「ここだよ、霊峰アルド。星が埋まっている山…なんだって」
「星…ですか?」
私達の眼前には、高くそびえる山がひとつ。頂上に雲のかかったそこは、星に降られて生態系が狂ったのだと言う。PC時代は鉱物を求めて多くの人が来て、山頂に稀に落ちている「星の欠片」という素材を探し回ったらしい。
もっとも、私達の様に武器に使おうと言うわけではなく換金目的がほとんどだった様だ。私の知る限り、武器としてそれを使ったのは1人だけ。
「その1人って、もしかしてキクさん…?」
「だったらそれ使ってるよ。武器にしたのは、うちのクランマスター。と、鍛治スキル上げて生業にしてる変わり者だよ」
そこを根城にしてるね、と麓を指した。そこには小さな小屋が経っていて、購入した鍛治プレイヤーが拠点にしていたのだ。私達のクランはその人を頼って武器を使っている人が多かった。私は会ったことこそあるが、既に今の刀を持っているため作ってもらう機会が無かった。
「今もいるかは分からないけど…別に、どこかのクランに入ってたわけじゃないからね。狙われたりっては、別にしてないはず」
そもそも私と同じくらいレベル高いしね、と笑った。鍛治屋とはいえ、経験値が入ればレベルもステータスも上がるのだ。問題があるとしたら…会話が面倒、それくらいだろうか?
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ほどなくして、私達は麓に到着した。山の入り口側に、ひっそりと隠れる様にして小屋がひとつ。念の為にツユリを後ろに隠す様にして、ゆっくりと小屋の扉を開いた。
「お…客かい?珍しいね。けど今、ウチは店じまいだよ。他当たってくんな」
こっちを見ずに、どこかしゃがれた声が響いた。椅子に座ったその姿に、声まで再現されんのか…と少し辟易しながら声をかけた。
「いや、そこを何とかならない爺っさま。私だよ、覚えてる?〈神威〉のキクだよ」
「神威ぃ?あそこ、潰れたんじゃなかったかね…や、その刀じゃ本物か。なんだい、やっとその呪い剣外して使ってくれんのかい」
やる気の無さを固めて言葉にした様な声に、ぐったりと椅子から顔だけ此方に向けて話す女性。髪は白く、顔には無数の皺が刻まれている。完全に老婆の姿だが、発せられる声は男性のものだ。
「いや、外しはしないよ。けど今、連れがいてさ。ぽんぽん抜けないから、もう一本刀が欲しいんだよ。後、その連れの武器も」
よろしくお願いします…、とツユリが私の後ろから出てお辞儀をする。それを見て、椅子からひっくり返りそうなくらいに仰け反り、目を丸くしている。
「コミュニケーション嫌いなクソガキが初心者連れてんのかい⁉︎うわ…本物かい、あんた?」
「失礼だな、色々。ほら、お金ならあるから作れない?材料が無いなら、私達星のカケラ取りに行くけど。いや、あっても登ってみるけどさ」
じとりと睨む私を気にすることなく、爺っさまはのそりと椅子から立ち上がると、壁に掛けられた金槌を手に取った。
「作っちゃやりたいけどね。こっちに来てから2日、実際にこれを振って武器を作るってのがどうにもしっくり来ないのさ。マウスカチカチして武器作れてたのが恋しいね。あんたら、いつまでに武器欲しいんだい」
「1週間…いや、6日かな。1週間したら、ちょっとデカい戦いあるんだ。それまでに欲しい」
まだ怠そうにしている女性をじっと見据える。仕草に覇気は無いものの、乗り気だという事は分かる。その証拠に、話が停滞する事が無い。武器を作りたいと言う気持ちは、どうやらある様だ。
「人使いが荒いね…いいよ、やってみようじゃないか。けどじゃあクソガキ、あんた今他の武器ないのかい」
「ん、まぁ初期武器なら街で買ったけど。店売りの武器の種類が全然無いんだよね、今」
ぽんぽんと刀の柄を叩く。ルドヴィクにへし折られた分を補充したのだ。また折れては構わないと、予備も2本ほど持っている。
「なら、そっちの箱から適当に持ってきな。こっちに来てから作ったもんでね、出来はあんまりだけど使えるだろうよ」
言われるまま、指さされた箱を開けて中を漁る。確かに色々武器があり、刀もあった。だが持ち上げてみると異常に重い。前に両手で振るった大太刀の倍はある。
ともあれ、貰える分には貰っておけ。刀を2本とついでにツユリ用のハンマーを1本拝借した。
そのまま踵を返して出ようとする私を、しわがれた声が呼び止める。
「クランは壊滅したんだろう?ならあんた、これからどうするんだい。アタシもそっちが居ないと、商売上がったりなんだ」
これからどうするか…か。確かに、あまり考えた事が無かった。ブルークラウンと話をつけて、それから。話をつけるのも完全な自己満足だが、それをしたとてクランのメンバーは戻らないだろう。けど、その先は…どうしても、思い浮かばない。
「この世界をぐるって回ってみようかな、旅行気分でさ。そうしたら、目標でも見つかるかもだし。何も無くても、引退とかは考えられないかな」
ひらひらと手を振りながら、小屋を後にする。どうする、とか考えるのは苦手だ。本能のまま、とまでは言わない。けれど、先を見据えて行動を決める…そんな事、とても出来るとは思えなかった。
ただ、その場その場で決めるだけだ。ツユリと出会ったからレベル上げに付き合うし、クランを襲った奴らが分かったからとっちめる。昔だって、メンバーがいるから何となく入って攻略を一緒にした。それくらい、私はふわっとしているのだ。
ならそれが、全部終わったら?私の目的が全部なくなり、また1人になったら…。
そんな思考が駆け巡る。これから探索なのだから、と軽く頭を振ってその思考を押しやった。
ツユリにハンマーを渡して、拝借した刀を鞘ごと手に持つ。ずっしりとした重みを持ちながら歩みを進める中で、その思考はしつこく片隅に残っていた。
▼▼▼
「爺さま!?いる!?」
ばん、と荒々しく扉が開かれる。2人組の少女を見送ってしばらく、次に訪れたのは壮年の男性だった。
巨大な剣に、身体を覆うマント。目的の人物を見つけると、男はぱあっとその不釣り合いな顔を輝かせた。
「おおっ、いるじゃん!よかったぁ、ウチのクラン誰も居なくてさ。知り合い全員居ねえんじゃないかってフラッとこっち来たんだよ!よかったぜ顔見知りいて!」
豪快に笑う男に、皺を深くしながら椅子に座った女性の姿はため息をついた。
「うるっさいね…武器作ろうってんじゃないだろうアンタは!それに、ほら。さっき、アンタの所のが来たよ。よかったじゃないか、顔見知りが2人も居て」
「おっ…まじ?まだいた?よっし山だな、追いかけるわ!」
ばん、とまた大きな音を立てて小屋から出ていく。背中の剣は圧倒的な輝きを放っていて、それを見て皺が微かに和らいだ。
それから、すぐ。麓で発生した天を揺るがす炸裂音が、山全体に響かせんと轟いだ。
〈tips・character〉
・爺さま
プレイヤーネームはあるが、話し方から爺さまと呼ばれる。世にも珍しい鍛冶屋であり、数多くの武器を仕上げた。現在は慣れない環境に苦戦気味。