そのアニメの原作者、僕です。   作:ぷに凝

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その人生観のすり合わせ

「……村崎のことは」

 

話し始めると同時に、僕の脳裏に思い浮かぶ彼女との時間。

 

「嫌いじゃないんだ。本人にも言ったけど」

「でも、好きじゃない?」

「いや、好きだけど」

「なんやねん」

 

嘘偽りない本心を告げたら女論さんにすごい蔑んだ目を向けられた。とても辛い。

 

「好きなら付き合えばいいじゃん」

「……いや」

 

僕は深刻な面持ちになって話し出す。

 

「僕じゃ、彼女を幸せにすることはきっとできない。僕と付き合ったとしても村崎はきっと不幸になるだけなんだよ。何故なら僕は過去、幼少期に出会った少女との思い出が今も忘れられ」

「うるさい」

「はい」

 

すん、と表情が抜けたような顔の女論さんに言われ、僕も真顔になる。

 

「あのですね、七家君」

「はい」

「幸せになるかどうかは、彩芽ちゃんが決めることなの」

「……はい」

「あなたみたいなオタクが思い上がらない方がいいよ」

 

……。

 

切れ味すごすぎて泣いちゃった。

 

「……あの」

「なに?」

 

明らかに不機嫌になった女論さんに、僕はおずおずと手を挙げる。

 

「さっきの話聞いた感じだと、一応僕って……その、あなたの憧れの存在、みたいな感じじゃ」

「は? 違うけど」

「あっ……スゥー……そっすか……」

 

やばい。死にたくなってきた。

 

「いや、まぁ正直? そういう風に思ったこともあったけど。今の話聞いて“ないわー”ってなった。だから今は違います」

「うぅ……」

 

相当な辛口評価だ。心がポッキリ折れてしまいそう。

 

「別に、単に彩芽ちゃんが告ってフラれたってだけならこんなことわざわざ話す必要もないですし。七家さんを責める気はなかったんです」

「ご注文の品、以上でよろしいでしょうか?」

「あ、大丈夫でーす」

 

女論さんが運ばれてきた山盛りポテトを貪る。

 

僕が頼んだんだけどな。

 

「そもそも、こんな風に直接物言いするつもりもありませんでしたし。なんとなく探りを入れる程度で済ませようと思ってたんですよ。けど……今の話聞く限り、七家さんも彩芽ちゃんのこと好きなんですよね?」

「……んー、まぁ……」

「“まぁ”じゃねぇんだバカタレ」

「はい」

 

なんか、言葉が強い。

 

どう足掻いても勝てなさそうだ。

 

「一番ムカつくのは、気持ちを受け入れない理由を相手に押し付けてるところなんですよ。自分が好きになれないから付き合えない。答えなんてそれでいいのに、ハッキリ断るのを怖がってるせいで余計に相手を傷つけてるんですよ、それって」

「……」

 

ぐぅの音も出ないとはこのことか。

 

僕がいかに村崎を傷つけていたのか、それが実感として染み込むように理解できる。

 

「……やっぱり僕は、こういうことに向いてないな」

「え?」

「人と関わることが向いてないんですよ」

 

そして、だからこそわかる。

あの時の判断は間違っていなかったと。

 

「悠張さん、僕のメモを見たんですよね。あれは決して努力なんかじゃないんですよ。ただやりたいことをやっただけなんです」

 

僕はポテトに手を伸ばそうとして、止めた。

 

「僕は自分のやりたいこと以外には興味がない、つまらない人間なんです。多分、村崎のこともそうなんです」

 

僕は諦めたように笑った。

 

「子供の頃に……家族がいなくなって、僕は自分のためだけに生きるようになったんです。誰かと親しくしてもいつかは自分の周りからいなくなる。それなら最初から、心を開かなければいい」

 

あぁ、口に出して初めて気づいた。

 

これは間違いなく僕の本心だ。

 

「作家になったのもそのためですよ。自分の中の世界に閉じこもって、周りの世界を拒絶し続けていれば自分の心だけは守れるんです。僕が作家になったのは完全に自分のためです」

 

なんというクズなんだろうか、僕は。

 

だけど自分の本性が知れた。それはとても喜ばしいことだと思う。

 

「これでわかったでしょう。僕が彼女に相応しくない理由が」

 

納得した。

 

僕は本当に、どこまでも自分勝手な人間だったのだ。

 

その結論が得られただけで、充分な価値はあったのだと──。

 

「いや、それ普通のことですよ」

「へっ」

 

女論さんがあっけらかんとして言った。

 

「誰だって自分のために生きてるに決まってるじゃないですか。誰かに親切にしたって、その親切が返ってくるわけでもないんですし」

「えっ、えっ」

「バカらしいですよ。誰かを助けるなんて」

 

……すごいな。

 

ここまで開き直られると、逆に何も言えなくなるものなんだ。

 

「だから私、作家なんてやる人なんて余程の物好きだと思ってたんです」

「……も、物好き?」

 

まぁ、自分以外には同じ職種の人間に会ったことないが……。

 

「だってそうじゃないですか。お金になるわけでもない物のために労力を割くなんて正気じゃないです」

「そ、そうかな」

「コスパ悪いですよ」

 

Z世代だ……。

 

おじさん、もう最近の若い人のことわからないよ……。

 

「で、でも悠張さんだって声優になったのはやりたいからやったんじゃ……」

「違いますよ? お金のためです」

「えっ」

「あとチヤホヤされたいからです」

 

なんだこいつ。

 

もしかしてめちゃくちゃおもしれー女なのか??

 

「まぁ私、聞いての通り声良いので。適当にやれば簡単に稼げると思ってたんですよ」

「……舐め腐ってるなぁ」

「舐め腐ってましたよ」

 

否定もしないもんな。

 

「けど、いざオーディションに出てみて、怖くなったんです」

「……怖くなった?」

「はい。皆、私が考えてるよりずっと本気だったから」

 

悠張さんは山盛りポテトを見つめた。

 

「私以上の才能を持つ子なんていくらでもいて。そういう人たちがみんな私以上に努力して立ってるんです。最初の選考はボコボコでしたよ」

「……想像できないなぁ」

 

笹倉絢音。

 

テレビで“天才”と持て囃された彼女にもそんな過去が。

 

「……いや、どこでもそうか」

 

初めて作品を投稿して、何の間違いかそれがランキング1位を取ってしまった。

 

セオリーも経験も何もない、ただ僕の剥き出しの願望と感情だけが成立させる世界。それは誰かにとって今までにない傑作だったと同時に誰かにとっての駄作だった。

 

ボロボロになりながら、なんとか書き続けた最初の作品。

 

あの体験がなければ今の僕はない。

 

「誰もが思ったより本気だったって話はすごくわかるよ。実際に体験してみないとわからない物だよね」

「はい、ホントに」

 

僕と女論さんは互いに顔を見合わせ、ため息を吐いた。

 

……なんかいきなり親近感が湧いたなぁ。

 

「同じことだと思うんです。彩芽ちゃんのことも」

「……村崎も?」

「はい。重要なのは、まずやってみることだと思います」

 

……やってみること、か。

 

「軽率にくっつけば良いんですよ。それで合わなければ……また次の機会を待てばいいんです。そうやって経験を積んでいくしかないんじゃないですかね」

 

モラルの欠片もない考え方だ。

 

だけど不思議とすんなり受け入れられる考え方だった。

 

「軽率に行動すればいい、か」

 

僕は、色々と深く考えすぎたのかも知れない。

 

判断を間違えば誰かが永遠にいなくなる気がした。取り返しのつかない失敗をしてしまう気がした。

 

だから間違えないように必死だったんだ。

 

「……」

 

誰もが自分のために生きている。自分の人生の責任を取れるのは自分だけ。

 

それなら……。

 

「もっと、好き勝手に振る舞っていいのかもなぁ」

「えぇ、いいと思いますよ」

 

女論さん……女論は、当たり前のようにそう言った。

だが少なくとも僕にとってそれは今までにない考え方だったのは事実だ。

 

「ありがとう、悠張さん」

 

だから僕は彼女にお礼を言った。

今までにない新しい地平を見せてくれた彼女への礼を迷いなく口にした。

 

「どういたしまして。あっ、じゃあお返しにこのポテトのお会計頼めます?」

「……」

 

それはそれとして、彼女は自由に生きすぎではないかと思わなくもない。

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