「あーあ、魔理沙さんみたいな妹がいたらなぁ。そうしたら、外でももっと頑張れていたのかもしれないなぁ」
ぼんやりとした意識の中でそんな声が聞こえた。
早苗がへらへらと笑って肩に手を置きながら、ぐいぐいとその胸を私に押し付けている。
頭にフニフニと柔らかい感触があたってとても心地よく、ウトウトとしていた意識をそんな声が少しだけ覚醒させた。
多分外の、石畳の上に私と早苗は立っている。文がカメラを構えて「いいですねー、もう一枚撮りましょうかー」なんて言って、にとりがのびーるアームで照明を点けている。
少し遠くで神奈子と諏訪子が楽しそうにこちらを見ているので、きっと神社の敷地内だ。
聞こえて来た声に、少しだけ寂しさを感じた。
「もうダイジョウブだよ……」
頭が重いし、ぼうっと思考が纏まらない。
口も呂律が回らないからやけに舌っ足らずで、なにを話しているのか現実感もない。
「さなえが
「わたしも、魔理沙さんに会えてうれしいです……!」
「さなえ、さなえ」
「なんですか? どうしました?」
「んー……。慣れたら、魔理沙って呼んでくれると嬉しいんだけど」
「……はい、魔理沙!」
うへへ、とだらしなく笑い、ぼーっとしながらまた段々瞼が重くなってきた。
早苗が肩を貸してくれるので、それにほとんどしがみ付いている状態だ。
「はい撮りましたー離れて大丈夫ですよー」
何回か写真を撮ったのか、パシャパシャと音が聞こえた後に文がカツンカツンと下駄の音を響かせて近寄ってくる。
いつもどおりカメラを持っているけど、普段のシャツ姿じゃない山伏みたいな修験者の服装だ。
格好いいけど、普段のシャツに黒いスカートの方が文らしくて好きだな。
「あ、大丈夫ですよ! 魔理沙も眠そうですし、軽いんでこのままお部屋に連れて行きますね」
「いつのまに呼び捨てに……。いや神職の方にそんな雑事を任せられませんよ、私が抱えます」
頭上でふたりがやり取りをしているのを聞き、大丈夫だ私はまだ全然自分で立てるぞと自分では言ったつもりだけどフニャフニャと言葉にならなかった。
「もう、困ったものですねぇ。魔理沙の家は知っているので、私が送っていきますよ」
「いえいえ! ほら、もうこんなに眠そうですよ! うちで休んでいってもらうから大丈夫ですって」
「いやいや、送っていきますから大丈夫ですって!」
うーん、顔の周りを塞がれて呼吸が苦しい。
うんうん唸っていると、にとりが引っ張り出してくれた。
「ふたりとも少し落ち着きなよ。魔理沙、大丈夫か?」
ガックンガックンと首が据わらず、揺すられながら引っ張り出してくれた腕に掴まって何とか立っているが足に力が入らない。
両脇に手を入れられて、無理やり立たせてもらう。
相変わらず足元が覚束なく、もうあまり瞼も上がらなくなってきた。
「ん? あれ、なんか……。あれ、魔理沙? なんか柔らかいんだけどこれお前」
*
意識が浮き上がると、真っ暗な部屋にいた。
喉の渇きを覚え上体を起こすと、ぱさりと落ちた毛布で、自分が寝かされていた事に気が付く。
「あ゛……。っんぅ……っこほ」
空咳が漏れたのを手で塞ぎながらあたりを見回すと、どうやら和室のようだ。
障子の隙間から、まだ遠くで人の声。ぼうっとした頭を働かせながら寝る直前まで思い出して、ここが守矢神社の客間なのかな、と予想する。
お水が飲みたい。
まだ手足が重い。
のそのそと体を動かすと、早苗と一緒の格好をしていることに気が付いた。
ああ、皺になっちゃう。それに汗もかいているから、汚してしまったかも。
残念な気持ちになりながら頭を掻き、ぼーっと手足を眺めていると静かに襖の開く音がする。
そちらを見ると、そーっとこちらを覗き込む誰かの姿。
廊下の奥には灯りが点いているけど、部屋は暗いので誰かわからない。
「だ、だれ……?」
「……私」
恐る恐る声を掛けると、文の声がした。
ほっと息をついて、なんだ文か。と緊張が抜けていく。
「そろそろお暇しようかと思って。顔を覗きに来たんだけど、起きたのね」
「うん、起きたぜ。まだ皆、呑んでいるの?」
「ええ、にとりと神奈子様が盛り上がっているみたいよ。早苗さんはさっきお風呂に入ってくるって言って出て行ったんだけど、戻らないから諏訪子様が念のため見に行っているわ」
どうやら私が寝てからまだあんまり時間は経っていないみたいだ。
酔うのは早いけど抜けるのも早いから、宴会の時にも私は途中で離脱して途中で戻ってくることがよくある。
慣れているだろう文が、そろそろ目を覚ますかと思って見に来てくれたみたいだ。
「お水飲む?」
「ん、ほしい。かも」
「ふふ、すこし待ってて」
ぱたぱたと足音を響かせて文が顔を引っ込め、少ししてからお水の入ったグラスを持って部屋に入ってきた。
「この部屋の電気がどうやって点くのかわからないから、暗いままでごめんね」
「ん、大丈夫。あ」
グラスを受け取ろうとして、やっぱり目が慣れていないので文に手を重ねるようにしてしまった。
「……零すかもしれないし、飲ませてあげる」
差し出した手をやんわりと下ろされ、ゆっくりとグラスを近づけてくれる気配。
頭を後ろから優しく固定され、唇に冷たいガラスが触れる。
少しずつ傾けて水が口内に注ぎ込まれ、私は黙って受け入れた。
冷たい水が火照った体に染み込んでいくのが気持ち良い。
喉を潤すとすこし頭もすっきりした気がする。
「……ありがと」
「いいのよ」
なんか、今ちょっと恥ずかしい感じじゃなかった?
随分甘やかされた気になってしまい、また顔が熱い。
「……ねえ、なんで早苗さんのお誘いにホイホイとついて行ったの?」
「えぇ?」
部屋が暗くて文の表情は見えないんだけど、すこし悲しそうな、ちょっと怒っているみたいな、そんな声色で変なことを聞かれている。
「なんでって」
『風神録』の始まりだったし、最近異変のほとんどに関われていなかったし、霊夢が忙しそうだったし。
今日は山に入れなかったから妖怪の山の皆と会うことができなかったし、なにより守矢神社の皆と会いたかったし。
そういう思い付きがポンポン浮かんでくるけど、たしか霊夢に言ったのは別の理由だった気がする。
「えっと。早苗が幻想郷に来たばっかりだから、教えてあげようと思って」
言いながら、だから博麗神社に喧嘩を売るような発言はダメだよって教えてあげるつもりだったことを思い出した。
「妖怪の山のこと?」
「あ、いや。幻想郷全体の事。私なりに」
だけど途中から、すっかり早苗の事とか神奈子と諏訪子の事が気になってしまって忘れていた。
博麗神社の話とか、霊夢の事全然教えてないかも。
「うわー、けど全然伝えてないかも」
「……早苗さんから魔理沙に会った時の話は、何回も聞いたのだけど」
文から、ちょっと言い淀むような気配。
相変わらず部屋の中は真っ暗だから、どんな表情なのかはわからない。
「なんか、随分懐いてたみたいじゃないの」
ふんっと息を吐いて、影が動いている。
横を向いている、のだろうか。多分、そっぽをむいて不機嫌さをアピールしている気配。
「えぇ? そうかな」
「そうよ。会ったばかりだというのに、なんだか肩まで組んでさ」
それは写真を撮ったときの事か。
あれは文が「いいですね、仲良さそうな感じでお願いします」って言うから、早苗が私の肩を抱きながらピースしてただけじゃないだろうか。
私はその時もう酔っぱっぱだったので、笑っていた気はするんだけど手足が重くてされるがままだった気がするんだけど。
「うーん。たしかに、早苗とは打ち解けたよね?」
「知らないわよ。……やっぱり同じ人間の方が、良いの?」
「え? うーん、それ関係あるの?」
確かに妖怪と人間で比べたら、私の事を食べるかもしれない妖怪たちよりは、おなじ人間の方が怖くはないのかもしれない。
でも多分、文が言っているのはそういう事じゃない気がした。
「人間とか妖怪とか、神様とか。あんまり関係ないよ、私にとっては」
だって、みんなは私にとってヒーローでありアイドルであり、憧れであり親愛の対象なんだから。
そんなくさいセリフは、きっと私からは伝えられないけど。
へへへっと変な声が出て、情けない感じで笑ってしまった。
あんまり『魔理沙』っぽくない。まだ少し酔いが残っているのかもしれない。
「けど、昔より勇気を出して踏み出せているかもなー」
紅霧が覆うその日までに築いた私の魔理沙としての日常は、生きるために必死だった私が必死に作り上げた関係たちは。今まででは考えられないくらい多くの勇気をくれた。
早苗のことを、早苗だって思わないままでも助けることが出来たのは、間違いなくそのお陰だ。
「みんなのお陰かな。だから早苗に声を掛ける勇気を貰ってるし、親しくなりたいって思える気持ちも貰ってるのかも」
「……なにそれ、ずるい言い回し」
「え! ず、ずるい?」
文がなんだか大げさなため息を吐き出して、私は狼狽えながらなんだかおかしそうな様子の文に、笑ってしまった。
「ずるい。結局答えてもらってないんだけど」
「えぇ!? えーっと、別に関係ないよって答えじゃないの?」
「ええ、関係ないわ。あなた早苗さんの事、好きなの?」
「え? そりゃ好きだけど」
なんだか目の前の影がぼとりと空になったグラスを毛布の上に落とすので、中身が入っていないけど慌ててそれを手探りで拾う。
毛布の上に落ちた感触があって良かった。あと飲み干していたから、水浸しにしなくて良かった。
「な、なん。あ、え?」
文がなんだか慌てているので、手探りでその腕を掴みながら落ち着かせる。
「ど、どうかしたのか? 大丈夫か?」
「あ、ああ。大丈夫……え、私の事は好き?」
「え? あ、うん。そりゃ……好きだけど」
「は? ……まって、そういうことね。ああ、わかったわ。うん、そうだよね」
影が忙しなく動き、大きく深呼吸するように背を反らして吐き出したのは解った。
「……まあ、そうだよね。お前はそういう奴よ」
「む。なんか、馬鹿にしてるのか?」
呆れたような文の声に、反抗心を抱きながら言い返すとクスクス笑われてしまった。
「いや馬鹿にしてなんかいないわ。ただ思い出しただけよ、そうだったなーって。魔理沙は可笑しな奴だわ」
言われながら頭に手を置かれ、乱暴にぐしゃぐしゃと撫でまわされる。
乱暴に撫でられているのに、気遣いを感じる手は優しい。
ぐっと恥ずかしさを堪えながら、ちらりと視線をあげる。
「私がおかしいやつだって言うけど、なにがおかしいのかわからないんだけど!」
ふんっと手を一旦振り払い、まだ闇に慣れない目で陰になっている文を睨みつけながら言う。
「別に変じゃないと思うんだけど!」
「ああ、はいはい。そうだね、そうかもね」
「……あと、関係ないけどさ」
「どうかした?」
「文のその……正装なの? その、山伏っぽい服。なんか……カッコいいね」
「あ……ありがとう、ございます」
「けど普段の格好の方が……文っぽくて好きかも」
「……」
「な、なんか言ってほしいんだけど!」
「い、いや……。その、魔理沙のその巫女衣装も、悪くないですよ」
*
たぶん、そんな感じで翌日のこと。
「魔理沙」
声を掛けられて、重たい瞼を開ける。
開いた視線の先に、心配そうな霊夢の顔を見て安心感を覚えて思わず両手を伸ばす。
ガンガンと頭が痛いのは、お酒の影響だろうか。
「ああ、もう。ほら、やっぱり一人にするんじゃなかった」
両手を包みながら、ぎゅうっと抱きしめてくれる霊夢。
「あぇ、おはよう霊夢……」
「おはよう魔理沙」
珍しく全身を抱くように力を入れてくる霊夢に、ぼうっとした頭でも少しずつ熱が入り始める。
「んぅ……。ここ、守矢神社じゃないの……?」
「……」
何も言わず、ぎゅうっと力を入れている霊夢に合わせてこちらも力を入れて抱きしめ返す。
「はぁ……。あんまり心配させないで」
ぎゅーっとお互いに抱き合いながら、霊夢の柔らかい身体に癒しを感じて目を閉じていると、耳元で小さく囁かれる。
「ねえ魔理沙。あなたは……その、えーと。……どこかに、所属している魔法使いなの?」
う。とこそばゆさに小さく声をあげると、ふふっと笑い声でかき消された。
「え? いや、私は普通の魔法使いだし、どこかに所属とか、関係ないというか……強いて言うなら、異変解決の専門家? だから、フリーの魔法使いだぜ」
「そうよね。ええ、そうよね。じゃあ異変を解決する博麗の巫女と同じというか、一緒よね。どこにも所属しないのよね?」
「う、うん。そのつもりだけど……」
瓦礫の隙間で、片腕がぱたりと倒れた。
「……もしどこかに所属するなら、博麗神社?」
「……なんでそんな、切羽詰まっているんだ?」
「いいから、もしもで良いから」
「……そりゃ、博麗神社だよ」
必死にも見える霊夢の顔を見ながら、私は困った顔で答えるしかなかった。
緋想天でのアンケート(季節は夏なのでレティ・秋姉妹は出番無いです)
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ルーミア
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チルノ
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めーフラ
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パチュリー
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レミさく
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アリス
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妖夢
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幽々子
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ゆかりん
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萃香
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リグル
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みすちー
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うどんげ
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妹紅
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文
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幽香メディ
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小町
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にとり
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早苗
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諏訪子