だぜ娘奮闘記!   作:元掃除道具

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その4 vs諏訪子

 鴉天狗の文にとっては新参の山の神は、少し気に入らないものだった。

 

 せっかく今日は、取材と称してお気に入りの人間に会える日だったのに。

 魔理沙が収穫物の運搬をするのだというから、人間の里の収穫祭の準備取材なんて言いながらコラムの復帰スケジュールなんかを打ち合わせしたかったのに。

 

 下らない会議に駆り出され、顔を合わせることもできなく。さらに山全体で方針が決まるまで人の出入りを禁止することになったので、しばらく会えないことが決まった。

 だがまあ良い。いや、良くはないのだけど永劫禁止されるのではないので我慢ができる。

 山のいざこざが片付き次第、以前のように人間を招く位は許されるだろうと思う。

 

 新たな侵入者が危険なものであれば排斥する必要があるし、天狗社会を脅かす脅威になる可能性について理解している。

 予定が潰れたのは単純な私怨と理解していたので心に隠しながら、文は山の神となった神奈子を神社まで送っていた。

 

「すまないねえ、すっかり遅くなってしまったみたいだ」

「いえ、お気になさらず。仕事ですので」

 

 にこやかな神に対して、つっけんどんな姿勢をとってしまうのは、そういった事情だった。

 

「うちの子も心配している頃だろうさ。ああ、射命丸殿。よければ夕飯を一緒にどうかな」

「はあ、まあ。それが仕事であれば、もちろんご一緒させていただきますが」

 

 あははは! と、なにが楽しいのか神奈子は手を叩いて、世代がどうだとか、社会的すぎるだなんて笑っている。

 

「どうだ射命丸殿、酒はいけるか?」

「先ほども随分と呑んでいた様子ですのに、まだ呑もうというのでしょうか」

「なあに神と酒は切り離せぬよ! あんなもの、まだまだ! どうせ天狗達も今頃酒宴でしょう、あなたひとりくらいこちらで一緒に呑んでもいいじゃないの」

 

 確かに、この神の言う通り。今日は天狗達に酒宴が設けられていた。

 神が不在の山に、新たな神が降りその恩恵を受けることによって力を増すことが決まっている。

 大天狗達は態度こそ控え目だったが、突然の侵入者にも関わらず、その正体が判明してからはすっかり歓迎ムードだ。

 そう、突然の侵入者にも関わらず、だ。

 慣例を破り、すでに神社は妖怪の山に受け入れられていた。

 人間を定期的に入山させるために面倒な手続きを踏んだことがあるので理解しているが、文にとっては馬鹿らしくなるくらい簡単に受け入れられた。

 

 目の前では皆歓迎の雰囲気は控えていたはずだが、天狗達に宴席が設けられていると見通している様子は流石神様か。

 

「聞けば、射命丸殿は人間とも仲が良いのだとか?」

 

 やはりそれが狙いなのだろう。

 大天狗から受けた命令の為、背くことは出来ないが内心で文は舌を出した。

 

「ええ、私の新聞は人間の里でも人気ですからね」

 

 特定の個人の名前は出さぬよう気を付けながら、慎重に言葉を紡ぐ。

 

「それなら人間の里の視察に行くときは、うちの早苗に里の事を案内してもらいたいものだが」

「なるほど。構いませんよ、機会があれば」

 

 本心ではそんな面倒なことは御免だという思いと、神の寵愛を受ける風祝について興味もある。

 少し自分の時間が削れる程度の事。それであれば受けないという選択は無い。

 

 ただ個人的に気に入らないという理由は心に残り、この幻想郷流のやり返しがどこかでできないか、文はただ淡々と機会を伺っていた。

 

 *

 

 肌着として渡されたそれは伸縮性が凄くて、布の質感も良く違和感なくつけることが出来た。

 

「おお、すごい……」

 

 スポーツ用に、動き回っても胸が痛くないようにするものだそうだ。

 他にも成長段階に合わせて、最初はこういう伸縮する素材で、後々に大人用の下着にするのだとか。

 

「これはいいぜ、霊夢にも教えてあげようかな」

 

 早苗に貰った『すぽぶら』を着け、確かめるように上体を揺らす。

 サラシよりも手軽に着けられるしとても快適だ。

 

 シャツを着る前に、はしたないが『すぽぶら』だけ着けてぴょんぴょんと飛び跳ねる。

 そもそも起伏が少ない身体なのだから痛みなど僅かなのだけど、ぎゅっと身を締めてなんだか安定感が増した気もする。

 

「マリシャさん、着けました?」

「あ、うん。着けてみたぜ。多分大丈夫だと思う」

 

 扉の外で早苗が声を掛けてくるので、それに応えながら上体を解すようにストレッチ。

 左肘を頭の上まで上げて、反対の手でそれに手を添えながらぐーっと右に伸ばす。

 自然と背筋が伸びて胸を張りながら深呼吸。

 

 がちゃりと扉を開けて早苗が入ってきたが、ぎょっと目を開いて固まってしまった。

 

「あれ、つけ方間違えてる?」

「し、失礼しました……」

 

 言いながらくるりと反転し、扉の外に出てしまった。

 

 反応を見て、自分の状態を見下ろす。

 新しい衣服ですっかりシャツと変わらないぐらいの気分でいたけど、意識するとなんだか恥ずかしくなってきた。

 上にシャツを着て、改めて早苗に声を掛ける。

 

「ごほんっ! ごめんな、もう大丈夫だぜ」

 

 かちゃりと扉が開き、そっと顔を出した早苗が少し頬を赤くしたまま覗き込む。

 お互いに気まずさが残ったけど、そこには触れず普通に話をする。

 

「ああ、よかった。小さくはないですか?」

「うん、丁度いい感じ。こんなに良いもの貰って良かったのか?」

「ええ、もう使いませんから。……その、よくお似合いでしたよ」

「……忘れてくれ」

 

 ベストを着けながら、今更上ってきた恥ずかしさに早苗から目を逸らした。

 

「幻想郷にはブラってないんですねぇ。もし私も必要になったら、自分で作らないといけないのかしら?」

「私は見たことないなー、私と霊夢は必要なかったし。詳しそうなのは……咲夜とアリスは知ってそうかな。今度紹介するよ」

 

 妖夢の事もぽんと浮かんだが、幽霊には幽霊の衣服があるだろうと、以前のアルバイトで思い知っているので候補から外した。

 

「よし、ばっちり! 雛の厄って、結局その後のことまで考えたら全然不幸じゃないなー」

 

 ブーツの紐が千切れても空を飛んでいるから影響しないし、サラシが千切れてもこんなにいいものを貰えるんだ。なんなら幸福まであるぜ。

 思えば、私と霊夢の周囲には人間の女性はいないからこういう服の話題は縁遠かったように思える。

 特に下着なんて話に上ることはないから、サラシよりも良いものがあるなんて想像もしていなかった。

 

「幸福も不幸も、受け取り方次第という事ですね」

「ああ、なんだかすごい巫女っぽい事言うね」

「巫女じゃなくて風祝なんですが……まあ、同じようなものですね」

 

 顔を見合わせて早苗と笑い、帽子を被り直して立ち上がる。

 

「さて、お夕飯の準備は……もう済んでいるんだっけ? なにか手伝えることってないかな」

「マリシャさんはお客様なんですから、ゆっくりしていてください」

「そうはいってもなー。落ち着かないんだよ」

「働き者ですねぇ。それじゃあ後で頂いたお芋を奉納するので、それのお手伝いをお願いできますか?」

「奉納?」

 

 階段を下りながらふたりで連れ立って歩き、早苗が丁寧に神社の事を説明してくれる。

 

「はい、うちは……守矢神社では二柱の神様をお祀りしています。主神であられる八坂神奈子様と、その友神である洩矢諏訪子様です」

 

 うん。どちらも記憶にある神様たちだ。

 どちらかが6ボスで、どっちかがEXボスだったな。

 

「神様がふたりいるの?」

 

 その背景などはもうすっかり覚えていないけれど、柱を背負っている大きな神様と蛙みたいな目の付いている大きな帽子を被っている女の子だった記憶がある。

 台所の扉を開け、早苗がエプロンを着けながら答える。

 

「はい。表に神奈子様、裏に諏訪子様がいらっしゃいます」

 

 籠からお芋と栗、かぼちゃを分けて置いていく。

 栗は籠の底の方にぎっしり詰まっていて、これは下ごしらえも大変そうだ。

 

「へー、ひとりだけだと思っていた」

「諏訪子様は今お眠りになっていらっしゃいますので、表の事はすべて神奈子様が取り仕切っています」

 

 お供え物、でいいんだろうか。

 私もより分けを手伝いつつ、供養台へ山のようにお芋を積みながら早苗と話を続ける。

 居間の方ではにとりのひとりごとがこちらまで聞こえてきて、ひとりなのに賑やかだ。

 ずっと照明を見ながら話をしているのだろうか。

 

「もう夜だぜ。随分寝坊助なんだなぁ」

 

 すっかり暗くなった外を、台所の小さな窓から見る。

 月に霞のような雲が掛かっていて、妖怪の山という物騒な場所なのに静かな夜だ。

 

「ふふ、そうですね。……はやく目を覚ましてほしいのですが」

 

 神様も眠るんだなぁ。

 もう一人の神の姿を思い浮かべながら、確かによく眠ってそうだなぁなんて思う。

 

「奉納するのは、あの鳥居の先にあった賽銭箱のある建物?」

「はい。その奥で眠っていらっしゃるのでお姿は現しませんが」

「そうなのか。なあ、お芋を置いてくる位は私ひとりでもできるぜ。これ、持っていけばいいんだろ?」

 

 供養台に月見団子みたいな盛られ方した芋を持ち上げ、綺麗な石畳が続いていた奥の建物を思い浮かべる。

 お夕飯の準備はほとんど終わっていると言っていたが、この貰い物も調理するだろうし、奉納するくらい略式で構わないと思うんだけど。

 

「その間に早苗は準備していたら良いし、丁度いいと思うんだけど」

「うーん。それじゃあ、栗をお水に浸けたら私も行きますので、先に持って行ってもらえますか?」

 

 *

 

 ひんやりと秋の空気が、静寂と一緒に誰もいない境内に満ちていた。

 ブーツの紐が切れたので代わりにスリッパを借りている。その足音をぺったんぺったんと間抜けに響かせながら、私は賽銭箱の置いてあるお社に奉納台を両手で持って近づいていく。

 

「おお、博麗神社よりも大きいなー」

 

 暗くて見えづらいが、近づくと流石にその全貌が見える。注連縄もとても大きい。

 帽子がずり落ちないように上目でそれを見ながら、注意してお社の軒下に入る。

 スリッパを脱いで、お賽銭箱の横を通り抜けて襖の前まで来たけど、両手が塞がっていて開けることが出来ない。

 

「中で寝ているんだっけ。開けて良いのかな?」

「……誰?」

 

 声は真横から聞こえた。

 いつの間に立っていたのか。

 先ほどまではいなかった筈の声に驚き、供養台を落としそうになりながらそちらに視線を向ける。

 

 フランみたいに綺麗な金の髪をした女の人だ。

 赤い組紐で両脇の髪を飾り、少し長く下している。青と白の和装は里で見る人たちよりもなんだか古めかしい意匠。

 こちらを見る視線は警戒しているというよりも不思議そう。

 

 早苗よりは少し小さいが、頭ひとつ分は背の高い女性だ。

 ものすごく至近距離にいて、思わず一歩さがる。

 

「あ、えっと」

 

 知らない女性の登場にしどろもどろになっていると、視線を合わせるようにすこし屈んで女性は目線を合わせて来た。

 金色に少し赤が混じったような、深い色合いの綺麗な目だ。

 

「神社の子かい? ありゃ、私のことも見えている?」

「え……。あの、奥で神様が寝ているので、静かに……」

 

 この人は誰だろう。

 記憶にない姿だ。原作との差異を感じながら、しかしこの場所にいるということは守矢神社か妖怪の山の重要な人物なのだろうかと思う。

 私が声の大きさを注意すると、その女の人はぎょっと驚いたように身を震わせ、両手を頬にあてて信じられないものを見る目で襖を見た。

 

「おい嘘だろ。いつの間に他の神なんて招いたんだ……⁉」

「あ、つい最近らしいです」

「さ、最近だと? まさか、私が眠っている間に? 神奈子のやつめ、いったい何しているんだ」

 

 その言い方に違和感を覚え、まじまじとその女性をもう一度見てみる。

 

「もしかしてあなたも神様ですか?」

「ああ、私がこの神社の本当の神。洩矢諏訪子とは私の事だ」

 

 洩矢諏訪子。

 諏訪子⁉

 

「あ、あれ? 寝ている筈じゃ……?」

「うん?」

 

 あ、頭の上に……帽子が、ない?

 帽子が無くて認識できなかったが、この女性が洩矢諏訪子様であるらしかった。

 驚き言葉を飲み込んでしまっていると、諏訪子もこちらの様子が可笑しい事に気が付いたのか、じっと私を見ながら考え事をしている。

 その目は、色は違うけれどどこか早苗に似ている気がする。

 

「その様子からすると、私のもとに来たみたいだねぇ。それは奉納?」

 

 指で示す先には山盛りのお芋。

 

「あ、はい。……うん、そうです。だぜ」

「おい大丈夫か? 目を白黒させたり顔色を変えたり、忙しいな」

 

 なんだか、大人っぽくないか?

 威厳のある姿というか、こんなに『まさに神様です』みたいな存在だったのだろうか。

 

「なんだか、その様子を見るに私の事は知っているみたいだけど。私はどれくらい寝ていたんだ? お前は何代目の風祝なんだ?」

「え、え……?」

 

 言い募られて、思わず半歩後ろに下がる。

 まだ見慣れていないその女性が不思議そうな顔をする。

 

「神奈子の奴はどこにいるんだ?」

「あの、風祝じゃないんだけど」

「そうか、まだ子供だもんな。お手伝い?」

「いや、あの違うんだけど」

 

「諏訪子様!」

 

 静かな境内に私たち以外の声が響いた。

 諏訪子と一緒にそちらを見ると、邸宅の方からぱたぱたと早苗が駆けて来ている。

 

「早苗! 早苗じゃないか!」

「はい、諏訪子様! お目覚めになったんですね……!」

 

 わぁっと諏訪子も喜び、次の瞬間には石畳の上でふたりは抱き合って再会を喜び合った。

 ちょっと目を離した隙に姿がその場から消え、早苗の傍に現れている。

 なんの予備動作もなく移動しているのは、やはり見た目通りの存在ではない。

 

「ああ、よかった。いろいろと聞きたいことがあるんだけど」

「はい、はい……!」

 

 早苗は感極まって涙なんかも浮かべている。

 やっぱりふたりは並んで立つと、どこか雰囲気が似ているのだ。目元、だろうか。

 しかし背は早苗の方が高いのに、その存在感というのだろうか。

 体以上に大きな存在に見えるのが不思議だ。紫や幽々子、永琳みたいな雰囲気を感じる。

 

 嬉しそうに話すふたりを見ながら、私はしばらく奉納台を手にぼけっとその場に突っ立っていた。

 

 いや、別に話しかけるのが気まずくて存在感を消していたわけではない。

 今は邪魔しない方が良いだろうという気遣いなのだ。うん。

 

 この幻想郷に守矢神社が引っ越してきたこと。

 山の上には妖怪たちが多く、人間の里もあるので様子を見に行って私に会ったこと。

 人間が気軽に来る立地じゃないので、博麗神社を貰おうとしている事。

 

 端的に伝えているのにしっかりと要点が絞られている、早苗の頭の良さがわかる纏め方だ。 

 

「うちの早苗が世話になったみたいだね」

 

 話が終わったのか、早苗の傍からまたふわっと私の隣に降り立ち、帽子ごと頭にポンと手を置かれる。

 

「うん。マリシャだったか。あの子が友達を家に呼んで来たのは初めてのこと。私からもなにか」

「あ、あの!」

「うん?」

「さ、早苗もきちんと聞いてほしいんだけど。私、魔理沙だぜ。霧雨魔理沙っていう名前で、幻想郷の普通の魔法使いをしている人間だ」

 

「えぇ!?」

 

 早苗が悲鳴みたいな声をあげ、両手で頭を抱えている。

 いい加減、きちんと訂正しないといけないと思っていたのだ。いや、何度か訂正はしているんだけど。

 早苗からは恩人の名前を間違えているなんて! と大げさに叫びが上がっている。

 

「それは失礼した。それでは改めて、魔理沙。私は洩矢諏訪子。この守矢神社の祭神にして祟り神」

「う、うん。よろしく諏訪子」

 

 私が持っていた奉納台が勝手に浮かび上がり、手を離れていく。

 いつの間にか音もなく開いていた襖の奥に奉納台は置かれ、また襖が音もなく締まる。

 諏訪子の方を見ると、こちらに手を出していた。

 慌ててその手を取り、ぎゅっと握る。握手を求める神様なんて初めてだ、なんだか外の世界って感じ。

 

「……」

 

 不思議そうな顔をしている諏訪子、やっぱり帽子がないから未だに違和感が拭えない。

 ぶんぶんと上下に振り、ヘヘヘっと笑うと向こうも楽しそうに笑ってくれた。

 

「うう、すみませんマリ……魔理沙さん。名前を聞き間違えて、勘違いしていました」

「い、いや。私が小声で聞き取りづらかったのが悪かったんだし、なんかあだ名っぽくて可愛いし、別にいいぜ」

 

 すっかり肩を落とした早苗がこちらに近寄りながら申し訳なさそうに眉を下げて、なんども謝罪してくるのを宥めながら私たちはみんなで家の方に戻るのだった。

 

「祟り神って言ったのに、躊躇なく手を握るのねぇ。畏れを抱いているのに行動は勇敢。現代の人間じゃないみたいだわ」




体 調 復 活 !

いつも感想、ここ好き、評価などなどありがとうございます。
書きたいことはだいたいまとまっているので、一気に頑張りますよー!
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