紫、この封印の札、どんどん締めてきて苦しいんだけど。少し緩めてくれない?」

 

 *

 

 お嬢様と天狗の飲み比べは、一升、二升と数を重ねていった。

 ついにはどこからか隙間の妖怪が持ってきた樽から、柄杓で大盃に好き放題注ぎながら、たくさん呑む二人にすっかりご機嫌になっている霊夢が大声ではやし立てる。

 

「無理しないでよね~! どっちが先に潰れるの~?」

「ふたりとも~、無理すんなよ~」

 

 魔理沙が大声をあげながら、縁側からふたりを心配そうに見ている。

 霊夢と一緒に最初はにこにこと笑いながら見ていたのが、心配が勝っているのか、顔は赤いままだが空中に手をおろおろと動かしている。

 その膝に頭を乗せながら、目を回しているのは妹様。

 なにを考えていたのか、途中少しだけ参加して早々にリタイアしてしまったのだ。

 チルノがその頭に手を乗せて、頭を冷ましている。

 

 結果的には大勝ちだと思うのだが、妹様の意識はない様子だ。

 

 私は途中から気が付いて、傍で見守っていたがお嬢様も天狗も、互いにかなり限界に近い様子。

 この勝負、もう長くは持たない。

 

「……やるじゃない、天狗。いや、文」

「……あなたもね、レミリア」

 

 お互いの健闘を称えるように、お嬢様と天狗は笑みを交わし合った。

 それを傍目からげらげらとおなかを抱えて笑っているのは隙間の大妖怪。

 

「うぅ……」

「あう……」

 

 ふたりとも、手に持った盃を飲み干すことなく、手からこぼれるように落として倒れこむ。

 しばらく動かなくなり、どちらともなくそのまま寝息が聞こえて来た。

 

 よかった。大惨事は避けられた。

 

 ほっと胸を撫でおろし、手に持っていた懐中時計をしまい込む。

 さすがに主人がいろいろと垂れ流す姿を衆目に晒すわけにはいかない。

 緊張感をもって能力を構えていたのだが、ついに出番がなくて良かった。

 

「ああ、たおれちゃったぜ!」

「あ~、ふたりとも同時ね~」

 

 膝にいるフランがいなければ、助け起こしにいくような勢いで魔理沙は心配を寄せている。

 霊夢は勝負がつかなかったことに残念そうだが、ふたりともよくやった、よく呑んだと満足そうに頷く。

 

 私は緊張感から酔いが醒め、ふうっと息を吐いてお嬢様を助け起こしに行く。

 う~んっと顔を青くしているお嬢様に、お水を含ませながら、向こうで同じように鴉天狗を助け起こしているチルノと目が合う。

 

「……咲夜は大変だね」

「あなたは本当に、よくできた妖精ね」

 

 きらきらと光る氷を受け取りながら、それで主人の頭を冷やしながら、チルノと顔を見合わせてため息を交わす。

 助け起こしたお嬢様が「さくや~」なんて呻きながら腰に抱き着いてきた。

 向こうでは「チルノさ~ん」なんて言いながら涼を求めてなのか、抱き着こうとするのをチルノは両腕で防いでいる。

 

「やあ魔理沙。ねえ、この簀巻き状態ってひどくない? 霊夢に言って、すこし緩めてもらえないかな」

「あ、ルーミア! お前どこ行ってたんだよ、さっきのこと許していないんだからなー!」

 

 お嬢様と鴉天狗を介抱していると、魔理沙の方からそんな声が聞こえてくる。

 

「許していないって、そんなひどいよー」

「ひどくないぜ! ……なあ、なんで私のマスタースパークで、その、やられたんだ?」

 

 お嬢様に水を与えながら、耳だけそちらに向けて話を聞く。

 私達が魔理沙を見失った数瞬。後から聞いたときに酷く驚いた。

 その間に起こったという、宵闇の妖怪の襲撃の話。

 

「ああ。……そりゃあ、魔理沙の魔法が強力だったからだよー」

「うそだぜ! だって、ゆうかが、威力は全然ないって! 怒られたもん!」

「う~ん……そりゃ本当の事だなぁ。ああ、そうだ!」

 

 ぴーんと頭の上に電球が付いたように表情を明るくし、良いことを思いついたとルーミアが声をあげる。

 

「あれだけ眩しい攻撃をされちゃあ、私みたいに闇の妖怪には威力なんて関係ないんだよ」

「えぇ……? どういうことだ?」

「あの魔法は、私にとってとびきりの弱点ってことさ」

 

 明らかに嘘だと思える声が、そんなことを言う。

 とても信じられるような内容ではない。

 うっすらと笑みすら浮かべるルーミアが、簀巻きにされながら首だけ上げて魔理沙を見上げている。

 口を挟もうかと思ったが、ちっとも疑う様子のない魔理沙を見て言葉を飲み込んだ。

 

「え~! それってさ、それって! わたしのマスパが、強かったってこと?」

「ああ! 魔理沙の攻撃が強くて、もう手も足も出ないって感じだよー」

 

 ほんの少し前に、天地を揺らすほどの妖力を開放していた闇の妖怪が、軽薄な言葉を続ける。

 どういう狙いがあるのか、霊夢と八雲紫は聞こえていているだろうに静観していた。

 

「だからね、もう魔理沙のことを、私は襲わないって決めたんだ」

 

 そう言ってルーミアは、ふんわりと邪気のない笑みを浮かべた。

 それだけは関りの薄い私にもわかる、嘘のない言葉だった。

 

「そうかー。うふふ、まいったんだなー! しかたないよなー!」

 

 わかっているのかいないのか、ニコニコと頭を揺らしながら魔理沙。

 

「ああ、もうすっかり参っちまったぜ。魔理沙、君にやられたんだー」

 

 げらげらと笑う宵闇の妖怪。

 私には推し量れないが、あれだけの妖気を持つのにはどれだけの年数を生きているのだろうか。

 きっと人間には途方もないような時間を重ねたんだろう。

 大妖怪といわれる格が、その気配には存在していた。

 

「だからさぁ」

 

 一通り笑い合って、いつの間にか簀巻きから片腕を開放しているルーミアがぎゅっと魔理沙のスカートの端を掴む。

 うん? なんて、封印を抜け出しているルーミアに気付きもしないで笑みを浮かべながら魔理沙が応える。

 

「もし魔理沙が死んだら。その時は貴方の体を、私に頂けないかな」

 

「それ以上はだめよ~」

「おい変態妖怪! 封印が足りていないようね!」

 

 ルーミアの頭の上に広げた空間の隙間から腕を出し、頭を掴んで地面に押し付けながら八雲紫。

 魔理沙のスカートを掴む腕を離しながら、反対側にぐいっと折り曲げて霊夢。

 

「あいだだだぁ! 魔理沙ぁ、たのむよー!」

「うん?」

 

 一瞬にして目の前で起こるその光景に、理解が追い付いていなさそうな様子の魔理沙。

 

 私もほっと息を吐いて、構えた銀のナイフをホルスターに戻した。

 なんだかあの妖怪が不穏なことを言った気がして、つい身動きの取れない状態のその相手に串刺しを決めるところだった。

 

 死んだあとだろうとなんだろうと、その体を好きにされるなんて我慢がならない。

 一瞬で湧いた感情だったが、思い返すとそれは正しい怒りの気がした。

 それがたとえ死後とはいえ。

 一片たりとも、他人の手に渡ると考えるとふつふつと怒りが湧いた。

 

 ましてや人喰いの妖怪に、なんて。

 

「え、私が死んだあとだろ? べつにいいぜー」

 

 数瞬、時が止まった。

 そんな錯覚を覚えるほど、静寂が辺りを支配した。

 倒れているお嬢様すら、目を見開いて魔理沙を見ている。

 

「言ったね?」

 

 言葉には隠しきれないほどの喜色が満ち満ちていた。

 目は赤く、爛々と輝く。

 妖怪らしい、怖気を覚えるほどの妖気が内面から溢れている。

 

 契約も交わさず、ただの口約束だけ。

 魔力も魂も契約も、何も交わさずに行われた其れは、記憶に残るだけのものだが絶大な効力を持ってその場にいた人妖に衝撃を与えた。

 

 魔力を交わさないから他者の介在を受けず、魂を交わさないから第三者が上書きも、破棄もできない。

 ただの空気の振動のみ。お互いの記憶に残るだけのもの、言葉だけが交わされた。

 

「あ、だけど無理やり命を奪うとかはだめだぞ! 私が天寿をまっとうするまでは、待ってくれよな~!」

 

 へらへらと笑いながら浮かべた、その能天気な提案を付け加えて取り交わされたのだった。

 

 酔ったままだが、思考を働かせる。そしてある考えに至り、そうか簡単なことだと口に出す。

 

「魔理沙が亡くなる前に、こいつを調伏したらいいんですね」

「ああ、なるほど。簡単なことね。流石よ、咲夜」

「そうか、封印じゃなくて消滅させればいいのね」

「これは私も庇えないし、庇わないわよ宵闇の」

「あははー! 長生きする理由が出来たのだー」




私にはタイトルを考えるセンスがない。
そのままの状況だけだこれ。

幼い内面を表現したつもりですが、序盤もし見づらかったら少し書き換えます。
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