ワイの本当の職業が【性騎士】とか言えない   作:恋狸

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二度目の邪魔

 あの後リースをボッコボコにした。

 強制的に剣を持たせて、キレた俺による全力バトルの幕開けである。

 リースが困惑状態にあったのもあって、その勝負は俺が勝ち、俺とリースの溝は再び深まった。

 大穴よ。大穴。

 

「くそっ、折角こっちが歩み寄ってるというのに何だ貴様のその態度は……!! ハゲ散らかして消えろカス!!」

「タイミングが悪かったんですぅ!! うっせうっせ、バーカバーカ!!」

 

 歩み寄ってるっていう目じゃないやん。めちゃくちゃ睨みますやん。せめて二人称を貴様から変えてから出直してきてください。

 

「ふふ……」

 

 そんな俺達を見て口元に手を当てて笑うメイの姿があったのだが、リースとの口論に夢中になっていた俺は気が付かなかった。

 

 

☆☆☆

 

 また夜が明ける。

 夜が明けるとどうなるか。そう、仕事である。

 

 今日も今日とて聖女様の護衛だ。

 いっつも聖女様の自室で護衛してるのもあって「あれ、護衛必要なくね?」って思ったことがあるのだが、公務の一件でその認識を改めた。

 どれだけ職業信仰が蔓延していようと、どれだけ誰かの役に立っていても、恨みはどこかで発生する。

 

「めんどくせぇもんだな」

 

 この恨みの矛先が俺に向く可能性もあるけどな。

 そうなったらそうなったで、暗殺者は可愛い女の子が良いです。

 

「よっす」

「……おはよう」

 

 なっ……!?!?

 あの聖女様が俺に挨拶……だと……!?

 今まで完全にフル無視だったのに! いやぁ、俺のパーフェクトコミュニケーションで絆されてきたってことかね。

 

「どうしたんだ? なんかご機嫌じゃん」

 

 というのはまあ冗談として、聖女様は一見いつも通りの仏頂面に見えたのだが、どこか今日は浮足立っているというか……微かに機嫌が良い、気がする。

 

「なんで」

「何で分かるって? 聖女様のことなら何でも分か──」

「冗談はいい」

「──というのは冗談で、昔から人の心情とか察するのが得意なんだよ」

「そんな、繊細な人間に見えない」

「ひでぇ」

 

 分かる。俺も自分のこと繊細とか欠片も思ってねぇもん。

 繊細な人間が人様の懐にズカズカ入るわけがないんだよね。

 

 繊細なのは己の息子を触る時だけよ。

 如何に細心の注意を図って息子と向き合うか。

 ……男はいつだってそんな試練と戦い続けているのだ。

 失敗する日もある。

 

 だが、それを乗り越えた先に──

 

 ──必ず"賢者"は待っている。 

 

「なに、ニヤニヤしてるの」

 

 聖女様が可愛らしいジト目で見てくる。

 今日は嫌に饒舌だな。これを饒舌と言えるかは一握りの人間だけども。

 護衛を始めてもう三週間が経った。

 ダラダラと俺が話しかけては無視する、みたいな日々ではあったが、急に絆されてるのは考え難い。

 そこまでチョロくはねーし、聖女様はいつだって一歩引いていて、警戒心が瞳にチラついていた。

 

 今も警戒心はあるが、わりと薄まってる気配がする。

 

「聖女様が結構話してくれるようになったから嬉しくてな」

「そういうわけじゃ……いや」

「いや?」

「公務で、聞いた。私が治した女の人の息子が、あなたに諭されたって」

「あいつ言ったのかよ……」

 

 猫耳着けながら説教した少年の話か。

 どうやら聖女様は少年の母親を治したらしい。報われて良かったという気持ちはあれど、わざわざ俺のことについて言わなくても良いのにな。

 律儀なやつ。

 

「あの少年は大丈夫だったのか?」

 

「うん、騎士に連行されてった」

 

「──ダメじゃん!?!?」

 

 え、ちょっと待って!?

 そんな胸糞エピソードある!? 全然報われてないやんけ! 

 

「冗談。その場に私しかいない」

「心臓に悪い冗談やめてね??」

「だから……ありがとう」

「……!」

 

 相変わらず聖女様は傍目から見て無表情だ。

 けれど観察眼に優れてる俺だからこそ分かる感情の発露。美しい銀色の瞳は微かに細められていて、薄っすらと口角が上がっている口元。

 

 俺は聖女様の笑顔を初めて見た。

 

 チッ、んだよ笑えんじゃねぇか。

 誰だよ普段から笑わないようにさせてるやつ。

 

 はぁ〜、危ねぇ〜。

 アレだよ、普通に勃ちそうだった。

 

 でも流石にこんな感動的な場面で下半身が膨れてたら台無しも良いとこだから我慢したよね。

 俺、偉すぎる。

 

「感謝される必要性もねぇよ。俺は俺のやりたいようにやっただけだし。結果がどうあれ救ったのは聖女様だろ?」

「私は……公務で」

「公務だか淫夢だか知らんけど、例え義務でも人を救ったのには変わらんだろ」

 

 聖女様は俺の言葉に目を開いて驚き、自分の手をしげしげと見た。

 

「その手で助けて来た人たちはみんなお前のこと感謝してんぜ。【聖女】とか関係無くな」

「そっか」

 

 珍しく正論話してるぞ俺。

 職業だとか【聖女】だからとか関係なくて、彼女が人を救ってきた事実は何も変わらない。

 きっとずっと肩書きが重荷になっている。自分に価値を感じられなくなってきた時に発する無力感は、俺には分からない。

 でも、価値を示すことはできる。

 

 その第一歩を聖女様は歩んでいる。

 

 

 だがそれを──運命が許さないようだ。

 

「──ッ!!」

「……防がれたか」

 

 ──キンッ、と金属がぶつかり合う音がする。

 

 咄嗟に聖女様との間に割り込ませた剣。ほぼ反射的な反応だったが、どうやら間に合ったようだ。

 

「え……」

 

 聖女様は何が起きたか分からない呆けた表情で、焦りを浮かべる俺と、部屋に侵入してきた下手人を交互に見た。

 

 黒い装束に身を包み、目元以外は何も分からない。如何にも怪しいですよ、と言わんばかりの格好だ。

 今昼なのに目立たなかったのかな。酒場とかコレで入って情報収集してたらめっちゃおもろい。

 

 そして手元には毒、塗ってま〜す! って感じの紫色の短剣が握られている。

 

 ──よし、落ち着け。

 聖女様は無事。俺も短剣には掠ってない。

 

 音もなく侵入してきたことから、間違いなく手練れの暗殺者。殺しに慣れている雰囲気を感じる。

 対人戦も相当強いだろう。

 

 

 ──いや、そんなこと関係ねぇ。

 

 俺は今、猛烈にキレている。

 猫耳メイのにゃんにゃんを邪魔された時以上にキレている。

 

 

 

「──感動的な場面邪魔したのだーれだ♡

 

 

 ──お前を殺す

 

「随分と威勢が良いな、【聖騎士】アルス」

 

 

 

 その聖、多分性ではないですよね。

 お前の負けな。




前回と終わり方が似てるって?
玉玉ですねぇ。

相変わらず情緒不安定だなコイツ。誰が生み出したんだ。
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