だぜ娘奮闘記!   作:元掃除道具

61 / 88
その8 ep博麗神社

「そう、貴方は少し長く生きすぎた」

 

 映姫様が悔悟の棒にさらさらと何かを書く。

 無造作に振るったそれから赤と青の魔力光が周囲に生まれ、敵意のある弾幕となって放たれた。

 低速で悠々と避けながら、にやりと意地の悪い笑みを浮かべた幽香が手元にある枯れない花を丁寧に畳み、それを杖のように構える。

 

「自分は虐められないと高を括っているのかしら? 幻想郷で誰が一番強いか白黒はっきりつけてやる!」

 

 構えられた花の中心、杖であれば先端の部分に幽香の魔力が集中し、まるでレーザーのように勢いのある魔砲となって映姫様へと殺到する。

 

 また無造作に振るう悔悟の棒でレーザーを払うと、大げさにため息を吐いてそれで口元を隠す。

 

「白黒つけるのは私の仕事ですよ。それに私は幻想郷のものでも此岸のものでもない」

 

 童顔で優しげな面立ちに、にっこりと笑みを浮かべているのに好戦的に見える。

 目の前で行われた一瞬、一合のみのやり取り。

 それはさながら映画の一幕のような激しさと非現実性で、感じる熱と昂る魔力が私の小さな心臓を大いに暴れさせていた。

 

「裁判は上から下へ、 常に一方的に行われなければならない! どう転んでも白黒つくのは貴方だけですよ!」

 

 どこか楽しそうに棒を振るい次々と弾幕を放つ映姫様と、それを避けながら合間をレーザーで狙う幽香。

 

「おー……」

 

 それを見ながら宙ぶらりん、置いてけぼりの私。

 箒でメディとふたり、付いてこいと言われた割に特になにも要求されず、傍でふたりのやり取りを見ていた。

 映姫様、意外と弾幕ごっこ楽しんでるじゃん。

 

 腕の中でメディがフンフンと興味深そうに弾幕ごっこの様子を見て「これが本当の遊びなのね」と目をキラキラさせている。

 

「おお、やっているなぁ」

 

 ぼけっと手持ち無沙汰に見ていると、後ろから声を掛けられて振り返る。

 癖のある赤毛に雑草が所々についている。朝はきっちりと着ていたのに、すっかりはだけて何だか色っぽくなっている小町だ。

 

「小町! 今日は随分お世話になったなー」

「映姫様のお願い事だからねぇ。連れ回して悪かったよ」

 

 ぱぱっと服についた土なんかを払いながらゆっくりと飛び、私の隣に浮かびながら映姫様と幽香の弾幕ごっこを並んで見る。

 

「それで、今日のお説教は身に染みたかい?」

「ああ、人間の里で言っていた『お前は大切にされている』ってことだろ? 色々と考えさせられた、特にメディのおかげで身に染みたぜ」

 

 メディがこちらを見上げながら不思議そうに「わたし?」と声をあげるので、その不思議そうな視線に笑いが漏れた。

 

「少し恥ずかしいけど、周りの優しさとかに色々と気が付けた一日だったぜ」

「そいつは重畳。私も体を張った甲斐があるってもんさね」

 

 あっはっはーと笑いながら、小町は手に持っていた大鎌を持ち直す。

 すっかり曲がってしまっている。

 真っすぐに戻そうと反対にグイグイ力を入れてみたようだけど、どうも難しそうだと諦めたらそれをいつもの様に肩に担ぎ直した。

 

「さて。あのふたりの弾幕ごっこはしばらく続きそうだけど、もう夜になる。あんたはどこかに向かわないといけないんじゃないかい?」

 

 こちらを見ながら「送るぜい?」と快活に笑っている。

 

「いや、でも……」

 

 ちらりとふたりを見る。

 こちらを気にした風は一切なく、異次元の弾幕ごっこが繰り広げられている。

 

「どうせふたりとも今こちらを気にする余裕もないし、気にしちゃあいないよ」

「そうは言ってもな、いいのかなー」

「魔理沙、どこかに行くの?」

 

 メディが腕から抜け出して、私の目の前に浮かぶ。

 

「それじゃあここでお別れね。お茶会の準備が出来たら迎えに来て頂戴。私はスーさんとあの丘にいるから」

 

 絵本から出て来たお姫様のような見た目のメディスンが、本物のお姫様みたいにカーテシーをしてお別れを口にする。

 アリスの人形劇で似たような仕草を見たことがあるけど見事なものだった。改めてメディ可愛いと感じる。

 言葉を探している間にメディはすっかりこちらに興味を失くして、夢中で映姫様と幽香の弾幕ごっこを見ている。

 なんだか寂しいような、もっと構ってほしいような。人間の里で猫を相手にしているような気分だ。

 

「……それじゃあ私は行こうかな」

 

 幽香と映姫様、メディも別の事に夢中だ。

 空を見ると、どんどん陽が落ちてきて西から空が暗くなっている。

 空が暗くなっているのに気が付かなかったのは、幽香と映姫様の魔力の光がそれだけ明るく派手だからだ。

 煌びやかなそれにメディが夢中になるのもわかる。

 せっかくの好意なので素直に甘えることにして、行き先を聞く小町に私も答える。

 家ではない。今日はそこに行っていないけど毎日通っている場所だ。

 

「それじゃあ幽香! 今日はありがとうな! 映姫様も! また会いましょうね!」

 

 最後に大声で挨拶だけ残して、私は小町に触れられて移動する。

 周囲の景色がぐんっと一瞬すべて線に見えるように歪み、後ろから引っ張られるような感覚がしたらもう移動しているのだ。

 

 *

 

 今日は初春にしては暖かい日だった。

 花は咲き乱れ妖精たちがはしゃぎ回り、周囲には亡霊が溢れるようなそんな日常の一幕。

 

「ふぅー……」

 

 お茶を飲み、心を落ち着ける。

 すっかりご飯の準備は終わってしまい、やることがなく手持ち無沙汰になってしまった。

 

 お味噌汁と御櫃のご飯はまだまだ温かい。焼いた魚は冷めても美味しいし、煮びたしの山菜も漬物だってそうだ。

 すこし準備をするのが早かったかもしれない、なんてぽつりと思う。

 襖と雨戸は開け放しにしているから、室内にいながらでも外が見えた。

 空は陽が落ちてきてすっかり夕暮れ。だんだん暗くなりつつある。

 

 今日は晩御飯を一緒に食べる日だ。

 こんなに遅くなるのは珍しい。心配する必要はないと知っているけれど心は逸る。

 

 人間の里の騒ぎでは慧音に小言を貰ったが、私だって静観していることに神経を使っているのだ。

 心を平静に保ち、冷える手を湯飲みで温める。

 

「ぅうわぁ! ……あ、霊夢」

 

 予感した通り、魔理沙は境内に現れた。

 死神の小町による距離を操る能力、それによる瞬間移動にも似た移動だ。

 

 帽子を抑え、転びそうになるのを防ぐように箒を持った手を前にしている。

 一瞬呆けた後、こちらを見てぱっと表情を明るくした。

 

「遅かったわね」

 

 ゆっくりと手に体温が戻るのを感じ、やれやれと平静を装ってゆっくりと立ち上がる。

 ぱたぱたと寄ってくる魔理沙が縁側に箒を立てかけて、そのまま靴を脱いで勝手知ったると家に上がり込むのを迎えてあげる。

 帽子を取った金髪が沈みかけの夕陽にキラキラと輝き「今日は色々と大変だったぜー!」と眉を下げている困り顔。

 少しだけ背の伸びた私は、いつの間にかその金色を前よりも少し見下ろせるようになっていた。

 

「そう。まあゆっくりしていきなさい」

 

 いつも通りの魔理沙に安心し、ようやく落ち着きを取り戻すのだった。

 

 *

 

 お櫃をあけるとまだ温かく、蒸気が上がりホカホカのご飯が良い匂いを立てて思わずぐうっとお腹が鳴った。

 ちらりと霊夢を見てお腹の音が聞かれていないか窺うけど、気にせず温めたお味噌汁をお椀に注いでいるので多分バレていない。良かった。

 お茶碗にそれぞれ盛り、霊夢は少しだけ多めにしてちゃぶ台に置くと霊夢がお味噌汁を注いだ椀を持ってきた。

 

 今日は焼き魚と山菜の煮浸し、お漬物みたいだ。

 お魚があるっていうことは、今日は人間の里へ買い物に行ったんだろうか。

 ああ、朝はみすちーのご飯を食べ損ねたなあ。今度は私の方からお願いに行こうか、いやいっそ私の方から食べに行こうか。

 霊夢がごはんを作る日でもお茶を注いでくれる。湯呑みを受け取って隣り合って座り、手を合わせていただきます。

 お味噌汁を一口。

 

「うん、美味しい! やっぱり私は霊夢のご飯が好きだぜ」

「はいはい。私はあんたのお味噌汁を毎日飲みたいわ」

 

 温かいご飯と霊夢のお茶。すっかり日常の一幕に戻った私は、いつも通りの様子の霊夢に今日の事を話して聞かせた。

 私が2人になっていたという話、その概念の理解は難しいかなと思ったのだけど、特に突っ込まれることもなく黙って聞いてくれている。

 

「それで私は周囲の優しさに改めて気が付いたんだな」

 

 言って締めくくった後、時折相槌を打ってくれていた霊夢の様子を伺う。

 話の中で私は「妖怪たちの優しさ」と言ったけれど、もちろん強い力を持っているのは人間の霊夢や妖夢、咲夜だって変わらない。霊夢たちはたとえ妖怪や神霊相手でも遠慮が必要ないほどに強いのだ。

 だけど人間の霊夢たちを怖がることはないし、食われる心配もないから少し軸の違う優しさなのだ。

 

「まあ……そうね。よかったんじゃない?」

 

 なんとも言えない表情をして霊夢がお茶をすすり、ほっと息を吐く様子はなんだか安心しているような残念に思っているような様子。

 異変に関わる話ではなかったから、結局長々と愚痴みたいになってしまった。

 

 ご飯を食べ終わりお茶を飲んでから、私は立ち上がって食器を片付ける。同時に霊夢が立ち上がり、片付けの手伝いをしてくれる。

 並ぶと以前よりもほんの少し霊夢の背が高くなっていることを実感し、なんだか悔しいんだか嬉しいんだか、複雑な思いが湧いてくる。

 幼馴染は変わらず成長している。生きている。

 

「……てい」

「あいたっ。なによ」

「なんでもないぜ」

 

 台所の流し台へガチャガチャと食器を置いた後、肩をぶつけて複雑な感情をそのままぶつける。

 少しも揺れずに受け止められて、なんだかそれも悔しい。痛いなんて言う割に少し嬉しそうなのも。

 

 ざーっと水を流しながら食器を洗っていると、すっかり暗くなった外を見ながら霊夢が電気灯を付けて外の扉を閉めていく。

 元々霊夢の方が少しだけ背は高い。秋からまた少し伸びて、私は伸びなかった。

 少しだけ差が広がったけど、咲夜ほど大げさに差があるわけじゃない。

 だけどなんだか、生きている時間が一緒だから生まれるその差が、この世界に生きている実感を得られる。

 

「もう外はすっかり暗いわね」

「今日は少し遅かったからなぁ。待ってたよね、ごめんな」

「全然。むしろ少し準備が遅かったから、遅く来てよかったくらいよ」

 

 プルプルと手を振って水を払い、冷たくなった手に息を吐いて暖を取る。まだ初春なので水は冷たく、台所は少し冷える。

 ずっと台所にいた霊夢と一緒に居間へ戻り、一息ついてまたお茶を淹れてくれたのでそれで手を温める。

 

「ところで魔理沙、今外で花が沢山咲いている原因はわかる?」

「ああ、えーっと……」

 

 映姫様から聞いた話を思い出しながら、そういえば今幻想郷には幽霊が溢れているんだっけと思い出す。

 まあ私には見えないし感じないから、言われないとわからないんだけど。

 それで彼岸に渡るのが渋滞していて、花に宿ってたくさん咲いているのだったか。

 

「お化けが花に宿って咲いているんだっけ?」

「そうなのね。こんな暗い中で帰るのって大変じゃない?」

 

 そう思ったら確かにそうだ。

 お化けが嫌いな冥界の庭師が、夜に出歩くことの恐ろしさをそりゃあもう注意していたのを思い出す。

 

「しまったな。ごめん霊夢、今日泊まってもいい?」

「仕方ないわねー。それじゃあお風呂の準備でもお願いできる?」

「ちぇっ。ちゃっかりしてるぜ」

 

 最初からお風呂の掃除を任せるつもりだったのか。

 頼む立場だから最初からそれくらいはするつもりだけど、憎まれ口を気軽に叩けるのも幼馴染の仲だから嬉しい。

 以前の春雪異変から、お泊りセットは勝手に置かせてもらっているのでいつでも泊まれる。以前より頻度が多くなった気がするけど、案外なにも言われていない。

 

「ねえ、ところで魔理沙」

「なん……」

 

 立ち上がってお風呂の掃除の為脱衣所に向かおうとすると、ぐいっと握られた袖を引かれる。

 振り返ると真っ黒な霊夢の瞳が目の前に広がっていて思わぬ近さ。

 じっと見つめているそれになんだか熱っぽいものを感じ、ぐっと言葉が引っ込んだ。

 

「妖怪だけじゃないわよね。あなたの周りにいる人間への想いはどうなの?」

 

 ごくりと飲み込んだ唾が言葉を一緒に飲み込んでしまった。

 意味を理解する前にぱっと手を離され、いつも通りの霊夢が「寝間着、出しておくわね」なんて言って離れていく。

 

 どっと跳ねた心臓を抑え、なにが起こったのかを理解して体中の血の巡りを感じる。

 やけに熱が顔に集まるのを知らんぷりして、廊下の奥の脱衣所に向かった。

 

 妖怪だけじゃないって、どういう意味だろう。

 そりゃあ霊夢がいるんだからそうだけど、霊夢はなんであんな顔をしたんだろう。

 

 心臓がうるさく跳ねるので胸を抑えながら、扉を閉めると一気に疲れて脱衣所の床にへたり込んだ。

 

「か、顔近いって……」

 

 距離感のおかしい幼馴染にドギマギしながら、こんなに長く一緒にいるのに、いつまでも霊夢に慣れそうにないなと思うのだった。

 

 *

 

 魔理沙にとって負担になるのであれば、私はそれを身に抱えたままでも良いと思っている。

 諦めるという選択肢はないけれど、一番近くにいることができるならなんだっていい。

 

 そう思っていたんだけれど。

 

「はぁ~……」

 

 先ほどは当たりが強くなってしまった事を反省する。

 だって妖怪はみんな優しいとか、妖怪がどうだとか。

 強さが大事だというなら、私はそんな奴ら一纏めにぽいっと投げ捨てられるのに。

 同じ時間を刻む人間は1人だけなのに。

 

 廊下から影になる部屋の中で、力なく座り込む。

 長く息を吐き出しながら顔に手を当てる。

 

 嫉妬したのだと思う。憧れられている幽香や文に、幼稚な苛立ちを覚えた。

 能天気にご飯を食べて笑顔を浮かべるそいつに、こちらの想いを吐き出したくなった。

 

 私の背が伸びたことをずっと気にしているから、傍に並ぶとすぐに体をぶつけてくる。

 そんな癖が可愛らしく、ついつい傍に立ってしまう。それを楽しみにしてしまう。

 楽しそうに妖怪たちの話をして、素直な好意と憧れを語る。

 本人たちの前では怖がりもしているけど、同じ人間の私の前では安心しているのが目に見える。

 そういう小さな、いつもは我慢のできる積み重ねが今日は一瞬爆発した。

 

 軽く袖を引き、能天気に振り返る魔理沙の肩に手を置きながらその金色の瞳をじっと見つめた。

 何も考えていないだろう、何も気がついていないだろう能天気さが少し憎らしい。

 言葉を飲み込み、呆然としている魔理沙を見ると自分の内から湧く欲望を好きに開放したくなる。

 それをしないのは臆病心だ。関係が変わる事で壊れてしまうのを恐れる心だ。

 

「ああー……」

 

 少しだけ大きくなった図体に心は追いついていない。以前と変わらず煩悶としながら畳に手を突いた。





花映塚 終了!
もしかしたら花映塚の閑話が出るかもですが、予定では次回から風神録。


風神録まで少しだけチャージ期間設けます。
プロット(駄々書き)が出来たら書き始めるので少々お待ちください。

▲▽

いつも見て頂いてありがとうございます。
感想とかここ好き、最近はXで更新通知にいいね貰ったりも。
力になっています、おかげ様で結構な頻度で投稿できているなあと感じる日々です。
改めてありがとうございます、これからも引き続きよろしくお願いいたします。


PR
妄想1の続きがでました。
そちら見て「こまけえこたあ良いんだよ」と気に入ってくれていた方がいましたら、
目次にあるリンクからぜひ。感想ここすき受付してます。
完全に自己満足なので本編以上に人を選ぶ気配を感じてます……。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。