そのアニメの原作者、僕です。   作:ぷに凝

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そのカプ厨の想定外

「なるほど……わかりました。はい、はい……大丈夫です。ありがとうございます」

 

通話を終了して、僕は肩の力を抜いた。

例のデマ事件の件、間宮さんに事の顛末を聞かせてもらった。

 

結論から言うと、デマの出所は元『ノーススターノベルズ』社員だった。

 

IPアドレス、書き込み時間などから遡って特定に至ったらしい。

 

弁護士も交え対応を話し合った結果、犯人に対しては厳重注意で済ませたとのことだ。

 

会社としても、この一件を大事にするのは避けたい。犯人を訴えて裁判となれば、現在進行中の“天地”に関する諸々の企画・イベント・グッズ展開の妨げとなる恐れがある。アニメが好調の今、そうしたデメリットは背負いたくないんだろう。

 

なので僕は特に不満など持っていなかったんだが、間宮さんにはしきりに謝り倒されてしまって僕の方が驚いてしまった。

 

『先生方を守ることも我々の仕事です。にも関わらず、今回のような事態を引き起こしてしまったこと……誠に申し訳ありませんでした』

 

……こんな事を言ってしまってはなんだが。

 

僕視点では鬼同然の恐ろしい人に頭を下げられても、むしろ怖いという感情しか抱けないんだよなぁ……。

 

“この程度で仕事に支障が出てもらっては困る”くらい言われるもんだと思ってた。まぁ実際執筆活動に大した影響は出ていないんだけど。

 

大人の世界は僕が考えている以上に複雑で、繊細な世界。

 

その世界の中で生きている間宮さんもまた、立派な大人の一人なんだと……高校生ながら、僕は強く実感したのだった。

 

しかしながら、不明な点もあり。

 

犯人がなぜデマを拡散したのか……その動機だ。

 

普通に考えれば、元社員ということなのでクビにされた会社に対する逆恨みの復讐……それで、ちょうどアニメ化していた作品を書いていた僕という作家に狙いをつけたと考えることはできる。

 

だが聞くに、その元社員はクビになったわけじゃなく、自ら退職したのだそうだ。

 

それに中々優秀な社員だったらしく、惜しまれながらの退職だったという話。

 

よって逆恨みの線は薄い。社内に恨みを持つ人間がいるということも、あまり考えられない。あったとしても、そこからデマ拡散に至るほどの強力な動機となり得たかは不透明。

 

それ以上のことは、僕には教えてもらえなかった。

 

まぁ、僕としても犯人が特定されデマ拡散が止まったのならそれ以上のことは興味がない。間宮さんが言う必要がないと判断した情報をわざわざ聞き出す必要性も薄いだろう。

 

それよりか、まだ半分も書き上がっていない今日の更新分を仕上げる方がよっぽどの急務なのだ。

 

……どうしよマジで。

 

 

ガラガラガラ……。

 

「あっ……」

 

教室に入ると、僕の視線は自然と村崎の座っている席に吸い寄せられ……。

 

「……」

 

……。

 

一瞬目が合った後に、村崎はすぐに手元のスマホに視線を向けた。

 

ここ3日ほど、この状態が続いている。

 

村崎と、天華寺と食事を共にしたあの日以来こんな調子だ。

 

しかしよく考えれば……というかよく考えなくとも、僕と村崎の関係はこれがデフォだったはず。そう、今までがおかしかっただけなのだ。

 

僕と村崎は話すどころか、目を合わせることもない関係が普通。そりゃそうだ。

 

なにせ彼女は最強生物。僕は最弱生物。

 

お互い、自分と釣り合った人間と関わり合うことが最善に決まっているのだから。

 

……今日は“天地”の第4話が配信された日だが。

 

彼女がその感想会をしようという約束を忘れていたとしても、何もおかしくはないのだ。

 

「七家、おはよ」

 

その代わりに。

 

「……おはよう、天華寺さん」

 

僕は天華寺とよく話すようになった。

 

……

 

…………。

 

「いや、やっぱ黒沢監督はレベチ。殺陣の迫力が違う」

「あの人は、別次元感あるよね」

 

僕の席の向こう側に、天華寺が座っている。

 

これまた少し前には想像だにしなかった光景だが、話す内容は村崎とは違いもっぱら時代劇の話だ。

天華寺がこの話をする時の熱量は凄まじく、村崎が“天地”を語る時と同じかそれ以上だ。

 

齧った程度の僕では到底着いていけない領域だったので、ここ数日は有名作品を一通り履修してなんとか着いていけるように頑張っている。

 

天華寺は、恐らく今まで周囲にこの話を出来る人物が居なかったんじゃなかろうか。

 

時代劇が好きだと話を切り出す時も、言いづらそうにしていたくらいだし。

 

だからこそ多少なりとも話の通じる僕と話す機会が多くなった。

 

……天華寺は村崎と並び立つこのクラスのカースト最上位。村崎に続き、そんな女子と話す機会に恵まれていることに僕は本来喜ぶべきなんだろうと思う。

 

だが……。

 

「……」

 

天華寺が僕とよく話すようになると、村崎は一人でいる時間が増えた。

 

今もスマホの画面をぼーっとしながら見つめている。

 

村崎が誰と話すかも、天華寺が誰と話すかも、それは本人が決めるべきことだ。僕にその辺を指図するような謂れはない。

 

だが、二人が話しているその空間が好きだった僕は……少し複雑な気分だ。

 

「……!」

 

そんな事を思っていると。

 

一人でいた村崎に近づく影があった。

 

飯田だ。

 

「──」

「──」

 

村崎は最初、近づいてきた飯田を見て露骨に嫌そうな顔をした。

 

だが、飯田が何かを話すと、村崎はどこか寂しげな表情になり、俯いてしまう。

 

……なんだ。

 

なんだ、このざわめきは。

 

このままじゃまずい。そんな感覚が……僕の全身の細胞が警鐘を鳴らしている。

 

そして……。

 

「──」

 

村崎がこくんと頷くと、彼女は立ち上がり。

 

飯田と二人で教室を出た。

 

「ッ!!」

「え、何。どうしたの」

 

僕は跳ねるようにして立ち上がった。

 

そんな僕を見て、天華寺はきょとんとした風に僕を見上げた。

 

「悪いんだけど」

「……へっ」

 

目をぱちぱちと瞬かせている天華寺。

 

僕は彼女の手首を掴んだ。

 

「ついてきて」

「えっ? ちょッ……七家!?」

 

僕は天華寺を伴ったまま、教室を出た。

 

……どっちだ!?

 

渡り廊下には多くの生徒がおり、いきなり教室を飛び出した僕と天華寺……どちらかと言えば天華寺の方に視線が集まり、その手首を掴んでいた僕の方に困惑げな視線が集まる。

 

「……いた!」

 

そんな群衆の向こうに見えた、背の高い男とグラデーションのかかったロングヘアーの金髪。

 

それに向かって、僕は走り出した。

 

「ちょ、七家! 何いきなり!?」

「村崎が飯田に連れ出されるの、見てなかったの!?」

「いや、見てたけど」

「じゃあなんで止めなかったんだ!」

 

……言いながら僕は、その言葉が特大のブーメランとなって自分に突き刺さっている事実に歯を食いしばった。

やはり僕は最低な人間だ。あの時、自分の体が動かなかった言い訳を……こともあろうに天華寺に転嫁しようとしている。

 

最低で、醜い自己保身だ。

 

「? なんで止めなきゃいけないの」

 

だが今度は、天華寺から返ってきた言葉に僕が首を捻ることとなった。

 

まさか、天華寺は気づいていないのか……?

村崎が飯田を嫌っていることに。

 

曲がり角を曲がる。

 

「……!」

 

そうして見えたのは階段と、廊下。

 

二人はどちらかへ進んだ。

 

選択を外せば追い付くことは不可能だろう。

 

「……村崎さんは、天華寺さんがいなくなって、寂しかったんだ」

「え?」

 

なんで気づかなかった。いや、気づかないふりをしていたんだ。

 

なぜ“二人の関係だから”と言って、見て見ぬ振りをしていたんだ。

 

「村崎の親友は、君だけだったのに」

 

……村崎を孤独にしたのは僕だ。

 

お前はカプ厨失格だ!!

 

「こっち!」

 

僕は階段ではなく、通路を選んだ。

 

この短時間で姿を消したなら二人は階段を選んだ可能性は高い。

 

だがそれ以上に、村崎がこの通路を進んだ可能性が高い理由は──!!

 

「……ここって」

 

僕はその“部屋”の前に立った。

 

“図書室”の前に。

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