そのアニメの原作者、僕です。   作:ぷに凝

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その声優と恋愛会議

僕は断じて言っておきたいのだが。

 

「あー、俳人さん! こっちこっちー」

 

彼女と必要以上の関係を築くつもりなどは、毛頭なかったのだ。

 

「……何か御用でしょうか、悠張さん」

 

僕がファミレスに呼び出されるなんてこと、人生に一度あるかないかのレベルの珍事なのだが。

 

ましてやそれが声優相手ともなれば尚更だ。

 

悠張さんと出会ってから3日後。僕はなぜか彼女に呼び出されることになった。

 

「……お仕事とかは、大丈夫なんですか?」

「平気じゃないですけど。七家さんのために時間取ったって感じかなー」

 

軽い調子で言うが、絶対にとてつもない苦労を現場にかけたはずだ。

彼女ほどの人気声優。きっとスケジュールもギチギチに決まっているはず。

 

貴重な仕事の時間の、その僅かな隙間を僕とファミレスで話すために使ってしまっていいのだろうか。

 

彼女は“笹倉絢音”という超有名声優なのに。

 

「実は私、七家さんのこと以前から知ってたんですよ」

 

コーヒーをカラカラとかき混ぜながら、なんでもないように彼女は言った。

 

「……え?」

 

なんでもないように一瞬聞き流しそうになったが、よく考えなくてもとんでもない爆弾発言だ。

なにせ、僕は本来全く目立たない場末のしいたけのような存在感しかないただの高校生なのだから。

 

それを笹倉絢音……もとい悠張女論ほどの女子生徒が気にかけるなんて、相当おかしな話だ。

 

……あっ。でも、もしかして。

 

「村崎の件で、ってことですか……?」

「そうそう」

「おふ……」

 

腹から漏れ出るようなため息を吐いた。

 

そうだ、そうだ。僕はあれから教室の中で、村崎を泣かせた男として悪い意味で有名になってしまったのだ。

その上、村崎はあれから学校に来ていないし、彼女の盟友たる天華寺には白い目を向けられている。

 

知っていてもおかしくない……いや、知っていて当然だ。

 

僕の悪名はいまや学校中に轟いているのだから。

 

そしてその全てが自業自得なのだから反論の余地もない。四面楚歌とはこのことか。

 

「だから正直、かなちゃんが紹介してくれた時はラッキー!って感じだったかな〜」

「さいですか……」

「憧れの人に会えたわけだし」

「はい、憧れの……」

 

……?」

 

「あ、憧れの、人……?」

「はい。まさか東風先生に直接アポ取れるなんて」

「!!?!?!!?!?!?」

 

僕は思い切り顔をのけぞらせて、仕切りに後頭部をぶつけた。

 

「なっ、なんっ……なん……!?」

「え? ……あぁ、もしかして彩芽ちゃんから聞いてませんでした? 私のこと」

 

突然売れない芸能人みたいなリアクションをかまして大怪我を負った僕を、悠張さんが心配そうに見つめてくる。

 

「ご存知ないです……」

 

またしても何も知らない僕は首を横に振るだけだ。

 

「あちゃ〜……彩芽ちゃん、そういうところありますよね〜」

「ど、どうなんですかね……」

 

僕は“そういうとこ、あるある〜!”と同意できるほど村崎のことをよく知らない。

 

あるのかな。そういうところ。

 

「実は私、数日前に彩芽ちゃんから相談されてたんです。“失恋しちゃった”って」

「……失恋」

 

あの村崎が、失恋か。

 

あんまりイメージ湧かないが……。

 

「今、私の目の前にいる人が相手らしいんですけどね」

「へっ?」

 

僕は思わず、IQ5みたいな気の抜けた返事を返してしまった。

 

そして後ろを振り向く。

 

「……村崎って、そっちもいけたんですね」

 

僕が頭をぶつけ、若干凹んだ仕切りの向こう側にはイケイケの女子高生が座っていた。

 

「うわ。こりゃ難敵だぁ……彩芽ちゃんが苦戦するわけだね」

 

そんな僕の様子を見て、悠張さんは大きくため息を吐いた。

 

「まぁでも、東風先生ってそういうところがいいですよね。卑屈が一周回って面白い、みたいな所? 私は結構好きですよ?」

「き、恐縮です……」

「でも普通に彩芽ちゃんが可哀想なので言うんですけど」

 

コト、と悠張さんがグラスを置いた。

 

「好きな人がいるなら、ちゃんとあの子を振ってあげてほしいんです」

「……」

 

……誤魔化すのはやめよう。

 

どうやら彼女から逃げるのは、難しいらしいから。

 

 

手強い。

 

悠張女論は、目の前に座る、いかにも気が弱そうで、おどおどし&いて、まるで小動物のような男子を見据えた。

だけど知っている。彼は決して、意志が弱い人ではないということを。

 

まだ声優としてブレイク前の時期、私は毎日のように苦しい思いをしていた。

 

“声に個性がない” “上手いけど、引き込まれるものがない” “自分の色を出して欲しい”。

 

(そんなこと、言われたって)

 

自分の色? そんなものあるわけない。

 

声がよく通ってる、って。褒められたことがある。その経験だけで私は声優界に飛び込んだんだから。

 

それ以外に自慢できるものなんて何一つなかった。

 

私に色があるとすれば、それはきっと無色透明だ。誰にも気づかれず、そこにいることすら知られない。空っぽな私だった。

 

そんな風に日々を過ごして、もう声優も辞めたいな。なんて思ってた時。

 

(……ん)

 

偶然、隣に立っている男子生徒のスマホの画面が見えた。

 

別に見るつもりはなかったし、そこに写されている画面が何の変哲もないものだったら単に見過ごしていただろう。

 

「……!」

 

だけど彼が見ていたのは、かなちゃんの描いた絵だった。

 

かなちゃんの描いたイラストを、食い入るように、とても真剣な眼差しで見ていた。

 

(……いいなぁ)

 

こんな風に、自分の生み出したものを熱心に好きでいてくれるファンがいる。それがどんなに幸せなことか。

 

私は自己嫌悪と、ちょっとの嫉妬心を持ったままその日の昼休みにかなちゃんと話した。

 

「? そのイラスト、まだ公開してないやつだけど」

「え……?」

 

彼は、かなちゃんがイラストを担当している作品の作家さんだった。

 

その場はとりあえずやり過ごし、もう一度彼に会いに行く。

 

教室の中は、みんな誰かとお喋りする楽しい空間。休み時間ともなれば、皆やりたいことをやっている。

 

その中で……彼はとても厳しい表情をしていた。

 

何かに追われるように、何かに急かされるように、彼は一人でスマートフォンの画面に向き合っていた。

 

私は気づかれないように彼の後ろに近寄った。

 

そうしたら、肩越しに見えた彼の手元のノートには、端から端までビッシリと。

几帳面に、よくまとめられたノートがあり、そこには作品のアイディアが詰まっていた。

 

その時、私ははっとした。

 

“頑張る”って、きっとこういうことなんだ。

 

私は今まで、頑張ってるようで頑張ってなかったんだ。

 

もっと、もっと……!

 

狂ったように頑張らなきゃ。

 

 

「……そのあと、“天地”のオーディションに合格できたときは、すっごく嬉しかったんです。あぁ、報われたな……って、思ったんです」

 

悠張さんは、本当に嬉しそうな表情でそう言っていた。

 

そして以上の話を聞かされた僕の反応はこうだ。

 

(怖いんですけど!!!)

 

何? 知らぬ間に身バレしてたってマジ?? そんなことある??

 

普通、作家の身バレとかって自分から言わない限りしないもんだと思うんだけど……。

それこそ声優みたいな、顔を出して仕事することもある方がよっぽど身バレしやすいはずなのに!!

 

まぁ、悠張さんは学校では仕事の時とメイク変えてるからぱっと見別人にしか見えないが……。

 

違う、そうじゃない。

 

ダメだな、衝撃の事実が並びすぎて頭おかしなってる。

 

クールダウンさせて欲しいんですけど……。

 

「だから、彩芽ちゃんからあなたの話を聞いた時はびっくりしたんです。まぁあの子、先生のすごいファンでしたから。いつかはたどり着くと思ってたんですけど」

 

嘘だろ……。

 

「それで、話は戻るんですけど」

「え……」

「彩芽ちゃんのこと、どう思ってるんです?」

 

……。

 

そういえばそういう話だった。

 

衝撃がでかすぎてちょっと忘れてたよ……。

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