だぜ娘奮闘記!   作:元掃除道具

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その5 ep永遠亭→無名の丘

「私は?」

「ルナサ!」

「る、ルナサお姉さん……」

 

「わたしは~?」

「メルラン!」

「め、メルランお姉さん……」

 

「わたしは⁉」

「リリカ?」

「り、リリカちゃん……」

 

「なんでよ⁉ わたしもお姉さんって呼んでよ!」

 

 騒霊が騒ぎ、鴉天狗がその写真を撮りながらケタケタと笑う。

 永遠亭にある中庭では、この狂い咲きを楽しもうと姫が呼んだ楽団の騒霊が、件の『ぐーや』の話を聞いて「なるほど特別な読み方は趣深い」と、自身を指さしながら白黒にそれぞれ名前を聞いているところだった。

 

 その中で、末っ子のリリカが不満を口にし、ルナサとメルランはそれぞれ、白と黒の魔理沙をぎゅうっと抱きしめて庇うようにリリカとの間に入って止めた。

 

「リリカ、急に大声を出すのは止めてくれ。黒魔理沙が怯えているじゃないか」

「そうよ~、何が不満だっていうの?」

「姉さんたちは良いけどさ、どう考えてもレイラより年下なんだから! 私の事も姉さんって呼ぶべきでしょ!」

 

「り、リリカちゃん……」

「ほらぁ! この! 黒魔理沙! この!」

「や、やめてくれよリリカ。私がルナサとリリカに挟まれて混乱しているぜ」

 

 わいわいと騒ぐ騒霊たちと魔理沙たちに文がカメラを向けて、パシャリと一枚。

 ううむ。趣深い。

 写真を撮る気持ちも十分に解る。私は胡坐をかきながら腕を組み、深くうなずいた。

 

「そんなことを言ったら、白魔理沙の呼び方はいいのかい?」

 

 ルナサがリリカの頬をぐいぐいと押して遠ざけながら、白魔理沙の呼び方についてフォーカスを向けている。

 

「白魔理沙はみんな呼び捨てだから良いの! けど、この黒魔理沙は姉さん呼びだからダメ!」

 

 それに対して頬をぐにゃぐにゃと押されながら黒魔理沙の頬を引っ張るリリカ嬢が、大声をあげる。

 

「ふふぇぇ」

「この! あざとい奴ぅ! このぉ!」

「やめなさい! リリカ! やめなさい‼」

 

 楽しく戯れる騒霊たちを視界に収めながら、ひとつ息を吐いた小町さんがその喧噪を止めに入る。

 

「はいはい、もういいだろう。そろそろお開きにしておくれ」

「そうだぜ。あんまり私のことを虐めないでやってくれ」

「虐めじゃないわよ、可愛がり!」

「語弊がある言い方!」

 

 騒霊たちが永遠亭の中庭が見える客間でバタバタと騒ぐ中、先ほどまで行われていた楽団による演奏の名残を楽しむように兎とチルノが庭で跳ね廻り、姫とお師匠様はそれを楽し気に見ている。

 

「ねえてゐ、なんだか随分静かじゃない?」

「そうかい? いつも以上に騒がしいと思うけどねぇ」

「違うわよ、師匠と姫様よ。みんなであんなに笑ったから気に障ってしまったのかしら」

「いやぁ、あの人たちに限ってそれはないだろうけど……」

 

 ぐーや呼びをされている姫は途中からみんなと一緒に笑っていた。後から幽霊楽団を呼びに行っていたお師匠様が戻ってきて、呼び方の件を聞いた直後は姫様のように一瞬固まっていたのが印象的だ。

 だけど一緒に笑う姫様を興味深そうに見て、そのあとは終始嬉しそうにニコニコとしていた。

 

「私はこの竹林に来てからの事しか知らないけどさ」

 

 殺伐としていた一番最初の出会いを思い返しながら、今こうして一緒に笑っている状況までを振り返る。

 

「異変の後からは随分変わったよねえ。あの人たちも」

 

 私も健康に気を遣って長生きしている方だが、年数を重ねる度に驚きや感動で以前ほど心が跳ねなくなったように思う。

 私よりもよっぽど長生きをしているだろう蓬莱のお人達は、今この幻想郷で遭遇する未知の体験にどういう感情を抱いているのだろうか。

 月から来たというこの鈴仙には愛着を持っている様子なので、鈴仙を揶揄うために魔理沙へちょっかいを掛けていると思っていたのだが。

 

「案外、本当に気に入っているのかもねぇ」

 

 ちらりと鈴仙を見ると、不思議そうに首を傾げ視線を返された。

 

「そんなに変わったかしら?」

「うさうさ!」

 

 誤魔化すように喉を鳴らし、私も中庭に降りて妖怪兎たちの輪へ混ざることにした。

 一番のお気に入りは鈴仙だろうと思うけど。変わらないと思っていたが、やっぱり人間らしい部分もあるのだな。

 

 *

 

「なるほど、二人がかりだったら飛べそうだなぁ」

 

 お昼まで頂いて、楽団の演奏を楽しんだ後。

 ちょっと試してみようかと魔理沙と文、小町とあたいが抜け出して竹林の中。

 ぽつりと死神の小町が腕を組みながら呟き、あたい達はそれを見守る。

 箒にふたりの魔理沙が乗り込み、ふらふらと飛行に成功した。最初はおっかなびっくりと飛び始めの雛のようなものが、しばらくすると感覚を思い出すように自由に箒が宙を舞っていく。

 鈴仙の適当に言った思い付きがどうやら当たったらしい。ううん、正しい表現なのに“ふたりの魔理沙”ってなんだかややこしいわ。

 

「よかったー! これでおんぶされなくても移動できるね、わたし」

「そうだな、やっぱり私は箒で飛べないとな!」

 

 無邪気に箒の上で白黒が手を繋ぎながら喜んでいる姿を撮り、文が不満そうに口をとがらせて呟いた。

 

「別に、おんぶして移動でもよかったんやけどな」

「ダメよ文!」

「あら、聞こえてしまいましたか」

 

 思わず隣で大声をあげて注意すると、カメラから顔を離して文がこちらにてへっと舌を出して誤魔化し顔を向けてくる。

 

「魔理沙は自由に空を飛べるんだから!」

 

 胸を張って自由に飛ぶ魔理沙を、自分の功績みたいに嬉しくなって自慢する。

 魔理沙はライバルだから。守られてばかりの弱い存在じゃなく、あたいの対等なライバルだから。

 困っているなら手を貸してもいいけど、できることをやらせないのは全然ダメだ。最強じゃない。

 

「そうだねえ。そいじゃあそろそろお暇して、次に向かうとしようかね」

 

 小町がぐにゃりと曲がった鎌を担ぎ直し、上空にいる魔理沙へ声を掛けて降りてくるのを待つ。

 

「次って、どこに行くんだ?」

 

 飛行の昂揚からか頬を赤くしたふたりが降りてきて、狭そうに箒に身を寄せ合いながら白魔理沙が小町に尋ねる。

 

「別に明確な目的地はないんだなぁ。夕方には再思の道を通って無縁塚に行って、そこで映姫様と合流する予定だけど。それまではさーっぱり。ただ幻想郷中を回ってほしいとだけだな」

 

 なんだ、どたばたと移動するから決められているのかと思ったのに。

 ちらりと小町の表情を伺うが、なにも考えてなさそうな穏やかな表情でその意図は読めない。

 

「それなら、博麗神社で霊夢に会いたいんだけど……」

「おお、いいだろうそうしよう」

 

 言いながらなぜか小町がちらりと文とあたいを見て、意味深にこほんと咳払いひとつ。

 その意図がわからないので文の顔を見るが、文も同じように大きく頭に疑問符を浮かべている。

 

「さて護衛として付いてきてもらっているふたりだけど、そろそろ役目だよ」

「はあ……。そういえば、阿求さんの御宅でそんな役目を貰っていましたね」

「ごえーの役目?」

 

 おうむ返しに言葉を返して、しばらくして漸くその意味を理解した。

 いや、それは大きな妖気を感じ取って無理やり理解させられた。

 

「ああ。それじゃあ私らは神社に行くから、ここで風見幽香の相手を頼んだよ」

 

 *

 

 ずずんっと地面が揺れた。

 そういう錯覚を覚えたのは、強大な存在がこの場所に向かってくるのを悟ったためだろうか。

 

 永夜の異変の際に感じたような巨大な存在感。

 妖怪兎たちは大いに警戒し慌て、永遠亭は大混乱に見舞われた。

 てゐが大声で妖怪兎たちに呼びかけ、次々に兎たちが屋敷に入り雨戸を閉めていく。まるで台風が来た時のような様相でバタバタと周囲は喧噪に見舞われた。

 私は師匠と姫様を奥座敷に見送り、玄関から出てそれに向かって門の外で待ち構える。

 

「竹林を飛ぶと、傘が傷つくから嫌なのよね」

 

 竹林の奥から、ゆっくりと姿を現すのは癖のある緑の短髪にオレンジのベスト、同色のスカートを纏った女性の姿。

 遠目にそれを認識し、そのお花っぽいのにどこか荒々しい気配の正体に行きついた。

 

「そのお花っぽい気の持ち主は!」

「いかにも私は花を扱う者」

 

 うっすらと笑みを浮かべ、やさしそうに見えるのにトゲトゲとした気配をもつ妖怪。

 人間の里で花を見ている姿を目撃したことがある。しかしその時とは違う威圧的なその雰囲気。

 

「じゃ、飛ばなきゃいいんじゃん? 雨も降っていないし、竹林は霧も出ているし、何で傘を差してるのかしら」

 

 兎たちを全員屋敷に避難させたてゐが私に並ぶように後ろから追いつくと、一緒になってそれに対峙してくれる。

 いつも通りの飄々とした雰囲気で気楽に声を掛ける様は流石だ。

 

「これは幽かな花の香りを集める曲線なの」

「へー、そうなんだ」

「永遠亭になにか用事でも?」

 

 てゐのように切り替えることは難しい。

 私は硬い声でそれに投げかける。

 

「別にココで用事は無いのだけど。死神と人間の魔法使いを見なかった?」

 

 厄介事は屋敷の外からやってくる。

 まさか招いた魔理沙たちを追ってこんなものが姿を現すなんて思わなかった。

 招いた本人であるてゐが、気まずそうにこちらに片手をあげて謝罪するように片目を閉じた。

 

 てゐを責めるつもりはないし、まだ屋敷にいるだろう客人を護るのも私の役目か。

 争いになりそうだと心の準備をしながら、さて今日も生き残れるかと自問する。

 

「さて、どうだったかしら」

「うふふ。今夜は兎鍋だって言いたいのかしら?」

 

 にこにこと笑顔を浮かべているのに敵対的な雰囲気のまま。威圧感が膨れ上がるような気配。

 気が付けば私とてゐの他、文さんとチルノが庭の方からこちらに飛んで向かってくる。魔理沙と小町さんは一緒ではなかった。

 

「あややややや。これは一大事、ついでに弾幕ごっこの様子も撮っておけば紙面の賑わいは十分ですね」

「あら貴方、天狗? 私なんかよりもっとネタになる人間が居ると思うけど」

「もちろん人間も取材しますけど、ここいらで花の狂い咲きも記事にしないといけないかな~なんて思いまして」

「よーし、また強敵がきたわね! あたい、また最強になっちゃうわ!」

 

 風見幽香が腕を組んで不満そうに唇を尖らせ「そう、その花の異変の為なのだけど」なんて言いながら、きょろきょろとあたりを見回して明後日の方向を見つめた。

 

「あぁまた移動した。まったく。ちょろちょろと小賢しいわ、あの死神」

 

 言葉ではつまらなそうに言うが、その表情は嗜虐的な笑みを浮かべている。

 ぞっとするほど美しい笑みだ。思わず後ずさりしそうになる足へ気合を入れて踏み留まった。

 

「まあいい、そうね。霊夢も異変解決の時は、出会った妖怪を適当にしばき回しているって言っていたし」

 

 ゆっくりと風見幽香が手に持った日傘を閉じ、大事そうにそれをどこかに仕舞い込んでいる。

 こちらをぐるりと見まわした後にそのまま楽し気な調子で言う。

 

「弾幕ごっこでしたっけ? 流行っているのよね、あなたたちのも見せてもらえるかしら」

 

 妖怪にも波長がある。風見幽香のそれは幾重にも重なっているように見え、重なってぶれた先にも実体が存在するように存在感が大きく膨らんでいた。

 

 *

 

 「スーさん。今年のスーさんはちょっと咲き過ぎかしら?」

 

 太陽がサンサンの丘の上。まっ白なスーさん達と、ぽつりとひとりの私だけの丘。

 遠目の方で妖精たちがスーさんの毒でおかしくなっているのを見ながら、今年はちょっともしかして凄いのかしらと考えている。

 

「凄いわ。これだけ毒が強ければ世界も征服できるわよ」

 

 胸いっぱいに息を吸い込むフリをして、人間らしい動きの見様見真似をしながら笑顔も浮かべてみる。

 視界一杯に咲くスーさんを一日ぼーっと見ているだけでは、もしかして勿体ないのかも。

 

 私はまだ生まれて少ししか経っていないけど、妖怪として経験がないくらいの力の滾りを感じている。

 手元に手を当てて、くすくすと笑うフリ。誰も見ていないのに、なんでか人間のフリを続ける。

 

「もしかして私が季節を間違えてしまっているのかしら」

 

 ちょっと前までは寒かったと思う。寒いとスーさんは顔を見せてくれない。

 だけど太陽が昇って少ししたら、どんどんスーさん達が元気になって気が付けば一面に咲き過ぎているくらい。

 毒が強まったからなのか、なんだかいつもよりもハッキリと私という存在を自覚している。

 

 同じく毒気を感じているのか、自然に飛ぶものも姿を消して虫も近寄らない幻想の丘。

 私はスーさんにだけ話を続ける。

 

「ねぇスーさん。何で今年はそんなに強いのよ」

 

 スーさんは無言。答えてくれない。そんなことはいつも通りで変わらないはずだ。

 風が吹いて、スーさんが揺れる。私もそれを見ながら頭をゆらゆら。

 立ち込める霧がうっすらと視界を歪め、しばらく静かな丘には葉が揺れる音だけが響いていた。

 

「わー! ここは毒ガス事件の現場みたいだぜー!」

「魔法の森よりもすごい……! ま、魔法が使えなかったら来ることできなかったね」

「なんだってこんな、毒しかないような場所を通りたがるんだか」

 

 風がそんな声を運んでくる。

 顔をそちらに向けると、箒に乗った双子の人間と大鎌を肩に掛けて飛ぶ妖怪。

 スーさんの毒を遮断し、毒を浄化する光の壁のようなものを纏って、私たちの丘に入ってきた。

 妖怪の言う通り、普通の人間は避けて通る場所だろうと思うのだけど。

 滾った力のまま、私はふわりと浮き上がりその声に近寄ってみた。

 なんだかいつもよりも自分という存在を認識しているのだ。感じるままに動いてみようと思えたのだ。

 

「毒の霧よ、ガスじゃないわ」

「わぁ! 出た!」

「きゃーっ! か、かわいいぃ!」

「……捨てられた道具か」

 

 双子の人間たちは私を見て揃って喜び、鎌を持った妖怪はこちらをちらりと一瞥して無機質な、同情するような視線を向けてくる。

 道具じゃないのに。私は私。

 

「人間。人間よね? あと変な妖怪」

「おう人間だぜ。私たちは霧雨魔理沙だ!」

「えへへ、かわいい……!」

「わたしたち? スーさんみたいな存在なのかしら」

 

 首を傾けて人間のふり。人間の片方の、黒い方がそれを見ながらきゃあきゃあ喜んだ。

 生まれて初めて向けられる視線。いや、なんだか随分昔に感じていたような感情。

 隣の妖怪のような視線は覚えがある。そっちの方が多くて、この人間のようなものを忘れてしまったのかも。

 なんだか不思議だ。私は生まれて間もない筈なのに、懐かしさにも似た感情を感じているのだった。

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