「長閑だな」
暇だ。めっちゃ暇だ。
いつも適当にルナの部屋でダラダラしていたのもあって暇には慣れているものの、もしもそれが無ければ俺は暇に耐えきれずに歩きながらムスコをイジってたに違いない。
「まあ、護衛なんてこんなもんですよねぇ」
「街道に寄ってくる魔物は雑魚ばっかりですからね! 俺たちだけでも倒せますよ!!」
俺の呟きを拾った御者の男たちが笑う。
それぞれローウェン、ガリアと名乗った男と話し始めてから三時間が経過している。
赤髪短髪のイケメンがローウェンで、金髪短髪のイケメンがガリアだ。どっちもイケメンで殺意が湧きますわ。
くっそ……今頃は馬車の中でカルミアとルナがキャッキャウフフなガールズトークを繰り広げて──はいなさそうだな。普通に人見知りのルナが初対面のヤツと会話が盛り上がるとは思えんし。
だとしても野郎しかいない旅なんて盛り上がりに欠けるぜまったく……ハァ……馬に乗るのも割と疲れるんだよな。
「それにしても聖騎士さまは馬の扱いも見事なものですね。そこそこ気性が荒い馬なのですが」
ガリアが俺の騎乗を見て感嘆するように言った。
外の護衛は馬車の隣を馬に乗って行うが、割とスイスイと手足のように操縦することができた。
別に俺は馬に乗ったことなんてない。村にいたら馬に乗る機会なんてそんな無いしな。
だがしかし、俺は暴れる馬を見た時にピンっと来た。
──冷静さが無い。コイツは童貞だ。
後は簡単な話。同情と仲間意識を内に秘めながら頭を撫でるだけであら簡単──あっという間に言うことを聞いてくれるようになった。
童貞はヤリチンには厳しいが童貞には優しいのだ。
「ま、まあ、馬くらい乗れなければな」
「いやぁ、流石ですねぇ!」
誤魔化すように上擦った声で言ったが、どうやら俺の見栄はバレていないようだった。……実際問題、騎士は基本的に馬に乗れなきゃヤバいから、馬くらい乗れなければな、という言葉は割と自虐になっている。乗れたから良いけどな!!
「……ん? 何かいるな」
ふぅ〜、と何とか誤魔化せたことに安心していると、不意に俺は道の先に何かが蠢いているのを発見した。
……んー、ゴブリンか。よくよく街道を通る商人を襲うと聞くしその類だろ。
数が……ざっと10匹くらいか。
「ゲェッ! ゴブリンが10匹!? カルミアさん呼んで応援に来てもらいましょう! 流石に数が数ですから……!!」
「いやいらん。馬車止めてちょっと待ってろ」
「え、ちょっと聖騎士さまァ!?」
焦った声を出すローウェンが馬車の中にいるカルミアを呼び出そうとしているのを止め、馬から下りるとゴブリン──緑色の肌をした醜い小人の群れに向かって足を進めた。
「油断するつもりはないけど、今更ゴブリン程度と思うのもまあ事実ではあるんだよな」
レベル上げでお世話になっているイビルホーンくんに比べればコイツらなんかカスや!! ……とは言うものの、基本的にゴブリンは戦闘職でない人間なら多少レベルを上げても倒すのに苦労する。
それが徒党を組んでいるのだから、厄介であることに間違いないし放ってもおけない。
ま、戦闘職なら余裕なんだけどな。
ふぅ、と息を吐いて剣を抜く。撃ち漏らしが無いように冷静に処理していこう。
「「「ギャッギャッギャッ!!」」」
ゴブリンたちが俺の存在に気がつくと、馬鹿が!! 獲物からこっちにやって来るとは! と言わんばかりに顔を見合わせて笑い始める。
そしてなぜかゴブリンたちは皆一様にムスコを戦闘態勢に移行させた。
「……俺の勝ち、か」
ナニがとは言わないが、ここですでに俺の中で格付けは終わっていた。結果は圧倒的大差で俺の勝ち。個人的判定勝利である。
「「グギャギャ!!」」
ふっ、と鼻で笑ったのが気に食わなかったのか、ゴブリンたちが一斉に武器を構えながら向かってきた。
先に俺の元に辿り着いたのは棍棒を持ったゴブリンで、この集団の中だと最も
つまりは最もヒエラルキーが低いと予測できる。
「悪く思うなよ」
「ギギャッ!」
振り回された棍棒の一撃を軽く弾き返し、そのまま剣を振り上げると、サクッとゴブリンの首が吹っ飛んだ。剣の斬れ味関係無しに首が軟すぎるな。レベル差の暴力じゃねーか。
「「ギャギャッ!」」
「仲間を殺されたってのにそんなにイキリ立ちやがって……お望み通りあの世に逝かせてやるわボケぇ!!」
そこからはひたすらに蹂躙だった。
剣を振るたびにゴブリンの首が吹っ飛び、残された胴体に付いているムスコは徐々に萎びていく。ちなみにゴブリンが戦闘時に勃っている理由は興奮だそうで、別にナニを使って人間の女性を性的に襲うことも無いので比較的無害扱いされている魔物の一種である。……正直戦闘職を護衛に付ければまず死ぬこと無いしな。
「よいしょぉ! よいしょっ!!」
そうこう考えているうちに最後の一匹を倒し終え、俺は剣に付着した緑色の血を拭き取ると一息ついた。
戦闘時間はものの数十秒。
終わってみれば呆気ないもんで、疲労感も特にはない。
逆に朝方に使った【
「す、すげぇっすね! スキルも使わずに……」
「やっぱり【聖騎士】って職業はすごいです」
ローウェンとガリアが目を輝かせて俺を褒め称えるが、ガリアの「【聖騎士】って職業はすごい」という言葉に俺は引っ掛かった。
「違うぜ? あれくらいは【聖騎士】じゃなくても鍛錬すれば誰でもできることだよ」
俺は砕けた口調で苦笑しながらそう言った。
二人は目を丸くしながら顔を合わせると、恐る恐るといったようにガリアが問いかけた。
「それは……戦闘職でなくても?」
「そうだ。それこそ魔力による身体強化は戦闘職でなくても会得できるからな。勿論才能は必要な要素なんだろうよ。でも、ゴブリンくらいなら鍛錬を続けてたら倒せるようになるさ」
現に俺はあれくらいの動きなら職業を授かる前からできた。というかクソ師匠にやらされた。
一振りの剣と頑張れ〜、って言葉だけ残して俺を魔物だらけの森の中に置いてけぼりにした記憶は今でも鮮明に思い出せる。腸が煮えくり返るからなァ!!
鍛えてくれとは言ったが殺してくれとは言ってない!! と抗議した俺に師匠はこう言った。
『死ぬくれぇの密度の修行じゃないとやる気出ないじゃろ。人は真に危険が迫らないと勝手に気が緩むからのう……』
とのこと。一理はあるけど本当に死んだらどないすんねん。
……とまあ、修行の方法と環境によっても違うと思うが……。
「少なくとも才能が無くたってゴブリンくらいは簡単に倒せるようになる。そこに職業の下賤はねぇ」
「それなら俺も……」
ローウェンがぐっと堪えるように瞼を閉じ、何かを俺に伝えようとした瞬間──ガリアが冷徹な瞳でそれを遮って言った。
「いいえ、職業こそが全てです。授かった職業で人の人生は決まります。戦闘職でないものは戦闘をすべきじゃない。もしも巻き込まれてしまったのであれば、それは職業神の定めた運命でしょうから」
……うわ急になんだコイツこわ……。
早口で話し始めたガリアにドン引きする俺。
そういえば忘れてたけどコイツらって《神職教会》から派遣された人員だっけか。バリバリに強い思想を叩き込まれた気がするけど、考え方は人それぞれだからな。仕方ない。
「ま、そういう考え方もあるわな」
「……」
話を遮られたローウェンは何かを言いたげに唇の端を強く噛むと、そっと俺から目を背けた。
……ふむ、同じ《神職教会》から派遣されていても全員が全員染まっているわけではないのか。
どの組織も一枚岩じゃあねぇからな。俺とリースが犬猿の仲……水と油……不倶戴天……ちんちん……であることみたいに。
「よし、キリキリ進むか」
気を取り直して先に進もうとすると、馬車の扉がガラガラと音を立てて開けられると、中からカルミアが現れた。
「そろそろ交代しましょうかぁ〜」
「ん、分かった。そうしよう」
俺はその言葉に一もなく頷くと、できるだけカルミアの顔以外を視界に入れないようにして、素早く馬車の方向に向かった。
……ふぅ、また無駄にスキルを使ってしまうところだったぜ。本当はどこかでしっぽり解決したいところだけど、護衛という任務上常に近くに人がいるからな……ごめんなムスコ、しばらく可愛がってやれねぇかもしれん。
「アルス……」
テンション低く嘆きながら馬車の中に入ると、そこにはげっそりした表情で俺の名を呼ぶ聖女さま……ルナがいた。
「知らない人と二人きり……きまずかった」
「まあ、そらそうだよな」
俺はルナの心中を察しつつ苦笑した。
何気にルナの口から気まずいって言葉が出るのがなかなかに面白くはあるんだけども。
「あの人ずっと一人で喋ってる……わたしを褒め称えることばっかり……」
「こわ。聖女信仰は伊達じゃねぇなおい」
ぷるぷると震えるルナは結構ガチで怖がっていた。知らない人が自分を褒める言葉を一人でずっと喋ってるのは恐怖映像すぎるな。
俺も性癖についてなら延々と一人で喋っていられるのに。いや、ちんちんが元気になっちゃうから喋るのは二人か。何言ってんだ俺。