『承』
「......なるほどね。やっと私を連れ出した理由を理解したよ」
数分の問答でやっと私は大まかに今回の事件を理解することができた。
部屋の中央に置いてあった椅子を扉の前に移動させ座っている私は、開け放たれた扉の向こう、つまりは廊下に正座する彼女達を一瞥する
彼女達の瞳は最初に見た激しい激情の炎ではなく、困惑と後ろめたさと叱られていることへの弱々しさを感じる。
というか先生に叱られている生徒、具体的に言うとこの前先生を監禁した時に怒られた私みたい。
そもそも、今思えば最初に感じた彼女達の瞳の中の炎の色は、憎しみや怒りではなく、情熱とか狂気とかそっち側な気がしてきた。
なんと言うか、モモフレンズに魅入られたヒフミちゃんに近い狂気だ。
あれは、ヤバイ。自称普通の子らしいけど、絶対普通じゃないと思う。
そんなあの子に魅入られてるナギちゃんはもうダメだと思う。
エデン条約周りのイザコザで病んだ心にヒフミちゃんは劇物だったのかもしれない。
そんな幼なじみへの心配事に頭を悩ませていると、リーダーの子が恐る恐る声を上げた。
「理由は最初から言ってるやん...?」
「意味が伝わらないと言葉って意味を為さないって知ってる?伝え方を間違えると言葉って大変なことを引き起こすんだよ?」
「お前がいうと説得力違うなぁ」
「ん?」
「...すいません」
うん、なんとなくわかってきた。
この子、むかつくときのセイアちゃんぐらい、いい性格してる。
なんだか楽しくなってきた私は、お行儀良く座っていたのをやめて足を組み組んだ足に肘をつくという先生に見せられない体勢を取ってみたら、リーダーの子はビクッと体を震わせた。
話をまとめるとこうだ。
最初に私が彼女達に感じた全ては、私が精神を病んだ事による勘違い。
この子達は、ナギちゃんに命じられて作った『あの子』に魅入られていて、それを私が脱走の際に殴り壊して、その事にショックを受けてはいるものの、今度は壊れない物を作ろうとあの大騒動の後からずっと作っていて、先日やっと完成したから私に今度こそ破壊されないか試そうとしたわけらしい。
すると何故かティーパーティーから許可が出なかったから私を誘拐したというわけだ。
ふむふむ、なるほど...
「...君たちゲヘナだったりする?」
「失礼な!私たちはお淑やかなトリニティ生だ!」
「誘拐する子をお淑やかって言わないと私は思うな⭐」
「そうだ!そうだ!お嬢様なんだぞ!」
「どこにお嬢様要素があったか私は疑問だな⭐︎」
「あんな破壊と混沌に塗れた奴らと一緒にするな!」
「誘拐って犯罪だと知ってる?」
「どちらかというと全てを筋肉で壊すあなたの方がよっぽどゲヘ...」
「ん?」
「...すいません」
また身を寄せ合い震える彼女達。
はぁと一息ため息をつくと、さらにビクリと肩を震わせる。
流石にここまで怯えられると私も傷つく。私だって女の子、お姫様なんだよ?
最初に感じていた絶望はどこにやら、私はもう一度ため息を吐き辺りを見渡した。
豪奢な部屋。それでいて居心地の悪さを感じさせない、ゆったりとした部屋の雰囲気。それもこれも精密な家具配置や壁紙、内装の考えられた配置による物だろう。
適当に用意した部屋ではない、この部屋にくる人のために考えられた部屋。窓がなく扉が厳重な点から目を背ければ、立派な応接間だと誰もが思うだろう。
私だってそう思う。いや、そう思った。
何故過去形なのかというと、最初にこの感想を抱いたのは今日じゃないから。
何故なら私は過去にこの部屋とほぼ同じ部屋に入ったことがあるからだ。
「すごいね。ここまで再現できているとは驚きだよ...」
思い出すのは、クーデターに失敗されて連れられたあの時。
セイアちゃんからの一言で絶望したあの日。
『魔女』になりかけたあの瞬間。
そう、この部屋は私がクーデターの時に軟禁された部屋とほぼ内装が瓜二つであった。
そう私が壁を『殴り壊した』部屋と同じ
つまり、私が破壊した『あの子』というのは...
「ねぇ、聞いてなかったけどあなた達のサークル名って?」
私の問いかけに、震えていたリーダーは、すぐに表情をただし立ち上がり胸に手を当て自慢げに口を開く。
「ふふ、聞いて驚け。私たちはフィリウス分派所属の秘密部隊!」
そして彼女は胸元から一枚の書類を取り出し私に突き付けた。
「軟禁のための牢獄及び
偽装能力と機密能力の高いセーフハウスを
作成するために
作戦及び実行する
マル秘サークル!!」
「通称NA GI SA SA MA部!!」
「お前に破壊された『あの子』。あの牢獄のリベンジをしにきた!」
声高らかに名乗りを上げたサークル名が廊下に響く。
ぱぱーん、といつの間にか立ち上がっていた周りの子達がクラッカーをならし紙吹雪が中を舞い、『ナギサ様』と書かれた横断幕が掲げられる。
「......」
あ、わかった。この子達馬鹿なんだ。
薄々わかっていたことの確信を得ながら視線を目の前の書類に動かす。
突き出された一枚の書類には、このサークルがごく最近、大体ナギちゃんが疑心暗鬼に陥り始めた頃にナギちゃんが直々に作成し、命名し、支援している正式な部活であることがわかる。
ナギちゃんに精神カウンセリングを勧めることを先生に相談しようかなと考えながら読み進める。
部活動内容は、ナギちゃんが隠れるため、または保護または確保した人物を秘密裏に軟禁するための部屋を作成するための部活であることが書かれており、もちろん部費も書かれてて、その部費は.....うん、うん!?
顔が引きつる。
部費として書いている数字の桁数がおかしい。
見間違いかと思い何度目を瞬かせてもその桁数は変わらない。
通常のサークルに渡す部費どころか、この金額は正義実現委員会とかシスターフッドや救護騎士団などの巨大な組織に渡す金額に負けず劣らずな...
「というわけで、今度は殴られても破壊されない部屋を作ってみたから壁を殴って脱走を企ててみてくれ」
「いやまって!?それよりもこの部費...」
「では... 聖園ミカ、出ろ!!」
ゴウン゙ゴゴゴゴゴコッ゙ゴコッ゙
今日何度繰り返されたかわからない声が響き
重い扉が音を立てて扉がしまっ......らない。
ガッ!!!
立ち上がった私の片足によってその動きを扉は止める。
「んんんん!」
「うごっかな...い!」
「うえええ、みんなで引いてるのにぃぃぃ」
「......」
「わぁあああ」
「パワーが違いすぎるぅ!」
「引きずられるぅ!」
何人かの子達が必死に扉を閉めようとしているが、私は軽く足を動かしてドアノブを掴んでいる彼女達ごと扉を再度開ける。
ずるずると引きずられる彼女達にどこか可愛らしさを感じながらも、私は再度リーダーの子と向き合う。
リーダーの子はアワアワと慌てながら口を開いた
「扉が閉まる時に足を入れるなよ!危ないぞ!怪我するだろ!非常識だな!」
「話の途中で扉を閉めるのも非常識だよ⭐」
なんやかんや私の心配をするこの子は馬鹿だけど優しい子なんだなぁ
って改めて思いながら、とりあえずゆっくり話を聞くために私は彼女にアイアンクローをかました。
「うわぁぁあ、リーダー!!」
「ひぇええ」
十数分後
ヒクヒクと白目を向いて痙攣し倒れているリーダーの周りに集まりキャンキャン騒ぐ彼女達、『軟禁のための牢獄及び偽装能力と機密能力の高いセーフハウスを作成するため...』ってあ〜名前が長いめんどくさい。
つまりは『ナギちゃん部』のメンバーをみながら私はため息をついた。
「えっと、つまり...?」
ゆっくりお話しを聞いた事をまとめた部屋にあったメモ帳に目を落とす。
①私のせいで色々と疑心暗鬼に陥ったナギちゃんが、身内に敵がいると確信し新たにセーフハウスと怪しい人物を軟禁するための牢獄作成を決意。
②少しでも不安を無くしたいがために、自分が自由に使える資金をありったけ使い、信用できる人間を集め秘密工作部隊『ナギちゃん部』を組織。
③色々あってセーフハウスと牢獄完成。
④だけど途中で『ナギちゃん部』も信用できなくなったナギちゃんは『ナギちゃん部』を旅行の名目でトリニティ学区から遠ざける。
⑤なんやかんやあって、エデン条約が起結。後処理に追われる。
⑥私が牢獄を破壊して脱走、及びその後のアリウス開放。解放後のアリウス生への処遇や私の裁判などの業務にナギちゃん追われる。
⑦『ナギちゃん部』が帰ってくる。『ナギちゃん部』がナギちゃんに手紙を送るも返信なし
⑧それまで『ナギちゃん部』への連絡は一切なし。
⑨そして今日、『ナギちゃん部』はナギちゃんと接触。ナギちゃんは遠方に『ナギちゃん部』を遠ざけていた事を謝る。そしてナギちゃんとセイアちゃん入院。
⑩『ナギちゃん部』私を誘拐。
…う〜ん?
⑥まではまだ分かる。
だけど⑦⑧はダメ。でもなんでこんなことになったか、幼なじみの私はわかるかな?
多分ナギちゃん、日々の激務で『ナギちゃん部』の事を忘れていたに違いない。
私のことや自身の行いの後悔そんな思いに追われながらエデン条約やアリウスの後始末をティーパーティーのメンバーが欠けた状態で行ったのだ。それはしょうがないと思うし、申し訳なく本当に思う。ごめんナギちゃん。
でももしかしたら、自分で『NAGISASAMA部』なんて命名したせいで恥ずかしくなり目を背けた可能性もある。
というか部費として自分の所有するお金を大量排出していた事から目を背けたかった可能性が高いのかな?
まぁ、そうだとしても、⑨に書いた通り、ナギちゃんは自分の罪...罪、かなぁ?
まぁ、罪だとして、そんな罪に向き合った。
そして入院
うん。書いてみたけど、ここの意味が最初わからなかった。
一瞬、この子達がナギちゃんを襲ったのかと思ったけど、今まで会話してこの子達は馬鹿だけどナギちゃんに危害を加える子達ではないことはわかるし、それに自分たちのサークルに『NAGISASAMA』なんてつけてドヤ顔する子達だ。まずあり得ない。
で、なんでなのかを、さっきリーダーの子に聞いてみたら
『え?なんで入院したかって?そ、それは...』
『それは?』
『ナギサ様が私たちに今までの事を謝罪してくれましたあと、私が帰ってきてからの活動を報告したら、突然咳き込んで、お腹を抑えてうめき始めて...救護騎士団が言うには心労による胃痛だと...』
『なるほどね...で、その活動報告って?』
『この部屋を作り直した報告です...』
『どんな報告?』
『......』
『どんな報告?』
『...ナギサ様のために用意した牢獄の脆弱性を認識したため、自主的に牢獄を修復し改良した報告です』
『ふ〜ん』
『...』
『...その時のナギちゃんの反応は?』
『それはもちろんいつもの様に凛々しく落ち着いた様子で、自主的に動いた私たちの事をほめてくださいまし…』
『持ってたティーカップは震えてた?』
『...』
『震えてた?』
『...はい』
『そのあとは?』
『えっと...』
『...』
『...その際にかかった費用をナギサ様に提出しまして』
『...カップは?』
『とても良い香りが辺り一面に広がりました』
『費用の値段は?』
『部費2ヶ月ぶ…痛!頭割れる!』
『そのあとは?』
『えっと、えっと、なんかカップがバイブレーションしているのをみてバツが悪くなって』
『なって?』
『「あはは、楽しかったですよ。ナギサ様のために働くの」って言ったら突如…って痛たたたたたあああああ!!』
『リーダーァ!!』
そして今に至る。
別にリーダーの頭を強く掴んだわけじゃない、少しアイアンクローの力を強めただけで、潰されるかもと恐怖したこの子が気絶しただけだよ?
ただ、もうちょっと力を入れても良かったかな? なんて思う。
この話を聞くまでは、あの凄まじい部費がティーパーティーの資産から出てたとなると、絶対にナギちゃんは失脚していたと思うから自費で安心はしたけど。そんな凄まじい部費の2ヶ月分を勝手に消費されていたとなると...ナギちゃんの懐の方が心配かな?
そんな突然の莫大な支出とトラウマの一言でナギちゃんはダウンしてしまったのだろう。うん、根本の原因が私でなければたぶん私は笑い転げてたと思う。
これで、なんでナギちゃんが緊急入院したのかがわかった。
なお、横で聞いていたセイアちゃんは笑いすぎて過呼吸になり、一時入院らしい。
心配して損した。
「それで?」
「ひゃ、ひゃい!」
私が深いため息と共に、ナギちゃん部に話しかけると、いく人かがびくりと肩を震わせた。
「それで、なんで私を誘拐することにつながるのかなぁ〜って」
そんな疑問を彼女達にぶつけてみる。
そうなのだ。
なぜそこから、誘拐に繋がるのかがわからない。
別に牢獄の耐久テストをしたかったのなら、ナギちゃんが復活してからナギちゃん経由で私に耐久テストを頼めば良かっただけなのだ。
それが、突如私の部屋に来襲して、私をこの部屋に無理やり、正確には無理やりではないけど、連れてきた。
あまりに行動の飛躍が大き過ぎる。
そんな疑問をナギちゃん部の一人がソワソワしながら答えてくれた
「それは..」
「それは?」
「以前にミカ様を牢獄に入れて耐久テストをしたいと言う手紙をナギサ様に送っていたのですが、テストとはいえミカ様を牢獄に入れたくないとナギサ様がおっしゃりまして」
「うんうん」
「確かにその通りだと思ったのですが」
「あ、思ってくれるんだ」
「今回の一件、自主的に部費2ヶ月分を使用したことはナギサ様から絶対にお叱りの言葉を受けると思うので」
「そうだね」
「どうせ怒られるならナギサ様が入院しているうちにミカ様を誘拐して牢獄にぶち込んで耐久テストしてみようかな?な〜んて...って痛タタタタ!!」
「なーんで!そうなるのかな〜!?」
「だって、だって!試したかったんですもん!ミレニアムから最新の素材を金に糸目をつけず買って作り上げた部屋の耐久を、新たな『あの子』の耐久を試したかったんですもん!!」
「その熱意をナギちゃんに伝えればよかったんじゃないかな!?」
「ナギサ様に二回も怒られるなんて、イヤッ!」
「イヤッ!じゃない!誘拐したらそれ以上に怒られるんだよ!」
持ち上げられるも瞳をぐるぐるさせながら熱意を叫ぶナギちゃん部部員。
震えながらもそうだそうだと声を上げるその他の部員。
目が覚めるも頭を抱えて震えるリーダー。
私は片手に人一人の重さを感じながら、思った。
生徒を叱ってる先生ってこんな思いなのかなぁ