ワイの本当の職業が【性騎士】とか言えない   作:恋狸

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貞操だけは聖なる騎士

「今日は私もリースもいるので護衛任務は休みで構いません」

「エ゙、この仕事に休みとかあったんや」

 

 【白騎士】、【黒騎士】の両名が【聖女】の護衛任務を兼任するようになってから数日が経過した。

 念願のメイとの護衛任務もニコニコで終えることができ、ここしばらくはご機嫌だった俺にメイが告げたのは休日。

 

 そういえばそんな概念があったな、っていう感想なんですがこちとら。 

 休日? 護衛か自己研鑽に励んでくださいね、さもなくば死ねィ! って感じのスケジューリングが王都に来てから続いていたので、まさか休日が貰えるとは思ってなかった。

 

 使う宛のない給金だけが無限に貯まってて、まるで使用機会が訪れない我が息子みたいじゃないか、とか思ってたあの頃が蘇るぜ。童貞は辛いよ。

 

「……ここしばらくは激務で申し訳ないと私も思っていましたから」

 

 しゅんとしょげるメイ。 

 心なしか美しい金髪がしおしおになっているかのようなメイに、俺は大慌てで否定する。

 

「いやいや、護衛に休みが無いのはよくよく考えたら当たり前だしな。メイのせいじゃないさ」

 

 普通は持ち回りで交代制だと思うけど、【聖女】を守れるほどの実力者がいないんじゃ仕方ない。

 それに俺も毎日美少女と会える今の環境は悪いもんじゃねぇと思うしな。

 

「ありがとうございます。休日、楽しんでくださいね」

「ああ。ありがとな」

 

 ふんわりと笑うメイに朝勃ちが再来するのを何とか抑えて、聖女さまの私室に向かうメイを見送った。

 どうしてあんなに美女なんだろうか、メイは。性格もリースとは大違いである。

 腹の中の真っ黒さといい職業を逆にしたほうが良いと俺は思います。

 

「さて、どうしようか」

 

 降って湧いた休日に何をしたら良いか分からず、自室で頭を抱える俺。

 ……あー、思い返せば村にいた頃も畑仕事と鍛錬しかしてなかったからなぁ……。

 普段は親の仕事を手伝って、休日にホラ吹きジジイと剣の鍛錬をする。余った時間は魔力強化の鍛錬……あれ? 俺ってば休日を満喫したことが無い? 

 

 実は修行僧だったんか? 煩悩まみれですけど。物理的に生臭坊主ですけど愛してくれますか。無理ね、おけおけ。

 

「給金……は正直腐る程あるな」

 

 流石に【聖騎士】とかいう重職(笑)なだけあって、支払われるお金も意味が分からないほどに多い。

 これだけあると持て余すのが正直なとこだが……何に使えばいいってんだよ、おい。

 

「ま、悩んだ時は人に聞けってな」

 

 一人で考えてもアイデアが浮かばない俺は、部屋を出て……というか王城を出て、城の裏門を守る衛兵に聞くことにした。

 よく出入りすることもあって、彼らは俺が【聖騎士】であることを知っている人間だ。

 その中でもたまに話すのが、茶髪で気弱そうな顔面をしているリチャードという人物だ。

 

「ようリチャード。元気?」

「聖騎士さまじゃないですか。どうしたんですか?」

 

 俺に気づいたリチャードは朗らかに笑いながら用を尋ねる。

 

「いやぁ、なんか休日が降って湧いちゃってさ。リチャードって休日は何してる?」

「休日って降って湧くものなんですね。……んー、僕は家でダラダラするか美味しいものを食べに行くか……」

 

 まあ、一般的な奴らと大差ないか、と思っていると、頭皮が寂しい中年の衛兵が後ろからリチャードを小突きながら言った。

 

「いやいや、コイツ休日はしょっちゅう娼館に出入りしてるんですぜ? こんな見た目して色狂いたぁ人は見掛けによらねぇってことだな! はっはっは!!」

「ちょ、言わないでくださいよぉ……」

 

 ────ふむ? 娼館?

 そういえば本で読んだことあるぞォ!

 

☆☆☆

 

 お金を払ってえっちなことをしてくれる店。

 それこそが娼館である。素晴らしい名前だね。

 

「金は腐る程ある。性欲? 愚問ですねぇ」

 

 今俺が何のために【性騎士】になったのかを自覚したかもしれない。すべては娼館に行くため。

 女の子とエロいことをするため。

 

 ──いざゆかん!!

 

 街に繰り出した俺は、リチャードから教えてもらった道順に従い、途中にある鼻腔をくすぐる美味しそうなものの一切合切を無視して花街へ向かう。

 

 ()()()()通りに差し掛かると、一気に露出が凄まじいお姉さん方が店の前で客引きをしていた。

 

「ねえ、お兄さぁん。ここでドウ?」

「そこのカッコイイお兄さんっ、今暇ぁ?」

 

 次々と掛けられる声。

 妖艶なお姉さんから、幼さを感じる少女。どれもこれもグッとくるほどに性欲を刺激してくる。

 

「そうか、ここは天国だったのか」

 

 なんでこんな場所を今まで知らなかったのか。

 確か本に書いてあったが……んなことどうでも良いわ! どこ入ろっかなァ!

 

 選り取り見取りとはまさにこのこと。

 ウキウキで店に向かおうとしたその瞬間、俺はまるで石になったかのように体が硬直した。

 

「ば、バカな……! 体が全く動かないだと……!? お金があって性欲もあるのに、まさか俺は尻込みしてるのか……!?」

 

 くっ、ここに来て俺が提唱した『童貞はがっつけない説』が邪魔をしてくるというのか……!!

 どうしてだッッ!! どうしてこんなにヤル気があるのに……ッッ!! 

 

「くそ! 動け! 動けよ俺の体……!! ち◯こだけ勃ってても意味がないだろッッ!」 

 

 ここで俺は男になって……男になって……男になってどうするんだ?

 俺は一瞬にして冷水を浴びせられたように思考が冷静に立ち返った。 

 

「思い出した」

 

 俺はふと思い出した。

 実家の書庫に眠っていた『救世遊び人伝記第八章〜娼館とは〜』に書かれてあったことを。

 

『娼館とは簡潔に言えばお金を払ってエロいことができる施設である。

 これが素晴らしいものだと思った紳士諸君は、些か探究心に欠けているだろう。考えてみて欲しい。 そもそも童貞を卒業するとは何か。……女性経験の有無? ははは。残念だがナンセンスとしか言いようがない。

 女性経験の有無が全てだと思っている諸君らは、言葉を濁さずに言うならば、真の童貞であると論じる他無い。

 童貞を卒業するということは、性行為に至るまでの信頼関係を培うことができた努力を指すことである。それを怠り、娼館で初めての性行為を迎えた諸君は、未だ童貞の身……言うなれば、物を知らずに調子に乗る"素人童貞"とでも言うべき存在だろう。 努力無しに成長を得られない。だがしかし、悲しきことに娼館こそが全てだと思っている者たちが多く存在することも事実。嘆かわしい君たちに、私からはこの言葉を贈ろう。せーの──』

 

「そこに愛はあるんか?」

 

 あっっっぶねぇ!!! 俺はとんでもない間違いを犯すところだった!!

 救世遊び人伝記の作者である「オカモト先生」には多大なる感謝を伝えなければ。

 

 ……そうだ。俺は素晴らしい環境に身を置き、努力次第では卒業をも叶うことができるかもしれないのだ。

 

 そんなチャンスをみすみす逃して娼館に逃げようとしていたのか?? ……なんて勿体ない!!

 

 『救世遊び人伝記』にはだいぶ娼館に行く人を皮肉っていたものの、別に俺は行くことが悪いとは思わない。

 人それぞれ色々あるし、需要と供給が成り立っているサービスである以上、俺が文句を言うのはお門違いである。

 

「まあそもそも娼館に足を踏み入れる度胸が無いんだけどネ」

 

 俺はそんなことを叫びながら花街からスタコラサッサと帰還した。




(主人公にとっては)シリアス回
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