ハロウィンSS書こうとして挫折したので、人間たちがイチャイチャします。(ネタバレ)
「はろういん?」
聞き慣れない単語に霊夢がきょとんとした目を寄越す。
私は手元にあるお茶で手を温めながら、聞きかじりの知識を披露することにした。
「レミリア達がいたところでは有名な祭事で、元々は豊穣祭とか冬の訪れを祝うようなものらしいぜ。けど早苗が言うには『お化けに仮装した子供がお菓子か悪戯を迫るお遊び』というか。とにかくそういう時期だから、もう秋も終わりだ」
「へぇ、けど外国のお話でしょうに。それを何で早苗も知っているの?」
対面に座る霊夢がちゃぶ台の上にあるクッキーを一枚取り、サクサクと口に放り込みながら疑わし気な視線。
私も聞いた話なので、そこまで詳しいわけじゃないんだけどなぁ。
時間帯はまだ日中、夕方前なのだけど、あたりはもう真っ暗だ。急に降り始めた雨が止まず、冷えた空気で家に帰る元気がすっかりなくなってしまった。
お菓子をつまみながら、だらだらと過ごしてしまう予定のない日。なんとなーく、ひとりになりたくないような、そんな日。
私たちは昨今の肌寒さを話題に、いつ頃炬燵を出すべきか話し合いながら一枚の毛布をちゃぶ台の下に入れて足元を温め合っている。
温め合っているというか、胡坐座りをしている霊夢の膝下に無理やり足を突っ込んで、勝手に暖を取っている。
霊夢は『まだ炬燵を出さなくていい、毛布があるから大丈夫』と言うのだけど、私は早くあの暖かさが欲しくて、『もう冬だ』『いやまだ冬じゃない』と言い合っているのだった。
「うーん。レミリアが言うような祭事というより、もっと世俗的な感じだったけど。なんでなんだろうな」
自信がないまま答えると、ふぅんとあまり興味も薄い様子だ。
「確かに豊穣祭りは終わったけど、まだまだ冬支度しているでしょ。冬至も先だし、まだ立冬でもない。気分的にも雪が降るまでは冬じゃないわ」
「でも穣子たちも段々元気なくなっているから、やっぱりもう冬だぜ」
「あの焼き芋屋は豊穣祭りがピークだから。妖怪たちで言うなら、まだチルノが暴れ狂ってないじゃない」
暴れ狂っているチルノなんて見たことない。
想像するとおかしくて少し笑ってしまった。
ふたりで笑っていると、襖が音を立てて開き早苗が姿を現す。
「ふたりとも楽しそうにして。なんの話ですか?」
普段の風祝の衣装ではなく、霊夢が寝間着に使っている浴衣だ。うっすら青いそれは、早苗が着ていると少しだけ窮屈そうに見えた。
上から赤色の半纏を着て、湯上りの上気した頬で柔らかな笑みを浮かべている。
「ん、今が秋か冬かって話よ。よかった、少し小さいけど着られそうね」
「はい。着替えまですみません、ありがとうございます」
「よかったな早苗。温まったか?」
「お陰様で。ふふ、雨に降られて散々だったんですけど、博麗神社に来られて良かったです!」
雨が降り始めてしばらくした頃、早苗がガタガタ震えながら神社にやって来た時は驚いた。
暗くなる前に帰ろうとした早苗だったが途中で降られてしまい、比較的近場の博麗神社へ雨宿りに来たのだ。
「天気を変えても良いのか迷っている間に、すっかり降られてしまって……。また異変扱いされて怒られるのも嫌ですし。まあいいかと思っていたら、あっという間に濡れネズミでした」
「自然の雨をどうこうしないで。自分の周りだけ雨粒を跳ね飛ばせばいいのよ、弾幕ごっこの要領で」
「ああ、なるほど……。すみません、まだ慣れていなくて」
雨戸の外を見る。なんで天気を変えられる前提で話をしているのだろう。
結構な勢いでザーザーと降るそれを見て、私がおかしいのだろうかと首を傾げた。
ちなみに私も頭上の雨粒くらいなら魔法で防げる。
箒に乗っていると動く先の雨粒に当たるから、あんまり意味ないんだけどな。
普通に雨合羽を着た方が魔力も消費しないし便利だ。
よっこらしょ、なんて言いながら座り、早苗もちゃぶ台の下にある毛布へ足を突っ込んでくる。
横から足がくっ付いてくる。湯上りの体温がとても暖かく、霊夢のひざ下から足を抜いて早苗にくっつく。
「あはは、魔理沙! くすぐったいですよ!」
「早苗あったか~! 私もお風呂入ろうかなぁ」
「……どれ」
「あいたっ。ちょっと、霊夢さん痛いっ! 蹴ってる!」
「ほんとあったかいわー」
湯上りは気持ちが良さそうだ。
私はもうすっかり根っこが生えた気分で、このままここに泊まりたい欲がむくむくと生まれている。
というか、もう今日はずっとそんな気分だったのだ。
寒いし。雨が降って余計に、なんだか人と離れ難いのだ。
ちらりと、笑顔で早苗にじゃれている対面の霊夢を窺う。
うーん、最近、私の方から泊まりたいって言ってない気がするなぁ。
大げさに痛い、痛いと騒ぐ早苗を同じように見る。
最近仲良くなった風祝は、私に敬意をもって接してくれる。
その早苗の前で霊夢に甘えるのが、なんだか恥ずかしい気持ちだ。
「なあ早苗、またハロウィンのこと教えてくれよ」
「ハロウィンですか?」
少し考えてから、さっきの話を続けることにした。
そのうち早苗も帰るだろうし、その時になってからでも遅くないかという判断だ。先送りにしたともいう。
「私もあまり詳しくないですけど、お化けの仮装してお菓子を貰い歩くイベントです」
「レミリア達からも少し聞いたことあるけど、外国のお祭りなんだろ? なんで早苗たちも知っているの?」
うーん。と早苗が少し悩む。
「お祭り事が好きな国民性だからですかね? 気が付いたら流行っていたとしか。今は仮装するための名分な気もしますけど」
「仮装するため……。変な名分を求めるのねぇ」
「まあ、年に一度ですし」
「みんなお化けの仮装をしたいの?」
「それも形骸化している部分があって、普段できない格好を楽しむ方も多いですよ」
霊夢がそのままお茶を飲み、早苗はあー、と上を見上げた。
「うーん、アニメのキャラクターとかの説明って難しいなぁ。あ、たとえば魔理沙は霊夢さんの服を着たいって思うこと、ありませんか?」
早苗から視線を外し、正面の霊夢を見ると私とばっちり目が合う。
思い出すのは永夜異変の後の宴会。レミリアの提案で、色々な衣装を着た時のこと。
あの時は盛り上がったけど、後から思い返すと結構恥ずかしい恰好もしていた気がする。なんだミニスカナースって。
なんとなく気まずくなって目を逸らし、雨戸の方を見ながら早苗に答えた。
「霊夢の服なら着た事あるけど……」
「え、あるんですか? じゃあ咲夜さんみたいなメイド服とか、そういう普段しない恰好ってどうです?」
「それもあるわよね、永遠亭の宴会で。だいたい一通り着たことあるわよね」
対面の霊夢が、にやにやといじわるな笑みを浮かべているのがわかる。
これは揶揄いの顔だ。ふんっと鼻を鳴らしてそっぽを向いたままクッキーを一枚取った。
咲夜が持ってきたお菓子だ。私が保存の魔法を掛けて戸棚に仕舞っていたものだけど、雨の中でもサクサクで美味しい。
「あれはたしかに面白かったわ」
霊夢もクッキーをまた一枚取り、かみ砕きながら納得すると、早苗が「えぇー」と残念そうに息を吐いた。
「私、呼ばれてないんですけどー」
「だって、あれは丁度去年くらいのことだし。まだ早苗は外にいた頃だぜ」
「あ、じゃあ今年はまだなんですか?」
「まだってなんだ」
机の上のクッキーに手を伸ばしながら、早苗が真剣な顔で覗き込んでくる。
「じゃあやりましょうよ、今年もハロウィン」
「……やりたいんじゃなくて、教えて欲しいだけなんだけど」
「いいんじゃない? 宴会の名分が欲しいやつらも多いでしょうし」
私がぬるくなったお茶をすすると、意外にも乗り気な霊夢が早苗に同調する。
「外だとお化けの仮装って、どういうものになるんだ? 幻想郷には普通にお化けもいるけど」
「ああ、お化けだけじゃないんです。例えば魔女の格好……とか?」
「え?」
私は隣に置いていた三角帽子を被り、ふふんと胸を張って早苗を見上げた。
「じゃあ、これで完成だな」
*
しばらくそうして話し続けていたが、雨は全然降り止まない。外が暗くて時間の感覚をなくしていた。
いつの間にか土間に諏訪子が現れて声を掛けてこなかったら、私たちはいつまでもお喋りを続けてしまいそうだった。
「さーなえっ。お迎えに来たよー」
「あ、諏訪子様!」
真っ先に気が付いた早苗が立ち上がり、視線につられてそちらを見る。
少しも濡れていない諏訪子がニコニコとこちらを見て笑っている。
廊下を挟んで土間の中、うっすらとした暗がりでもはっきりと目立つ金色の髪を赤い紐で結んで、見覚えのあるケロちゃん帽子を被っている。
「女三人寄ればというけど、いつの時代も変わらないねえ。霊夢、早苗が世話になったよ! ありがとねぇ」
「流石に濡れネズミを放っておけるわけないでしょ。服が渇いてなかったら、それ持って帰ってもいいから」
「何から何まですみません、ありがとうございます!」
なんとなく解散の雰囲気が漂い、また朝みたいに寂しい気持ちが湧き上がる。
ぼーっとしていると、半纏を脱いだ早苗が私の肩に掛けてきた。
「じゃあ私は帰ります。ありがとうございました、ふたりとも。またうちの神社にも来てくださいね」
「おー、もちろん」
ポンポンと頭を撫でられ、されるがままに受け入れていると嬉しそうに早苗が笑う。
「ん、魔理沙も帰るなら私が送って行こうか?」
「……あー」
善意だろう、諏訪子がこちらにも声を掛けてくれる。
外はザーザー雨が降っているのに、諏訪子が土間に現れてから屋根を叩く水音が消えていた。
大きな傘みたいに雨を除ける力があるのかなー、とか、たしかに雨には濡れないだろうなーなんて思う。
「うーん」
でもなんだか今日は外が寒いし、今家に帰って誰もいないのを想像するとこの場を離れ難い。
家にひとりでいるよりも、神社で霊夢と一緒にいたいなって思うのは自然だよなぁ。
朝から燻る物寂しさに言い訳して、うーん、と悩んだふりをした。
「なぁに、どうかした?」
ちらりと視線をやると、嬉しそうな霊夢と目が合う。
「……、今日って泊まってもいい?」
「私が断ったことある?」
最近は「泊まって行けば?」に「そうするかー」みたいなことが多かったから。改めてこう、お願いするときは恥ずかしい気持ちが湧いてくるのだった。
「……ずるい」
ぼそりと早苗が呟き、諏訪子が首を傾げる。
「ん? じゃあ、私達も泊まって良いかい?」
「……うちには来客用の布団が1つしかないから」
「魔理沙と私だったら一組の布団で良くない?」
「え、私は!? 諏訪子様こそ神様なんだから布団いらなくないですか?」
「……家で神奈子が待っているんじゃないの?」
「そうか、神奈子に布団持ってきてもらおうか」
「私は魔理沙と一緒の布団でも大丈夫ですよ」
さっきまでの解散の雰囲気は霧散し、早苗は元通り座り直して、諏訪子は靴を脱いで部屋に上がって来た。
寂しい気持ちも霧散していく。露骨に迷惑そうな顔をしている霊夢と、全然遠慮しない早苗たちが本当に面白い。
声をあげて笑っていると、諏訪子がずかずか入り込んで私の横に座り込んだ。
一緒の毛布に足を突っ込んできたが、外にいたはずなのにあたたかくて安心する体温を感じる。
すこしだけ私よりも小柄な体が下から支えるように横にきて、赤み掛かった金の瞳が見上げるようにして私を見つめている。
「人間よ、望みを言いなさい。神が聞き届けてやるぞ!」
「あははっ! じゃあ、寂しいから一緒にいて欲しいぜ」
茶化して聞いてくる諏訪子に、私は素直に自分の気持ちを伝えることが出来た。
燻っていた不安の感じが拭い去られて、今は皆のおかげであたたかい。
「ああ、聞き届けた」
見た目に相応しくない優しい表情で笑みを浮かべた諏訪子が、その表情のまま後ろに引きずられていく。
「おーい、こっちの人間には聞かないの?」
霊夢が諏訪子の襟首をつかみ、廊下まで引っ張って床板にそのまま投げ捨てる。
べちゃっと投げ捨てられ、あーうーと哀愁のある声が部屋の中まで聞こえてきた。
「寂しそうにしているのは解ってんだから、今更遠慮しないでよね」
諏訪子がいたところにそのまま霊夢が座り、ぐいぐいと体を寄せてくる。
下らない話をして笑っている時とは少しだけ違う、頼りがいのある表情の巫女。
一瞬目が合ったのだけど、すぐにふいっと逸らされた。
「幼馴染でしょ? 私も、寂しい時には構ってもらってるんだし」
少しだけ恥ずかしそうに、霊夢が前の方を見ながら言う。
私はその顔を少し見上げながら、やっぱ霊夢背が大きくなったなーと関係のない事を考えていた。
ちょっとだけ、顔に体温が集まるのも自覚しつつ。
「私がいたから、遠慮しちゃったんですかね」
霊夢がいる反対側から、体温が伝わって来て早苗の声が聞こえる。
見ると諏訪子に似た表情で、だけど全然似ていない顔で、嬉しそうな早苗が笑顔を浮かべていた。
「雨の日ってセンチメンタルになりますよね、私もわかりますよ」
私と視線が合うと、すこし屈み気味に視線の高さを合わせてくる。
驚いて少しだけのけ反ると、霊夢に背中が当たってそれ以上は下がれなかった。
「今日みたいにさむーい雨の日は、誰かと一緒にいたくなるんです」
すっごく近い。
長い睫と、キラキラの大きな瞳がこちらを覗き込んでいる。
ふわっと香る椿と、お風呂上がりの石鹸みたいな匂いがしてドキドキした。
「そういう時は幼馴染だけじゃなくて、私の事も頼ってくださいね」
「泊まるのは良いけど、じゃあ早苗がご飯作りなさいよ」
「……わかりました。けど、あと少しだけ温まってから……」
「お風呂入ったでしょうが。追い出すわよ」
「あ、神奈子ー? お布団持ってきて。うん。神社、神社。え? いやお酒はいらないかな。女子会、女子会」
早苗さんなんだか見た目お姉さんなのにイメージが幼女なんだよなぁ。