だぜ娘奮闘記!   作:元掃除道具

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その3 ep人間の里

 カコンと鹿威しが音を立て、訪れた静寂と平穏を感じ入る。

 春先の陽気がぽかぽかと中庭に入り込み、縁側で座りながら見上げる空は穏やかな晴天。

 ふーっとお茶に息を吹きかけて冷ましながら隣に座るふたりを改めて見るが、改めて異常に思える光景に、この短時間ですっかり見慣れてしまった。

 

「いやあ、助かったぜあっきゅん!」

 

 朗らかに笑みを浮かべ、いつもよりも頭の軽そうな白ずくめの魔理沙さん。

 頭が軽そう、と思ったのは普段よりも砕けた物言いで話す様子と、珍妙なあだ名で呼んでくる様子からだ。

 ぶらぶらと足を投げ出して揺らしながら、首だけこちらに向けていつも通りの笑みを浮かべている。

 

「阿求ちゃんありがとう、助かったよー」

 

 わざわざ正座に座り直し、こちらに深々と頭を下げて感謝を伝えてくるのは全身が黒い魔理沙さん。

 調子が狂ってしまいそうなくらい周囲に敬意を向けている。普段からその敬意は見え隠れしていたが、この黒ずくめは普段よりも育ちが良すぎる。

 

「朝ごはんもありがとうな。みすちーのごはんを食べ損ねてたから助かったぜ!」

「本当にありがとう……! 阿求ちゃん、いつも優しい、素敵……!」

 

 種類の違う笑みを向けられ、そのどちらも元の魔理沙さんを感じる。

 いつもの2倍の量それを浴びていると奇妙な気持ちになるので、止めてほしいような続けてほしいような。

 

「……いいんですよ。私とあなたの仲じゃないですか」

 

 なるべく平然と見えるように、いつもこの人の前で見せるように告げた。

 すこしぶっきらぼう過ぎただろうか。

 不安に思いつつ、ちらりとふたりの様子を伺うが白魔理沙さんは笑顔でお茶を飲み、黒魔理沙さんは感激したように両手を組んで天を見上げていた。

 

「なあ私。後で後悔しそうだから、あんまり恥ずかしいこと言わないでくれよ」

「恥ずかしいこと……⁉ え、わたし。そんなに変なこと言っているかな」

「お互いに“私”って呼び合うのは、どうにかなりませんか」

 

 ほっと息をひとつ吐き出し、ゆっくりと流れる時間を感じながら庭先に現れた魔理沙さんたちを思い返す。

 

「今日は随分と豪快な登場でしたね」

「ごめんな、けど文句は小町と映姫に言ってくれ」

 

 白魔理沙さんが庭に落ちて来た時の衝撃なんて忘れてしまったようにケラケラと笑う。

 

「湖の時ほど高い場所じゃなくて良かったよね」

 

 黒魔理沙さんもどこかずれた感想で白魔理沙さんと顔を見合わせて笑った。

 それで良いのかとも思うが、どうにも能天気な様子はこれがふたりとも魔理沙さんなのだという証左のようにも思える。ずっとこの調子が続きそうなので、それは置いておいて私は話を進めることにした。

 

「それで、閻魔様か小町さんが迎えに来るまでは、なにかお考えはありますか?」

「そうだなぁ。自分でも飛べないし、ゆっくりあっきゅんとお話でもしていようかなぁ」

「う、うん。博麗神社にも向かえないし、ご迷惑じゃなければだけど」

「そうですか。いえ、丁度執筆もないですし全然迷惑じゃないですよ決して。ええ、偶にはゆっくりとお話をしていましょう。常と違うあなたですが、それはそれで嬉し……、面白いですから」

 

 なんだそういうことならお茶菓子でも準備しようか。

 手を叩くと聞き届けた壮年の女給さんがパタパタと寄って来てくれたので、お菓子を準備していただきながら今日は来客を通す必要はないとこっそり伝えた。

 

 うふふ、と含み笑いをしながら女給さんがそれを聞き届け、台所へ去っていくのを見送って再び魔理沙さんたちに向き直る。

 

「それで……えー。白魔理沙さんと黒魔理沙さん」

「ややこしいよな。呼び方はそれでいいぜ」

「それでは白魔理沙さんと黒魔理沙さん。改めてあなたたちはどういう存在なんですか?」

 

 私にも関わることができる、ひどく平和な異変とも呼べない異能による事柄。

 閻魔様の狙いはわからないが、何となくその様子から何かしらの意図があるのだろうと察しがついてた。

 

「う~ん、私達にもわかっていないんだけど」

「大前提、あなたたちはお互いに自分が魔理沙さんであると自認しているんですよね。普段との差は感じますか?」

「普段とのちがい……。感覚的にだけど、普段よりも本能的な感じはする、かなぁ」

「本能的……?」

「ああ、なんとなくわかるぜ。普段は言わないようにしていることとか、素直に言葉に出る感じがするもんなー。あっきゅんって呼んだりとか」

「わ、私は逆に阿求ちゃんって呼びたくなっちゃうなぁ」

「それは『そう呼びたかったけど、普段は理性で抑えていた』という事ですか?」

「うーんそうなのかなー。別に普段から抑えているってことはないんだけど。けど今は普段通りには振る舞えないって感じはするかな」

 

 ふたりとも首を傾げながら、ああでもない、こうでもないと意見を交わす。

 

「ちなみに、お互いの事はどう思っているんですか?」

 

 本質的なものではないだろうと思うけど、ふと興味だけで問いかけてみる。お互いに顔を見合わせて、なぜか黒魔理沙さんは照れ臭そうに顔を赤くしていた。

 

「ああ、私らしいなーって思うぜ」

「うん、魔理沙っぽいなぁって思うよ」

 

 そこに違和感を覚える。

 次いで言葉を投げかける前に、廊下からパタパタと足音を立てて女給さんがお茶菓子を手に戻ってきた。

 まだ時間はたくさんあるだろうと、それを見て顔を輝かせるふたりの前に私はいったん言葉を飲み込んだ。

 

「ご当主。上白沢さんがお見えですがいかがいたしましょうか」

「慧音さんが?」

 

 縁側から室内に戻り、座卓を囲んで改めてお茶を淹れ直した女給さんがこっそり耳打ちしてくる。

 本日の来客予定はできれば断りたいところだが、慧音さんの場合はそうもいかないか。

 名残惜しくはあるが一度、ふたりに伺うことにする。

 

「わかりました。おふたりとも。慧音さんがお見えなのですがこちらに通しても構いませんか?」

「慧音先生が? わぁ、嬉しいねぇわたし!」

「けーね先生! もちろん、私たちは構わないぜー!」

 

 嬉しそうに甘納豆をつまむ黒魔理沙さんと、最中をリスみたいに端っこから噛む白魔理沙さんに、その嬉しそうな様子にモヤっと苛立ちを感じながら慧音さんを部屋へ呼ぶことにした。

 

 *

 

「これは……。異変ですか?」

「慧音先生……!」

「けーね先生だー!」

 

 襖を開けて中に入ってきた慧音さんに、ふたりは似たようでやっぱり正反対の反応で歓迎した。

 立ち上がりぱたぱたと傍に寄る白魔理沙さんと、座ったまま顔を赤くして伏せる黒魔理沙さん。

 

 私を見た時よりもなんだか嬉しそうじゃないか? 苛々。

 

「魔理沙、だな。2人になっているのはどういうことだ?」

「映姫の能力で分けられちゃったんだぜ」

 

 ふたりとも帽子を脱いでいるので、その表情がよくわかる。

 白魔理沙さんが慧音さんの手を引いて座卓に掛けてもらうと、黒魔理沙さんは何も言わずに私の隣に席を替えた。

 四角い座卓を囲み、対面に慧音さん。その隣に白魔理沙さん。私の隣には黒魔理沙さんが座っている状況になる。

 笑顔で声を掛けてくる様子か、常よりもスキンシップが多いからか。白魔理沙さんに戸惑い面食らっている様子が、常の慧音さんと違い珍しい。

 

「な、なるほど。閻魔様のことなら危険はないんだろうが。これは珍妙だな」

「ええ。私も今朝、庭先に落ちて来た時に同じような顔をしましたよ」

 

 私達は簡単に状況の説明をして、慧音さんが「ははあ、なるほど」と納得を示したので要件を伺う。

 

「賢者の式の藍殿が、里の周囲でも妖怪たちが騒ぎ出すと言っていたのでそれを伝えに。あと60年周期の年なので、一応擦り合わせとして以前の話をしに来たのです。それが騒ぐ要因かと思っていましたが、どうやら原因はこちらのようですね」

 

 顎の下に手を当てて思案しながら慧音さん。

 ふたりの魔理沙さんを見ながら、僅かに口角は上がり目じりが垂れている。

 

「まったく。人騒がせなのは変わらないな」

「あれ、もしかして褒められているのか?」

「いーや。褒めてはないぞ」

 

 そういって、慧音さんは自然に白魔理沙さんの頭を撫でた。

 笑いながらそれを受け、ニコニコと嬉しそうな白魔理沙さんと羨ましそうにそれを見ている黒魔理沙さん。

 

「……撫でられたいんですか?」

「え⁉ いやそんな、恐れ多い!」

「……撫でてあげましょうか?」

「ええ⁉ いやそんな阿求ちゃんのことはむしろ私が撫でたいというかそんな……!」

「冗談ですよ」

「うぅ……年下なのに、揶揄ってくる……」

「なんで少し嬉しそうなんでしょう」

「う、嬉しくなんて……。ない、よ」

「本当ですか? というか、なんかいつも以上にその、虐めたくなるというか、無防備な感じですね」

「無防備……?」

「……いえ、なんでもないです」

 

「魔理沙は、体に違和感とかはないのか?」

「ああ、普通の調子だぜ! けーね先生こそ普段から忙しそうにしているんだし、体調は大丈夫なのか?」

「調子はむしろ良い方だよ。お前がこっそり持ってきてくれる滋養の薬のおかげかな」

「あ、あれ。バレてたのか?」

「やっぱり魔理沙のものだったんだな。私は平気だから、お前はあまり無理をするなよ」

「さすがけーね先生だなぁ。そのー、迷惑だったか?」

「迷惑なんてとんでもない。自分の生徒の心遣いを無下にする教師がいるもんか」

 

 黒魔理沙さんは、なんとなく弄りたくなる雰囲気を持っている。

 つい調子に乗りそうだったが、ぐっと自重してあまり踏み込まず嫌われないように自制する。

 

「やぁ。迷惑をかけるねご両人」

 

 その場にいないモノの声は庭から聞こえた。

 全員の視線がそちらに向くと、幻想郷の水先案内人、小野塚小町がふわりと中庭に降り立つのが見えた。

 

「あ、小町! さ、さっきよりもなんだか、随分ボロボロだな」

 

 白魔理沙さんが言うように、その姿はボロボロと形容するにふさわしいものだった。

 元々刃を潰して形だけの大鎌は中ほどでぐにゃりと半端に曲がり、服も所々破れて乱れている。

 しかし本人は気にしていないのか、片手をあげて朗らかに笑った。

 

「いやぁ。吸血鬼に加えて、途中で風見幽香も追いついて来やがってさぁ。まあ、そんなことは良いか」

「小町さん、ご無沙汰しております」

「ああ、稗田の当主殿。お迎え前に、無遠慮に来てしまって申し訳ないねぇ」

 

 かかっと笑うのは、死神という陰気な気配に似つかわしくない性格の小町さん。

 私たちが世話になっている幻想郷の死神だ。

 

「私も、正直疲れ切っているんですこし休みたいところさぁ。ご当主が良ければ、すこしだけここでサボって……」

「こんにちは、『文々。新聞』です! やはりここでしたね! おっと、先を越されてしまっていましたか」

「あ、あや~。速過ぎて目が回るぅ……」

「ああうるさいのに追いつかれたねぇ。まあこいつらは良いか。ご当主、お茶を頂けないかい?」

「……次々にお客様が来ますね」

 

 *

 

 そのまま騒がしさは昼まで続き、普段よりも妖怪たちが訪れる屋敷に女給さんには慌ただしく動いてもらうことになった。

 ただ普段は静かな屋敷に笑い声が満ちる様に、なんだか感慨深そうにしているのが印象的だった。

 

「さて、そろそろ次の場所に行こうかねぇ」

 

 うーんっと伸びをして、小町さんがふたりの魔理沙さんに声を掛ける。

 

「場所を移動するのは良いんだけど、いい加減説明してもらえないか?」

 

 慧音さんとチルノさんと一緒に話をしていた白魔理沙さんが、そう声をあげて待ったをかけた。

 チルノさんも不満そうに小町さんを見て、小町さんはその視線を受けて苦笑した。

 

「ああ。話を聞かない妖怪たちのせいで碌に説明もしていなかったもんねぇ」

「話を聞かないのは小町も一緒だと思うぜ」

「人の話を聞かないのはダメね。最強じゃないわ」

「あはは! そいつは確かにそうだ!」

 

 相変わらず楽しそうに笑うが、私も気になっていたところだ。

 理由が聞けるのであれば聞いておきたい。

 

「今日は一日、魔理沙にはその姿で幻想郷中を渡ってもらう」

「幻想郷中かぁ。それはわかったけど、どうしてふたりに分けられているの?」

「それはあれだ。あんたが自分を客観視できないもんだから、それなら他者視点としてもうひとつ用意しようってので荒療治さ。あと多分、普段より魔理沙自身の本音も漏れやすくなっている筈さ」

「あややや。閻魔の能力でしたっけ、随分と勝手なことをしますよねぇ」

 

 予想していた答えだが、やっぱり魔理沙さんが好き勝手されているようで嫌な気分も沸き上がる。

 閻魔様だけの考えなのかはわからないが、魔理沙さんが色々な人妖と関わり影響を持ってきた中で、本人があまりにも無防備なのは私も危険だとは思っていた。

 しかし能力で魔理沙さん自身を好き勝手にするのは如何なものだろう。

 

「客観視できないって事に対する罰、みたいなこと?」

「生きている人間に罰も何もないさ。これは映姫様のお節介だよ、普段のお説教と同じでね。私から見てもあんたは自分がどう思われているのか、周囲にどう扱われているのかをわかっちゃいないと思うんだよな」

 

 黒魔理沙さんが射命丸さんの羽根を梳かしながら、不思議そうな声を出して小町さんが応えた。

 

「私が知らずに迷惑かけているってことか?」

「今回は多分そんな話じゃない。近々地獄でも何か起こるみたいだからこんな手段を講じたんだろうさ。映姫様は無自覚も罪って言うけど、思いを叶える人の身にも限度があるとも言っている。あんたは我が身を知る必要があり、自覚を持つ必要がきっとあるんだろう。誰かに説明される頭にあるだけの理解より、身に落とした自覚を促すための手段なんだろうさ」

 

 白魔理沙さんが尋ね、小町さんが首を捻りながら自身も考えるようにしながら返す。

 説明するより自身で気が付けるようにというのは、閻魔様らしいと思える。

 

「多少危険な目にも遭うかもしれないが、夕方には無縁塚で映姫様がどうにかしてくれるさ。あんたは身構える必要なく、周囲の人妖があんたをどう扱っているのかを客観的に見て感じ取ればいい」

 

「どういう扱いをされているか……」

 

 ふたりの魔理沙さんが、同時に首を傾げて難しい話に悩んでいる様子。

 どちらも元の魔理沙さんらしい動きで思わず写真を撮った文さんに、あとで写真を見せてもらう様に声を掛けて置く。

 

「簡単に言ったら、あんたは自分がどれだけ大切にされているかをわかっていないから、ちゃんと自覚しろよってことだな」

「えぇ、大切にされている……?」

「ああそうさ。ここにいる人妖はみんなあんたを大切に扱っている。そうだろ?」

 

 しんっと静まり返る室内で、ええ? と戸惑ったような白魔理沙さんの声だけが響いた。

 黒魔理沙さんは周囲を見回して不思議そうな顔をしている。

 

「それを不思議に思うんだったら自覚が足りないし、いずれそれが大きな過ちになるかもしれない。映姫様も結構あんたに入れ込んでいるから、死後の安寧を考えて今のうちに矯正したいのさ」

 

 話を聞きながらメモを取っていた鴉天狗の文さんが、ペン尻を眉間に当てながら困ったように眉を下げてポツリと呟いた。

 

「うーん。お節介な閻魔様ですねー」

 

 *

 

 地獄で何かが起きるだろうという事。

 それに魔理沙さんは関わる可能性があり、今のボケボケのままでは大いに問題があるのだろうという事。

 他にもいくつか気になる点はあったが、ゆっくり咀嚼して次の機会に聞いてみようと思う。

 魔理沙さんたちと小町さんが現れた庭に立ち、これから別の場所に行くのだという方々を見送る。

 小町さんはようやく案内をするのだと一緒に。

 それに無理にでもついて行くと言い張って、まあ一応の護衛にでもと文さんとチルノさんが同行を許された。

 ちなみに遠くから風見幽香が接近しているらしいので、このあと慧音さんは里の外へ事情を話しに行くらしい。

 

「それでは閻魔様にもよろしくお伝えください」

 

 危険が少ないだろう道中だが、私は同行することも申し出ずに引き下がった。

 最後まで一緒について行くか迷ったが、結局私は魔理沙さんたちを見送ることにした。

 普段と違う魔理沙さんは、普段以上に本音を零しやすいらしい。

 それなら本音を詮索してしまう私が近くにいるのはあまり良くないだろうと思ったのだ。

 普段と様子が違うことを良い事に、その心を覗き込み暴くようで卑怯に感じたのだ。

 

「うん、阿求ちゃんの良いところ一杯伝えておくね」

 

 心配そうに、一緒に行かない言い訳として体調が悪いと伝えてからは、ずーっと手を握っている黒魔理沙さんが顔を覗き込んでくる。

 いい加減離れてくれないと、騙しているみたいで罪悪感が芽生えそうなのだが。

 こちらから離すつもりは、ないけども。

 

「あっきゅん、本当にありがとうな。ごはんとお菓子と、色々お世話になったぜ。元に戻ったらまた来るぜ! その時にもよろしくな」

 

 白魔理沙さんがニコーっと擬音が見えるくらい満面の笑みを浮かべ、当たり前のように次の約束をする。

 その約束に、何度私が救われる思いをしているのかこいつは知らないんだろうな。

 そうだ、自覚を促すというのなら私も少しはそれを伝えた方が良いのかもしれない。

 しかし言葉は出ず、ぎゅうっと握っていた白魔理沙さんの手が離れる。ふたりはそのまま小町さんと文さん、チルノさんの方へ向かった。

 

「それじゃあ人間の里の皆様、また今際の際にでも会いましょう」

 

 小町さんが言って、順々に姿を消していく。

 白魔理沙さんが消える直前、ようやく声が出た。

 

「また来てくださいね。ずっと待っていますから」

 

 声は届いただろうか。

 それは聞こえるか聞こえないかの刹那に挟み込んだ言葉だった。卑怯かもしれないがまっすぐ伝えることは、まだ私に勇気が足りない。

 

「……戻してもう1回聞かせようか?」

「いえ結構です。どうぞ、小町さんもお急ぎでしょう」

 

 周りに拗れている奴も多いよねぇ。なんて言いながら小町さんもやがて姿を消した。

 

「稗田の当主殿。思いは言葉にしないと伝わりませんよ」

「なんですか。お説教は聞きたくありませんよ」

 

 しばし見送ってから、一緒に残った慧音さんが微笑ましいものを見る目でこちらを見つめてくる。

 そういった視線は本日女給さんからも送られるし、もう十分だ。

 大股で中庭を歩き、室内に戻る。

 途中、慧音さんを振り返って少しだけやり返す。

 

「そういうあなたはどうなんですか?」

「私ですか?」

「ええ。慧音先生にとっても魔理沙さんは思い入れがある生徒だと思いますけど」

「ああ」

 

 すこし考え込むようにして、やがて照れ臭そうな笑顔で返答する。

 

「ずっと反抗期で家出した子供が、最近戻ってきた親の気分と言いますか……」

「……なるほど」

 

 母親が子供に向けるようなもの。それはそれで面白い感情を向けられているなぁ。

 確かに色々な種類があるのだなと奇妙に納得したのだった。




あっきゅん好き(真顔)
思ったより時間が掛かってしまった事情説明の回
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