だぜ娘奮闘記!   作:元掃除道具

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 〈満月の無敵で素敵な吸血鬼〉
 〈人形使いの報酬〉
 〈人間の里の普通の魔法薬売り〉


文字数の少ないショート詰め①

〈満月の無敵で素敵な吸血鬼〉

 

 月を背に、深紅の霧を纏う悪魔が幼い容姿に似合わない妖艶な笑みを浮かべた。

 

「無敵ね。言うだけは……あるわ!」

 

 賢者すら翻弄した私の弾幕を悠々と避けて隙間を縫い、巧妙に弾幕を放ちこちらを削る。

 強力な能力で暴力的に、ではなく、あくまで遊びの延長を続けていくその怪異。

 

 弾幕ごっこのルールに則って行われるそれは、その妖怪の能力を十全には活かせず枷をつけている。

 傍で妖怪の賢者が見ているからなのか、律義にルールを守りながらそのなかで圧倒的な力を示すそれに、私が抱いていたのは違和感だった。ルールに縛られていなければ、それは数分の内に私の体を討ち果たすことができるだろうに。そして私は即座に蘇りながら千日手を演じられるのに。

 時を操る従者も厄介だが、本命はあの赤い霧の悪魔。まるで解っているように、決して俊敏な動きではなく緩慢ともとれるその動きの中で、服の袖すら掠らずに圧倒している。

 最後の難題さえも破られ、ついに私は降参のため両手を挙げた。

 

「……これ以上は無意味、私の負けね」

「あら、随分と物分かりの良いこと」

 

 余裕を顔に貼り付け、魔力を霧散させながら悪魔も矛を収める。

 銀の従者がそれに合わせるようにナイフをしまい、私たちは無手で対峙した。

 

「厄介な妖怪ねぇ、この国のものではないでしょう?」

「どうでもいいだろう。今はこの幻想郷の一員だ」

「あくまでこの地のルールで戦い抜いたのは、その幻想郷を守る為?」

「いや。ただひとりの人間の為」

 

 言い切って、満足げな笑みを浮かべる。

 その視線がちらりと妖怪の賢者の方へ向き、その感情の方向を知る。

 当然それは賢者に向けたものではないだろう。人間というと、この場にはそこの従者と人形に乗り移った魂しかいない。

 

 思い返すのは、自身の名乗りに誠意を返すように叫ぶ魔理沙の姿。

 イナバが月人だと勘違いし、私が一目でその可能性を否定した地上の人。威勢だけですぐに動けなくなり、妖怪の賢者が自身の余裕を全て捨てて守り抜いていた小さなもの。

 

「驚いたわ。あの人間の魔法使いって何者なの?」

 

 そしてこの強力な魔物が心酔する人間。

 思えば、月にいたイナバが地上の只人を奇妙に勘違いするのも何者かの作為を感じるのだ。

 一層私の知識欲が疼いた。

 ギラリと鋭利な瞳がこちらを射抜くように向けられる。

 

「知らなくていい。いや、どうせこの地に暮らすならいずれ知る」

 

 言葉はため息とともに吐き出された。

 

「ただの人間の魔法使いだ。どうしようもなく臆病で勇敢な、強がりで泣き虫な偉大な普通の魔法使いさ」

 

 どこか自慢げに、宝物を語る様に告げる口は笑みを浮かべていた。

 

「れ、レミリア……魔理沙が動かなくなっちゃったんだけどー……」

「えぇぇぇぇ! なんでよ! っていうか、見てなかったの魔理沙!」

 

 

 

 

 

〈人形使いの報酬〉

 

「そういえばあの人形って……」

 

 魔理沙の口からそんな言葉が出たのは、すっかりと秋めいた季節の幻想郷。

 ここは人間の里で、場所は寺子屋の前にある広場。

 

 私達は人形劇を終えて、そこそこ集まった人がおひねりを投げて喝采を送る中。

 上海人形と蓬莱人形を両脇に浮かべながら、腕を組んで首を傾げた魔理沙が疑問を口にした。

 

「あの人形って?」

 

 なんて、ちょっと無理のある誤魔化しをする。

 スカートをつまんでカーテシーをする上海と蓬莱も、首だけ魔理沙と同じようにかしげてこちらを見ている。

 

「あれだよ、ほら。永夜異変の時に私がなっていた人形……」

「ああ、魔理沙人形ね」

 

 最初から思い至っていたが、白々しくも今気が付いたと手を打って見せる。

 いつか聞かれると思っていたが、ついに来たか。

 

 いつでも準備のできていた私は、落ち着き払って用意していた言葉を述べる。

 

「あれは燃やしたわ」

 

 *

 

「いやよ! この子は私が連れて帰るのー!」

「返しなさいよ! このドロボー!」

 

 駄々を捏ねる幻想郷の賢者に、その醜態と一向に返す気のない様子に苛々が募って思わず語気を強くしてしまう。

 いやーっ! なんて言いながら動かなくなった魔理沙人形をぎゅーっと抱いて離さないのが紫。それに掴みかかって取り戻そうとしているのが私。

 紫の式である藍が、痛そうに頭を抑えてながーくため息を吐いた。

 

 異変が収まり、急速に夜が明けていく。

 これ以上夜を留める必要がなくなったので、私たちは術を解いた。複数個所で同時に、同じ目的のために放たれた術が解かれていく最中に紫が抱えていた魔理沙人形を返すように要求すると、上記のようなやり取りをする羽目になった。

 今回の異変のきっかけである、偽物の月を浮かべた元凶たちがひそひそと小声で話し合っている。

 

「案外イナバの勘違いも的外れじゃないのかも。これだけ慕われているのはすごいわよ」

「輝夜が見たその子は魂だけだったけど地上人のものでしょう? たしかに人望があるようだけど不可解ねぇ」

 

「紫様、アリスも困っていますよ」

 

 がっくりと肩を落として藍が紫を諫めるが、一向に聞き入れるつもりがなくつーんとそっぽを向いて変わらず魔理沙人形を離さない。

 

「私はこの子と一緒に蓬莱山輝夜の猛攻を切り抜けたの。言うなれば戦友、友なのよ。ここには魔理沙が宿っていないし、この抜け殻だけでも一緒に連れて帰ってもいいじゃない!」

「ふざけるな、私がこの魔理沙人形に、どれだけの心血を注いだと! いや魔理沙人形だけじゃない、すべて私の人形は私の子供も同然よ! いいから返して!」

「許可も取らずに勝手にモデルにしているのは、どうかと思うわ!」

「それを判断するのはあなたじゃない! あの子に似せたのは有事の為で……!」

 

「そう。私も実は気になっていたのよね」

 

 言い合いの最中、静かに声をあげた霊夢の声が奇妙にその場に浸透した。

 

「魂を人形に込めて、肉体は萃香が維持をする。そういう事もできるのかと、魔法の汎用性の高さには驚いたわ。だけど紫の言うように、どうしてその人形の魔理沙は、そんなに本体に似せる必要があるのかしら」

 

 感情の感じられない真っ黒な瞳がこちらを覗くようにじっと見つめている。

 知らず私と紫はそれに見つめられ、争いを止めていた。

 

「魔法はね、イメージの世界なのよ。より体に近いものが魂に馴染むと……」

「やけに饒舌ね。モノには魂が宿るだったかしら。その逆もなのね」

「た、魂を利用する魔法使いがいるのは事実ね」

「その魂に干渉する術というのは、本人の意思や感情を誘導するものじゃないわよね。それは残滓でも効果を及ぼせるもの?」

 

 じっと、感情を感じない霊夢の瞳が心の深淵を覗くように私の瞳を覗き込む。

 

「そうよ霊夢! この人形をアリスが持っていると、なにか禄でもない事に利用されかねないわ!」

「紫、あなたもふざけたふりをしているけど。抜け殻とはいえ、一時はその魂を受け入れていた容器を利用することができるわよね」

「……いやーねぇ。そんなことしないわ」

「あなたを諦めさせるために、アリスがもしそれの複製をするなんて言ったら、それを利用して魔理沙の魂と意思に干渉しよう、なんて。そんなことは考えていないわよね?」

 

 紫の式である藍が、はっと顔をあげて紫を見る。

 考えてもいなかったが、もしその手段があるのならば。

 

「私は誓ってそんなことはしない」

「私もよ。あの子の意思と魂が曇るようなことはしないわぁ」

 

 弁明するように重なってしまったが、今の私の意思をそのまま伝えた。

 おそらく紫も同様だろうと思う。しっかりと瞳を見つめ返し、ふたりとも博麗の巫女の瞳を見つめ返す。

 

「そこに意思は必要ない。手段として、存在するのか。それを聞いているのだけど」

 

 真っ黒な感情を感じさせない瞳が、可能性を聞いてくる。

 じっと見つめられるそれが、すべてを暴くように内面を照らしていく。

 

「……可能よ」

「同じく、ね」

 

「なら、今すぐそれを破棄しましょう。今の言葉に偽りがないのなら、手段としても残す必要はないわよね?」

 

 *

 

「えー、燃やすなんて!」

「……魂の入れ物になったものだからね。悪用され兼ねないし、その場にいた皆が同意したわ」

 

 あの時の霊夢の判断は間違いではないと思う。

 私は、今その手段を取るつもりは一切ないが。

 もし、万が一にでも。もしもこの目の前の能天気な人間が『人間でない道、自ら死を選ぶような道』を選んだ時。その意思を捻じ曲げてでも人間として生きていく道があるのなら、私はそれを選ぶと思う。

 

「けど上海や蓬莱に並んで私の姿の人形が浮かんでたら、微妙な気持ちになってたなー」

「そうね。贔屓しそうだし、これで良かったと思うわ」

「おい、私の姿でもちゃんと可愛がれよな!」

 

 どうも真逆に思い違いしたみたいでふくれっ面で、失礼なやつだぜ! なんて言う子供を宥める。

 軽口を交わしながら、人形たちを片付けてこの後は魔理沙のおすすめだという人間の里の喫茶に向かうのだ。

 

 あの異変のお礼だと、今日一日はなんでも手伝うぜ! なんて言っていつもの様に箒に乗って希望が飛び込んできたのは本日の午前から。

 元々人形劇の予定があり、お手伝いを頼んでいた魔理沙が「今日だけじゃなくて、少しずつ恩返し予定だから何してほしいか考えてくれ!」なんて言っている。

 

 いつも数えきれないほど、私は色々なものをこの白黒から貰っている。今もそうだけどこいつに自覚がないから黙って受け取って、いつかこれを纏めて返して上げるためにすべて記憶して大事にしまう。

 箒の後ろに乗せてくれたこと。おいしいお茶菓子を勧めてくれたこと。楽しくお話ししてくれたこと。

 すべて大事な、私があなたから貰う報酬。

 

 

 

 

 

〈人間の里の普通の魔法薬売り〉

 

「えーっと……風邪ですから……その、こちらが解熱の薬で……」

 

 小さな声で地面に向かってぼそぼそと喋る金髪の子供を見て、対応していたお客に薬を渡してからため息を吐いて傍に寄る。

 

「はいはい、症状は? ああ、咳があって熱も? 他にないならじゃあこれを。毎食の後に一包ずつね。なるべく消化にいいものを食べて2,3日すれば熱も引くでしょう。もし引かないなら寺子屋の先生か迷いの竹林の入り口に住んでいる炭売りを訪ねて、永遠亭まで来てください」

 

 ありがとうね。なんて言って薬を受け取り、お代を払って恰幅の良い奥さんが去っていく。

 

「うどんげ、ありがとう!」

 

 さっきからずーっとこの調子だ。

 下を向きながらもじもじとしていたのが、私が傍に言ってすぐにぱっと笑顔を浮かべてこそこそと後ろに隠れ、対応が終わると平気な顔をしてお礼を言ってくる。

 おかしい。魔理沙がわからない。

 

 私はじ~っと、その波長を視野に、変装だという丸眼鏡を掛けた和装袴の魔理沙を見つめた。

 

 *

 

 人間の里で元々薬を売っていたというが、妖しくて売れないというよりはその態度が問題だったのではないだろうか。

 

「え……その、これは……お代は結構です……!」

 

 また少し離れた場所で観察していると、壮年の男性の話を聞いてから腰痛に効く塗り薬を渡し、代金を受け取らないでそそくさと移動しはじめる。

 男性が「おい、待てお代を!」と大きく声を掛けているが、聞こえないふりして足早に去ろうとしている。

 あなたがその薬を作るのに、どれだけ労力をかけて素材を入手し、どれだけ師匠の授業で研鑽を積んで作り上げているのかを理解しているのか。その技術も労力も一人のものではないのに、どうして対価を受け取らないのか。

 近寄って、魔理沙の首元をガシッと掴んでその場から動かさないようにする。薬を渡してからなぜかその場から逃げようとしているように見えたのだ。怪しすぎる、ただでさえ妖怪の薬売りなのに一層評判が悪くなってしまう。

 

「う、うどんげ……!」

「魔理沙、なんで代金を受け取らないで行こうとしているの?」

「い、いやあれは私が作った痛み止めだし、神社を補修してくれる大工さんからお金をとるなんて、そんな!」

「ちがーう! あなたは薬を売る、受け取った人はお金を払う! あなたは代金分の責任を負う必要があるの! 相手がどうとかは関係ないの!」

「せ、せきにん……!」

「無料で貰った怪しい薬なんて使えないでしょ! 私達はその薬の価値を届け切る必要があるの! だからお金は貰うし、その効能に責任を持つのよ。あの痛み止めは、効果がない気休めのものなの?」

「そ、そんなことないぜ! えーりんに教えてもらいながら魔法の森で採れた素材で……!」

「そうよね。それを説明するのは私に、じゃないでしょ?」

「……うぅ」

 

 魔理沙が男性に振り返り、黙って聞いていたその人は笑みを浮かべながら代金を握らせてくる。

 

「嬢ちゃん、あんた昔からこの辺で変な薬売ってたよな」

「うぅ。はい……」

「少し前、倅がやっかいな風邪に罹ったときにも助けてもらったな。ありがとうよ。だけどその妖怪の嬢ちゃんが言うことは間違いないわな。それにあんたが代価を受け取らないと、他の薬屋が潰れちまうよ」

 

 かかか、と笑う声を肩を狭めて居心地の悪そうに、まるで怒られているように聞いていた。

 

 *

 

「ねえ。人間の里の大人に、なにかされたの?」

 

 気になっていたのはその態度だ。

 妖怪たち、初対面の私たちにはやけに馴れ馴れしく距離を詰めるのに。

 それが里の人間の、それも大人相手になるとなんであんなに縮こまってしまうのだろうか。

 

「え、なんで?」

 

 きょとんと、なにを聞かれているのか理解していなさそうな顔で足をぶらぶらとしながらこちらを見る魔理沙。

 小休憩として挟んだ茶屋で、私たちは薬箱を背から下ろしてベンチに座っていた。

 その態度を見て、一抹抱えていた不安がどうやら杞憂だったと胸を撫でおろす。

 

「なんで大人相手だと、今みたいに普通に話せないの?」

 

 ため息とともに心配していた心を吐き出す。

 貸本屋の子供や、昔馴染みだという人間の里の守護者には普通なのに。

 どうも、この目の前の少女の印象に合わないようなちぐはぐを感じる。まるで酷い人見知りで恥ずかしがっているような態度が不思議でならないのだ。

 

「なんでって言われてもなぁ」

「挙動不審なくらいよ。なにかされてたのかと疑うレベル」

「そ、そんなにか? いや、恥ずかしくて」

「恥ずかしいって、なにが?」

「だって初対面だし、うまく話せないよ……」

「……私と初めて会った時って、そんな感じだったっけ?」

「え、いや。普通に話せたと思うぜ」

 

 なんでだ。

 

「姫様も師匠にもてゐにも、そんな態度したことないでしょう!」

「そりゃそうだろ」

 

 私がおかしいのかコレは。

 

 永遠亭で最初に見た時、感じたのは月人のような高貴な波長。それは魂の周囲に満ちる穢れを払うもので、一瞬でそれが高貴なお方のものだと信じた。

 しかしそれは、後になってよく考えればただそれを護る様に残った残滓のようなもので、実際は普通の地上人の波長。

 勘違いで、魔理沙の事を月の高貴なお方なんだと思い込んだことが今は恥ずかしい思い違いだ。

 う~む、と腕を組んで唸っていると、魔理沙から声を掛けられる。

 

「だって、みんなは怖くないし」

 

 にこにこと邪気のない笑みを浮かべるその幼い姿に、怖くないと言いながらも実際には畏れを抱くその姿に。

 矛盾を感じるが、それもまたその人間らしいと思う。

 私が知らなかった、地上の人間の姿。興味深くそれを見ながら、一層この人間の子供を知りたい欲求に駆られるのだった。




体調不良ですこしお休みしていました、
今日からまたバシバシ書いていきます!

そろそろ花映塚!
文、ゆうかりん、メディ、こまち、えーき様!
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