そのアニメの原作者、僕です。   作:ぷに凝

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そのイラストレーターの相談役

僕は友達が少ない。

 

というかいない。

 

“ウチのこと、好きなんじゃなかったの!?”。

 

「うーん……」

 

村崎にそう言われた。

 

それなのに友達がいない僕は、どうやら誰かのことを好きになるという感覚がわからないらしい。

 

『えっ、違うけど』

 

反射的に、そう答えてしまった。

 

直後に村崎が目を見開いて、顔を俯かせてから教室を飛び出して。それで自分がとんでもない失言をしてしまったことを悟った。

 

「はぁ……」

 

終わりだ。

 

これはもう言い逃れができない。間違いなく僕が村崎を泣かせ、悲しませ、貶めた。

そう見えるとかいう話じゃなく、それが事実だ。

 

七家杯人というカースト最底辺のゴミクズが、神から差し伸べられた手を降り払った。それだけが事実だ。

 

「……」

 

村崎のことが好きかどうか……。

 

嫌いではない。むしろ好きだろう。だが“好き”にも二種類ある。

 

多分、僕が村崎に向ける感情は後者だ。

 

僕が村崎を魅力的に思わないという話じゃない。僕なんかがわざわざ言う必要もなく、村崎彩芽は魅力的な女性である。

特に僕が魅了されるのは彼女の内面だ。好きなものを、あれだけ素直に表現できるひたむきさは僕には喪われて久しい。

 

物書きとして活動するようになってから、どんな作品を見ても、職業病なのか作者目線で見てしまう。自分が抱いた感情をそのまま飲み込むことが難しい。

 

“好き”から理屈を抜くことができない。

 

何故好きなのか。どのように感情に働きかけるから好きなのか。感動できるのか。その技法を真似るにはどうするべきなのか。

 

僕が何かを“好き”になるには、どうしても理由が必要だ。

 

そんなんだから対人関係においても相手を無条件に好きになることが難しく、友達はできない。向こうから関わってこられることもない。

だけど僕のそういう一面のおかげで、曲がりなりにも作家として活動できている面があるのは確かだ。

 

僕は、自分でもわかるくらい面倒臭い人間だ。

 

村崎が誰にでも分け与える、ポケットティッシュのような親愛にすら色々と理由を乗っけずにはいられない。

 

『君が好きだ』の一言がどうしても言葉にできない。

 

それが例え親愛という意味であっても。

 

「青いなー……」

 

なので、こうして現実逃避に屋上へやって来ましたとさ。

 

「まさか僕が、こんなラブコメのテンプレみたいなことで悩むことになるとは」

 

寝そべって空を見上げる僕の前にあるのは青空ではなく、スマホの画面だ。

日記とは違うがその日思ったこと、感じたことをまとめるのだ。文面を読み返せば当時の感情が滲み出る。

 

いわば、情緒のストックだ。

 

これがあるとキャラクターの心理に説得力が増す。

 

今ストックする情緒は、失恋の感情だ。

 

……いや、別に誰を好きになったわけでも振られたわけでもないんだが。

 

もう村崎と話すことはないんだろうな、と感じた時の何とも言えないこの虚脱感。

増幅すれば失恋の感情に成るんじゃないかと思い立っただけである。

 

「……あれ?」

 

不意に、ドアの開く音がした。

 

「また会ったね」

 

視線を向けると、そこにいたのは黒髪のパンク少女。

 

「……黒瀬さん」

 

……村崎や天華寺じゃなくて良かった。

 

今の僕には合わせる顔がない。

 

「覚えてたんだ、私の名前」

「え? そりゃ、まぁ……」

「私なんか、クラスメイトどころか友達の名前すら覚えられないのに」

 

……それは覚えようとしていないだけでは。

 

「君の名前も忘れちゃった。なんだっけ」

「……七家です。七家俳人」

「そうそう、ナナイエ。珍しい苗字なのになんで忘れちゃうんだろ」

「な、なんででしょうね……」

 

……仮にも名前を忘れているのに悪びれる様子もない。

 

天華寺とはまた違ったタイプで、彼女もまたマイペースというか……変わっている性格らしい。

名前を間違えるなんてことが絶対ないよう最初にクラス名簿を暗記するような僕とは大違いだ。

 

責めているわけじゃなく、そんな強靭なメンタルを持てることが羨ましいのだ。

 

……なんか嫌味っぽくなってないか? 気のせいか。

 

「今から集中するから、話しかけないでね」

 

そう言うや否や、黒瀬はアイパッドを取り出した。

 

どうやら今から“副業”の方に取り掛かるらしい。

言われた通り、僕は一言も発さず静かにしていよう。

 

「七家、聞きたいことあんだけど」

 

だが相互不可侵条約は破られた。

 

この条約が作った数秒の平和は、尊いものだった。

 

「な、なんですか?」

「どっちが良いと思うか、教えて欲しい。あと敬語いらん」

 

そうして黒瀬が僕に見せたパッドの画面には、なるほど二枚のラフ段階のイラストが。

しかし、この時点で完成した際のイラストが想像できるほどにその二枚の絵は描き込まれている。

 

内容は大体同じだ。女の子……というか“天地”のマキアがキックをしているポーズで、左の方がよりグッと寄った感じでキャラに近い。右はもう少し引いた様子で、わずかに上からのアングル。動きはよく見えるが、少々迫力に欠ける印象。

 

間違いなく“すのこ”氏のイラストである。

 

「左かな」

「あっ、やっぱりか……」

 

僕は左のイラストを指してそう言った。

 

「んー……でもさ、ちょっと強調しすぎっていうか……これ見て不快になる人もいるのかな、って」

「不快になる人……」

「いや、だからホラ、アレだよ……最近流行ってるヤツ……」

 

……表現規制か。

 

「黒瀬さんは、イラストレーターなんだよね」

「ん? あぁ、うん……前に言ったじゃん」

「なら、黒瀬さんのファンは今までの黒瀬さんの絵が好きだと思う」

「……」

 

そう、見せるべき相手は彼女と、そして僕の作品のファンの人たちだ。

勿論、多くの人に作品を見てもらうことは大事なことではあるけれど。

 

今見てくれている人たちを楽しませることは、前提としてあるべきだと僕は考える。

 

「そっ、か」

 

……この前、すのこ氏から送られてきた9巻の挿絵。

 

あの挿絵が今までとテイストが違ったのは、多分数日前に海外から寄せられた一部の意見を受けてのことなんだと思う。

 

僕は具体的に、どんな意見が寄せられたのかはまだ把握していない。

 

だけど、読者の声を見ていても昔ほど色んな表現に対して寛容ではなくなってきたと感じる。

例えフィクションであっても、世間一般の“常識”と大きくかけ離れた創作は受け入れられない。

 

色んな意見が寄せられるのは歓迎すべきことで、クリエイターにはそれを受け入れる度量が必要だとも思う。

 

でも……。

 

「このままで、いいんだ」

 

“変わらないための努力”も、きっと同じくらい必要だ。

 

世界は変わり続けている。僕たちは新しくなっていく世界の価値観に、都度都度アップデートしていく必要に迫られている。

そんな世界の流れを観察して、適応し続けなくては作家として成長することは出来ないと感じる。

 

“昔の方が面白かった”なんて言われることは日常茶飯事だけど。

 

“今”も同じくらい面白い。と、そう言ってもらえるようにしなければ。

 

「変わる必要はないと思うよ」

 

きっとそれが答えなんだ。

 

「……ねぇ」

「うん?」

「ちょっとアタシのスカートの中撮ってくんない」

「は?」

 

そう言って、黒瀬に渡されるスマホ。

 

今、結構深い話をしてたはずなんだけど……いきなり足が付くくらい浅くなったな。

 

「こう、ローアングルで。いつもは自分で撮ってるけど、やっぱ一人だと限界あるし。定点カメラだとどういう風に撮れたかわかんないんだよね」

「無理です」

「なんで」

「恥ずかしいからです」

「アタシの方が恥ずかしいが」

 

じゃあ撮るのやめない??

 

「今のままでいいんでしょ? じゃあ資料作りに協力してよ。責任とって」

 

なんの責任やねん。

 

「あっ、でもパンツ見たら殺すから」

 

もういっそ今殺してくれ。

 

……数十分後、結局撮影を拒否した僕の前では自分のスカートにスマホを入れて激写する変質者が目撃されたのだとか。

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