そのアニメの原作者、僕です。   作:ぷに凝

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その放課後の真実譚

放課後。

 

「さて、どうすべきか……」

 

僕はお決まりの展開とでも言うべきか、屋上に登るためのドアの前で屯していた。

きっとこの先に天華寺はいるのだろうが、このドアを開けて先に進むのはとても怖い。

 

天華寺はまずいタイプの勘違いをしていたようだったから。

 

僕と村崎は全く関係を修正できていないし、現状関係修正の手がかりすら掴めていない。そんな僕が天華寺の前に現れたらどうなる?

 

『なんだ仲直りしてなかったんだ。じゃあ死んで』

 

と、包丁を腹に突き立てられて終了。

 

あの頭脳が混沌に支配されている天華寺がそういうことをやり出さない保証なんてどこにもない。

かと言ってこの場をドタキャンするという選択肢を取るわけにもいかず。

 

きっと今までの僕だったら、このドアを潜るのに丸々十分以上はかけていただろう。

 

だけど、今の僕には枷はない。

 

村崎と二度と会うことはないとしても、天華寺を怒らせたとしても、腹に刃物が突き立てられたとしても。

 

その時はその時だ。

 

「──」

 

僕はドアを開けた。

 

差し込んだ太陽光がとても眩しくて、目を細める。

 

「……あ、来た」

 

光に目が慣れると、そこには一人分の影が伸びて……。

 

「え?」

 

いや、一人じゃない。

 

「あっ、来たじゃん」

「遅いよ〜!」

 

二人、三人……?

 

「あの、天華寺」

「なに?」

「これは、何」

 

屋上に上がって見えた光景に対して抱いた、僕の感想はそんな感じだった。

 

そこにいたのは三人の女子。

 

天華寺美穂(てんげえじみほ) 黒瀬奏石(くろせかないし) 遊張女論(ゆうはりめろん)の3名。

 

皆、一目見て分かるほどのクラスカースト最上位勢。それが三人も揃うととんでもない迫力だ。あの周りだけ景色が歪んで見えるレベル。オーラとはやはり目に見えるものらしい。

 

この三人が街中を歩けば、1分ごとに声をかけられること請け合いだ。スカウトマンに気づかれすらせず、仮に肩でもぶつかろうものならすごい目で睨まれることになる僕のような人間が、本来一生関わることない人たち。

 

そして何の因果か、僕が執筆という活動を行っていく中で接点が出来た三人でもある。

 

「どうしたの、皆」

 

僕は三人を前に、阿呆のような質問をすることしかできなかった。

 

「……」

「はぁ〜……」

「うーん?」

 

そして返ってくる三者三様の反応。

 

“これだからお前はモテないんだ”とでも言いたげな。

 

いつもなら、三人のそんな反応に対して僕は怒るでも落ち込むでもなくいつものように愛想笑いをして、「事実だから……」などと宣ったことだろう。

 

だが。

 

「悪いけど、村崎以外にモテても意味ないし」

「「「!?」」」

 

今日は不思議と、そんな言葉が口から出た。

 

そして自分の言った言葉に、自分自身で驚いた。

 

僕は自分で思っていたより、村崎彩芽のことが好きだったらしい。

 

「マ、マジか。なんかこれはちょっと普通にカッコいいっていうか……えっ、一日で変わりすぎじゃない!?」

「やばっ、顔熱くなって来た」

「……七家」

 

どよどよとする三人の中で、天華寺が前に出てくる。

 

「私が彩芽と七家が付き合ってるって誤解してれば、七家は焦ってここに来ると思ってた」

 

うん、まぁそれは事実だが。

 

「けど……もう心配いらないね」

 

天華寺はそう言って。

 

初めて、にこやかに笑ったのだった。

 

……思うに天華寺は、会話の印象ほど常識はずれな人間ではないのだと思う。

むしろ高い知性と、高い能力。それを持っていることを隠して一種の変質さを演じることによって身を守っていた。

 

村崎や天華寺を狙う不貞の輩はいくらでもいただろうから。

 

僕を家に引き篭もってしまった村崎の元に向かわせたのは、僕にその種の下心がないと判断されたか、単に舐められていたか……恐らく後者。

 

だがそういう信頼を、僕はものの見事に裏切ってしまったのだった。

 

“ごめんなさい”と謝りたい。

 

だけどこういう場合、きっと別の言葉をかけた方がいいのだろう。

 

「ありがとう、天華寺」

「ん、どういたしまして」

 

突き立てられたのは刃物ではなかった。

 

ただの激励の言葉だ。

 

 

「いや〜……見違えたねぇ」

 

まだウジウジしてるようだったら思い切りぶっ叩いてやろうとこの場に来ていた悠張女論は、全く予想とは異なる展開となったことに目を瞬かせていた。

 

「まさか七家が東風先生だったなんて……全然気づかなかった」

「かなかなは理想高いし。先生は高身長イケメンだからって言って聞かなかったよね」

「言ったっけそんなこと」

「言ったよー。幻滅した?」

 

黒瀬奏石は、彼の消えていったドアを見つめた。

 

「ちょっと残念ではあるかな」

「うーん。じゃやっぱり……」

「違うよ。あの熱意が私に向けられなかったこと」

「……えっ゛」

 

女論がギョッとした目で親友を見た。

 

「私も。せっかく時代劇仲間が増えたと思ったのに」

「えっ、嘘……七家、もしかしてモテ期きてた?」

「そうかもね」

 

態度や様子、雰囲気などはふとしたことで変わる。

 

七家杯人は少なくとも、何か一つのことに打ち込むひたむきな姿勢を持っていた男ではあった。それが人の心を救ったり、動かしたりすることもある。

 

「……なーんだ。結局、皆“そう”だったんだ」

 

結論が出てみれば簡単なことだった。

 

この“ゲーム”は、どうやら村崎彩芽の一人勝ちだった。それだけのことだ。

 

この場にいる三人の誰よりも、村崎彩芽は七家杯人のことを見ていた。外見でもステータスでもなく、彼の内面を。

ずっと内面だけを見続けて……それを好きで居続けた。

 

「そんなことされたら、敵わない」

 

その愚直なまでのひたむきさは、どこか杯人と似ている。

 

二人は全く正反対のようでいて似た者同士でもあった。

 

そういう当たり前の結論に達しただけのことだ。

 

「ねぇ、ちなみにさ。二人はいつだった?」

「私はさっき」

「あぁー……確かにアレはシビれたよねぇ。同時に失恋の瞬間でもあるってのが切ないよね」

「うん。でもいい。彩芽が油断してたら奪えばいいから」

「やっぱり美穂ってちょっと頭おかしいよね」

「私は会う前だけど、加筆・修正で私の描きたい構図を描きやすい展開にしてくれた時かな。指示も的確でわかりやすかったし」

「うぅーん、あれで結構仕事もできるタイプか……ギャップだな……」

「そっちはどうなの」

「私? 私はぁ〜……秘密かなぁ」

「ずるい」

「まぁ、なんていうかさ……“可愛い”って思っちゃったら終わりだよね」

「「わかる」」

「だから正直、さっきもずっとかわいいかわいいってなっちゃっててさ……」

「女論が一番キマってるじゃん」

「当たり前でしょ。こちとらあいつに人生左右されてんだからな」

「重みが違ぇ……」

「良かったの? 彩芽に持ってかれちゃって」

「は? 全然良くないけど。大切に育ててたしめじ誘拐された気分だけど」

「哀れ」

「けど彩芽はマジでいい子だしなぁって感情もあって……クッソ複雑だわ」

「逃した魚は大きい」

「ホントにね。でもやっぱ……収まるところに収まった感じはある」

「確かに」

 

「でも、これで彩芽のこと泣かせたら流石に殺すけどね?」

 

「それは当然」

「うんうん」

「ホント、男なんてクズばっかなんだからさ……せめて私の憧れた人くらい、例外であって欲しいよ」

「大丈夫。七家は……杯人は大丈夫だよ」

「……そうだったらいいね」

 

三人の生徒から伸びる黒い影は、長く長く地面に跡を残す。

 

才能と運に恵まれ、努力をしても手に入れられないものがある。

 

実直さと誠実さ。それだけが必要な何よりも手に入れ難くかけがえのないもの……それは。

 

一生を添い遂げることができる、唯一無二の相手の心なのかもしれない。

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