だぜ娘奮闘記!   作:元掃除道具

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その6 vs神奈子

「なるほど、霧雨魔理沙という名前なんだな!」

 

 よく通る声で、神奈子が私の名を確かめ、力強い視線がこちらを見下ろす。

 私は大きな声にすこし怯みながら頷いて返した。

 早苗の独白を聞いて、不器用ながら慰めようと四苦八苦していた時の事。

 神様が来るとあっという間に風で悲しい空気を洗い流してくれた。流石、早苗の神様だ。

 

 風はテーブルクロスを少しも揺らさずに、私たちの顔だけを撫でるように悲しみを攫って吹き抜けた。

 突風の余韻がまだ少し残っていて、心臓がドキドキ落ち着かない。

 落ち着けている間に早苗が私の胸の中で神奈子に軽く経緯を話し、お礼にご飯を食べてもらうんですと伝えている。

 

「ふぅん、ならうちの風祝にもらうのはどうかしら?」

「勘弁してくれ、無理だよそんな重たい職」

 

 そんな提案をされてよく考えもせず、私は反射的に断っていた。

 だってあくまで魔法使いだし、風祝は早苗一人で十分だろうと思う。

 守矢神社のみんなと関わる機会としては惜しい気もしたけど、私にそんな重たい職は無理だ。

 

「魔理沙さんと一緒に働けるなら嬉しいんですけど」

 

 ぎゅーっと腰に抱き着いている早苗が、伺う様にまだ赤い目でこちらを見あげてくる。

 そんな、駄々をこねるのに慣れていない子供みたいな仕草。

 うう、断る方も悪い気がしてくるぜ。

 

「私は魔法使いだから、ごめんなぁ」

 

 だけどその役は早苗のものだ。

 私は普通の魔法使いだから、神社の風祝になるわけにはいかない。

 

 本当に、交流する機会としては惜しいのだけど。

 そういえば、とこれまでの勢力との付き合いを考える。

 

 紅魔館ではフランの遊び相手。白玉楼や隙間の家では給仕見習い。永遠亭で薬売り。

 

「あ、でもバイトで巫女とかなら大丈夫だぜ」

 

 アルバイトで関わるくらいの事だったら、別に良さそうな気がするな。

 うん。バイトの巫女さんって良いじゃないか。

 

「バイト……?」

「え、ええ。この魔理沙は色々なところでバイトをして、日銭を稼いでいるんですよ! 私も手伝いを頼むことがありますし」

 

 訝し気な神奈子に、慌てた様子の文がフォローしてくれる。

 

「ただ、神職を他と同じようにされるのは困りますよね。もし人手が必要なら人間の里で募れば良いんじゃないでしょうか?」

「いやいや、うちは掛け持ちしていても構わないですよ。ね、神奈子様?」

「あ、ああ。別に私は構わないけど」

 

 若干早口で捲し立てる文に、同じくらい強い調子で早苗が否定する。

 その勢いに思わず私と神奈子が少し引くと、早苗はますます腰に回す腕へ力を入れてきた。

 

「うんうん。確かに早苗一人でいつも頑張っているんだから、偶に手伝ってくれるだけで大助かりだよ」

 

 奥の方から諏訪子も出てくると、早苗に同調しながら私の腰のあたりに後ろから抱き着いてくる。

 早苗の腕ごと覆う様に抱きしめ、くすくすと笑うのでくすぐったい。

 

「うちの居心地が良いと思ったら居つけばいい。そのうちに役職をあげて行けばいいんだし」

「諏訪子様。良いですね、いい考えですね!」

 

 ぎゅーっと前から早苗、後ろから諏訪子に抱き着かれてしまい、身動きが取れなくなってしまった。

 あまりに恥ずかしい状態で、言葉も出せず固まってしまう。

 

「おほんっ」

 

 神奈子がひとつ咳払いし、また室内に風が吹いた。

 

「とりあえず、飯にしようじゃないか」

 

 *

 

 今日はつまらない仕事の日で、妖怪の山にとっては大きな一歩の日。

 私にとってはなんでもない一日になる筈だった。

 

「そう、つまり里から山までを安全に上るための装置が必要だ。多少大掛かりだが、ロープウェイみたいなものを掛けようと思っているんだよ」

「そいつはいいね、大掛かりな工事が必要だ。河童の腕の見せ所だね!」

「あはは! だけど河童は飽き性だぜ、おんなじ工事なんて絶対進まないに決まっているぜー!」

 

 ケラケラと笑い、顔を赤くしながらにとりと神奈子様と話をしている能天気な魔法使い。

 あいつが原因で、私はこうして頭を悩ませる羽目になっている。

 もちろんあいつが悪いわけでないし、責めるつもりはないのだけども。

 

「なるほどコラムがあったんですね! 気になります、もしまだお持ちでしたらぜひ譲っていただけませんか?」

 

 魔理沙と同じく顔を赤くし、さっきからぐいぐい絡んでくる緑髪の人間。

 東風谷早苗という名前で、この神社の風祝という神職。

 

「あー……。はい、原版があるので刷ってきますよ。それで、もう一度同じことを聞いてしまい恐縮なんですけど」

「はい! なんでも聞いてください!」

 

 人間たちは、とてもお酒に弱かった。

 いや、魔理沙が酒に弱いのは元から知っていたのだけど。

 この神職の子もあっさりと顔を赤くしてしまい、呂律も大分怪しくなっている。

 

「えっと、魔理沙には今日初めて会ったんですよね?」

「はい! お昼ごろに人里のお芋屋さんで!」

 

 会ったばかりでなんであんな親密そうに抱き合っていたんだ。

 イライラと鬱憤が溜まるのを、ぐっと酒で飲み干す。

 

「そ、そうですよね? それで、助けてもらって次に会ったのは博麗神社」

「そうです! 次にお会いした時にはもう、だいぶ打ち解けて下さっていてー!」

 

 先ほども聞いたので、話の流れは理解している。

 

 人間の里でお腹を空かせていた早苗さんに、颯爽と芋を奢った魔理沙。

 最初はおどおどと可愛らしい様子だったのが、自己紹介して少しするとあっという間に打ち解け合って普通に話をする仲に。

 用事があって別れた後、神社で再び再会。そこで霊夢に宣戦布告し、ついでに魔理沙をお礼として夕飯に誘ったらしい。

 夕方までかかった神社への道中で、秋の姉妹神や厄神と遭遇しながらお互いの話をしてふたりはより仲を深めていった(主観)。早苗さんはそこで魔理沙の人柄や在り方を知っていったのだろう。

 たどり着いた神社でにとりに遭遇し、一緒に夕飯を摂ることに。何だか少し合間を濁されながら、もう一人の神が目を覚まして、丁度その場にいた魔理沙が何らかの要因だったと考えていると。

 

「それで、嬉しさとか今までの苦労を思い出して泣いていたら……」

「そうなんですよ! 話を聞きながら、だ、抱きしめて慰めてくれてー!」

 

 きゃーっと顔を覆いながら喜ぶ姿は神職と思えない。普通の女子のはしゃぎ方だ。

 

「へ、へー。そうなんですか」

 

 引きつりそうな顔に意識を向けて、できるだけ自然な表情をつくって早苗さんの話を聞いていく。

 

「魔理沙さんのこと、もっと知りたいんです!」

「本人に聞けば良いのでは?」

「そんな! 恥ずかしいじゃないですかー!」

 

 あははーっと笑いながら肩をバシバシと叩いてくるこの風祝に少し呆れていると、水をグラスに入れて諏訪子様が台所から戻ってきた。

 

「ほら早苗。はしゃぐのは良いけどお水も飲みなさい」

「はい諏訪子様! いただきます!」

 

 諏訪子様からグラスを受け取った早苗さんが、ぐいーっと一気に水を飲み干す。

 そのまま早苗さんは立ち上がり、ふらふらと部屋を出て行ってしまった。

 

「早苗さんは面白い人ですね」

「ははっ! 普段はもっとお堅いんだけどね。嬉しいじゃないか、こんなに喜んでくれて」

 

 言いながら諏訪子様はそのまま腰を下ろすので、傍にあった徳利を手に取り諏訪子様の前に置かれたお猪口へ注ぐ。

 

「あら気が利く子。悪いわね」

「いえ。諏訪子様も魔理沙の事を?」

「うん? ああ、あの子の話をしていたのか」

 

 視線が、顔を赤くしている魔理沙に向かう。

 神奈子様とにとりがなにやら意見を交わし合い、それを聞きながらにこにこと笑顔だ。

 時折二人から話をふられ、それにぽやぽやと答えを返している。

 

「不思議な子だよね。早苗の周りには居ないタイプ」

「諏訪子様が目を覚ましたきっかけは、魔理沙だったとか」

「ふーん、早苗からはそう見えたのね。目を覚ましたのは神奈子の奴が妖怪の山の信仰を持ってきてくれた御陰だろうけど」

 

 ちびりと舐めるように酒を呑み、唇を舐めながらくすくすと笑っている。

 どうも、あの子ほどの執着は感じない。ほっと胸を撫でおろした。

 

「まあ、きっかけとも言えるのか。だけど確かに不思議な子供だわ。畏れ敬いながら、対等であろうとしているのかな?」

 

 その様子は一言では説明ができない。神によってはその態度を、不敬だと切って捨てられるものかもしれないのに。

 だけどあの子は妖怪や人間を相手にするように、神の前でも態度を変えない。

 

「可愛らしいじゃない。早苗も世話になっているみたいだし、素直さは心地良いものだわ」

「あはは、そうですよね」

 

 魔理沙自身がこの神から好感触を得ていることは、確かめるまでもなく見て取れる。

 これなら場合によっては、もっと自由に山に行き来してもらえるかもしれない。

 そうしたら私の仕事も手伝ってもらえるし、面倒な手続きで椛に便宜を図ってもらう必要もなくなる。

 

「あとはやっぱり、おいしそうだよね」

「あはは。……はい?」

「うん。私がもっと若かったら、贄か嫁に貰いたいくらいよ」

 

 やはり感じていた警戒は間違いではないらしい。

 神奈子様から感じる神気とは異なり、諏訪子様の異質な気配は鬼に近い。

 祟り神の気配。諏訪子様からは、荒ぶる古い神々の気配が感じられた。

 

「……」

「いやだなぁ。冗談だよ冗談! 神様のジョーク! 早苗が気に入っているんだし、そんなことしないって!」

 

 ケラケラ笑って手を叩く諏訪子様を見て、背中に流れた嫌な汗を無視しながら私も笑顔を浮かべる。

 

「いやだなあ。たかが人間ひとりにあまり執着しないでくださいよ?」

「あはは、あなたがそれを言うのか! もしかして冗談を返しているつもり?」

 

 はて。なにがおかしいのか、諏訪子様はいよいよお腹を抱えて笑い始めた。

 

「魔理沙! さん!」

 

 どこかに行っていた早苗さんが、上機嫌に戻ってきたのはそんなときの事。

 

「これ、私が小さいときに着ていたんですけど、まだ取ってありました! やっぱバイトでも正装してもらわないといけないと思うんですよ! ね、神奈子様!」

 

 言いながら取り出したのは、早苗さんが来ている神職の服装に似たもの。

 いやそのまま小さくしたようなもの。

 

「次に来た時にすぐ着れるように、サイズを合わせないと!」

「おー! いいじゃん、脱げー!」

 

 にとりが無責任に囃し立て、神奈子様も笑いながら盃を持って魔理沙を見る。

 自分の事を言われているのに気が付いていないのか、魔理沙はずっと笑ったままだ。

 

「えー、脱ぐの?」

 

 ニコニコしながらベストに手をかけ始めたので、私と神奈子様で慌てて止めることになった。

 

「む、向こうに洗面所があるから!」

「人前で脱がないでください!」

 

 *

 

 なんだか、気分が良いぞ!

 

「着替えました?」

 

 扉の外で早苗が声を掛け、私は服を脱ぐのにも四苦八苦していたので、一旦脱げたそのままの体勢で座って待つことにした。

 洗面所は人がいなかったし少し寒いけど、我慢できるぜ!

 

「ま、まってください早苗さん! まだ着替えていなかったら大変ですよ!」

「大丈夫ですよー。もう見たことありますし!」

「え、ちょ。いまなんて?」

「やば」

 

 扉の外で文と早苗がぎゃんぎゃん言い合いをしていて、なかなか入って来てくれない。

 仕方なく袖以外のスカートと上衣を身に着ける。

 霊夢の服に似ているけど、細かなところが結構違う。

 あと、やっぱり脇がぱかっと開いていて少し寒い。

 

 うーむ。

 鏡で自分を見る。

 なかなか似合っているんじゃないだろうか。

 

 あ! 脇の部分から『すぽぶら』が見えちゃうぞ!

 

 これは恥ずかしい。

 下着を見せびらかすなんて乙女的には許し難いので、もぞもぞ身を捩って、襟首から取り出したそれをすぽーんと取り出す。

 貰い物だから失くしてはいけない。折りたたんで私の魔女衣装の上に置き、三角帽子で蓋をする。

 

 うん、良し! だけど余計寒くなったぞ!

 

「えー、これむずかしいんだけど!」

 

 袖も付けてみたけど、腕の部分で紐を縛れず落ちてしまう。

 これは誰かに付けてもらおうかな。

 

「ふたりとも、暴れるなら外でやりなよー」

 

 文と早苗の言い合いに第三者の声。多分神奈子だ。

 

「かなこー! かなこー!」

 

 室内から助けを呼んでみる。

 

「はいはい、なんだどうした?」

 

 がちゃりと扉が開き、顔だけ覗かせた神奈子と目が合った。

 やっぱりいる。ここに神奈子が存在している。

 神奈子だけじゃない。諏訪子も、早苗も、にとりも文も、みんなここにいるのが夢みたいに嬉しい。

 

「なんだ、そんなニコニコと童子みたいに笑いおって」

 

 洗面台に入ってきた神奈子が、さっきより柔らかな笑みを浮かべながら頭を撫でてくれる。

 

「あのな、これつけられないんだ!」

 

 中途半端にくっ付いている袖を見せると、すこし屈んで神奈子が袖を着けてくれた。

 

「わぁー!」

「うん、似合っているじゃないか。早苗の小さい頃を思い出すね」

 

 鏡に映った姿を自分でも見て、早苗と一緒の格好をしている事でもっともっと気分が良くなる。

 だけど少し寒い。身震いすると、神奈子がポンポンと頭を叩いてくる。

 

「寒いか、ほれ。暖かい風で包んでやろうな」

「あったかーい!」

 

 急激に周囲の温度が上がり、秋の気配がすっかり春みたい。

 

「ありがと!」

「ああ、いいぞ。もっと私を敬い信仰しなさい?」

「うん!」

 

 奇跡みたいな力を見せてくれた!

 神奈子にお礼を言うと、にこにこと笑ってまた撫でてくれる。

 

「そうだ、これも付けたらいい」

「うん?」

 

 さわさわっと髪の毛に触れられ、前髪をピンで留められる。

 

「早苗は蛙のピンだからな。魔理沙は蛇のピンにしよう」

 

 鏡を見ると、可愛らしくデフォルメされた蛇が舌を出しているヘアピン。

 前髪を7分くらい分けて、普段は前髪に隠れているおでこが出ている。

 

「かわいいー!」

「そうだろう、そうだろう」

 

 胸を張っている神奈子にお礼を言いながら、せっかく素敵なものを貰ったからなにか返したい。

 だけどなにも持っていないからもどかしく、うーんと唸っていると神奈子の手が肩に置かれた。

 

「うーん。私も酔いが回ったのかな。リビングに私の事を連れてってくれ」

「わかった!」

 

 その手を取って、腰に抱き着いて一緒に歩く。

 廊下はさっきまで冷たかったのに、なんだか神奈子と一緒に歩いていると温かくて暗闇も怖くなかった。

 

「ああ良い気分だわ。諏訪子に自慢しようかな」

 

 私の肩に手を置きながらゆっくり歩いて、神奈子はずっと上機嫌だった。

 

 *

 

「うわー! かわいいですよ魔理沙さん!」

「見た目はもう立派な風祝だねー。神奈子、なにその自慢げな顔」

「あはは! いやなに、可愛いだろう?」

「似合っているぞ魔理沙ー! このまま妖怪の山の神社に所属しちゃえよー!」

「にとり、それは霊夢が黙っていないって。シャレにならな……まてよ?」




連休ですか! たくさん書いていいんですか!
やったー!

今日で連休終わりなんですか!?
あと数話で風神録が書きあがるのに!
やだー!

緋想天でのアンケート(季節は夏なのでレティ・秋姉妹は出番無いです)

  • ルーミア
  • チルノ
  • めーフラ
  • パチュリー
  • レミさく
  • アリス
  • 妖夢
  • 幽々子
  • ゆかりん
  • 萃香
  • リグル
  • みすちー
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  • 妹紅
  • 幽香メディ
  • 小町
  • にとり
  • 早苗
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