だぜ娘奮闘記!   作:元掃除道具

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その5 天界の桃

 地上には楽しい遊びがあるのね。

 

 天から地を望む雲の丘。

 日差しを遮る紅霧、明けない冬、永い夜、繚乱の花の異変の数々。

 大勢の妖怪が、人が、ひとつの目的のために団結している姿を見た。

 どちらの勢力も数を揃え、色とりどりの魔力、妖力が行き交い空を彩る。

 それが弾幕ごっこと呼ばれる遊びだというのは、地上に降りる龍宮の使いから聞いた。

 

 ちらりと手元で、地上に住む妖怪たちを真似て作ったスペルカードに目を落とす。

 

 天人たちのなかに、これに興味を持つ者はいない。

 天人は勝ちも負けにも興味がない。

 地上上がりの天子にとってはその手の中の憧れは、天上のどんな歌よりも、どんな舞よりも魅力的に思えた。

 

 毎日変わり映えの無い日常。刺激のない日々。

 天子は今、自分の世界が壊れても良いものだと、そう思っていた。

 

 *

 

 誰と一緒に戦うのか。

 さて困ったぞ、と腕を組んでうーん、と頭を悩ませる。

 

 ルーミアは本当はもっともっと戦いたい筈だ。そういう雰囲気があるし、本人もそう言っている。だけど真似っこして私のマスパを取ったり、連携と言いながら好き勝手動いてやりすぎってくらい攻撃する。

 アリスはスマートでとても強い。だけど容赦なく爆発させるから、戦う相手がかわいそうだ。

 紫はこっちのことをあまり考えてくれていないので、勝つという結果だけを何かしらの手段で用意する。

 

「ねーぇ、おねがいだから私と一緒に戦おうよー!」

 

 ルーミアは、なんでかとても大人になっていた。

 髪に結んでいるリボンは解けていないのに、短かった髪が長く、リボンはなぜか位置が変わらずに同じところで結ばれている。

 長い金の髪に真っ赤な瞳。肉食獣みたいに縦に裂けた瞳孔。

 白いブラウスはなく、黒一色のドレスみたいになっているワンピースだけ身に着けて、掴んでいた紫の肩をグイっと押しのけてこちらに顔を寄せてくる。

 

 自分の服装には頓着していないのか、ちらちらと肌が見えていてとても目に毒だ。

 ルーミアのくせに、大人っぽい姿でとっても破廉恥。

 

「う、うぅ……」

「ちょっと、怖がってるじゃない。っていうかあなた、大きくなったり小さくなったり、安定しないわねぇ」

 

 アリスが間に入って、少し距離をとってくれる。

 ついその背中に隠れてしまったが、これはいけない。全然魔理沙っぽくない。

 ぐっと息を詰め、お腹に力を入れながら前に出て、その少し怖い目を真っすぐ見つめ返す。

 

「る、ルーミア」

「うん、なぁに魔理沙。ごめんね、また小さくなろうか?」

 

 揶揄うような笑みを浮かべ、長い爪が生えた手で頬を触っている。

 

「だ、だから……ルーミアと一緒に戦うって言ってるんだぜ」

「うん?」

「えぇ?」

「あらぁ?」

 

 どうしてだろうか、本人も不思議そうな顔をする。

 

「え、いいの?」

「う、うん……。だって、戦いたいんだろ?」

 

 ずっと、ルーミアだけは一緒に戦いたいって言っているし。よっぽど鬱憤が溜まっているのだと思うのと、少しでもそれの解消になれば良いかなぁと思うのだ。

 皆に手伝ってもらって改めて思うのだけど、こんなに強いんだし、誰を選んでも勝てそうじゃないか。

 そうなると、あとはもう本人の希望というか。

 

「誰と一緒でも勝てそうだと思うんだけど。じゃあもう、戦いたがっている人で良いかなって。え? なんか、変なこと言っているか? な、なんでそんな顔するんだ?」

 

 *

 

 地上の妖怪たちとの戦いは心躍るものだった。

 当然、こちらが懲らしめられる側なので、手心を加えながらでも十分に楽しめた。

 

「おお、来たわね神社の巫女!」

「適当に満足してくれていたら良かったのに、面倒ねえ」

 

 期待通りやって来た紅白は、はじめて恐怖を覚える程に強く、高鳴る心臓に“生きている”という実感を得ることのできるものだった。

 

「けほっ! ど、どうなってるのよ、本当に人間?」

 

 冷酷に無常に、その巫女は反則的な強さでこちらを圧倒して見下ろしながら言うのだ。

 

「さて、調伏されるか天気の異変を止めるか。選びなさい」

「それも、大事なものを守るため?」

「下らないこと、言ってんじゃないわよ」

 

 その言葉に初めて、迷いや心の揺らぎを感じる。

 つまり言葉は建前。本心は、限りなく個人的な理由なんだろうと予想する。

 

「っはは! いいでしょう」

 

 そう、目的の半分は達したのだから。

 

「天気や気質を操って遊ぶのは止めてあげます!」

 

 世界が壊れるほどの衝撃は、きっとその力を持つ者の逆鱗に触れる必要がある。

 

 *

 

「あははっ! やっぱりそうだよね、思った通りだった!」

 

 ぐっと近寄ってくるので、のけ反って避けてしまうとそれすらも愉快だと顔を歪めながらルーミアが笑う。

 その肩を掴み、紫がにっこりと笑顔を浮かべながらすこし離す。

 

「……魔理沙が決めたことだもの、文句は言わないけど」

「え、おかしいわ。なんで2点に負けるの? 合理的じゃない……」

「紫たちは『一緒に戦いたい』って言ってないから! 私だけ! ずーっと素直に言っていたのは!」

 

 ルーミアが紫の手を払い除け、ふふんと腕を組みながら胸を張って見下ろすように勝ち誇る。

 そんなに戦うのが嬉しいのだろうか。戦いが苦手な私からすると、その自信のある様子は羨ましい。

 

「紫」

「ええ、ルーミアが選ばれるのはあれですけど。概ね問題ないでしょう」

 

 払い除けられた手を抑えながら笑っている紫が残念そうに言うけれど、怒っている様子はない。

 アリスは最初のうち不満げだったけど、やっぱり積極的に戦うことは嫌いだからか、ため息を零してからはそれ以上言うこともなかった。

 

「じゃあ、こっちはこっちで準備をしましょうか」

 

 *

 

 ――見つけたっ!

 

 一足で飛び込み、その傍に降り立つ。浮島を揺らしかねないので、空中で回転して勢いを殺すと人間から感嘆の声が上がる。

 大げさな奴だ。ちらりとその傍に居る小鬼、人形の魔法使い、龍宮の使いを確認して、見覚えは無いが相応に格の高そうな地上の妖怪たちも目に収める。

 

「貴方が私を満足させてくれる人間? どうにもこうにも頼りがないわ!」

 

 その中でもひときわ目立つ小さい人間に、緋想の剣を向けながら問いかけを投げる。

 

「あははっ! 頼りないってのは大正解だなぁ魔理沙!」

「う、うるさいなぁ。そのうちもっと強くなるって言ってるだろ!」

 

 小鬼がからかい、人間が言い返す。

 鬼は追いやられたと聞いたが、どうにも信じられない光景じゃないか。

 

 こいつ、この人間はあの巫女の傍にいつもいる人間だ。

 大した力も持たないくせ異変に首を突っ込み、周囲をかき乱すトリックスター。

 実際に戦っている姿は殆ど見たことがないけれど、雲の上から姿を見たことくらいはある。

 その姿を小さくしたり、2人に増えたりと豊富な術を持っている。しかしなんの役に立っているのかわからない。傍から見ていて、こいつが一番訳のわからないやつだ。

 

 警戒するに値する。ワクワクさせてくれる相手だ。

 先ほど感じた大きな魔力は、こいつだろうか。

 一瞬考えたけど即座にそれを否定し、他の妖怪に目をやる。

 1人は黒いドレスを纏った女、ひとりは中華風のドレスを纏った女。奇しくも全員が金色の髪色をしている。

 先ほど感じたのは、あの巫女にも劣らないもの。どいつだ。

 

「だ、誰だ!」

「私は天界に住む比那名居(ひななゐ)の人」

「私は霧雨魔理沙だぜ!」

 

 唐突な自己紹介に一瞬肩透かしを食らった気分。

 がくっと肩を落とすと、人間が精一杯胸を張ってこちらを見上げている。

 名乗られたからには、名乗り返さないわけにはいかない。

 

 後から付いて来た風が、びゅうっと後ろから吹き荒れる。バサバサと私の髪を揺らし、風を受けた霧雨魔理沙が小さく悲鳴を上げて両腕で顔を庇った。

 剣を地面に突き立て、柄頭に両手を置き堂々と胸を張って私も名乗りを返してやる。

 

「比那名居天子(てんし)! 思えば、名乗るのはあなたが初めてね!」

 

 ……? その視線に、違和感を感じる。

 

「……な、なによ貴方。私の事知ってるの?」

「へ? い、いやいや初対面だぜ!」

 

 そうよね、地上の人間が天上の私の事を知っている訳がないもの。

 だけどなぜだろうか。

 その不思議な視線は、私が今まで感じたことのない色、温度を帯びたものだった。

 

「なら、なんでそんな目で私を見るわけ?」

 

 風に煽られた後、顔を庇っていた腕の隙間からこちらを伺うのは好奇心と、好意の満ちた子供みたいな瞳。

 こいつ、私のこと倒しに来たんじゃないの?

 

「えぇ?」

 

 見ろ、ほんのり血色良く色づいた桜色の頬を抑えながら、口角が上がらないようにしているじゃないか。

 なんだこいつ、いったいどういうつもりなんだ?

 

「あら、総領娘様にも同じような態度なのですね」

 

 傍に居た龍宮の使いが片肘を持ち、片手で頬を抑えて困ったように呟きを零す。

 

「同じ?」

「ええ。せっかく私に春が来たのかと思いましたのに、気の多い方」

「魔理沙、こいつは神社を地震で壊した張本人だよ」

 

 霧雨魔理沙の後ろから、撓垂れ掛かる様に首に手を回し、悪辣な笑みを浮かべた黒いドレスの妖怪。

 妖怪らしく、悍ましい気配に不穏な殺気を込めた瞳がこちらを睨んでくる。

 

「こいつが魔理沙の大切なものを壊したんだ、そんな目を向けるのは変だよ。霊夢を危険にしたのもそうだし、君の怒りの矛先だよ」

 

 甘えたような声をあげ、隠す気のない嫉妬の視線がこちらに異常な怒りを向けてくる。

 

「そ、そうだな……! よし! やい、天子! 地震を起こしたのはお前だな?」

 

 その妖怪の声を受けながら、まるで気にした風もなくこの場に似つかわしくない童子のような声。

 

「なによ、やる気?」

「ああやってやるぜ。その前に、素直に謝る気はないのか?」

「あ、謝る?」

 

 発言に呆れているのは私だけなのだろうか。お供の妖怪たちを見ると、私を見る目は厳しい物ばかり。

 この人間、周囲との温度差が凄い。妖怪たちのその視線は別におかしくない。こいつだけおかしい。

 

「ふんっ! 謝ったら許してくれるとでも?」

「……え、謝ってくれるの?」

「い、いや謝るつもりはないわ!」

 

 今まで戦いに来た妖怪たちとは違い、こいつはそもそも戦いに来たのかも怪しいような雰囲気だ。

 おかしい、なんで苛立っていないのだろうか。

 こいつ天気の異変や神社の地震で、怒って私を倒しに来たのではないの?

 

「謝らないわよ!」

「そうだよな、そうだと思ったぜ!」

 

 すこし嬉しそうで、なんだか逆にこちらが苛々させられる。

 なに、その、そういうと思った! とでも言いたそうな顔。

 む、ムカつくわね。

 

「このまま私を放って置いたら、あなたの家も倒壊させてやるんだから!」

「あ。そうだ! あのさ、私が勝ったら霊夢に謝って、神社も建て直して欲しいんだけど、天子って建築とかそういうことできるの?」

「なに、もう勝った後の算段!? こ、こいつぅ! 私のことを舐めているのかしらっ!」

「い、いやそうじゃないんだけど。ごめん、確かに気が早かった!」

 

 む、ムカつくわね。

 

「ふふふ、貴方達は異変を見つけて解決していれば良いの。それが妖怪達にとっても嬉しい事なのだから」

 

 緋想の剣を向けながら笑いかけると、嬉しそうに頷いてくる。

 調子が狂うわ。

 

「少し良いかしら、天子だったわよね。あなたの目的はなんなの?」

 

 と、途中で止めるのは人形使い。

 

「目的?」

「ええ。天気を弄び巫女と弾幕ごっこをしたでしょう? それでもまだ喧嘩を売るような真似をして、ただ暴れたいだけなのかしら」

「目的、そうね。そう、私はただ暴れたいだけ!」

 

 いじわるに見えるようにくくくっと喉を鳴らすと、人間しか驚いてくれなかった。

 霧雨魔理沙が「えぇ。困ったな」と声をあげるが、それ以外は特に反応がない。

 

「そう、それならこちらも手段を選ぶ必要はない」

 

 一拍置いた後の呆れたような雰囲気で、中華風のドレスを纏った女が口元を扇子で隠しながらクスクス笑う。

 

「無法の暴れん坊。本当に考えなしに神社を、結界の要を破壊したというのかしら」

「ええ、そうよ」

 

 トゲトゲとした視線、露骨な敵意。

 この中では一番、こいつが私に対して苛立っている。

 

「良いじゃないそのくらい。だから何なの?」

「ふふふっ」

 

 神経を逆なでして、もっともっと怒ってもらう。

 剣を向けながら相手を煽ってやるが、見透かされているみたいに挑発に乗ってくる様子はない。

 

「はんっ、地上の妖怪は腰抜けね。戦い方も知らないの?」

「あなた、さっき自分で言ったじゃない。人間が異変を見つけて解決するわ」

 

「そうだよ、私が相手だ!」

「ああ。魔理沙に手を貸すけど、私の事は道具かなにかだと思ってね」

 

 まあ、良いか。

 先にこの人間、その後にこいつら。

 

 ゆっくりと緋想の剣を振るいながら、まずは最初に挑んできた人間を。

 まだまだ多い遊び相手、ようやく退屈を忘れられそうなのだから。

 

 きっとそのうちにあの巫女や、それに準じた大きな気配も来るだろう。

 その時にどれだけ怒りを向けられるだろうか、どれだけ私に関心を向けてくれるだろうか。

 

 ぐっと剣を握り、なるべく悪い顔をして人間に向き直る。

 目が合ったそいつは、また嬉しそうにニコニコと笑うのだ。

 

「……本当に、やりづらい相手だわ」

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