紅魔館の中には惨状が広がっていた。
それがすべて、たった一人の人間によって行われたとは、だれが信じるだろうか。
楽園の巫女、博麗霊夢は、一通りフロアの妖精メイドを力ずくで沈め、静かになった廊下に浮かんでいた。
その独特の巫女装束の袖から紅白の陰陽玉を取り出す。握る手に僅かに霊力を込め、ぼうっと光らせながら何かを探るように軽く目を閉じる。
「あのバカ。結局着いちゃったのね」
目を開いて、イライラと独り言を呟き、ぐっと陰陽玉を握る。
博麗の秘宝である、この陰陽玉は2つで一つの性能を誇る。
そのため所有者は、片方を持っていれば、もう片方がどこにあるのかある程度わかるのだ。
魔理沙が持つ紅白の陰陽玉の位置を、霊夢は正確に探り、それが館の門の前にある事を知った。
「なんで大人しく帰らなかったのよ……っ」
イライラした声で呟き、陰陽玉を袖にしまう。
「こうなったら、さっさと異変の首謀者をとっちめてやるしかないわね」
まったく、と霊夢はため息をついた。
あんまり心配かけさせるんじゃないわよ。
*
一通り喜び合った私たちは、微笑ましそうにこっちを見る美鈴を見て恥ずかしくなったので先に進むことにした。
「おほんっ。それじゃあ押し入らせてもらうぜ!」
「ええ、お通り下さい」
箒に跨り、宙に浮いて美鈴の頭上を通過する。
私の後ろをチルノとルーミアは当たり前のようについてくる。
「ここは紅い悪魔の棲む館。どうぞ、お気をつけて」
美鈴の声を後ろに置き去りに、私たちは門の跡地を超えて中庭に侵入した。
*
「役に立たない門番ね」
「あはは、すみません咲夜さん」
いつの間にいたのか、美鈴の後ろに立つのはメイド服をきっちりと着こなした銀髪の少女。
美鈴は、ちょっと驚いて振り返る。
「お客様に負けて押し入られるなんて、お嬢様にはなんて報告すればいいのかしら」
「えへへ、面目ないです。で、そのお嬢様から巫女の相手を仰せつかった咲夜さんは、こんな所でなにを?」
「巫女の相手はしてるわ。罠と妖精メイドがね」
「あらあら、ダメですよ咲夜さん。お仕事をサボっちゃ」
「あなたに言われたくはないわね」
2人とも、僅かに笑みながらの会話の応酬。
その様から2人は親しい間柄だと窺えた。
「それで、どうしてこんな所に?」
「別に。友人がお客として招かれるっていうから顔を見に来ただけよ。ちょっと遅かったみたいだけど」
「あはは。マリサさんなら今頃玄関ホールにいますよ」
「そう。じゃあ行こうかしら。あ、美鈴。お嬢様から伝言よ」
「なんでしょう?」
「『今日の来客は以上。以降は誰も通すな。それと、門は直しておきなさい』ですって」
「あらら、こんなにボロボロになっても、さらに働かせるんですか? 酷いですね」
「よく言うわね」
言い残すと、咲夜は一瞬で姿を消した。
美鈴はしばらく立ち尽くしていたが、やがて体を伸ばすと長く息を吐いた。
「実際あの巫女は強いですよ、お嬢様。弾幕ごっこじゃなかったら殺されていても文句は言えなかったです」
*
「霊夢はどこまで行ったのかな」
館の前に着くと、時折館全体が揺れている事がわかる。
中で霊夢が暴れてるんだろう。
「ねえマリサ、中から悲鳴が聞こえるんだけど」
「きっと霊夢が暴れてるんだな」
「ねえマリサ、扉が見当たらないんだけど」
「きっと霊夢が壊したんだろ」
やりすぎだぜ。
「あの鬼巫女ったら、建築物に何か恨みでもあるのかしら?」
門なり扉なり、壊して進むのが当たり前だと思ってるのかもな。
中に入ったら妖精メイドが襲ってくると思ったから慎重に、どこから攻撃されても対応できるように進む。
館の中はひどい有様だった。
至る所に妖精メイドは倒れ、目を回している。
壁は表面が崩れて、階段は崩壊し、照明は至る所で消えていた。
元から窓がない館は、そのせいで更に薄暗く、ヒヤーっとした寒気が立ち上っている。
「この有様の方が、よっぽど悪魔らしいぜ」
本気で暴れてる霊夢って、超怖い。
「悪魔の館にようこそ」
「おわっ!」
突然耳元で声を掛けられ、箒から落ちそうになった。
声の主はクスクスと笑い、落ちそうになった私の手を取って持ち上げてくれた。
「危ないわよ、魔理沙」
「さ、咲夜か。驚かせるなよ」
「え? なにこいつ! いつの間に沸いてきたのよ!」
「わ、ビックリした」
私の後ろにいたルーミアとチルノも驚き、咲夜はその様に満足げに微笑んでいる。
十六夜咲夜。時を止める程度の能力を持つ、悪魔の館のメイド長。
人里で買い物している咲夜と出会ってからは、何度か一緒にお茶する程度の親しい友人だ。
「久しぶりね、魔理沙」
「おう。久しぶりだぜ」
あれ、次のボスって咲夜だったっけ?
咲夜は5ボスじゃなかったか?
どうも、色々と忘れつつあるみたいだ。
「こっちの彼女たちはあなたのお友達かしら?」
「うん、ルーミアだよ」
「あたいはマリサのライバルのチルノ!」
「そう。私はこの館のメイド長、十六夜咲夜。魔理沙がお世話になってるわね。これ、つまらないものだけど」
咲夜が虚空に手を振ると、一瞬でその手にクッキーの詰まったバスケットが現れた。
「うおー! すげー!」
「うわー、おいしそう」
「魔理沙とこれからも仲良くしてね」
バスケットごとチルノに差出し、受け取ったチルノはルーミアと2人で地面に降り立った。
「やめろよ! なんで身内の挨拶みたいな事するんだよ!」
こいつ何しにきたんだ!
あと、本気で恥ずかしいからやめてほしい。
咲夜に掴みかかってエプロンをぐいぐい引っ張るが、咲夜はあらあら、とむしろ嬉しそうに私の頭に手を置いた。
「はいはい、ほら。魔理沙の分もちゃんとあるから」
「そういうことじゃ、モガッ!」
口の中にクッキーを突っ込まれる。
「なにこれ、美味しい!」
「うん、おいしいね」
チルノとルーミアはすっかり餌付けされている。
「あら、ありがとう。魔理沙は、おいしい?」
「もぐもぐ。……おう、うまいぜ」
ホントに何しに来たんだ、こいつ。
そして流石メイド長。お菓子の味も絶品だった。
私と咲夜も廊下に降り立つ。
「お茶でも淹れようかしら?」
「いや、そんなことより! なんだ、私たちの邪魔をしようってか!」
周りの惨状を放っておいて、このままここでティータイムを過ごす気か!?
今は異変の最中だろ!
「ああ、そういえば魔理沙はあの巫女と知り合い?」
「ん、おう。一緒に弾幕ごっこの修業をした仲だぜ」
「そう。あんまり館を壊さないように言ってくれない? 後でお掃除が大変だわ」
「私が言ってやめるとは思えないぜ。それより、霊夢がどこにいるのか分かるのか? ちょっと届け物しなきゃいけないんだが」
「後で会う予定だから、私が預かりましょうか?」
「助かるぜ。じゃなくて!」
危ない、騙される所だったぜ。
「いまは咲夜も異変の首謀者側なんだから、信じられないぜ! 私が自分で届ける!」
いくら友達だからと言って、いまは異変の最中。
わざわざ霊夢をパワーアップさせてくれるとは思えない。
「まあ、私を信じてくれないの?」
「今は普段と状況がちがうぜ」
「残念。でも、私は魔理沙に何かしようって思ってないわよ」
「異変の事も教えてくれなかったのに、よく言うぜ」
おかげで、急に紅霧異変が起こって驚いたっていうのに。
「それはうちのお嬢様に言ってもらわないと」
「じゃあそのお嬢様の所に案内しろよ。直接文句いってやるぜ!」
鼻息荒く、咲夜に詰め寄る。
咲夜はやんわりと肩を押して私を押し返す。
「構わないけど、異変が終わったらね」
「いや、それじゃ遅いだろ!」
この、私の話をまじめに聞いてるのか!?
子どもの癇癪に付きあってるみたいなのをやめろ!
「まあまあ。落ち着いて魔理沙。あなたに今お嬢様の所に行ってもらうと困るのよ」
「困っても行くぜ! 止めても無駄だからな!」
「うーん、どうしましょうか。今から巫女の相手もしなきゃいけないのに」
咲夜は腕を組んで右手をあごに持っていき、困ったように眉を下げた。
そ、そんな顔をされても無駄だぜ!
「そうだ、紅魔館の誇る大図書館に興味はない?」
「へ?」
大図書館、ていうと、パチュリーのいるあの?
「お、おう。本か。興味あるな」
そうだ。紅魔郷本編は門番で美鈴を倒した後は、パチュリーだ。
図書館でパチュリーと弾幕ごっこしないと!
「うん、そうだな。咲夜は忙しいんだもんな。しょうがない、図書館に行くことにするぜ」
「あら、聞きわけがいいのね。ほら、飴玉あげるわ」
「いらないってば!」
子ども扱いってレベルじゃないだろ!
私はチルノやルーミアと同じ扱いか!
「図書館まで案内しましょうか?」
「いや、いい。自分で探すよ。咲夜は霊夢の相手するんだろ?」
ずっと一緒にいると調子崩されっぱなしだぜ。
早々にここを立ち去りたい。
「そう。図書館は地下にあるから、気をつけてね。階段はこの廊下の先よ」
「おう。ほら、行くぞチルノ、ルーミア。いつまでお菓子食べてるんだ」
「ん? もう行くの?」
「おいしかった! ありがとう、咲夜!」
「魔理沙と仲良くね」
「うん!」
「うん」
「だからっ! もうっ!」
保護者かよ!
「私の事なんだと思ってるんだよ!」
「友達だと思ってるわ」
「お、おう」
こいつ、真顔で。
なんかはっきりと言われると恥ずかしい。
……やっぱ、どうせなら陰陽玉も届けてもらおうかな。
いやいや、でも今の咲夜は敵だし、信用ならないだろ。
しかし、咲夜が陰陽玉を渡さないで隠すとか、そんなつまらない事するだろうか。
うーん、するかもしれないし、しないかもいれないし。
「ん? 私の顔になにか付いてる?」
「いや……」
悩むぜ。でも、霊夢に早く届けないと、あっという間にレミリアの所まで行っちゃいそうだしなあ。
ええい、渡してしまおう! 咲夜を信じるぜ!
「咲夜!」
「わ、なに?」
「これ、霊夢に渡してくれないか?」
紅白の陰陽玉を差し出す。
「これを? 今は異変の最中だから、私の事を信用しないんじゃなかったの?」
「いや、よく考えたら咲夜はそんな小さい人間じゃないからな。信用することにしたぜ」
「あら。じゃあ、確かに預かったわ」
調子のいいこと言ってる自覚はあったけど、咲夜はなにも言ってこなかった。
「頼むぜ。霊夢に会ったらすぐ渡してくれよ! 信じてるぜ!」
「そんなに何回も言わなくても大丈夫よ」
*
「図書館に行く?」
「異変の解決は?」
「先に探索しようぜ」
「ふーん。あたいは構わないけど、あの巫女が解決しちゃうかもしれないよ」
「いや、咲夜がそんな簡単にやられると思えない。まだ時間かかるだろ」
「へー。じゃあ行こうか」
地下への階段を降り、広い廊下を飛ぶ。
地下の廊下はあまり破壊されておらず、ここは霊夢が通っていないんだと思った。
「きっとあのでっかい扉ね」
木製の、大きくて頑丈そうな両開き戸の扉。
その前に降り立ち、ゆっくりと押し開ける。
扉には鍵がかかっていなく、見た目の割に軽く開いた。
「お邪魔するぜ」
そのまま歩いて入っていく。
後ろをルーミアとチルノが続いた。
「わ、すごー! 本がたっくさん!」
「わー」
「さすが大図書館と言われるだけあるな。本棚の森みたいだ」
辺りを見回したが、照明が少なく、薄暗くてよく見えない。
でもパチュリーらしき人影は見当たらなかった。
「うーん、こんなに本が多いと、見たいものを見つけるのも一苦労だぜ」
箒に跨り、奥へと飛ぶ。
チルノとルーミアはちょろちょろと動き回って本棚を調べている。
この薄暗い中で文字は読めないだろ。いや、妖怪だから読めるのか。
しばらく一人で飛んでいると、薄ぼんやりと人影が見えてきた。
図書館にいるって事はパチュリーかな。
「本がたくさんだな。あとでさっくりもらっていくぜ」
なので、そんなことを言って挑発してみた。
「それは困ります! って、あなた誰ですか!?」
声は思ったより幼い感じで、あんまり魔法使いって感じの気配でもない。
なんだ、パチュリーってこんな感じの奴だっけ?
「こんなにたくさん本があるんだから、少しくらいいいだろ?」
「ダメです! 持ち出しは許可しません! 私が怒られてしまいます!」
「この館の主はそんなにケチなのか。じゃあ、こっそり借りていくぜ」
ようやく見えてきた人影は、真っ赤な髪の、私とそう見た目の年が変わらない女の子だった。
頭からはコウモリの羽みたいな飾りが見えていて、背中からも同様の羽が見える。
あれ、パチュリーじゃないぞ。
「だから、ダメですって! そもそも、あなた誰ですか!? この館の人間じゃないですよね!」
「おう。門を押し入って来たお客様だぜ」
「し、侵入者ー!! パチュリー様っ、鼠が入り込みましたよ!」
騒がしいやつだな。
こんなやつ、紅魔郷に出てきたっけ?
「おいおい、図書館では静かに、だぜ」
「あ、申しわけありま……って、あなたに注意されたくないです!」
「おう、それはすまなかったな。飴でも舐めるか?」
「いえ、勤務中ですので。じゃなくて!」
「なんだ、おいしいのに。咲夜の手作りだぜ?」
「え、メイド長の!? そんな、なにが入ってるかわからないものを!」
「失礼な奴だな。咲夜のお菓子はおいしいぜ」
「毎日吸血鬼のお嬢様に料理を作ってる方なんですよ? まともなもの、作るとは思えませんって」
咲夜って、館の中でどう思われてるんだろう。
「さっきから騒がしいわ。小悪魔、ちょっと静かにできないの?」
「あ、パチュリー様! 申し訳ありません!」
奥からゆっくりと飛んできのは、紫色の長い髪の、ZUN帽をかぶった、やっぱり見た目の年齢はそう変わらないように見える少女。
間違いない、こいつがパチュリーだ。
「それで、なんであなたは鼠と楽しく談笑しているのかしら?」
「ネズミじゃないぜ。霧雨魔理沙だ!」
「そう、あなたが。でも確か、お客様として招かれていなかったかしら?」
「さあな。記憶違いじゃないか?」
「そう。そうかもしれないわね。お客様用のやり方は気に入らないのかしら?」
「温かい紅茶とおいしいクッキーなら大歓迎だが、生憎私は異変の解決に来ててな。それが終わった後なら招かれてやってもいいぜ」
「そう。じゃあ、侵入者用のお招きをするわ。小悪魔、この鼠をさっさと追い出しなさい」
「わかりました。ふふ、でもこの人魔法使いっぽいですよ。貴重な材料になるんじゃないですか?」
「そうね。じゃあ、心臓と骨と内臓は置いて行ってもらおうかしら」
「おいおい、穏やかじゃないぜ」
さっきからからかっていた小悪魔も雰囲気を一変させる。
「勝負はスペルカードルールでいいよな。そっちは何枚スペルを使うんだ?」
「……15枚かしら」
「は? 随分多くないか?」
「全力で叩き潰すわ」
「さすがにやり過ぎだぜ」
私なんて2種類しか使えるスペルカードないのに。
チルノが4種、ルーミアが3種で合計9種類。
三人がかりでも数では負けている。
「別にいいじゃない、やってやるわ」
「チルノ?」
いつの間にか、近くにきていた。
ルーミアもいる。
「あたいが5枚、ルーミアが5枚、マリサが5枚、それぞれ対処すればいいだけよ。仮に、全部を使えるならだけど」
「……また鼠が増えたわ」
そうか。そういえばパチュリーは喘息持ちで、全部のスペルを唱えられないんだっけ。
なら、15枚っていうのはブラフって考えた方がいいな。
「そうだな! こっちには最強のチルノがいるしな」
「あったり前よ!」
「私も頑張るー」
チルノ自身はパチュリーが喘息持ちだと知らないから、素で5枚ずつ対処する気だったのか、ブラフを見抜いていたのか分からないが、すごいぜ、チルノ。
「その氷精、妖精にしては随分力が強いみたいね。異常だわ」
「おう、霧の湖で最強の氷精だ! 弾幕ごっこでは私が勝ったけど、めちゃくちゃ強いぜ!」
「……いいわ、その氷精も珍しいからサンプルにして保存しときましょう」
「できるかな?」
いくらパチュリーが凄い魔法使いでも、私たちはそんなに弱くない。
チルノはなんか原作よりずっと強いし、下手するとパチュリーより強いかも。
「いくぜ!」
箒をぐっと強く握り、八卦炉とスペルカードを取り出す。
狙うのはパチュリー。
「パチュリー様のスペル宣言まで、ここから先は通しません!」
小悪魔はぐっと力強く拳を握り、キリッとこっちを見つめて来る。
手に大玉の魔力を作り出して、それを多数撃ち出してきた。
「あたいがアタッカーするから、ルーミアはディフェンス! マリサは撹乱!」
チルノは本当に⑨なのか? 的確に指示を飛ばして一人で小悪魔の方に飛んでいく。
ルーミアのディフェンスって、遠回しに私を守れってこと?
「了解したよっ」
自分のスペルカードを取り出してニコニコ能天気そうに笑うルーミア。
さり気なく私の近くに飛んできた。
「あんまり暴れると埃が舞うから、さっさとやっちゃうわね」
パチュリーはどこからか取りだした本を開き、パラパラと頁をめくり半目で私を睨みつけて来る。
「雹符『ヘイルストーム』」
「う、わあ!」
チルノのスペル宣言は速かった。
無数の氷塊が小悪魔を襲う。
さすがにパチュリーも驚いたのか、一瞬目を大きく開いてチルノを見た。
「隙ありだぜ!」
その隙に私は弾幕をパチュリーめがけて放ち、ルーミアもそれに追従する。
「土符『レイジィトリリトン』」
しかしパチュリーは慌てず自分のスペルで私たちの弾幕を打ち消し、さらにそれはチルノのスペルと相殺し、小悪魔の方のカバーまで。
「す、すいませんパチュリー様!」
「気を抜く暇は与えないぜ! 魔符『スターダストレヴァリエ』」
「月符『ムーンライトレイ』」
息をつかせずスペル宣言。
「鬱陶しいわね。土&金符『エメラルドメガリス』」
私とルーミアのスペルはパチュリーのスペルに食い破られ、さらに余力のある弾幕が襲ってきた。
「夜符『ナイトバード』」
ルーミアも特に慌てずスペルで打ち消し、パチュリーは僅かに舌打ちした。
「雪符『ダイアモンドブリザード』」
チルノの宣言と同時、部屋を冷気が包み、雪のような弾幕が降り注ぐ。
「火符っ……ごほっ!」
パチュリーがむせ、弾幕はそのまま殺到していく。
よしっ! と私が心の中でガッツポーズした時、小悪魔がパチュリーに体当たりするようにして、その身を盾に守る。
「うっ、ぐぅ!」
「っ! 小悪魔っ」
パチュリーは弾幕の外に出たが、小悪魔はもろに雪の弾幕をかぶり、地面に落ちて行った。
心配だが、今は弾幕ごっこの最中。気にかけるのは後にする。
「終わりね! 凍符『パーフェクトフリーズ』」
「闇符『ディマーケイション』」
「魔符『スターダストレヴァリエ』」
チルノがそのままたたみ掛けるように宣言し、ルーミアと私も続けて放つ。
「……火&土符『ラーヴァクロムレク』、木&火符『フォレストブレイズ』」
まさかの2枚同時宣言っ!
「うおわ!」
その威力は私たちの弾幕を食い破り、さらに勢いは弱まらず殺到してくる。
慌てて避けるが、あまりに濃い弾幕でルーミアやチルノが見えない。
「っ! マリサ!」
チラリと弾幕の隙間からチルノが見えた。
チルノはなぜか慌ててこちらに飛んでくる。
「一人一人、確実にいくわ」
間後ろから、パチュリーの声が聞こえた。
「えっ!」
その手に極大の魔力を集め、それは暴力的な光として解き放たれた。
「日符『ロイヤルフレア』」
ダメだ、避けられない!
「っ! 偽恋符『マスタースパーク』!」
咄嗟に八卦炉を掲げ、スペルを放つ。
でも威力が段違い過ぎる。拮抗は一瞬で、全く威力の減衰しない魔力が迫ってきた。
「っマリサ!」
光に飲み込まれる直前、真横から押されて射線上から逃れる。
咄嗟の事で反応できず、箒から落ちそうになりながらそっちを見ると、光に飲み込まれ、小悪魔と同様に落ちて行く姿が。
あれは、ルーミア!?
「とりあえず一匹目」
「このっ!」
チルノが激昂してスペルを取り出すが、パチュリーはそれよりも早く宣言を終えた。
「火符『アグニシャイン』」
「っ、うわあ!」
現れたのは巨大な火球。氷精のチルノの弱点。
「溶けないでね。サンプルにしたいから」
無慈悲に放たれたスペルは、チルノを飲み込んで落ちて行った。
「さて、あとはあなた一人ね」
肩で息を整え、少し顔色が悪くなっているが、まだ余力のありそうなパチュリー。
やっぱり、本物の魔法使いは強い……!
「へへへっ。さすが、やるなあ」
「なにが面白いのよ」
一転して状況は不利になり、あっという間に2人落とされた。
「いや、やっぱ魔法使いは強いなあって思っただけだぜ」
「……そう。あなたも魔法使いの端くれじゃない」
「おう。でもさ、全然強くないんだよ」
「そうね」
「でも、弾幕ごっこはこれでも得意なんだぜ?」
「あんな威力のない弾幕しか撃てない癖に、何を言ってるの」
「弾幕ごっこは、力のない人間でも、強力な妖怪に勝てるように生み出されたお遊びだ」
「そうね。でも実際に勝てるのかしら。今から、私に」
「おう! なんたって私は魔法使いだからな!」
「そう。夢見がちな、魔法使い未満ね」
2人、牽制の弾幕を放ちながらの会話の応酬。
実際はパチュリーが一方的に撃ち、私は避け続けるだけなんだが。
偶に放つ弾幕も全然効果ないし。
「すばしっこいだけかしら?」
「さて、どうかな」
こっちは小さい頃から霊夢の鬼弾幕を避けていたんだ。
こんな通常弾では絶対に落ちない自信があるぜ。
「もう終わりにしましょうか」
「なんだ、降参してくれるのか」
「そんなわけないでしょ。あなたの負けって形で終わりよ。火水木金土符『賢者の石』」
パチュリーから、5種類の魔力が放たれ、それぞれが鉱石の形を作っていく。
おいおい、まだこんなに魔力残ってるのかよ。
「ラストスペルよ」
「威力も最大級だな」
「石の一つ一つが山を崩せる威力を持ってるわ」
「それは怖い!」
それぞれから放たれた弾幕を掻い潜る。
速く、連携した動きをするので徐々に退路が無くなっていく。
「ちくしょ、魔符『スターダストレヴァリエ』」
星型の弾幕が賢者の石の弾幕に殺到し、相殺して逃げ道を作ろうとするが無駄だった。
「んな、マジかよ!」
「無駄よ。威力が違い過ぎるわ」
星の弾幕は逆に食い破られ、徐々に私の退路を塞いでいく。
「さっさと落ちなさい」
「っくそ!」
ダメか、いや、まだだ!
「そぉい!」
「……よく抜け出せたわね。でもまだ終わりじゃないわ」
目一杯屈んで、僅かな隙間を通り抜ける。
帽子や服が僅かに破れるが、体のどこにも被弾しなかった。
パチュリーの言葉通り、鉱石からはまだ魔力が噴き出し次々と弾幕を放ってくる。
「っくそ」
今度こそ、もうだめか!
「っく、けほっ、けほっ!」
突然のスペルブレイク。
何が起きたのか、理解するのに数瞬かかった。
「けほっ、ごほっごほっ!」
「お、おい大丈夫かよ!?」
パチュリーが苦しそうに体を丸め、何度も何度も咳をしている。
だんだん苦しそうになってきて、心配して飛び寄った。
「げほっ、げほっ、ごほごほごほっ!」
「おい、大丈夫か。なあ、とりあえず降りるぞ」
苦しそうに咳き込むパチュリーを捕まえ、ゆっくりと地面に降り立つ。
激しい弾幕戦があったのに、図書館は一切傷ついていなくて、今まで何もなかったかのように静かだった。
響くのは、苦しそうなパチュリーの咳だけだ。
「おおおい、薬とかあるんだろ! 持ってきてやるから、場所おしえろよ!」
パチュリーは苦しそうに口元を抑えて咳き込んでいる。私も動転して、冷静じゃない。
パチュリーが自分の服のポケットを漁ろうと手を伸ばしているが、口元を抑えていて上手くいかないようだ。
「このポケットにあるんだな! 失礼するぜ!」
パチュリーのポケットを漁り、吸入補助具を取り出す。
急いでパチュリーの口元に持っていくと、両手でそれを抑える。最初は苦しそうだったが、ゆっくりと深呼吸をはじめた。
数回吸って、落ち着いたのか咳は止まった。
「よ、よかった……。死ぬんじゃないかと思ったぜ」
私とパチュリーは二人して顔を青くさせながら、安心して地面に座り込んだ。
「……喘息、持ちだからって、バカにしないでよ」
「へ?」
咳き込み過ぎて涙が出たのか、濡れた目でパチュリーにじろっと睨まれた。
私はなんとも間抜けな声を出して、思わずジロジロとパチュリーを見てしまう。
「……なによ」
「いや、なんて?」
「……魔法使いなのに、喘息のせいで魔法の詠唱もままならないなんて、バカにされそうなものじゃない」
「なに言ってんだ。私なんて、そもそも魔力が少ないから魔法もあんまりできないぜ」
「あなたと一緒にしないで。私は純粋な、種族としての魔法使い。人間の魔法使いのあなたとは、立っている場所が違うわ」
「じゃあ、なおさら私がお前に何か言う事はできないな。ひとつ言っておくと、弾幕ごっこは私の勝ちだぜ」
「……そうね」
「あれ、反論してくると思ったんだけど」
「なんで?」
「だって、偶然だったからな。次にもう一回やれって言われても勝てると思えないぜ」
「……また発作で私が負けるかもしれないじゃない」
「今回は偶々だろ。それに、どっちにしろチルノとルーミアがいないと勝てないし」
「……そうね。確かにそうだわ」
「いや、でも私一人でも勝てるようになるぜ? 次、とは言わないけど、いずれな!」
「……無理じゃない?」
「無理って言うなよ! これでも努力してるんだぜ」
「努力? たとえば、どんなことをしてるの?」
「えっと。霊夢と弾幕ごっことか、アルバイト……とか」
「……甘く見られたものね」
「いや、結構ハードなんだぜ?」
「魔法使いを甘く見ないで。まずは知識を蓄えなさい。実践する前に頭に入れるのは基本でしょう」
「い、いやいや、本も読んでるぜ! でも、魔道書って貴重だろ? だから高いし、そんな簡単に借りられると思えないし」
「……碌に知識もないのに。こんな奴に私は負けたのね」
「いやいやいや、だから、チルノとルーミアがいないと勝てなかったって!」
「でも最後は一対一じゃない」
「そうだけどさ! その前に色々とあったし、決着も微妙だったろ?」
「過程はどうでもいいの。私は負けたんだから。でも、それがあなた相手だったというだけでなんかムシャクシャするのよね」
「そ、そりゃ、こんな半端者にって思ったらムシャクシャもするよな……」
「……あなたの態度が気に食わないのよ」
「へ?」
「過程はどうあれ、勝ったんだから堂々としなさい! 次は負けるとか、聞きたくないわ」
「い、いや、でもさ」
「努力してるんでしょ?」
「お、おう」
「じゃあ、なんで自信を持って勝てるって言わないのよ」
パチュリーはなんか、思ってたよりも熱血だった。
「わかったわ。じゃあ、私があなたを鍛えてあげる」
「……え?」
なにがわかったって?
「どこに出しても文句を言えないような、魔法使いにしてあげる」
「えっと、でもお前は本読む方が好きだろ? 別に、私一人にそんなに構わなくても」
「本を読みながらでも、あなた程度を鍛えるのは簡単よ」
「さいですか」
申し出は嬉しいんだけど、良いんだろうか。
パチュリーは3度の飯より読書が好きって、そういう奴じゃないのか?
「私の名前はパチュリー・ノーレッジ。精霊魔法を得意とする魔法使いよ」
ああ、そういえば自己紹介もまだしてもらってなかったなあ。
私が一方的に名乗っただけだった。
「よろしくな、パチュリー」
お互いに笑い合う。
そうだ、今度アリスも連れてきてやろうか。
同じ魔法使い同士、気が合うかもしれない。
そして魔法少女3人で集会だ! サバトだ!
「……そうだわ。マリサ、私の事は先生と呼びなさい」
「え?」
「私の弟子になるんだから、先生としてちゃんと敬うのよ」
「……えぇ?」
*
「パチュリー様ったら、なんだか嬉しそう」
「そーなのか?」
「あの紫の魔法使い、なんで急に怒ったの?」
「うーん。実は弾幕ごっこ、初めてだったんですよ」
「え、あんなにスペルカードあったのに?」
「パチュリー様は本を読むのが速くて、しかも一回で暗記してしまうので読み切ったら暇になってしまうんです。その暇な時間に少しずつ作っていたら、結構な種類になっちゃったんですよ」
「へえー。それで、初めての弾幕ごっこで負けちゃって悔しいのか」
「そうですね。あと、同じ魔法使いさんに負けたっていうのも原因じゃないでしょうか」
「ふーん」
*
「魔理沙が近づいてきてる? いえ、速すぎる。なにかしら」
「あー、お掃除が進まない。お嬢様に怒られるじゃない!」
霊夢が紅白の陰陽玉を持ち、魔理沙の位置を探ると、その反応はすぐそばから返ってきた。
「なによあんた。メイド?」
「そうよ、この館のメイド長。十六夜咲夜と申しますわ」
「そう。それよりあんたに聞きたい事があるのよ」
「なに? お嬢様の居場所なら教えないわよ」
「違う。魔理沙に持たせた陰陽玉を、なんであんたが持ってんの?」
「ああ、これの事」
咲夜が手を軽く開いて霊夢に向けると、その手にはいつの間にか陰陽玉が乗っかっていた。
「これ、あなたのでしょう? 返すわ」
「……それは魔理沙が持っているはずの物だわ。なんであんたが持ってるの?」
「さあ、なんでかしら? ご想像にお任せしますわ」
「まさか、魔理沙になんかしたの?」
「ふふふ」
「……魔理沙に手ぇ出したんなら、殺すわよ」
「できるものならやってみなさい。でも残念ながら、あなたはここで引き返す。お嬢様に会う事もできない。それこそ、時間を止めてでも。時間を操る事が出来るから」
相性の問題で、最初っからチルノに勝ち目はない。
引きこもって、自分は強者だと思ってたのに、外から来た弱者に負けたでござる。
パッチェさんかわいいよパッチェさん。
後日修正する可能性ありますが、大筋の流れは変わりません。