顔面に届いた拳が、付けていた眼鏡を粉々に粉砕する。そのまま壁に打ち付けられ、ルドヴィクはがっくりと倒れ伏した。
自分の勝利を知らせるウィンドウをさっさと閉じて、後ろに目をやった。ツユリが飛び降り、駆け寄ってくる。
「あー…心配かけた?」
「…心配しました」
じと、と睨まれる。けれどその顔は、すぐに安堵のものに変わった。
「けど、格好良かったです。あんな強い武器を持ってたなんて…!」
興味深そうな視線が、私の刀に注がれる。確かに強いが、ツユリのレベルが上がらないうちにこれを抜くわけには中々いかないのだ。そもそも、これを抜く様な敵のいるところに、ツユリを連れて行くのは憚られる。
「まぁ、武器の事はおいおいね。ツユリもそのうち、いい武器手に入るかもしれないし。それより…ルドヴィク」
「…はい?」
座り込んだままのルドヴィクに声をかける。あの言い方では、初日にウチを襲った奴らには関与してないのだろう。なら…。
「あんたのクランって昔のままのとこ?というか、何処だったかは覚えてないんだけど」
「そうですよ。初日にクランリーダーが再びメンバーを集めた〈ブルークラウン〉。新しいメンバーもいますが、大半は変わっていない筈です」
「じゃあ、誰がウチを襲ったか…は、いいや。クランならリーダーに連絡取れるでしょ。ちょっと頼まれてよ」
ルドヴィクの顔が、さっと青くなった…様に見えた。久しぶりに会ったはずなのに、私の性格をよく知っているというべきか。
「まさか…喧嘩売るつもりですか⁉︎私とは比べ物にならない強さですよ!」
「売らないよ、売らない。ただひと言だけでいいから」
何を言うつもりだと、目で訴えかけられている。そんなの、当たり前のひと言だろう。
「誰だか知らないけど、人に頼まずに自分で来いって。それだけよ」
それってケンカじゃ…と、控えめな声は聞こえなかったことにした。
▼▼▼
言伝は送りました、と死んだ目で告げられるのを横目に考える。ブルークラウンというクランは、確かに大手で名前くらいは勿論知っている。しかし、クランマスターなどそうそう目にかかるものじゃない。まるで情報がないのだ、私の手元には。
「けどあそこ、マスター厳しすぎて独裁国家みたいになってなかった?アンタもよくそんな所に入ったね」
「それなりのレベルと装備がありましたから。ある程度上の立場なら、縛りなんてあって無い様なものなんですよ」
身内、というかやるやつに甘いタイプか。その内謀反でも起こされてしまわないか心配だ。その前に、私が喧嘩を売ろうと言うのだからいらない世話だな。
「まぁ、とりあえず…ルドヴィク。アンタは返事来るまで適当に待機してて。ツユはどう、今レベル幾つになった?」
「えっと…まだ8、です」
「心もとなっ…」
思わず本音が出た。多少なりHPに寄せてあるとはいえ、本質は盾での両防御ビルドだ。まだ私の刀をおいそれと抜いて戦うのは少し怖い。
なら、そうだな。私も丁度、一本刀が無くなって困っていたところだ。チャット飛ばしてみるか。
「ちょっとチャットする。連絡取れたら私達は行こう」
「行くって、どこにですか?」
「んー?固有武器ゲットしに。私も新しい剣欲しいし」
気軽に言う私に、2人が絶句しているのが気配で分かった。だが待って欲しい、固有武器という言い方が悪かっただけだ。
「私のみたいなボスドロップじゃなくて、作ってもらいに行くの。自分専用のオーダーメイド武器、ってやつよ」
この世界では、鍛治スキルを取っているものがごく少数存在する。魔法使いにはほぼ無縁のものだが、私達のような武器メインにしている奴らは利用していた。私も、今の刀を手に入れるまではよく使っていたものだ。こちらでどう変わっているかは不明だが…。
「おっけ、連絡取れた。道中でレベリングしながら、行きましょうか」
「は、はいっ」
ルドヴィクに軽く別れを告げて、街の入り口へ向かう。時刻はちょうど、私達が出会った時くらいになるだろうか。どうやらツユリも早く来ていたらしい。
「それで…どこに行くんですか?そもそも、まだ鍛治のスキルを持っている人が…」
「連絡取れたから向かってるのよ。行き先は…見えるでしょ、あそこ」
ぴし、と前を指さす。城門…を抜けて、どんどん遠く、そびえ立つ山に向けて。これからは、人生初の山登りの時間だ。
目指すは前方、霊峰アルド。
別名、『星の埋もれる山』だ。
〈tip・area〉
・霊峰アルド
城下町の正反対にそびえる山。火山の様に火口からごく稀に何かを吹き出しているが、それは火では無く火口を作った星のエネルギーが溢れ出しているのだと言う。