だぜ娘奮闘記!   作:元掃除道具

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その2 妖怪の山

 異変を起こした主犯は、雲の先、もっと上。

 アリスは既に主犯の居所を掴んでいて、そこに至るまでのルートを紫とふたりで話し合っている。

 

 私はその間、うどんげを池から引っ張り上げて必死に謝っていた。

 幸い、池には鯉など魚はいないし、私でも助けに行ける深さだ。

 

「ごめんなぁ、どう考えても第三者の介入があったよなー」

「ごほっ、ごほっ! い、いや、別に……。私も油断してたし、介入を認めたのも私だし……」

 

 言いながら、微妙な表情で目を逸らしているうどんげ。

 うどんげに肩を貸しながらざぶざぶと水をかき分けて歩く。すっかり濡れてしまった可愛らしい制服風の服装が、いくら夏でも冷たい池の中だと寒々しい。

 

「魔理沙ー、せっかく勝ったのにー。もっと私を褒めてよー」

 

 ルーミアが相変わらず小さいまま、とぼけた顔をしながら私たちの周りをクルクルと回っている。

 まるで妖精みたいな姿だけど、その実態があの凶悪な攻撃を放った妖怪だというのを私たちは知っているので、微妙な表情になってしまう。

 

「……」

「むー。魔理沙、なんだか不満げだなー。くふふふ、まさか怒っているのか?」

 

 むーっと顔を強張らせながらルーミアを見ていると、それすらも愉快だと笑いながらくるくる回っていた。

 

「怒ってないけど、やり過ぎだぜ! っていうか、あんな形だけ真似た黒いマスタースパークなんて……」

「形だけって、魔理沙がそれを言うの?」

「うぅっ!」

 

 それを突かれると本当に弱い。

 形だけなのは、正に私の偽恋符の方で、幽香に言わせると「威力が無い、光るだけ」なのだから。

 それに対してルーミアは威力も申し分なく、演出もド派手だ。ただ黒いだけで、幽香のように妖力を力任せに放出する魔法の砲撃だった。

 私の方が、マスタースパークを先に知っているのに! 数回見ただけのルーミアの方が、ずっとずっと再現度が高いのだ。

 

「……っくぅ」

「あー悔しそうな顔もいいねぇ。中々傍に居られなかったから、何の感情でも良いわー。うまうま」

「自分から仕掛けて論破されているの……?」

 

 確かに考えれば考える程、マスタースパークともいえる攻撃ではあった。

 わかっていていちゃもんを付けただけなのだけど、でも他にも言いたいことがあるのだ。

 

「さっきの、完全にルーミアがひとりで撃ってた! だから、やっぱり私とうどんげの弾幕ごっことは言えないぜ!」

 

 ようやくふたりで池を出て、ビシッとルーミアに指を差す。

 やっぱり大元で納得できないのは、途中で介入してきたルーミアに勝たせてもらったと感じるからだ。

 

「手助け程度とか言って、ぜーんぶやったじゃないか!」

「あははははは!」

 

 愉快そうにルーミアが笑う。

 それを見上げながらくそーっと拳を握っていると、うどんげが自分の上着を私に掛けて来た。

 

「それは、ちょっと違うんじゃない?」

 

 うどんげを見上げると、やっぱり微妙に視線を逸らしながら口元に手をあててひとつ咳き込み。

 

「あなたが魔力を注いで、あの妖怪が魔法を撃った。その動きは魔理沙が普段使っている道具と変わらないわ」

「八卦炉と一緒ってこと? けど……」

 

 ミニ八卦炉は魔力を増幅する色々な鉱石や魔術式が刻まれた、香霖の傑作だ。

 とんでもなく希少な鉱石を使っている事だとか、結構な頻度で行われる改修にはアリスやパチュリーも協力していることなど、私にとっては只の道具と言えない程に愛着のある相棒。

 そんな相棒だけど、それでも私の魔力以上の事はできない。

 ルーミアは、魔力を注がれることをスイッチにして自身の妖怪としての力を振るっただけだ。

 

「私からしたら、同じに見えるんだけど」

「全然違うんだけど!」

 

 私にとっては、全然違うのだ。

 

「それでも私は負けたし、あなたは勝ったのよ」

「……むぅ」

 

 完全には納得できないのだけど、それはただの我儘でもある。

 それに、そうしないと勝てなかった、ということもちゃんと解っていた。

 

「勝たせてもらった、だぜ」

 

 自分の理想(本物の“魔理沙”)が遥か上にあることは理解している。

 

「だけど、今だけだ! そのうち、ルーミアのとは全然ちがう、()()()マスタースパークをお見舞いしてやる!」

 

 だからいつか本物の魔理沙にも負けない魔法を撃てるように、私は頑張るしかないのだ。

 

「あー、いいなぁやっぱり……。いつかその心を折ってやりたいなぁ」

「う、なんかすごい嫌なこと言ってくるんだけど」

「どうせ言っているだけよ。……あなたが強くなることを信じている奴も、たくさんいるわ。まあ、程々に頑張ればいいんじゃない?」

 

 にやにやと笑うルーミアを、うどんげが虫にするみたいに手でしっしっと払う。

 さっきまで怯え気味だったうどんげが、なんだか強気でルーミアに対して接しているのは不思議だった。

 

「ねえ、ところでなんで上着掛けてくれたの?」

「……濡れてるから」

「え、この上着も濡れてるんだけど」

「……いいから、上に掛けておいてね」

 

 なんでかため息を吐かれてしまい、手を引かれて縁側から廊下に上がる。

 全身池の水で濡れているので上がるのを遠慮していたのだけど、妖怪兎のひとりがタオルを手に走って来てくれた。

 

 開きっぱなしの襖の部屋ではアリスと紫が話し合っていて、こちらに視線を寄越してアリスが呆れ気味に声を掛けてくる。

 

「なんでそんなに全身濡れているのよ」

「いやぁ……えへへ」

「池の水? 乾かしても匂いが残るわねぇ」

 

 アリスがやれやれと首を振って立ち上がろうとして、うどんげが手で制しながら私を廊下の奥にそのまま手を引いてくる。

 

「とりあえず、魔理沙はお風呂ね」

 

 *

 

 通常、人間は妖怪の山に入ることはできない。

 ただ無理やり突破するような巫女もいるので、手順を踏めばなんだかんだ融通を利かせてくれることもある。

 最近は守矢神社での催し物などで普通に入ることが出来るイメージもあるのだけど、山自体が禁足地であることに変わりはない。

 人間たちにとっては、相変わらず恐ろしい場所だ。

 

「ふむふむ。ごめん、確認のためにもう1回言ってもらえる?」

 

 アリスが顎に手をあてて、うどんげとの弾幕ごっこの詳細を、何度も何度も聞いてくる。

 分析して、より私とその黒幕との戦いを有利に進めたいのだとか。

 隣で楽しそうに紫も聞いているので、私はまた何度目かの話をしている。

 

 私達は哨戒天狗に話をしてから、渓流のほとりで案内を待っていた。

 

「えっと、戦いの流れから?」

「いや、そっちは大丈夫。ルーミアとの連携はどうだったのかしら」

「そこか。うーん、ルーミアがぜーんぶやったから、全然連携って感じじゃなかったぜ」

「うふふ」

 

 紫が扇で口元を隠しながら、反対の手で小さなままのルーミアの頭をツンツンと突いている。

 

「なるほどね。じゃあ10点満点中では?」

「10点満点? 強さは10点だったぜ!」

「じゃあ連携とか戦いやすさとかはどう?」

「……2点とか?」

「そんなー!」

「うふふふ」

 

 なんだか上機嫌な紫と、真剣に考え込むアリス、げーっと口に出して嫌そうな顔をしているルーミア。

 

「採点の基準は?」

「いや、そんなの適当で……。ねえ、この点数付けは本当に必要なことなの?」

「もちろんよ。黒幕と戦うときに全員でサポートはできないもの、なにが良いか探らないと」

 

 紫が上機嫌に答え、また軽くぴしぴしとルーミアの頭を叩いた。

 うげーっと舌を出したルーミアが、眉を下げて紫を見上げている。

 

「後出しだー。先に聞いていたら、もっと違うやり方を考えたのにー!」

「考えても結局変わらないでしょう、あなた」

 

 じゃれるように手足をぶんぶん振っているルーミアを笑いながら捌いて、紫は永遠亭を出てからずっと上機嫌だ。

 私は紫に隙間経由で自宅の着替えを取ってきてもらい、いつもの衣装の内側に紫の仕込みを入れてもらっている。

 紫と一緒に戦うとき効果を発揮するそうで、アリスとルーミアには黙っているように言われた。

 この仕込みをしてから、なんだか楽しそうにしているのだ。

 

「えっと、相性の良い戦い方を探っていけば良いって言ってたよな?」

 

 ある意味これはオプション選択みたいなことなのだろうか。

 ちょっとゲーム脳だけど、手を貸してくれる皆が本番に向けて選べと迫ってくる。

 

「色々と考えたのだけどね。魔理沙が戦うのだし、魔理沙が選べば良いのよ」

 

 そういうことらしい。

 

「なんか、こっちが選ぶのって……。偉そうにしているみたいで、嫌だなぁ」

「そんなこと気にしなくて良いの。それと、最終的に選べないって言うのも無しよ」

「う。も、もちろん」

 

 選べ無さそうだなー、と思っていたら、アリスにはそれも先に封じられてしまった。

 しっかり真剣に選んで、そのサポートを受けて黒幕と戦うのが今回の戦い方らしい。

 

「紫、次は私でも良い?」

「ええ、私はどちらでもいいわ」

「ありがと。それじゃあ次は妖怪の山の案内をしてくれる奴と弾幕ごっこで準備運動よ」

「うーん。案内してくれるっていうのに絡まれるとか、かわいそうだなー」

「人間と遊べるんだから、相手も喜んで相手してくれるでしょ」

「そういうものなの?」

 

 なんだかしょげているルーミアがかわいそうになって来たので、手招きして呼んでいつも以上に小さい頭を撫でる。

 普段からチルノと同じくらいの大きさ、私より少しだけ小さいルーミア。手のひらサイズでこうして大人しくしていると本当に可愛いのだ。

 実はずっと気になっていたので、頭を撫でながら封印のお札リボンがちゃんと付いているのかも確認する。

 

 以前見た時と変わらずそれはちゃんと髪に結ばれていて、じゃあなんであんなに強いんだろうと益々疑問が浮かんでくるのだった。

 

「お待たせしましたー。あやややや、これは皆さんお揃いで!」

「次の相手が来たわ。魔理沙、準備は良い?」

「あ、うん」

 

 *

 

 アリスは私の箒の後ろに乗り、腰に手を回しながら後ろから囁くぐらいの声量で作戦を伝えてくる。

 

「魔理沙は元々、避けるのは上手なのよ。だから攻撃は私の人形が行うから、一生懸命避けてね」

「う、うん……。ねえ、それコソコソ話すほどの作戦か?」

「あと、敵の誘導もなるべく私の方で潰していくから避けるためのルートは何個も用意して。調子に乗ってグレイズ狙いなんてせず、余裕をもって避けるのよ」

「うー、初心者じゃないんだから大丈夫だって! コソコソしゃべると耳がこそばゆいぜ……」

 

「……目のまえでイチャつかれると流石に少しイラっと来ますよ?」

 

 文が綺麗な黒い翼を音を立てて羽ばたかせ、手に持った羽団扇の先をこちらに向ける。

 

「い、イチャついてるつもりはないんだけど……」

「魔理沙の箒の上に乗っているのは、被弾扱いでいいんですよね」

「ええもちろん。あなたに、私たちを捉えることができればね」

 

 後ろにいるので表情は見えないけど、楽し気にアリスが応えて文もニコニコと笑って応じた。

 

「魔理沙と弾幕ごっこか。サポートとはいえ何だか感慨深いわ」

 

 開幕早々、アリスが周囲に人形たちを展開していく。

 先に伝えられていた通りにそれは次々に弾幕を放ち、色とりどりの魔力弾幕が空間を染めた。

 文は流石のスピードで悠々と避けきり、魔法弾幕の合間を縫って妖力弾が容赦なく殺到する。

 

 避けるだけなら、私にだってできる!

 

 私は全力で避け続け、たまに服の袖を引かれることでルートを変えていつも以上の耐久を見せた。

 

「永夜の異変のときのこと覚えている?」

 

 言葉を返す余裕もないほど全力で弾幕避けをしている私に、箒の後ろからアリスが声を掛けて来る。

 

「今はパスが繋がっていないから、譲渡にロスが生じてあんな威力は出せないでしょうけど」

 

 文のスペルカード宣言が先だった。

 周囲に広がる弾幕が絶え間なく空に敷き詰められて行き、アリスの人形たちもいくつか被弾してしまう。

 

「攻撃するのは1回でいい」

 

 スペルを耐えきり、開けた視界の先で真っすぐ文を見据える。

 

「今っ」

「マスター……!」

 

 握った八卦炉を突き出すと、後ろから伸びた手が私の手に重なった。

 

「スパーク!!」

 

 何度も編んだ魔力の式に、いつも以上に十全な魔力が乗ってそれは確実な手ごたえを手に伝えてくる。

 放たれた極光は一気に広範囲に、逃さないように空を染めていく。

 一瞬驚いた顔、すぐに笑顔で羽団扇を構え、真正面から受けて耐える姿勢の文。

 

「なるほど良いタイミングですね! だけど残念ながら、私を倒すにはまだ威力が……!」

 

 私がそれに気が付いたのは偶然だった。

 

 放たれたマスパに巻き込まれた人形がいないか、一瞬周囲を確認した時だ。

 

「……ん?」

 

 すーっと1体の人形が文の背後に近づき、ぴとっとその背中に張り付く。

 

「サヨナラ」

「うわぁぁ!」

 

 轟音。

 微かに爆発音の間を縫う文の悲鳴。

 

「ふう、よくやったわね魔理沙」

「いや、いま何か……」

 

 極光の晴れた先で、落ちていく文の背中が焦げていた。

 

 *

 

「……うーん」

 

 いや、私が弱いから悪いのだけど。それは本当にそうだけど。

 

「どうかしら、かなり良い連携だったと思うんだけど」

 

「ひどいなー。マスパを餌にして爆弾でトドメ刺したのだー」

「あれでメディスンの前では人形の味方を名乗っているんだから、怖いわよねぇ」

 

 こちらを見ながら聞こえよがしに紫とルーミアがひそひそと話し、アリスは咳払いでそれを遮った。

 

「で、どう? 10点満点中」

「うーん……」

 

 目を回している文を休ませながら、私は腕を組んで頭を悩ませている。

 攻撃をアリス、回避を私がっていうの、凄い良かった。

 攻撃のチャンスを作って私に攻撃させてくれるのも、ありがたいし上手く使ってくれている感じがする。

 だけど、なんだか卑怯だった。

 

 いや。卑怯だって感じるのは、私が弱いくせに正面から戦いたがるから、なんだけど。

 

 だって、文は多分避けられたのに好奇心でマスパを受けようとしていた。

 その心を利用したみたいで、なんだか釈然としないのだ。

 なんか、『面白い! 受けてあげましょう!』って言って腹筋を出したのに、容赦なく頭をバットで殴るような戦い方だ。

 

 理想ばかり考えてしまうのは悪いこと。だけど、こういうことを肯定するのもあまり良い気がしない。

 

「9……いや、8点かな……」

「……根拠を聞きたいのだけど」

「いや、別に適当だぜ」

 

 一応あと紫とも連携できるみたいだから、それを見たうえで決めても良いと思うんだ。

 連携……というか、アリスの戦術に私を組み込んで使ってくれている感じは、別に悪くないと思っている。

 

「魔法使い、いや、人形使いらしい戦い方よね」

「魔理沙のことも道具のひとつとしてしか見ていないんだー」

「うるさいわねぇお局たちが。まあ高得点ではあるし、良い方でしょ」

 

 うーん、と唸る文の頭を撫で、緋色の雲が見えるという空を見上げた。

 相変わらず風が強く吹いており、ポツポツと雨粒が魔力の傘に当たって弾けている。

 

「なんだか、天気が悪くなってきたなー」

 

 もっと疲れると思っていた霊夢のいない異変解決も、皆のおかげで緊張感無く進めていてありがたい。

 色の違う雲を探してみたけど、やっぱり私には見つけられなかった。




え、連休おわり!?
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