ワイの本当の職業が【性騎士】とか言えない   作:恋狸

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聖女

「起きろ。おい、起きろォ!」

「んにゃ……なんだよ……」

「護衛ッ! 寝坊ッ!」

 

 起きたらリースの顔が間近にあった。

 朝っぱらから見たくねぇヤツの顔がドアップで広がるとかなんの罰ゲームだよ……。

 とはいえ遅刻した俺が悪いので、ノソノソと起き上がる。

 

 前回はここで立ち退かないリースに痺れを切らして、俺の愛しの息子をヤツに見せつけたが……どうやら学んだようで、俺が起きたと分かるとそそくさと部屋を出ていった。

 

「見せつける趣味はないからいいけどな」

 

 ふぅ、実に清々しい朝だ。昨日はひたすら己を慰める日々だったしな。

 虚脱感はあるが、睡眠を挟んだことで幾らかマシになった。

 

 ──その後の顛末を話そう。

 

 無事に暗殺者ver2を倒したメイは、絶妙に手加減をしたようで、殺すことなく捕縛に成功した。

 

 俺は結構ヤバめの瀕死だったようだが、聖女さまの熱心な治癒魔法によって無事に全快。次の日は休暇が与えられた。

 

 そこで俺は男暗殺者から吸い取った性欲を無事に発散──こんなクソ情報はいらんか。

 いやぁ、ガッツリ腹に穴空いてたはずなんだけど我ながらとんだ生命力だわ。

 

「ギリギリ勝ちを拾えたけど……もっと修行しねぇとな」

 

 そこで俺は、なし崩しでなったはずの護衛騎士にやり甲斐を感じていることに気がついた。

 

 ──当たり前だ。環境が素晴らしすぎる。

 

 元は冒険者になってハーレムを築きたい的な俗な願いだったけど、常識的に考えてヘタレ童貞の俺が女冒険者とパーティ組むとか無理だろ。

 

 なら、今の美女、美少女に囲まれた環境こそがベスト……ッッ!! 性騎士バンザイ!!

 

「さて、行くとしますか」

 

 着替えを終えて、俺はいつものように聖女さまの自室に向かう。

 扉を開けると、そこには聖女さまの他にメイとリースがいた。

 

「おはよう〜」

「何がおはようだ! 遅刻だぞ遅刻!」

「まあまあ。病み上がりですから」

 

 噛みついてくるリースをメイが宥めてくれる。

 やれやれ。やはりメイは清涼剤だな。殺虫剤かもしれねーけど。

 

「……アルス」

「うおっ、急な名前呼び!」

 

 メイとリースのやり取りを観察していると、いつの間にか隣にいた聖女さまが俺を名前で呼んだ。

 驚きながら隣を見ると、聖女さまが俺の袖をちょこんと掴みながら言った。

 

「まもってくれて、ありがとう」

「ははっ。護衛騎士として当然のことをしたまでよ。……それに、守られたのは俺の方だぜ? あの時聖女さまがヤツの股間をダイレクトアタックしてなきゃ隙は生まれなかった。ナイス魔力強化だったよ」

「なんか……褒められてる気がしない……」

 

 グッと指を立てて褒めると、聖女さまは釈然としない様子だった。

 

 いやいや、あれなきゃマジで負けてたって。多分蹴る場所が股間じゃなかったらあんなに隙ができなかったし、咄嗟の判断としてはナイスすぎる。

 

 ……同じ男としては若干同情するけどな。

 それにしても、袖をつかむ仕草と表情が可愛すぎるのに、昨日発散しすぎて思考が清楚になってる。

 

 どうしようかなと考えていると、聖女さまが俺たち三人に宣言するように言った。

 

「守られてばかりの聖女じゃなくて……私も私なりの方法で国を……大切な人を守りたい。だから……その……協力してほしい」

 

 ──驚いた。

 

 間違いなく本気の目だ。聖女さまは、恐らく初めて自分自身の夢を定めたに違いない。

 

 不安もあるけど、それ以上に未来への期待で渦巻いている。

 

「もももも、勿論ですとも! このリース! 不肖ながら協力いたします!!」

「私も、微力ながら協力しますよ」

 

 当然のように真っ先に肯定を返したのは、聖女さまの信奉者であるリースだった。コイツが断るわけがねーわな。

 んでもって、それに追随したのはふんわりと笑うメイだった。

 

 聖女さまは二人にありがとうと返して、微かに緊張した面持ちで俺を見た。

 注目が集まる。しかし、俺の答えはもう決まっている。

 

「お前がそう決めたなら、俺は護衛騎士として付いて行くよ。これからもよろしくな、()()

 

 そう言って、俺はごく自然に体に導かれるまま聖女さま……ルナの頭を撫でた。

 

「名前……知ってたんだ」

 

 目が点になりながらも嫌がることなく頭撫でを受けるルナが、呟くように言った。その表情は、どことなく嬉しそうに見える。

 

「き、貴様ぁ……聖女さまを名前呼びなど……!! ましてや頭撫で撫でなんて……羨ましい……」

「おーい、本音出てるぞー」

 

 実際公式の場で名前呼びをすると確実に怒られるので、一応控える所存ではある。

 ただ、名前呼びしたのは、お前だって普通の女の子なんだぞ、という意思表示である。

 

 それにしても大胆だろ! って思うかもしれないけど、何だか今の俺は雑念がないクリアな状態らしい。

 ……くっ、使いすぎたか……! 返ってこい性欲! お前が好きそうな表情をしているぞ……!

 

「リースもメイも……名前……いいよ」

「ルナ様……!」

「変わり身はっや」

 

 あまりに早い手のひら返しに呆れながらも頭を撫でていると、ふと視線を感じる。

 後ろを振り向くと、微かに頬を膨らませたメイの姿があった。

 

 何それ可愛い。俺の性欲が一瞬にして平常値まで……バカな! まだ上がっていくだと……!?

 

「私も……後で撫でてくれますか?」

 

 その可愛い上目遣いとお願いに、無事俺のち◯こは終わりを迎えた。

 

 

◆???

 

Side ルナ

 

 私の人生は大概碌でもなかったと思う。

 温かいご飯に、温かい村人。寝る前には欠かさず子守唄を歌ってくれた母親。

 

 そんな当たり前の日々は、12歳の時に奪われた。

 

「信託者によって、あなたが【聖女】を授かることが明らかになりました。よって、王国はこれより貴方様を保護します」

 

 そう言って現れた《神職教会》の司祭は、私に跪いてはいたけれど、有無を言わさぬ口調だった。

 聖女? どうして私が……? 

 

 当然混乱した私だけど、混乱する時間すらも与えてくれず、私の身柄の引き渡しを要求した。

 

 村の人達はそれを良いことだと囃し立てたけれど、母親だけは受け渡しを拒否してくれた。

 私の娘を奪わないでくれと。聖女だとしても、娘であることには変わりないのだと叫んだ。

 

 ──そう言ってくれるだけで十分だった。

 

 私は母親や村人に危害が加わる前に、自ら王都に出奔した。……悲しいし、寂しい。心は泣いていたけれど。

 

 ……職業が授かるまでの三年間。私は必死に勉強をした。いや、させられた。

 

 マナー講座や教養の勉強などを、ほぼ休み無しで行い……次第に私の心は擦り切れていき、誰にも期待を抱くことはなくなっていた。

 

 ただ……護衛騎士としてついてくれたリースだけは、【聖女】じゃない私を見てくれたような気がして、少しの信頼を寄せていた。

 視線の色がちょっとだけ変だけど。

 

 必死に必死に必死に勉強をして、職業が授与される。

 決まり切った答えを見るようなものだけど、私はステータスを開いた。

 

─────────

性女

Lv.1

【職業スキル】

性なる癒し(ホーリーキュア)Ⅰ〉

 

【通常スキル】

〈治癒魔法Ⅱ〉〈魔力操作Ⅰ〉

─────────

 

「え……」

 

 聖女じゃなかった。性女だった。

 当時の私は混乱で三日三晩寝込んだ。

 

 何度も何度もステータスを開いて確認しても、そこに映されるのは「聖」の文字でなく「性」の文字。

 

─────────

性なる癒し(ホーリーキュア)〉……性なる力を活用し、対象の外的、内的な傷を癒すことができる。使用すると一時的に胸が大きくなる。

※対象の傷の深さによって胸の増加値は変わる。

─────────

 

 でもよく分からないデメリットはあった。

 けれど、厄介なことに〈性なる癒し(ホーリーキュア)〉は【聖女】を名乗れるほどに強力な治癒魔法だった。

 

 変なデメリットはあれど、十分に強力な治癒魔法に、すでに下された信託。

 

 きっと〈神職教会〉に、私は聖女じゃないと言ったところで信用されない上に、もしも信用されれば私は殺されてしまうという予感があった。

 

 ──だからこそ、私は聖女以上に聖女であらねばならないと思った。

 

 偽物の私が本物になれるとは思っていない。

 それでも、きっと救える命はある。私が私である意味はいずれ分かると信じていた。

 

 そんな矢先に、護衛騎士として私の元に【聖騎士】がやってきた。

 私のような偽物じゃない。本物の聖騎士だ。

 現に彼は、何回も私をその力で守ってくれた。

 

 発言はちょっと軽薄で、物語のような王子様ではなかったけれど、誰よりも聖騎士だった。

 

 特に──。

 

『聖女だ、聖騎士だなんて言われてもただの人』

 

 その言葉が本物の聖騎士である彼から言われたことが何よりも嬉しかった。

 まるで性女である私を肯定しているかのような……そんな気分だった。

 

「ふふ」

 

 私は最近の出来事を思い出して笑う。

 昔とは違って、今は仲間がいる。大切な。

 本物の聖騎士である彼と比べることは烏滸がましいけれど、それでも自分にできる最善を尽くそうと思う。

 

 私は聖女でも性女でもない、ただのルナだから。

 

「【性なる癒し(ホーリーキュア)】。……やっぱり大きくなった」

 

 私はぽよん、と大きくなった胸を無心で揉む。

 適当にスキルを撃っても大きくなる胸。やっぱり変なデメリット……でも、いきなり胸が大きくなるデメリットのあるスキルなんて……【聖女】じゃない証拠だ。

 

 誰にもバレちゃいけない。リースにも、メイにも……アルスにも。

 

 ──でもどうしてだろう。

 最近アルスのことを考えたら、なぜだか胸が温かくなる。

 

 それに、修行中に事故でアルスに体を触られた時のことを思い出すと、下腹部に謎の熱さを感じる。

 

「どうしてだろう」

 




これにて一章終了です!
面白いと感じていただいた方は、お気に入り、高評価、感想のほうよろしくお願いいたします!!

また、書籍版1巻が発売中ですので、そちらもよろしくお願いいたします!!

2章ですが、書き溜めてからまた放出するので多少時間はかかると思います。

ですので、今出している新作のほうを暇潰し代わりに読んでいただけると嬉しいです!!

https://syosetu.org/novel/380050/
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