だぜ娘奮闘記!   作:元掃除道具

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月に一度ペースで体調を崩しています。

すこし間をあけてしまいましたが今日から更新!
元気があれば!


その3 雲上の雷

 ぽつぽつと降った雨は次第に勢いを増していき、ついに嵐になろうとしていた。

 弾幕ごっこが終わりその休憩中。大きな木の下で魔法の傘を展開しながら、根に腰を下ろしてる魔理沙は心配そうに空を見上げ、膝に文の頭を乗せながら改めてアリスたちを見上げた。

 

「なんか天気がものすごく悪くなってきたなー」

「大丈夫。これから行くのは雲の上だから、天気は関係なくなっていくわ。飛ばされないようにね」

「白玉楼に行く感じか」

 

 魔理沙はひええと小さく口にして、うーん、と未だに唸る文の頭を撫でながらぐっと口を堅く結んだ。

 その傍には上海人形が飛んで来て、文のお腹の上に軽い音を立てて乗り込むと乱暴に叩き始める。

 

「あ、こら上海! ダメだぞ、怪我人にそんなこと」

 

 慌てて魔理沙が制止するが、気にした風もなく文は薄っすら目を開けて、こちらを冷たい目で見下ろすアリスと目を合わせながらやれやれとため息を吐き出した。

 

「鴉の癖に狸寝入りはもう良いでしょう、文。魔理沙も、さっさと行くわよ」

「狸寝入り? なにを言っているのかさっぱりですが。仕方ありません、起きましたよ」

 

 ぱっちりと目を開き、さっきまで唸って調子悪そうだったのがまるで嘘のようにすっと上体を起こそうとする。

 

「あ、無理したらダメだぜ!」

「うん、じゃあもう少し休みます」

 

 魔理沙が慌ててそれを押し留め、再び頭を膝にのせた文は表情を変えずに視線だけを送った。

 

「起きろって言ってんの」

 

 アリスが軽快に文の頭を叩き、押し留める魔理沙に大丈夫と片手で制しながら渋々と上体を起こした。

 

「仕方ありませんか。お陰様ですっかり治りましたよ、ええ」

「だ、大丈夫なのか? さすが天狗だ、頑丈だなぁ」

「アリスさんも殺すつもりじゃないみたいですし」

 

 言いながらちらりと文がアリスを見る。

 意味深に視線を交わし合い、お互いに示し合わせたように同じタイミングで逸らした。

 改めて、文が一行を見回す。

 

 人間の魔法使いに、隙間妖怪、宵闇妖怪、魔法使い。

 

「負けは負けです。変に留めるつもりもありません」

 

 どこからか取り出した羽団扇を手に空を指し示すと、嵐の中で雨粒がびゅうっと風に攫われて、まるでトンネルのように空間を作りだしていく。

 

「妖怪の山の領空だけご案内します。今日はなんだか忙しいので、その先までは付いていけませんが」

 

 *

 

「ねえ、不公平だと思わない? 私にもう1回チャンスをくれたら、あの時みたいな最高の連携を見せられるのに!」

 

 ぷくっと膨らんだ頬を背中にぐりぐりと押し付けてくるのはすこし大きくなったルーミアだ。

 箒の後ろに乗ったアリスを無理やり押しのけて来た時に、手のひらサイズがいつの間にか人間の子供位のサイズに。

 後ろから手を回してきて、お腹をムニムニ触りながら頬を押し付けられていた。

 

「不公平って言ってもなぁ。紫の言う通り、あんまり変わらない気がするんだけど」

「魔理沙までそんなこと言う? 忘れたのかな、あの時はあんなに息を合わせて戦ったのに」

 

 あの時というのは、美鈴やパチュリーとの異変の最中のことだろう。

 チルノも含めて3人で、確かに連携しながら弾幕ごっこ……いや、美鈴とは違うか。とにかく、力を合わせたことがあるのはその時だけなので、ずっとそれを言っているんだと思う。

 

「あれは、その……。たしかに良い連携してたなぁ私達」

「でしょー?」

 

 得意げになっている声が後ろから聞こえて、一層無遠慮な手が動き回ってくる。

 霊夢もそうだけど、なんでお腹を触りたがるんだろう。

 

「あら不服? 友達の誼でこうして同行を許しているんだから、我儘を言うものじゃないわ」

「あーあ、口うるさいのがきた」

 

 隙間から半身だけ出して隣にいる紫が畳んだ扇子でお腹をまさぐる手を叩くと、ルーミアは大人しく手を腰の方に落ち着けた。

 周囲は真っ暗で、アリスが貸してくれたカンテラが心もとない明かりを灯す分厚い雲の中。

 雲の中は金属の類を持っていると危ないらしいので、アリスは文と一緒に先導して多分もう雲を抜けて上にいる。

 

「あ、ありがとう紫」

「嫌だったら自分で言いなさいな」

「別にそんなに嫌じゃないけど」

「ホント!?」

「う、うん」

「調子に乗せないで」

 

 ルーミアは喜んでいたけど、紫にはツーンと冷たい目で見られてしまった。

 

 時々遠くで稲光が光り、雷鳴が轟いている。危ないので、こんな時じゃないとわざわざ通ったりはしないから新鮮だ。

 暗闇で人の感触は安心するから、ぎゅっと後ろから抱き着かれているのは別に嫌じゃない。

 

「次は紫が手伝ってくれるんだよな。もう黒幕の所に向かっているのに、弾幕ごっこを手伝ってくれるやつなんているのか?」

 

 傍に紫が出て来たので、聞こうと思っていたことをこの際聞いてみる。

 この異変のことを全然覚えていない私は、いつどこで黒幕と戦うのかも予測できない。

 雲の上では白玉楼みたいに穏やかな場所なんだろうか、いろいろと気になるけど、まずは紫が手伝ってくれるという初めての出来事が気になった。

 

「上には萃香がいるから、すこし胸を借りようかと」

「へえ、萃香が」

 

 なんで先にいるんだろう。

 いつでもどこにでもいるなぁ。

 

「萃香がなんで……っ!」

 

 雲の中でぴかっと光を放つ雷が、近くで空気を裂く音を轟かせた。

 

 驚いて悲鳴を上げると、後ろでルーミアが嬉しそうにきゃっきゃと笑う。

 

「び、びっくりした……」

「きゃあだって! 可愛らしい悲鳴だなぁ魔理沙」

「う、うるさいなぁ!」

 

 腰に回されたルーミアの手を叩くと、それも嬉しそうにされるのではしゃぐルーミアを止める手段がない。

 くそう、はしゃぎ過ぎだぜ。

 

「あら? こんな雲の中に、何かいるわ」

 

 紫が何かを見つけ、扇子でどこかを指し示す。

 あいにく私は普通の人間なので、この暗闇の中でその示す方向に何がいるのかはわからない。

 こういう時、妖怪は便利だなぁと思う。

 雲海には龍がいると聞いたことがあるので、まさか幻想郷の龍がいるのかと思い、好奇心でそちらに箒を向けるとすぐに知らない声が聞こえていた。

 

「この雲を泳ぐ人間が居るなんて。それに、地上に(つくば)っている妖怪?」

 

 薄らと自身が発光している妖怪だ。

 ひらひらと周囲に浮かぶ布はフリルがたくさんついていて華やかで、それを纏う様にしている女性は布と同じ意匠の上衣にロングスカートをこちらもひらひらと風に舞わせている。

 鍔広帽子にも赤い布がついていて、まるで泳ぐように揺れる布で体以上に大きな存在感を雲の中で示していた。

 

 青紫の髪はセミロングで肩まで無造作に伸び、静電気の影響なのかふんわりと広がっている。

 真っ赤な瞳に優し気な面立ちの女性は、周囲にひらひらと浮かぶ布も相まってまるで雲の中を泳ぐようにすいーっとこちらに近づいて来た。

 

「貴方は……龍宮の使いね」

「ええ、そうですが。そういう貴方たちは何者なの?」

 

 敵意や害意を感じない、ゆったりおっとりとした喋り方だ。

 

「魔理沙だぜ! 霧雨魔理沙! 魔法使いだ!」

 

 あれは、間違いない!

 異変の事は覚えていなくても、この妖怪の事はしっかり覚えている。

 龍宮の使い! 帽子から伸びる触覚みたいなやつ! この特徴的なひらひらの布!

 

「そうですか、これはこれは、ご丁寧に。私は衣玖です、永江の。龍宮の使いです」

 

 永江衣玖。雲に棲むから滅多に会えない、幻想郷の妖怪だ! 私が知っている原作の登場人物だ!

 

「衣玖さん! 衣玖? 龍宮の使いっていう妖怪なのか? 初めて見た! その布はなんだ?」

「こら、そんなに詰め寄らないの。恥ずかしい子ねぇ」

 

 近くに飛んで行ってよくその姿を見ていると、紫が間に入って私を押し留めてくる。

 わぁ初めて見た! ようやく会えた! と嬉しくなって舞い上がってしまったが、初対面の相手に詰め寄り過ぎていた。反省してすこし下がる。

 

「ああ、地上の人間……巫女でない普通の人間は久しぶりですね。なんだか、人気者になったみたいで、こそばゆいわね」

「ごめんなさいね、こういう子なのよ」

「魔理沙ぁ、すぐ新しい子に興味を持って。私のことももっと構ってほしいなー」

 

 寂し気なルーミアに、慌ててその手を撫でて声を掛けた。

 

 *

 

「はあ。地震を起こした首謀者を懲らしめる、ですか」

「ええ。いるでしょう? この先に、そのバ……頭のかわいそうな天人が」

 

 雲を抜けた先でアリスとも合流し、雷避けをしてくれていた衣玖を紹介する。

 雲の中は結構うるさくて落ち着かず、改めてお話ができるから、と付いて来てもらったのだ。

 

 私以上に弁の立つアリスから説明してもらい、あっさり「総領娘様に御用があるんですね」と納得している。

 皆その相手を知っているようなので、地上の妖怪が侵略している訳じゃないのよ、と付け加えていると、なんだか弁解しているようにも聞こえた。

 

「そうですか。しかし神社が倒壊……。その程度の地震よりも、もっともっと大きな災いが幻想郷に降りかかろうとしています。神社を倒壊させた方を倒したところで、幻想郷の悲劇の未来は何も変わらないのです」

「ひ、悲劇の未来?」

 

 相変わらず話の内容を覚えていないので、身に覚えのない言葉に身構えつつ衣玖の言葉を待つ。

 衣玖はこちらの様子をちらりと見ながら全員に聞こえるように少し声を張り、その内容を話してくれた。

 

「幻想郷に、近いうちに壊滅的な地震が起こります」

 

 驚き、じっくりとその言葉を反芻して、よーく私が覚えている原作を思い返してみる。

 

 覚えている限り、そんな異変は起こっていない筈だ。多分。

 もし私が知らない、転生した後にも話が出ている場合は、それは知りえないけれど。だけど知っている限り、地下にあるという地底でも、そういう話は無かった筈。

 

「ど、どれくらいの地震?」

「60年に一度クラスの、大きなものです」

 

 単位が想像しづらいけど、結構な頻度で壊滅的な地震が起きているみたいだ。

 たしか幻想郷は結界で閉じられてから120年くらい経っている筈だから、2回目なのだろうか。

 人間にとっては人生1回分だから大きく感じるけど、妖怪たちにとってはどうなのだろう。

 

「本当は比那名居様に報告してから地上のみんなに知らせようと思ったのですが、まあこの際です。比那名居様も全員留守にしていましたし、お会いしたら伝えてもらえませんか?」

 

 原作に無い筈の出来事。多分、その地震は起こっていない筈。

 じゃあなんで、それが起ころうとしているんだろう。

 また『私が魔理沙じゃない』から、何か掛け違いが起こってしまったのだろうか。

 

 どこかで間違いが起こってしまったんだろうか。

 母さまと同じように、起こる必要のない事が起きようとしている。

 

 そう思うと、なんだか手足が冷えて汗が出てきた。

 くらくらと眩暈がして、呼吸がしづらくなって、息が浅くなる。

 元々上空なんだから空気が薄いのかもしれないけど、白玉楼では感じたことのない胸の苦しさだった。

 

「そう。それじゃあ地震の備えをしないとね」

「うちも家具とか、見直しておこうかしら」

 

 しかしそれを聞いた紫とアリスはあっさりとしたもので、特に大きな問題だと思っている様子はない。

 

「魔理沙、なんだか顔色悪いなー。大丈夫?」

 

 ルーミアが心配そうに声を掛けて来て、アリスも紫も怪訝そうに顔を覗き込んできた。

 

「え、だって、大きな災い……」

 

 私に止められるんだろうか。

 原作ではどうしていたんだろうか。

 すっかり忘れてしまった自分が恨めしく感じ、じわっと心を不安が覆っていく。

 

「ああ、そんなに気負わないで。あなたに地震までどうにかしてもらおうなんて、思っていないわ」

 

 紫が隙間からにゅっと手を出して、額にハンカチを押し当ててくる。

 されるがままに拭われながら紫を見ると、やっぱりいつも通り何を考えているかわからない、温度の無い瞳。

 

「自然の出来事に抗う必要はないもの。事前にわかっているなら手を打って備えるだけよ」

「異変と自然現象は同じものじゃないわ。それの解決なんて頼んでないんだから、あなたは気負わないで」

 

 アリスも紫も、慰めてくれているような気配を感じる。

 

 私の所為で、原作にはない地震が起こるのかもしれない。

 嫌な考え方に囚われてしまって、うまく言い返すことが出来ず曖昧に笑って返すしかできなかった。

 

 *

 

「その……なんだか、すっかり元気がなくなってしまいましたね。ショックを受け過ぎているというか。脆すぎません?」

 

 空気の読める龍宮の使い、永江衣玖はすっかり黙りこくってしまった人間を見て、その傍に浮いていた賢者を相手に、人間には読めない程度の空気の震えで声を掛けた。

 

「あなたのせいじゃない。これは、私がプレッシャーを与え過ぎたせいかも……」

「そうだよ、紫が悪いよ。霊夢の代わりだなんて言って、張り切らせてさぁ! 霊夢なら地震も止められるんじゃないか、とか考えてるよ! 絶対!」

 

 小柄な体でありながら絶大なプレッシャーを内に秘めているルーミアが、同じく人間に聞こえない程度の空気の振動で割り込むように声を出す。

 

 笑顔のままやり取りをする地上の妖怪たちを見て、衣玖は「なんだか背筋が寒くなるなぁ、普通の会話なのに怖いやり取りだなぁ」と首を傾げた。

 

「地震のことまで気負わせるつもりはないのに、どうしましょう。地震を止める手立てなんてないし、紫はなにか考えがあるの?」

 

 表情を変えず、もう一人の魔法使いまで会話に参加する。

 もちろん人間に聞こえている様子はないので、表面上はなにも変わらない。

 なんなら人間を相手には「高山病かしら?」なんて息が浅いのを確認しながら同時に音を出している。

 

「うーん、どうしましょう。それはそれとして、龍宮の使いは弾幕ごっこもできる?」

 

 ええ、まあ多少。と答えながら、衣玖は同行している人間を、少しだけ可哀そうに思った。




少しだけ雰囲気暗めな気配ですが、どうせここだけです。
人間なので一瞬ネガティブ思考になるときはありますが、
本編は暗い話になることはありません。(断言)

緋想天は予定通りだとあと3話くらいで終わるかも。多分……。

* * *

以前の妄想をシリーズにしました。
だぜ娘が優先なので、こちらのシリーズは週一程度の更新かも。
明日3話更新予定なので、よかったらそちらもぜひ。

「魔理沙の妹になりました、妖怪たちにモテモテ(食欲)です」
https://syosetu.org/novel/358242/
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