爺っさまから拝借した刀は、重いけれど振るのに問題はないという絶妙な加減だった。一方ツユリはというと、
「…も、持てませんっ…」
と、腕をぷるぷるさせていた。
無理もない、まだ初心者なのだ。どんなものでも鍛冶屋が作る時点である程度の品質、装備するにはパラメータが足りていない。初心者が強装備で無双というのは、中々出来ない。
「というか、これなら私の武器なんて要らないじゃないですかー…!」
ぜえはあと、肩で息をしながらツユリが抗議する。一理ある、が一緒に作ってもらった方が良いのだ。
「今装備出来なくても、将来のパラメータの目標にするってのもアリよ。それこそ、盾なら背中に背負ってドシドシ歩けば防御くらいは出来るし」
「そ、そうですか…?けど、他に理由は…」
「往復回数が増えるのがめんどくさい」
「段々キクさんの事が分かってきました…!」
仕方ないだろう、距離がそれなりにあるのだから。ワープアイテムも手持ちが無くなっていたから、使えないか別の手段に変わってしまった様だし。
それこそ、加工しなくても材料だけ持って帰れば良い。いつか作ってもらうのも良し、金にもなる。
「けどまぁ、良い材料が手に入るかはまだ未知数だからなぁ」
「星のカケラ…でしたっけ。レアなんですか?」
「だいぶレア。けどね、そもそも私の今回の目的は星のカケラじゃない。
きょとんと目を丸くしたのが、はっきり見ずとも気配で分かる。だいぶ分かりやすい人種だ、この子は。
「昔のここはね、山頂まで行けてそこに星のカケラが落ちてる事があったんだ。滅多に落ちてないからね、確かにレアなものだ。けど、テクスチャとしてその先があった」
実際に足を踏み入れることが出来たのは山頂まで。そこから先は不可侵のエリア、ゲームじゃお馴染みだ。けれど、此処なら?道が無くて行けないだけなら、幾らでもやりようはあるはずだ。
「ここは昔、星が落ちたんだって。そのカケラがどこから来たか分からないけど…もしそのカケラの大元が、その先にあったらさ。だいぶ面白くなると思わない?」
たぶん、私はだいぶいい顔をしていたと思う。何せこっちはやり込んだゲーマーだ、やり込み要素には目がないのだ。
さぁ、さくっと登り切って検証するとしよう。
▼▼▼
「さくっと行けないんですけどー!」
悲鳴が響く。私も鞘で敵を殴りながら、ため息を溢していた。
この山は、鉱石を食って育つだかの獣が多い。身体から鉱石が飛び出してる様な猪、爪が宝石みたく光るオオカミ。それらの数が、だいぶ多い。
硬さ自体はさほどでもなく、借りた刀で余裕でやれる程度。だが、とにかく多い。1匹出たと思うとわらわら湧いてくる。ツユリは防御で手一杯、私も処理にだいぶ時間を取られる。
結果として、ツユリのレベルは一気に2桁まで急上昇したが、歩みが遅い。何匹目かを切り捨てると、ツユリの手をとって走りだした。ラチが開かない、これでは山頂を目指す前にこっちがバテる。
最低限の動きで敵を避け、たまに斬り。目の前に、洞窟が見えた。私達は敵を蹴散らし、その穴に飛び込んだ。
「ふぅ…敵は、居ないかな?」
「追ってきてなければ、たぶん…」
追ってきていない事を確認し、ほっとひと息。あいつらエネミーが私達の何を感知しているのかは知らないが、無限にロックオンされる事は基本無い。まして私の方がスピードは上、ターゲットは取るものの追いつかれはしなかった。
とりあえず…此処はどのあたりだろうか。マップを開くも、山の景色は基本一定で把握が難しい。山頂までまだあるのは確実だが、何にせよ少し休みたい。
「あ…この洞窟、奥があるみたいです。見えにくいですけど、ほら」
ツユリな声に奥を見ると、なるほど確かに一本道が続いている。私はあまり、洞窟が好きでは無い。狭いエリアで戦うのは、私の様な高速で躱すスタイルとは相性が良くないからだ。
できればツユリに盾を構えて前に出てほしいが、
「……」
何を言っているんだ、と言いたげな顔でこっちを見た後ぶんぶん首を横に振られた。どうやら、狭苦しいところが苦手らしい。
「行けるって…ほら、盾振り回してくれてれば良いからさ。大丈夫ちゃんと守ってればそうやられない」
「でもこんな狭いとすぐに交代も出来ないですし…!ほら、後ろからの敵は私が防ぎますから!」
今までにない語気に、思わずたじろぐ。どんだけしたくないんだ…。
仕方なし、いつも通り前に出るとしよう。
どこに繋がっているか分からないが、そう言うものもゲームの楽しみ。片手でがっしりと私の服を掴んでくるツユリに小さく笑みをこぼしながら、ゆっくり洞窟を進む───
その時だ。ずん、と山を揺るがす様な轟音が響いたのは。
▼▼▼
「なんの音かと思ったら…派手にやったねえ」
のそりと、大して興味もなさそうに小屋から顔を出すプレイヤーがひとり。その視線は、すぐ近くに立つ男に向けられている。
正確には、さらに向こう。男の振るった剣によって付けられた、山肌を削る斬撃の痕である。
ぱっくりと地面が裂け、黒が覗いている。すぐに修復されるとはいえ、規格外の威力であるのは誰の目にも明らかだった。
振るった男は、まじまじとその痕跡を眺めている。自分でも信じられない、と思っているのか…はたはた、こんなものだろう、なのか。
その剣に吹き飛ばされたであろう人影が、何人も転がっている。皆同じローブに身を包み、どんどんその姿が消えていく。とっくの前にHPは尽きて、リスポーンしたのだ。
「こいつらは…なんだい、山登りかい?」
「って訳でも無さそうだ。出たら散らばってこっち見てたからな、尾けてきたのか待ち伏せか、どっちにしろ穏やかじゃないな」
言いながら、剣を背中に背負って歩き出す。さっきの剣も倒した奴らも、何もかも気にしていなさそうな、至って普通の声。言い換えれば、さっき小屋に来たはしゃぐ男と同一人物とは、かけらも思えない。
「オレは街に戻るわ。どこの馬鹿が襲ってきたのか知りたいしな。ウチの奴へは…まぁ、なんだ。よろしく言っといてくれ。んじゃっ」
そう言い残して、さっさと歩き去っていく。その嵐の様なひとときに、残された側はため息をつくしか無かった。
〈tips・enemy〉
・宝石オオカミ、宝石イノシシ
適当に呼ばれた名称。鉱石を含んでいるため通常の獣より硬く、鋭い。しかし、その分柔軟性が無く弱点も増えるなどデメリットが目立つ。倒してもあまりいい素材は落ちない。